「有給の残日数を聞かれても、すぐに答えられない」——中小企業の経営者や兼務人事担当者から、こうした声をよく聞きます。社員数が増えてきた今、申請が口頭やチャットでバラバラに来て、誰がどれだけ取得したか把握できていない。そのうえ「管理簿を作らなければならない」と聞いても、何をどう作ればいいのかわからない。この記事では、有給休暇管理台帳の最低限の要件から実務的な整備方法まで、専任人事がいない環境でも実践できるよう順を追って解説します。
有給休暇管理台帳とは何か、なぜ今すぐ整備が必要なのか
有給休暇管理台帳(年次有給休暇管理簿)とは、労働基準法施行規則第24条の7に基づいて作成・保存が義務づけられた書類です。「取得させていれば記録は後でいい」という考えは通用せず、記録がないこと自体が法令違反になります。
法的義務の根拠を正確に知る
2019年4月の労働基準法改正により、年10日以上の有給休暇が付与されるすべての労働者に対して、使用者は年5日の有給休暇を取得させる義務(労働基準法第39条第7項)を負います。これと同時に、各労働者の取得状況を記録した管理簿の作成・保存が義務化されました(労働基準法施行規則第24条の7)。違反した場合、年5日取得義務の違反は労働者1人につき30万円以下の罰金が科される可能性があります(労働基準法第120条)。
「記録さえあれば証明できる」という発想を持つ
労働基準監督署の調査が入った際、「実態としては5日取得させていた」と口頭で説明しても、記録がなければ証明できません。有給休暇管理台帳は単なる社内メモではなく、法令遵守の証拠書類です。保存期間は最後の記録から3年間(2020年4月改正後)と定められており、この期間は確実に保管しておく必要があります。
専任人事がいない企業ほどリスクが高い理由
兼務で人事を担っている場合、有給管理は後回しになりがちです。しかし、社員が増えるほど付与タイミングがバラバラになり、管理の難易度は指数関数的に上がります。今のうちに仕組みを整えておくことが、将来の大きなトラブル回避につながります。
管理台帳に記載すべき最低限の項目と実務的な追加項目
法令が定める記載項目は3つだけです。ただし、実務で使いやすくするためにはいくつかの項目を追加することを強くおすすめします。
法定3項目を正確に押さえる
労働基準法施行規則が定める有給休暇管理台帳の法定記載事項は以下の3つです。
- 基準日:有給休暇が付与された日(起算点となる重要な情報)
- 時季:実際に取得した年月日
- 日数:取得した日数
この3項目が揃っていれば、法令上の最低要件は満たします。紙でも電子データでも形式は問われていないため、Excelで作成しても問題ありません。
実務上あると便利な追加項目
法定3項目だけでは、残日数の確認や付与漏れの防止には不十分です。実務的な有給休暇管理台帳には以下の項目も加えることを推奨します。
| 項目 | 記載する内容 | なぜ必要か |
|---|---|---|
| 従業員名・社員番号 | 氏名と識別番号 | 個人の台帳と紐づけるため |
| 付与日数 | その基準日に付与された日数 | 残日数の計算の基礎 |
| 残日数 | 付与日数から取得日数を引いた数 | 5日義務の達成状況を即座に確認するため |
| 繰越日数 | 前年度から繰り越された日数 | 時効(2年)管理のため |
| 取得日一覧 | 申請・承認のあった取得日 | 個別の取得履歴を追うため |
半日・時間単位有給のカウントに注意する
年5日取得義務のカウントにおいて、時間単位の有給はカウントできません。半日単位の有給は、労使双方が合意した場合に限り0.5日として合算できる扱いですが、解釈に注意が必要です。有給休暇管理台帳には「通常の1日取得」と「半日取得」を区別して記録しておくと、後から確認する際に混乱が起きません。
年5日取得義務の「起算日」問題を正しく理解する
年5日の取得義務は、「基準日(付与日)から1年以内」に5日を取得させることが要件です。カレンダーの1月〜12月ではなく、従業員ごとの付与日が起点になることを正確に理解してください。
入社日起算と一斉付与のどちらを選ぶか
入社日がバラバラな会社では、従業員ごとに基準日が異なるため、年5日の管理期間も人によって違います。これを整理する方法として、「基準日の統一(一斉付与)」があります。たとえば毎年4月1日を付与日に統一することで、有給休暇管理台帳の更新タイミングが揃い、一括確認が容易になります。ただし、初年度の付与日数が本来付与すべき日数を下回らないよう、設計に注意が必要です。
義務違反になるタイミングを具体的に知る
たとえば2024年10月1日が基準日の従業員がいる場合、2025年9月30日までに5日の取得が完了していなければなりません。その時点で4日しか取得していない場合、使用者は残り1日を時季指定して取得させる義務があります(労働基準法第39条第7項)。「年度末にまとめて確認すればいい」という運用は、基準日が秋の従業員には通用しないことを覚えておいてください。
パート・アルバイトも対象になる
年5日取得義務の対象は正社員だけではありません。週所定労働日数・所定労働時間に応じて年10日以上の有給が付与されるパート・アルバイト従業員も対象に含まれます。週4日勤務のパートタイマーでも、勤続年数によっては年10日以上の有給が付与されるため、有給休暇管理台帳は正社員以外の従業員分も必ず作成してください。
Excelでの管理とツール活用、どちらを選ぶべきか
従業員数や管理の複雑さによって、最適な管理方法は変わります。目安としては、従業員20名未満ならExcel管理でも十分ですが、それ以上になってくるとツール導入を検討する価値があります。
Excelで管理するときの現実的な運用ポイント
Excelで有給休暇管理台帳を作る場合、従業員ごとにシートを分けるより、全員を1つのシートで一覧管理するほうが年5日の達成状況を俯瞰しやすくなります。列に「基準日」「付与日数」「取得合計」「残日数」「5日達成フラグ」を設け、取得日を記録するたびに合計欄を更新するシンプルな構造が長続きするコツです。また、ファイルは必ずクラウドストレージに保存し、担当者以外もアクセスできるようにしておくと、担当者不在時のリスクを減らせます。
勤怠管理システムや有給管理ツールを使う場合
クラウド型の勤怠管理システムの多くは、有給休暇管理台帳の要件を満たした形式で自動的に記録・出力できる機能を持っています。申請・承認・残日数の更新が連動するため、記録漏れや計算ミスが大幅に減ります。導入コストは月額数百円〜数千円の従業員単価のものが多く、管理工数の削減と考えると費用対効果は高い場合が多いです。ただし、ツールを導入しても「基準日」「付与日数の設定」を正しく入力しなければ、出力される台帳が法令要件を満たさないこともあります。初期設定は慎重に行いましょう。
企業規模別の選択目安
従業員数が少なくシンプルな雇用形態であればExcel管理でも運用できます。一方、パートタイマーが多い、入社退社が頻繁、事業所が複数ある、といった状況ではツール導入が現実的です。重要なのは「仕組みがあること」であり、豪華なツールよりも継続して更新できる運用が優先されます。
計画年休と時季指定の制度を活用して5日義務を確実に達成する
従業員が自発的に有給を取得しにくい職場環境では、制度として取得を組み込む仕組みが有効です。計画年休と時季指定の2つを正しく理解して活用しましょう。
計画年休制度の仕組みと導入要件
計画年休とは、有給休暇の取得日をあらかじめ会社と従業員の間で計画的に決める制度です(労働基準法第39条第6項)。夏季休暇や年末年始に有給を組み込む形で設定する企業が多く見られます。導入には労使協定(書面による締結)が必要ですが、就業規則への記載も合わせて行うことが一般的です。計画年休で取得した日数は年5日取得義務のカウントに含まれるため、積極的に活用することで有給休暇管理台帳の記載工数も減らせます。
使用者による時季指定の正しい進め方
年度末が近づいても5日に達していない従業員がいる場合、使用者が時季を指定して取得させることができます(労働基準法第39条第7項)。ただし、時季指定を行う前に従業員の意見を聴取し、できる限り希望に沿った日程にする努力義務があります。また、時季指定を行った事実と日程は有給休暇管理台帳に記録しておくことが必要です。「言った言わない」のトラブルを防ぐためにも、書面やメールで記録を残す習慣をつけてください。
まとめ
有給休暇管理台帳の整備は、「基準日・時季・日数」の法定3項目を押さえた台帳を作り、最後の記録から3年間保存すること、そして年5日の取得状況を基準日ごとに追いかける仕組みを持つことが出発点です。Excelでも始められますが、従業員が増えてきたタイミングでツール導入を検討すると管理工数を大幅に削減できます。パートタイマーを含む全従業員を対象に管理することと、計画年休・時季指定を活用して義務達成を確実にすることも忘れないでください。
「台帳の形は何となくわかったが、うちの会社のケースに当てはめると何から始めればいいかわからない」という場合、ウェルセンス株式会社では、中小企業の労務整備に関するご相談をお受けしています。有給管理の仕組みづくりから就業規則の見直しまで、実務に即したサポートをご提供していますので、お気軽にご相談ください。
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