副業申請がきたのに規程がない。どう対応すればいい?

副業申請がきたのに規程がない。どう対応すればいい? 採用・定着
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「副業したいんですが、申請はどこにすればいいですか?」——ある朝、社員からそう聞かれて、返答に詰まってしまった。そんな経験をされた方も少なくないはずです。副業解禁の流れは知っていても、自社の規程を整備できていないうちに申請が来てしまうケースは、20〜50名規模の企業では珍しくありません。「とりあえずダメと言うべきか、でもそれも不安だ」という板挟みの状態で、今すぐ使える判断軸と対応手順をお伝えします。

「規程がないから禁止」は通用しない

規程が整備されていない状態で副業を一律禁止する口頭指示は、法的に非常に脆弱です。日本の労働法の原則を正しく理解しておくことが、最初の判断基準になります。

副業は「原則自由」が法的な出発点

労働契約とは、労働者が労働時間を使用者に提供するものです。裏を返せば、労働時間外の時間の使い方は、原則として労働者本人の自由です。裁判例でも、副業を理由とした懲戒解雇は業務に具体的な支障がある場合等を除いて認められにくいとされており(小川建設事件・東京地裁昭和57年)、「副業は原則禁止」という感覚は法的な実態と乖離しています。規程がないから禁止できる、というロジックは成り立ちません。

制限が認められる4つの正当事由

厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、副業・兼業を制限できる正当事由として以下の4つが示されています。

  • 労務提供上の支障がある場合(本業への影響)
  • 業務上の秘密が漏洩するおそれがある場合
  • 競業により自社の利益が害される場合
  • 自社の名誉・信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合

これらの事由に該当するかどうかを個別に確認することなく「規程がないので禁止」と返答することは、後に紛争となった場合に会社側が不利になるリスクがあります。まず「この申請が4つの事由に当てはまるか」を確認することが、適切な対応の第一歩です。

口頭・メールで「とりあえず許可」した場合のリスク

逆に、根拠なく「とりあえずOK」と伝えることも問題をはらんでいます。後から規程を整備して条件を設けようとしたとき、「以前に許可されたのに条件が変わった」と社員から異議を申し立てられる可能性があります。口頭承認は証拠として残りにくく、会社にとっても社員にとっても後々トラブルの種になります。

申請が来たときの暫定対応:今日からできる3つのアクション

規程がない状態でも、正式な就業規則の改訂を待たずに取れる暫定措置があります。「何も対応しない」ことが最もリスクが高い選択です。

回答を保留して確認期間を設ける

申請を受けた直後に「即答」する必要はありません。「会社としての方針を確認したうえで回答する」と伝え、1〜2週間程度の確認期間を設けることは合理的な対応です。この間に、申請内容が前述の4つの制限事由に該当するかを確認します。具体的には、副業の業種・勤務時間・競合性・情報の取扱いについて、申請者に書面やメールで確認事項を送ることをおすすめします。

個別の誓約書・同意書を活用する

就業規則の改訂が間に合わない段階でも、申請者との間で個別の「副業許可同意書(誓約書)」を取り交わすことが有効です。この書面には最低限、以下の内容を盛り込みます。

  • 許可する副業の内容・勤務先・就業時間帯
  • 本業を優先する義務
  • 競業行為・情報漏洩の禁止
  • 状況変化があった場合の届出義務
  • 会社側が許可を取り消せる条件

完璧な規程がなくても、個別合意として記録することで「何も取り決めていない状態」より法的安定性が格段に高まります。書面として残すことが重要で、メールによる合意でも効力はありますが、署名付きの書面が最も望ましいです。

副業の形態によって対応が変わる点を確認する

副業が「雇用契約」なのか「業務委託・フリーランス・自営」なのかによって、対応すべき論点が異なります。雇用契約の場合は労働基準法第38条により、自社と副業先の労働時間が通算されます。法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた部分は時間外労働扱いとなるため、過重労働の管理が必要です。一方、業務委託・フリーランス・自営の場合は労働時間の通算ルールの対象外となり、過重労働管理の義務は生じません。まず申請者の副業の形態を確認することが、対応方針を決める上で重要です。

複数の申請が来始めたときは、人事判断だけで抱え込まず、法務・労務の相談も視野に入れることが現実的です。

副業規程を整備するための優先ステップ

規程整備は「完璧なものを一気に作る」必要はありません。最低限の要素を優先順位をつけて整備することで、実務を動かすことができます。

最初に整備すべき3つの書類

優先度 書類名 役割
副業申請書(様式) 申請内容を書面で記録・管理する
個別誓約書・許可通知書 許可条件・制限事項を個別合意として記録する
就業規則への副業条項の追加 全社員への統一ルールとして明文化する

申請書と誓約書・許可通知書は、就業規則の改訂を待たずに運用できます。まずこの2点を整えることで、個別対応を適切に記録・管理できるようになります。

就業規則の改訂手続きと届出の流れ

常時10名以上の労働者を使用する事業場は、就業規則の作成・届出義務があります(労働基準法第89条)。変更時は労働者代表の意見書を添付して労働基準監督署に届け出る必要があります(同法第90条)。また、労働者に不利益となる変更には合理的な理由と周知が必要です(労働契約法第10条)。副業を「解禁する方向」での規程追加であれば、不利益変更には該当しないケースが多いですが、制限条項を厳しくする場合は注意が必要です。9名以下の事業場では法的な届出義務はありませんが、書面でルールを明確にしておくことは紛争予防として有効です。

就業規則の副業条項に最低限盛り込む内容

副業条項に盛り込むべき最低限の内容は、申請・許可制であること、許可しない場合の基準(前述の4類型)、情報管理義務、本業優先の原則、許可取消の条件、の5点です。「原則許可・例外禁止」の構造で書くことで、厚生労働省のガイドラインとも整合が取れます。社会保険については、副業先でも加入要件を満たす場合は両事業所で被保険者となり、日本年金機構への届出が必要になるため、社員への説明も必要です。

会社の規模・状況別の判断ポイント

対応の優先度や注意点は、会社の規模や現在の就業規則の状態によって異なります。自社の状況を確認しながら判断することが重要です。

就業規則の現状による分岐

現在の就業規則に「副業・兼業を禁止する」条項がある場合と、条項自体が存在しない場合では、対応が異なります。禁止条項がある場合は、一律禁止のままにする根拠が形式的には存在しますが、前述の通り、制限事由に該当しない場合は懲戒等の実効性が低い可能性があります。まず既存の条項の内容と、申請案件が禁止事由に該当するかを精査することが先決です。一方、条項が存在しない場合は、申請があった時点で「原則自由」の状態であるため、個別誓約書による暫定対応をとりながら早期に条項を新設することが求められます。

従業員数・産業医の有無による注意点

副業を許可すると、過重労働管理の問題が生じます。雇用型の副業の場合、自社と副業先の労働時間が通算されるため、社員が実質的に長時間労働になっていないかを定期的に確認する仕組みが必要です。50名以上の事業場では産業医の選任義務があり、過重労働者への面談体制も整備が求められます。20〜49名の事業場では産業医の選任義務はありませんが、過重労働が原因で体調不良や労務トラブルが起きた場合、会社の安全配慮義務(労働契約法第5条)が問われるリスクがあります。副業許可の際に「週あたりの総労働時間の上限」を誓約書に明記しておくことが、会社にとっての現実的なリスク管理になります。

「副業を認めたくない」場合の合法的な対応

経営上の理由から副業を認めたくない場合も、一律禁止を押しつけることは前述の通りリスクがあります。ただし、競業避止や情報漏洩のリスクが高い業種・職種では、就業規則に合理的な制限事由を明記することで、一定範囲での制限は認められます。重要なのは「一律禁止」ではなく「合理的な制限」という構造で規程を設計することです。「この会社・この職種では競業につながる副業は不可」「勤務時間外かつ本業への支障がない場合は申請の上で許可」という形が、法的整合性と現実的な運用のバランスをとりやすい設計です。

規程設計に迷ったときは、業界や会社規模に合わせた具体的なひな形があると判断がスムーズです。

まとめ

副業申請が来たのに規程がない場合、「規程がないから禁止」という対応は法的に通用しません。まず申請内容が制限事由(労務への支障・競業・情報漏洩・信用毀損)に該当するかを確認し、個別の誓約書・同意書で暫定対応を記録することが今日からできる現実的な第一歩です。並行して、副業申請書の様式と就業規則への条項追加を優先的に整備することで、次の申請からは体制を整えて対応できます。「完璧な規程ができてから動く」ではなく、「暫定対応をとりながら整備を進める」という発想の転換が、20〜50名規模の企業には特に重要です。

副業申請が増えてくると、個別対応だけでは時間が足りなくなります。就業規則の副業条項設計から個別誓約書の作成、具体的な判断基準の整理まで、ウェルセンス株式会社がサポートします。人事だけで判断に迷う場面が出てきたら、まずは現状をお聞かせください。

よくある質問

Q. 規程がない状態で副業申請を口頭で断った場合、後から問題になりますか?

A. なる可能性があります。副業は労働者の原則的な自由であり、規程がない状態での口頭禁止は法的根拠が薄いと判断されるリスクがあります。断る場合でも、競業・情報漏洩・労務への支障など合理的な理由を書面で示すことが重要です。

Q. 社員数が9名以下の場合、就業規則の作成・届出は必要ですか?

A. 常時10名以上の労働者を使用する事業場から法的な作成・届出義務が生じます(労働基準法第89条)。9名以下の場合は義務はありませんが、ルールを書面化しておくことはトラブル防止として有効です。副業に関しては申請書と個別誓約書だけでも一定の管理は可能です。

Q. 副業を許可した場合、社会保険の手続きは会社側でも必要ですか?

A. 社員が副業先でも社会保険(健康保険・厚生年金)の加入要件を満たす場合、両事業所で被保険者となる制度(複数事業所勤務)があり、日本年金機構への届出が必要になります。雇用保険は原則として主たる事業所のみの加入です。副業許可の際に社員へ事前に説明しておくとスムーズです。

Q. 副業がフリーランス・業務委託の場合、労働時間の通算ルールは適用されますか?

A. 適用されません。労働基準法第38条の労働時間通算ルールは雇用契約に基づく労働時間を対象としています。副業が業務委託・フリーランス・自営の場合は通算の対象外となり、割増賃金の問題も生じません。ただし実態が雇用に近い場合(指揮命令関係がある等)は雇用と判断される可能性もあるため、契約形態の確認は必要です。

Q. 副業規程の整備を社労士に依頼すると、どれくらいの期間と費用がかかりますか?

A. 就業規則への副業条項追加であれば、一般的に数週間〜1か月程度で対応できるケースが多いです。費用は依頼先や規模によって異なりますが、就業規則の一部変更として対応する場合は既存の就業規則改訂の費用感で見積もられることが多いです。申請書・誓約書の書式作成を合わせて依頼するとより実務に即した体制が整います。不確かな部分は、まず相談ベースで現状の課題を整理してから進めることをおすすめします。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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