年末調整を初めてやるとき、何から始めればいい?

年末調整を初めてやるとき、何から始めればいい? 採用・定着
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「前任者もいないし、税理士もいない。今年から自分でやらなければいけない——でも、何から手をつければいいのか全くわからない」。年末が近づくたびに、こうした状況に直面する経営者・兼務人事担当者の方は少なくありません。年末調整は毎年必ず発生する法的義務であり、対応を誤ると税務署から指摘を受けるリスクもあります。この記事では、初めて年末調整を担当する方が「全体の流れ」「必要書類」「よくある落とし穴」を把握し、自信を持って対応できるよう、実務の手順を順を追って解説します。

年末調整とは何か、なぜ会社がやるのか

年末調整とは、毎月の給与から天引きしてきた所得税の過不足を、年末に精算する手続きです。会社がまとめて計算・精算するのは、所得税法第190条~第196条に基づく法的義務です。

毎月の源泉徴収との関係

毎月の給与支払い時、会社は「源泉徴収税額表」に基づいて概算の所得税を天引きしています。しかしこの金額はあくまで概算であり、生命保険料控除や配偶者控除など、個人の事情を反映していません。年末調整では、これらの控除を加味して「本来納めるべき税額」を正確に計算し、多く取りすぎていれば返金、不足していれば追加徴収します。

会社が対応しないとどうなるか

年末調整を実施しなかった場合、社員は全員が確定申告をしなければならなくなります。また、会社側も源泉徴収義務者としての義務を果たさなかったとして、不納付加算税や延滞税が課されるリスクがあります。「面倒だからやらなかった」では済まされない法的義務である点を、まず押さえておきましょう。

年末調整の対象にならない社員がいる

全社員を一律に年末調整すればいい、というわけではありません。以下の社員は年末調整の対象外となり、本人が確定申告を行う必要があります。対象外の社員に誤って年末調整を行うと、過少申告・過大還付につながる可能性があるため、事前に仕分けが必要です。

  • 年収が2,000万円を超える社員
  • 副業収入が年間20万円を超える社員(副業分は会社側で処理できません)
  • 年の中途で退職し、その時点で精算が完了していない社員
  • 災害被害者で源泉徴収の猶予を受けている社員

年末調整の全体スケジュールと期限

年末調整には「会社内の締め切り」と「税務署・市区町村への提出期限」の二種類があります。両方を混同しないように、全体像を先に把握することが重要です。

社内スケジュールの目安

以下が一般的な年末調整の実務スケジュールです。「11月頃」という漠然としたイメージを持っている方が多いですが、実際には10月下旬から動き始める必要があります。

時期 対応内容
10月下旬~11月上旬 各種申告書の準備・社員への配布。中途入社者への前職源泉徴収票の提出依頼もこのタイミングで。
11月中旬~11月末 社員からの書類回収・内容確認。記入漏れ・添付書類の不足がないかチェックする。
12月上旬~中旬 控除額の計算・過不足額の確定。12月の給与支払いに過不足分を反映する。
12月末~翌年1月31日 社員への源泉徴収票交付・法定調書合計表の税務署提出・給与支払報告書の市区町村提出(いずれも1月31日が期限)。

外部への提出期限は翌年1月31日

税務署への法定調書合計表・源泉徴収票の提出、市区町村への給与支払報告書の提出、そして社員への源泉徴収票の交付は、いずれも翌年1月31日が法定の期限です(所得税法第226条)。年末に精算が終わっても、1月末まで対応が続くことを念頭に置いておきましょう。なお、退職者に対する源泉徴収票は、退職後1ヶ月以内の交付が義務付けられています。

社員から集める書類の一覧と注意点

社員から回収すべき書類は複数あり、対象者の条件によって異なります。「全員から集める書類」と「該当者だけに依頼する書類」を区別して管理することが、混乱を防ぐ最大のポイントです。

全員から回収が必要な書類

最も重要なのが「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」です。これは扶養家族がいる・いないにかかわらず、主たる給与の支払者(メインの勤務先)から給与をもらっているすべての社員に提出を求める書類です。この書類がないと、税率の高い「乙欄」での源泉徴収が適用されてしまい、社員の税負担が増えるリスクがあります。独身社員にも配布・回収を徹底してください。

また、「給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」も基本的に全員が提出する書類です。令和2年より1枚に統合されています。

該当者のみ提出が必要な書類

以下の書類は、それぞれ条件に該当する社員にのみ依頼します。配布前に社員の状況をリスト化しておくと、配布・回収の管理がスムーズになります。

  • 給与所得者の保険料控除申告書:生命保険・地震保険などに加入している社員。保険会社から届く「控除証明書」の添付が必要です。
  • 住宅借入金等特別控除申告書:住宅ローン控除の2年目以降の社員。税務署から送付される書類を本人が持参します。
  • 前職の源泉徴収票:年の途中で入社した社員。前の職場での収入・税額を合算して計算するため、回収が必須です。見落としやすいので、入社時に必ず提出を依頼する仕組みを作っておきましょう。

書類回収時に確認すべきポイント

回収した書類は、受け取るだけで終わりにしないことが大切です。記入漏れ(氏名・マイナンバー・押印の要否)、控除証明書の添付漏れ、数字の転記ミスがないかを必ずチェックします。特に保険料控除申告書は、控除証明書の金額と申告書の記載額が一致しているかを確認してください。書類の不備があった場合は、その社員に速やかに差し戻すことで、後の計算作業を正確に進められます。

計算・精算の進め方と注意すべき落とし穴

書類が揃ったら、いよいよ控除額の計算と税額の精算に入ります。手計算は可能ですが、記入ミスが生じやすいため、国税庁が提供する「年末調整計算ツール(年調ソフト)」や給与計算ソフトの活用を強くおすすめします。

計算の基本的な流れ

まず、各社員の1年間の給与総額(中途入社者は前職分も含む)を確認します。次に、各種控除額(基礎控除・配偶者控除・扶養控除・保険料控除など)を申告書の内容にもとづいて集計します。そして、「給与所得控除後の金額」から各種控除を差し引いた「課税所得」に税率をかけて「本来の税額」を算出し、毎月天引きしてきた税額の合計との差額を計算します。この差額がプラスなら社員に還付、マイナスなら追加徴収となり、12月の給与支払い時に反映します。

ミスが起きやすいポイントと対処法

初めて対応する方が特につまずきやすいのが、控除の計算です。たとえば生命保険料控除は、新契約と旧契約で計算式が異なります。また、配偶者控除と配偶者特別控除は、配偶者の収入額によって適用される控除の種類と金額が変わります。手計算でこれらを正確に処理するのは難易度が高いため、国税庁の「年末調整のしかた」パンフレットや年調ソフトを参照しながら進めましょう。不安な場合は、一人の計算が終わったら別の担当者または税理士にクロスチェックを依頼することも有効です。

年の途中で入退社があった場合の対処

中途入社者は前職の源泉徴収票がないと計算が完結しないため、書類回収の段階で必ず確保してください。一方、年の途中で退職した社員については、原則として会社での年末調整の対象外です。退職時点で精算を行い、退職後1ヶ月以内に源泉徴収票を発行する義務があります(所得税法第226条)。退職者が確定申告できるよう、源泉徴収票を適切なタイミングで渡すことが会社側の責任です。

複雑なケースや計算に不安がある場合は、専門家の視点を入れることで、ミスによる追徴課税を防ぐことができます。

自分でやるか、外部に頼むかの判断基準

年末調整を自社で行うか、税理士や専門サービスにアウトソースするかは、「対応できる人員と時間があるか」「ミスのリスクをどう許容するか」によって判断します。

自社対応が向いているケース

給与計算ソフトを既に導入していて年末調整機能がある場合、社員数が比較的少なく(目安として20名以下)、中途入社・退職者や副業社員などのイレギュラーケースが少ない場合は、自社対応が現実的です。国税庁の無料ツールや市販の給与ソフトを使えば、計算の精度を一定程度担保できます。ただし、初年度は予想以上に時間がかかるため、11月初旬から余裕を持って着手することを強くおすすめします。

アウトソースを検討すべきケース

以下のような状況に複数当てはまる場合は、税理士や専門の労務・給与サービスへのアウトソースを検討する価値があります。

  • 兼務人事が1人で全社員分を処理しなければならない
  • 社員の中に年収2,000万円超・副業あり・住宅ローン控除など複雑なケースが多い
  • 今年中途入退社が多く、イレギュラー対応が増えている
  • 給与計算ソフトを導入していないか、使いこなせていない
  • 税務調査を受けた場合の対応に不安がある

アウトソースにかかるコストは、ミスによる追徴課税・加算税のリスクや、担当者の時間コストと比較して判断しましょう。初年度は外部に依頼して流れを把握し、翌年から内製化する、というステップも現実的な選択肢です。

兼務人事だからこそ、信頼できる外部パートナーの力を活用して、人事対応の負担を軽くすることも大切です。

まとめ

年末調整は、毎月の源泉徴収と年間の正確な税額との差を精算する、法律に基づく会社の義務です。初めて担当する方は、まず「10月下旬から社員への書類配布を開始し、1月31日までに税務署・市区町村への提出を完了させる」という全体の流れを把握することから始めましょう。書類は「全員提出が必要なもの」と「該当者のみのもの」を区別して管理し、中途入社者の前職源泉徴収票と年末調整対象外の社員の仕分けを忘れないことが重要です。

自社対応が難しいと感じる場合や、複雑なケースが多い場合は、早めに専門家への相談を検討してください。ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小・成長企業の経営者・兼務担当者から「年末調整の進め方がわからない」「イレギュラーケースの処理に不安がある」「外部に頼むべきか判断したい」といったご相談を多くいただいています。年末調整に限らず、人事労務全般の課題について、まずは気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 扶養家族がいない独身社員にも申告書を配布する必要はありますか?

A. はい、必要です。「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は、扶養家族の有無にかかわらず、主たる給与の支払先に勤務するすべての社員に提出を求めるものです。この書類がないと税率の高い「乙欄」が適用されてしまい、社員が余分に税金を取られることになります。独身社員にも漏れなく配布・回収してください。

Q. 年の途中で入社した社員の前職源泉徴収票が提出されない場合、どうすればいいですか?

A. 前職の源泉徴収票が提出されない場合、その社員の年末調整を行うことができません。その場合は、その社員に「自分で確定申告を行う必要がある」ことを伝え、自社分の源泉徴収票のみを交付します。提出期限(11月末が目安)を事前に明示して催促することが重要で、入社時のオンボーディング資料に「年末調整に備えて前職の源泉徴収票を手元に保管しておくこと」を明記しておくと、翌年からの対応がスムーズになります。

Q. 年末調整の計算を間違えてしまった場合、どのような対処が必要ですか?

A. 翌年1月31日の法定調書提出前に気づいた場合は、修正して正しい内容で提出できます。提出後に誤りが発覚した場合は、「源泉所得税の誤納額の還付請求書」または「源泉所得税の納付書」で修正手続きを行います。意図的でないミスは、速やかに対処することで税務署からの重い処分を避けられるケースがほとんどです。不安な場合は税理士に相談することをおすすめします。

Q. 副業をしている社員は年末調整の対象になりますか?

A. 副業収入が年間20万円を超える社員は、副業分については本人が確定申告する必要があります。ただし、会社からの給与所得については通常どおり年末調整を行います。副業収入が20万円以下であれば確定申告は不要ですが、住民税の申告が必要な場合もあるため、社員本人に確認を促しましょう。なお、会社が社員の副業収入を把握して年末調整に含めることはできません。

Q. 給与計算ソフトを導入していない場合、どのツールを使えばいいですか?

A. 国税庁が提供する無料の「年末調整計算ツール(年調ソフト)」を利用する方法があります。インターネット上からダウンロードでき、各種控除の計算や源泉徴収票データの作成まで対応しています。また、弥生給与・freee人事労務・マネーフォワードクラウド給与といった給与計算クラウドサービスは年末調整機能を備えており、月額費用はかかりますが操作が比較的わかりやすく、社員からの書類をオンラインで回収できる機能もあります。社員数や既存システムとの連携を考慮して選ぶとよいでしょう。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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