月曜日の朝、新入社員が来ない。電話しても出ない。メッセージを送っても既読にもならない——。入社直後のこの状況、どう動けばいいか迷っている経営者・人事担当者は少なくありません。「強く出ていいのか」「勝手に取り消せるのか」「家族に連絡してもいいのか」、判断材料がなければ動けません。この記事では、連絡が取れない新卒社員への初動から法的手続きまでを、実務に沿って順序立てて解説します。
まず確認すべき「法的な立場」の違い
対応を誤らないためには、その新卒社員が法律上どういう立場にあるかを最初に確認することが重要です。「まだ研修中だから採用を取り消せばいい」という認識は、法的には正確ではありません。
入社前と入社後では対応が根本的に異なる
内定通知を出した時点で、会社と本人の間には「始期付き労働契約」が成立しています。そのため、内定期間中であっても契約を解除するには「内定取り消し」という手続きが必要で、これは解雇に準じた扱いを受けます。一方、入社日を過ぎている場合は「内定取り消し」はもうできません。この場合は「解雇」または「合意退職」という手続きが必要です。
| 状況 | 法的な立場 | 契約解除の性質 |
|---|---|---|
| 内定通知後・入社日前 | 始期付き労働契約が成立 | 内定取り消し(解雇に準じる) |
| 入社日以降(試用期間中) | 労働契約成立・試用期間中 | 解雇(試用期間中でも解雇権濫用法理が適用) |
| 入社日以降(本採用後) | 通常の労働者 | 解雇(通常解雇と同じ基準) |
試用期間中の解雇に関する法的根拠
試用期間中は、通常の本採用後に比べて会社側の解雇事由は広く認められています。ただし「客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当」であることは求められます(労働契約法第16条、最高裁昭和48年12月12日・三菱樹脂事件)。なんとなく「来ないから辞めさせた」では法的リスクが残ります。また、試用期間が14日を超えている場合は、解雇予告または解雇予告手当(平均賃金の30日分)が必要です(労働基準法第21条)。
就業規則の「自然退職」規定は使えるか
就業規則に「無断欠勤が○日以上続いた場合は自動退職とする」という規定を設けている会社もあります。この規定を根拠に処理すること自体は認められていますが、実務上は三つの条件を満たしていることが重要です。就業規則が整備・周知されていること、規定の日数・条件が合理的であること、そして本人への連絡努力の記録があること、の三点です。就業規則がない会社では、この手続きは使えません。
連絡が取れない場合の初動対応フロー
連絡不通が発生したら、安否確認を最優先にしながら、記録を残しつつ段階的に対応を進めることが原則です。初日から「もう来ないだろう」と放置してしまうと、後の手続きで証明できるものが何もなくなります。
安否確認フェーズ(連絡不通から72時間を目安に)
まず最初にすることは、複数の手段で連絡を試みることです。電話・メール・SMS・LINEなど使えるものをすべて使い、「いつ・誰が・どの方法で連絡したか」を社内で記録してください。口頭での報告だけでは後に証拠として残りません。メモ用紙でも構わないので、日時と手段を書き留めておきましょう。
緊急連絡先(採用時に届け出てもらった家族の連絡先)への連絡を迷う担当者も多いですが、安否確認を目的とした連絡は個人情報保護の観点からも許容される範囲です。過剰に遠慮して安否確認を先送りにすることの方がリスクになります。
意思確認フェーズ(連絡不通から1〜2週間程度)
電話やメッセージで連絡が取れない場合、次のステップとして書面での意思確認を行います。「○月○日までに出勤するかどうかをご連絡ください」という内容の文書を、できれば内容証明郵便で本人の住所に送付します。この書面の送付記録が、後の解雇手続きや失業給付の手続きにおいて重要な証拠になります。一方的に「退職扱い」や「採用取り消し」の通知をこの段階で送ることは、法的リスクが伴うため避けてください。
対応方針の決定フェーズ(連絡不通から2週間〜1か月を目安に)
本人から連絡があった場合は、事情をヒアリングしたうえで「継続勤務」か「合意退職」かを協議します。体調やメンタルの問題が背景にある場合は、医療機関の受診を促すなど適切なサポートの検討も必要です。引き続き連絡が取れない場合は、就業規則の無断欠勤規定に基づく解雇手続きを進めます。この段階では社労士や弁護士への相談を強くお勧めします。
「メンタル不調」か「バックれ」か——判断の難しさ
連絡が取れない新卒社員の背景には、単純な「逃げ」ではなく、メンタル不調やパニック状態が隠れているケースも実際に存在します。この判断は、対応の方向性を大きく左右します。
入社直後に起きやすい心理的背景
新卒社員は、入社前後のギャップや環境変化によって急激なストレスを受けることがあります。研修初日から来なくなるケースの中には、「行こうとしたが体が動かなかった」「連絡の仕方がわからなくなってしまった」という状態になっている場合もあります。強い言葉で催促するメッセージを送ることが、さらに連絡を取りにくくさせることもあります。
安否確認と会社の対応記録を同時に進める
本人の状況がわからない段階では、「責める」姿勢ではなく「心配している」姿勢で連絡することが有効です。「体調は大丈夫ですか。連絡を待っています」という一文で返信のハードルが下がることがあります。一方で、この段階でも日時・内容の記録を残すことを忘れないでください。連絡の温度感と記録の徹底は、並行して進めるべき作業です。
専任人事がいない会社での判断の難しさ
小規模な会社では、経営者や総務担当者が一人で判断しなければならない状況が生まれます。「どこまで待てばいいのか」「何をもって切り替えるか」の基準がないまま対応が長引くと、社内の他のメンバーへの影響も出てきます。こういったケースでは、社外の専門家(社労士・産業カウンセラー・支援会社など)に早めに相談することが、結果的に時間とリスクの両方を節約します。
判断に迷ったら、一人で決めず社外の専門家に相談する。これが、後のトラブルを防ぐ最短ルートです。
社会保険・給与の手続きで詰まりやすいポイント
入社手続きが完了している場合、欠勤が続く中でも社会保険や給与の処理は止まりません。この実務的な処理を放置すると、後から修正が煩雑になります。
社会保険の資格喪失手続き
入社日に社会保険の資格取得届を提出済みの場合、退職(解雇・合意退職)が確定した日付をもって資格喪失届を提出する必要があります。欠勤が続いているだけの段階ではまだ喪失届は出せません。退職が確定する前に届出を出してしまうと、後で訂正が必要になるため注意が必要です。
給与・社会保険料の按分処理
欠勤期間中の給与は、就業規則の欠勤控除規定に基づいて処理します。ノーワーク・ノーペイの原則(働いた分だけ賃金が発生する)に基づき、無断欠勤の日数分は控除できます。ただし社会保険料は退職が確定するまで発生し続けるため、本人負担分の徴収ができない状態になることも想定しておいてください。
離職票の記載——「会社都合」か「自己都合」か
退職が確定した際に交付する離職票(雇用保険)の離職理由の欄は、失業給付の受給に直結するため正確な記載が求められます。無断欠勤による解雇の場合は「重責解雇」として扱われることがあり、この場合は自己都合退職よりも失業給付が制限されます。記載を誤ると後でトラブルになる可能性があるため、不明な点はハローワークまたは社労士に確認してください。
緊急連絡先・家族への連絡、どこまでやっていいか
採用時に取得した緊急連絡先(保護者・家族)への連絡は、安否確認を目的とする場合には適切な対応です。ただし、いくつかの点に注意しながら進める必要があります。
個人情報保護との兼ね合い
緊急連絡先情報は採用時に「緊急時の連絡のため」という目的のもとで取得しています。安否確認のために使用することは、この利用目的の範囲内と判断できます。ただし、退職交渉や解雇手続きのために家族に連絡する行為は目的の範囲を超えるため、避けてください。あくまで「本人の安否が心配だから確認したい」という文脈での連絡に限ります。
自宅訪問の判断基準
72時間以上連絡が取れず、緊急連絡先にも繋がらない場合、自宅への訪問を検討するケースもあります。訪問自体は違法ではありませんが、複数名で押しかけるような対応は避け、あくまで安否確認を目的とした一人での訪問にとどめてください。訪問の事実も記録に残しておきましょう。
新卒の無断欠勤・連絡不通への対応は、法的知識と冷静な判断が不可欠です。もし「何から始めたらいいか」「このやり方で合っているか」と迷ったら、まずは相談ください。ウェルセンス株式会社では、人事のプロが実際の状況をヒアリングして、あなたの会社に合った対応方針をお伝えします。
よくある質問
まとめ
新卒社員が入社直後から無断欠勤・連絡不通になった場合、まず「入社日を過ぎているかどうか」で法的な対応が変わります。安否確認を最優先に動きながら、誰が・いつ・どの方法で連絡したかを記録し続けることが、後のすべての手続きの土台になります。一方的な採用取り消しや退職扱いは、手順を踏まずに行うと法的リスクになります。就業規則が整備されていない会社、社労士との顧問契約がない会社ほど、初動で判断に迷いやすいのが実態です。
「対応の正解が見えない」「本当にこれでいいのか」と一人で悩むのは、判断ミスの温床です。ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小企業の経営者・兼務担当者からの相談を受け付けています。「まず何をすべきか整理したい」「自社のケースで対応が正しいか確認したい」「メンタル面の背景が疑われるときの対応は?」という段階からでも、具体的なアドバイスが可能です。人事の課題は、一社一社で異なります。ぜひお気軽にご相談ください。
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