副業先で役員就任が発覚したときの利益相反リスク対応と承認基準の見直し方

副業先で役員就任が発覚したときの利益相反リスク対応と承認基準の見直し方 コンプライアンス
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「うちの社員、副業先で取締役になっていたみたいで……」。名刺交換の場でたまたま発覚した、SNSで同僚が気づいた——そういった形で「後から知る」ケースが実に多いのが、従業員の副業先役員就任という問題です。副業を解禁していても、申請書で確認していたのは「就業先の会社名と業務時間」だけ。地位や権限まで把握する仕組みがなかった、という企業がほとんどです。この記事では、副業先での役員就任が発覚したときに何をどう判断すればよいか、利益相反リスクの整理から承認基準の見直しまで、実務の手順を具体的に解説します。

副業先の「役員就任」がなぜ問題になるのか

従業員の副業先での役員就任は、単なる「副業の時間が増える」問題ではなく、会社との利益相反・情報漏洩・忠実義務違反といった複合リスクを同時に引き起こす点で、通常のアルバイト副業とは質的に異なります。

「役員」という立場が生むリスクの特殊性

従業員が副業先でアルバイトや業務委託として働く場合、その立場は基本的に「指示を受けて動く側」です。ところが役員(取締役・監査役・執行役員等)になると、副業先の経営判断に参加し、重要な情報にアクセスし、場合によっては自社との取引条件に影響を与える立場になります。

たとえば、自社の購買担当者が仕入先の取締役を兼任していれば、価格交渉の場で「どちらの利益を優先するか」というジレンマが生まれます。これが利益相反の典型的な構造です。

名義貸しでもリスクはゼロにならない

「役員報酬も少額で、名前を貸しているだけ」という説明を本人がしてくるケースは珍しくありません。しかし法的には、登記上の取締役には会社法上の善管注意義務・忠実義務が課されており、名義上だけであっても対外的な責任を負う立場です。また、「実質的に関与していない」という主張は、後から問題が生じたときに会社側の立証を難しくする要素にもなります。リスクは実態ではなく、地位そのものに紐づいていると理解しておく必要があります。

厚生労働省ガイドラインが示す制限の正当理由

厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(2018年策定・2022年改定)は、副業制限が認められる正当理由として、企業秘密の漏洩リスク、会社の名誉・信用を損なう行為、競業により自社の利益が害される場合を明示しています。役員就任はこの三つすべてに該当しうる状況であり、制限や条件付き承認の根拠として活用できます。

利益相反リスクの類型と自社への当てはめ方

利益相反リスクは一律ではなく、副業先と自社の関係性によって性質と深刻度が変わります。まず類型を整理し、自社のケースがどれに当たるかを確認することが対応の起点になります。

リスクの類型を整理する

リスク類型 具体例
競業リスク 自社と同種・類似事業の会社の役員に就任し、顧客情報・価格情報が流出する
取引上の利益相反 自社の仕入先・外注先・顧客先の役員を兼任し、契約交渉で自社の利益よりも副業先の利益を優先する
情報漏洩リスク 役員として副業先の経営情報にアクセスすることで、双方の機密情報が混在する
意思決定の歪み 自社での業務判断が無意識に副業先への利益誘導に偏る
労務提供上の問題 役員としての会議・意思決定業務が自社の所定労働時間中に行われる

自社との関係性で深刻度が変わる

副業先が自社と無関係な業種であれば、リスクは主に「労務提供上の支障」と「情報管理の混在」に限定されます。一方、副業先が自社の取引先や競合に当たる場合は、競業リスクと取引上の利益相反が加わり、問題の深刻度は格段に上がります。

判断の際は「事業内容が近いかどうか」だけでなく、「当該従業員がどの業務を担当しているか」もあわせて確認することが重要です。営業・購買・開発・財務など機密性の高い業務を担当している場合、副業先との関係が薄くても情報漏洩リスクは残ります。

役員の種類による実態の違い

「役員」にも種類があり、リスクの実態は異なります。代表取締役・取締役は経営判断に直接関与するため、リスクは最も高いと判断できます。監査役は業務執行には関与しませんが、経営情報への広いアクセス権を持ちます。執行役員や社外顧問は会社によって位置づけが異なり、実態を個別に確認する必要があります。登記事項証明書(法務局で取得可能)を確認すれば、登記上の役職を正確に把握できます。

発覚後の初動対応:何をどの順番で確認するか

副業先での役員就任が発覚したとき、まず感情的な対処や処分の検討より先に、事実関係の正確な把握を優先してください。初動での確認不足が、その後の対応を混乱させる最大の原因になります。

本人へのヒアリングで確認すべき事項

本人と面談し、以下の点を文書で記録しながら確認します。会話の記録は後の判断・対応の根拠になるため、メモや確認書の形で残すことを推奨します。

  • 副業先の会社名・事業内容・自社との関係(競合・取引先・無関係)
  • 役職名と就任経緯(いつ、誰に依頼されたか)
  • 役員報酬の有無・金額
  • 業務の実態(会議参加の頻度・意思決定への関与度)
  • 自社の就業時間中に副業先業務を行ったことがあるか
  • 副業申請の有無(申請していたか・していなかったか)

悪意がない場合の対応の考え方

本人に悪意がなく「名前を貸しただけ」という説明がある場合でも、リスクの有無は会社が客観的に判断する必要があります。悪意の有無は「情状」として処分の重さに影響しますが、リスク対応の要否を左右するものではありません。

悪意がないケースでは、まず是正指導(副業先役員の辞任要請)を行い、是正に応じるかどうかを確認するのが現実的な対応です。いきなり懲戒処分を検討するのは、就業規則に明確な根拠規定がない限り過剰になりやすく、トラブルのリスクを高めます。

処分レベルの判断基準

対応の重さは、リスクの深刻度と本人の対応状況を組み合わせて判断します。副業先が自社と無関係で、本人が申告・是正に応じる場合は「注意・指導」が適切です。取引先・競合先での役員就任で、是正に応じない・隠蔽していた場合は、就業規則の競業避止・副業規定違反として懲戒処分の検討対象になります。ただし懲戒処分は就業規則への明示的な根拠規定が前提です。規定がない場合は、今回の対応と並行して規程整備を進めてください。

個別のケースで判断に迷う場合は、社内だけで抱え込まず、人事労務の専門家に相談することをお勧めします。対応を誤ると後々のトラブルが大きくなる可能性があります。

副業承認基準の見直しポイント

今回のような問題が起きる根本原因は、副業申請・承認の仕組みが「役員就任」という事態を想定していないことです。見直しのポイントを整理しておけば、今後の再発を防ぐ仕組みを作ることができます。

副業申請書に追加すべき確認項目

多くの中小企業の副業申請書は、就業先・業務内容・週あたりの作業時間程度の確認にとどまっています。役員就任リスクに対応するため、以下の項目を追加することを推奨します。

  • 副業先での役職・地位(役員・代表・顧問等を含むかどうか)
  • 副業先と自社の関係(競合・取引先・資本関係の有無)
  • 自社の業務との情報接触の可能性
  • 役員就任を含む地位変更が生じた場合の届出義務

申請書に「副業先において役員・取締役・監査役・顧問等の地位に就く場合は、別途会社の事前承認を要する」という一文を加えるだけでも、見落としを防ぐ効果があります。

承認基準に「自動非承認」の線引きを設ける

承認の判断を担当者の裁量に委ねすぎると、対応にばらつきが生じます。以下のような場合を「原則非承認」として基準化しておくと、判断の軸が安定します。

  • 自社の競合他社または競合しうる類似事業者での役員就任
  • 自社との取引関係がある会社での役員就任(購買・営業担当者の場合は特に厳格化)
  • 自社の機密情報・個人情報を取り扱う部門の従業員による役員就任

一方で、自社と無関係な業種・規模の小さい会社での社外役員就任など、リスクが低いと判断できるケースには条件付き承認(定期的な状況報告義務など)を設ける形にすると、過度な制限による優秀人材の離職リスクも抑えられます。

既存の承認済み副業の再確認も必要

副業規程を見直す際は、新規申請のフローだけでなく、すでに承認している副業についても「役員就任に至っていないか」を確認することが重要です。副業開始時点では一般スタッフだった従業員が、その後役員に就任しているケースもあります。年に一度程度、副業状況の届出更新を義務づける仕組みを設けると、継続的な実態把握が可能になります。

就業規則・副業規程の整備チェックポイント

今回のような問題への対応を「規程に書いていないからできない」という状況にしないためには、副業規程の整備が不可欠です。専任の法務担当がいない中小企業でも対応できる、確認すべき基本項目を整理します。

副業規程に最低限盛り込むべき内容

厚生労働省のモデル就業規則や副業・兼業ガイドラインを参照しながら、少なくとも以下の内容が規程に含まれているかを確認してください。

  • 副業・兼業を行う際の事前申請・承認の義務
  • 承認しない(または取り消す)場合の条件(競業・情報漏洩リスク・労務提供上の支障など)
  • 役員就任を含む地位変更が生じた際の届出義務
  • 違反した場合の懲戒処分規定(就業規則本則との連動)
  • 承認後も定期的に状況を報告する義務

就業規則の規模別・整備状況別の注意点

従業員数が10人以上の企業は就業規則の作成・届出が労働基準法上の義務です(労働基準法第89条)。副業規程は就業規則の一部として、または別規程として整備します。10人未満の企業であっても、副業を認める以上は社内ルールを文書化しておくことが、後のトラブル防止に直結します。

すでに就業規則がある場合は、副業に関する条項が「許可制か届出制か」「禁止事由が列挙されているか」「役員就任への言及があるか」を確認してください。これらの記載がなければ、追記または別途副業規程の作成を検討します。

改定後の周知と運用が鍵

規程を整備しても、従業員に周知しなければ実効性がありません。労働基準法第106条は就業規則の周知を義務づけており、改定時には全従業員への案内と確認書類の取得が望まれます。特に副業を既に行っている従業員には、改定内容を個別に説明し、新基準への適合状況を確認することを推奨します。

規程整備や運用方法について「実際のケースに合わせてどう進めるか」という具体的な相談は、ウェルセンス株式会社の無料相談でサポート可能です。少しの手間で防げるトラブルは多いため、お気軽にご連絡ください。

まとめ

副業先での役員就任は、通常の副業とは異なるリスク構造を持っています。競業・取引上の利益相反・情報漏洩・意思決定の歪みが複合的に発生しうるため、発覚後は感情的な対処より先に事実確認を丁寧に行うことが重要です。対応の方向性は、副業先と自社の関係性・当該従業員の担当業務・本人の対応姿勢によって変わります。今回のケースを機に、副業申請書への役員就任確認項目の追加、承認基準への「原則非承認」条件の明記、既存承認副業の再確認という三つの対応を進めると、再発防止の仕組みが整います。

「自社のケースがグレーゾーンで判断に迷う」「就業規則の見直しをどこから始めればよいかわからない」という場合、ウェルセンス株式会社では中小企業の人事労務課題に関する相談を受け付けています。専任人事がいない状況でも対応できるよう、実務に沿ったサポートをご提供しています。まずはお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 副業申請書を提出せずに役員就任していた場合、即座に懲戒処分にできますか?

A. 就業規則に副業の事前申請義務と懲戒処分規定が明記されている場合は、懲戒処分の根拠となりえます。ただし、処分の重さは「リスクの深刻度」「本人の悪意・故意の有無」「過去の指導履歴」などを総合的に考慮する必要があります。まずは事実確認と是正指導を行い、それでも応じない場合に処分を検討するのが実務上の一般的な流れです。就業規則に規定がない場合は、処分前に規程整備を優先してください。

Q. 副業先が自社と全く関係ない業種の場合でも、役員就任は問題になりますか?

A. 競業リスクや取引上の利益相反は生じにくくなりますが、役員業務が自社の所定労働時間に食い込む「労務提供上の支障」や、副業先の経営情報と自社情報が混在する「情報管理上のリスク」は残ります。また、当該従業員が自社で機密情報を扱う業務(開発・財務・営業等)を担当している場合は、業種が無関係でも情報漏洩リスクの観点から確認が必要です。リスクがゼロとは言えないため、少なくとも届出・報告を求める対応を検討してください。

Q. 副業先の「執行役員」や「顧問」も、取締役と同様に問題になりますか?

A. 執行役員は会社法上の役員ではなく、会社内部の役職に過ぎないケースが多いため、取締役とは法的な扱いが異なります。ただし、経営判断への関与度・情報へのアクセス範囲・業務負荷は個別に確認が必要です。顧問については契約形態(業務委託か雇用か)と実態(定期的な会議参加・意思決定への関与の有無)を確認してください。登記事項証明書には表れない役職については、本人への直接確認と書面での記録が対応の基本になります。

Q. 副業規程を整備したいのですが、就業規則の変更は労働基準監督署への届出が必要ですか?

A. 常時10人以上の従業員を使用する事業場では、就業規則の作成・変更は労働基準監督署への届出が義務です(労働基準法第89条・第90条)。届出の際は、労働者代表の意見書を添付する必要があります。10人未満の事業場では届出義務はありませんが、社内ルールとして文書化しておくことは強く推奨します。副業規程を就業規則の別規程として作成する場合も、就業規則本則に「別途副業規程による」旨を明記し、一体的に運用することが重要です。

Q. 副業先役員の辞任を会社が命じることはできますか?

A. 副業先での役員就任を「辞任する」という業務命令を直接出すことは、労働契約の範囲外の行為を強制するものとして法的に難しい側面があります。ただし、就業規則に「競業または利益相反にあたる副業を禁止する」旨が明記されている場合は、その規定への違反として是正を求めることができます。実務的には「就業規則に基づき副業先役員の辞任を求める旨の書面交付」→「本人の応否確認」→「応じない場合の懲戒処分検討」という手順を踏むことが、後のトラブルを防ぐ上で有効です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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