「申請書を受け取ったけど、次に何をすればいいの?」——産休・育休の申請を受け取った瞬間、多くの兼務人事担当者がこの問いに直面します。健康保険、厚生年金、雇用保険と、手続きの窓口は複数に分かれており、それぞれ期限も異なります。一つでも漏れれば、社員本人の給付金受取に影響が出るケースも。この記事では、申請受理後にやるべきことを整理し、抜け漏れなく進められるよう解説します。
産休・育休手続きの全体像を把握する
産休・育休の申請を受け取ったら、まず「産休」と「育休」は法律上まったく別の制度であることを認識してください。この前提を理解するだけで、手続きの抜け漏れを大幅に減らせます。
産休と育休は「別の制度」として管理する
産前産後休業(産休)は労働基準法第65条に基づく制度で、出産予定日の6週間前(多胎妊娠の場合は14週間前)から取得できます。産後8週間は強制休業となり、会社側が就業させることは原則として禁止されています。
一方、育児休業(育休)は育児・介護休業法に基づく制度です。子が原則1歳になるまで(条件を満たせば最長2歳まで延長可能)取得できます。2022年10月の法改正では「産後パパ育休(出生時育児休業)」も創設され、子の出生後8週間以内に最大4週間取得できる仕組みが加わりました。
重要なのは、産休が終わっても育休は自動的に始まらないという点です。育休に入るには、改めて社員本人からの申出を受理し、会社側の届出手続きも別途行う必要があります。
手続きの窓口は「年金事務所」と「ハローワーク」の二本立て
混乱しやすいのが申請先の違いです。社会保険料の免除手続きは年金事務所または健康保険組合へ、育児休業給付金の申請はハローワーク(公共職業安定所)へ提出します。どちらか一方だけ処理して終わりにしてしまうケースが多いため、必ず両方の手続きが必要であることを頭に入れておきましょう。
| 手続き内容 | 提出先 | 根拠法令 |
|---|---|---|
| 産前産後休業取得者申出書(社会保険料免除) | 年金事務所・健康保険組合 | 健康保険法・厚生年金保険法 |
| 育児休業等取得者申出書(社会保険料免除) | 年金事務所・健康保険組合 | 健康保険法・厚生年金保険法 |
| 育児休業給付金 初回・継続申請 | ハローワーク | 雇用保険法 |
| 出生時育児休業給付金申請 | ハローワーク | 雇用保険法 |
申請受理直後にやること
申請書を受け取ったら、まず社員本人への丁寧な説明と、社内の情報共有を同時に進めます。この初動が、その後の手続きをスムーズに進める土台になります。
社員本人への説明で伝えるべき内容
申請受理後、できるだけ早いタイミングで社員本人と面談の機会を設けましょう。伝えるべき主な内容は次のとおりです。
- 産休・育休の取得開始日と終了予定日の確認
- 休業中は社会保険料が免除されること(本人負担分も含む)
- 育児休業給付金の概要と、事業主経由で申請することの説明
- 育休延長の条件(保育所に入れない場合など)と手続きの流れ
- 復職の意向確認(強要ではなく、見通しを共有する趣旨で)
なお、「育休を取得したことを理由に不利益な扱いをしない」という姿勢を明示することも大切です。育児・介護休業法は不利益取扱いを明確に禁じており、不用意な発言がハラスメントとみなされるリスクもあります。「復職後のポジションが変わるかもしれない」「業務に支障が出る」といった言葉は避けましょう。
社内への情報共有と業務体制の整理
20〜50名規模の企業では、一人が抜けることで業務負荷が集中しやすくなります。休業開始日の少なくとも1〜2か月前には、業務の引き継ぎ計画と代替体制の検討を始めてください。担当業務のリスト化、引き継ぎドキュメントの作成、パート・派遣・業務委託などの補完手段の検討を並行して進めることが現実的です。
産休期間中の社会保険手続き
産休に入ったら速やかに年金事務所または加入する健康保険組合に「産前産後休業取得者申出書」を提出します。この手続きにより、産休期間中の社会保険料(健康保険・厚生年金)が会社負担分・本人負担分ともに免除されます。
免除が適用される期間と申請のタイミング
社会保険料の免除は、産前休業開始月から産後休業終了月まで適用されます。申請は休業中いつでも可能ですが、給与計算への影響を考えると、産休開始後できるだけ早めに提出するのが望ましい対応です。申請が遅れると、一度徴収した保険料を後から還付する手間が生じる場合があります。
出産手当金との関係を正しく理解する
産休中の収入補填として「出産手当金」があります。これは健康保険から支給されるもので、申請窓口は加入する健康保険(協会けんぽまたは健康保険組合)です。社会保険料免除の申請と窓口が重なる部分もありますが、出産手当金の申請は原則として本人(または代理人)が行います。会社側のサポートとして、申請書の記載方法の案内や証明欄の記入対応を行いましょう。
育休移行時に必ず発生する追加手続き
産後休業が終わり育休に移行する際は、産休とは別に「育児休業等取得者申出書」の提出と、ハローワークへの育児休業給付金申請が新たに必要です。この「追加手続き」を見落とすことが、最も多い実務上のミスです。
育休申出の受理と届出
育休は、原則として休業開始予定日の1か月前までに社員本人から書面等で申出を受けることが必要です(育児・介護休業法第5条)。産休中は慌ただしいことも多いため、産後休業開始のタイミングで「育休の申出期限」を社員本人に案内しておくと、後のスケジュールがスムーズになります。申出を受けたら「育児休業申出書」を受理し、会社から「育児休業取扱通知書」を交付します。
育休開始後の社会保険料免除申請
育休期間の社会保険料免除は、産休とは別に「育児休業等取得者申出書」を年金事務所または健康保険組合に提出することで適用されます。月末時点で育休中であれば、その月の保険料が免除対象となります。月をまたぐ場合の免除適用には期限があるため、育休開始後速やかに提出することが重要です。
育児休業給付金の初回申請
育児休業給付金は雇用保険から支給される給付金で、申請は事業主経由でハローワークに行うことが原則です。初回申請は育休開始から2か月経過後が目安で、ハローワークから指定された受付期間内(育休開始から4か月以内が基本的な目安)に提出します。以降は2か月ごとに継続申請が必要となります。給付額は休業開始から6か月間は賃金日額の67%、それ以降は50%が目安です(雇用保険法に基づく計算)。
育休期間中に継続して対応すること
育休は取得開始で終わりではなく、期間中も定期的な事務対応が発生します。漏れのないよう、カレンダーや管理表で期限を可視化しておくことが実務上の重要なポイントです。
2か月ごとの給付金継続申請
育児休業給付金は、2か月ごとにハローワークへ継続申請を行わなければなりません。申請漏れが続くと給付が止まり、社員本人の生活に直接影響が出ます。申請のたびに賃金台帳や出勤簿の写しなどの添付書類が必要となるため、書類の保管場所と担当者を社内で明確にしておきましょう。
育休延長が必要になった場合の対応
子が1歳の時点で保育所に入所できない場合など、一定の要件を満たせば育休を最長2歳まで延長できます(育児・介護休業法第5条第3項・第4項)。延長を希望する場合は、延長事由を証明する書類(保育所不承諾通知書など)を添えてハローワークに申請します。延長の手続きも事業主経由で行うため、社員本人から相談があった際は速やかに対応できるよう手順を把握しておきましょう。
休業中のコミュニケーション管理
育休中の社員との連絡頻度や方法は、事前に本人の希望を確認しておくことが重要です。過度な業務連絡は育児・介護休業法の趣旨に反する場合があります。一方で、職場の状況を定期的に共有し、復職後のイメージを持ってもらうことは関係性の維持に有効です。月に1度程度、近況確認の連絡を取る会社が実務上は多く見られます。
復職前後の手続きと職場環境の整備
育休終了の1〜2か月前を目安に、復職に向けた手続きと職場環境の整備を開始します。復職直後のトラブルを防ぐには、事前の丁寧な準備が不可欠です。
復職前に確認・準備すること
復職の意思確認は、育休終了日の2か月前を目安に行いましょう。復職日、復職後の勤務形態(時短勤務の希望の有無)、配属や業務内容についての意向確認を行います。時短勤務は育児・介護休業法により、3歳未満の子を持つ社員が請求した場合は原則として認めなければなりません(同法第23条)。
また、育休終了月からは社会保険料の徴収が再開されます。給与計算担当者への連絡を忘れずに行いましょう。
復職後の手続きと制度周知
復職後は、時短勤務中の給与・賞与・昇格などの扱いについて就業規則の内容を本人に説明します。就業規則に育休・時短勤務に関する規定がない場合は、この機会に整備を検討することを強くお勧めします。専任人事がいない場合でも、社会保険労務士への相談や外部支援を活用することで、リスクを大幅に下げられます。
まとめ
産休・育休の申請受理後は、産休の社会保険料免除申請(年金事務所・健康保険組合)、育休移行時の再申請、育児休業給付金の初回・継続申請(ハローワーク)、そして復職前後の手続きと、複数の窓口・複数のタイミングで対応が求められます。とくに「産休と育休は別手続き」という点を見落とすと、社員本人の給付金受取に支障が出るリスクがあります。
専任人事がいない中で、これらすべてを正確にこなすのは決して簡単ではありません。書類の記入や期限管理に不安がある場合は、外部の専門家に相談することも有効な選択肢です。ウェルセンス株式会社では、こうした人事労務の手続きに不安を感じている経営者・兼務人事担当者からの相談を随時受け付けています。「何から始めればいいかわからない」という段階からでも、一緒に整理していきますので、お気軽にお声がけください。
よくある質問
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