テレワーク規程と評価制度を整合させる勤怠データ活用のポイント

テレワーク規程と評価制度を整合させる勤怠データ活用のポイント 人事制度
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「テレワーク規程は整備した。でも、いざ評価のタイミングになると、どう評価すればいいかわからない」——人事を兼務している経営者や担当者から、こうした声をよく耳にします。規程を作ることと、評価制度に反映することは別の話です。さらに、勤怠データをどこまで評価に使えるのかという判断基準がないまま運用を続けると、社員の不満や法的リスクにつながりかねません。この記事では、テレワーク規程・評価制度・勤怠データの三つを正しく連動させるための実務的なポイントを整理します。

テレワーク規程と評価制度は「別の文書」である

テレワーク規程と評価制度は、そもそも目的が異なる文書です。規程を整備しただけでは、評価軸は変わりません。

テレワーク規程が定めること・定めないこと

テレワーク規程が扱うのは、主に「どこで働くか」「どの機器を使うか」「費用はどう負担するか」「セキュリティ上のルールは何か」といった労働条件の外枠です。評価の基準や評価方法を定める機能は、本来テレワーク規程には含まれていません。ところが多くの中小企業では、テレワーク導入時に規程だけを急いで整備し、「これで対応完了」と判断してしまいます。その結果、評価制度は出社時代の「行動評価・姿勢評価」がそのまま残り続けます。

評価制度が出社前提のままになっているサイン

以下に当てはまる場合、評価制度がテレワーク対応できていない可能性があります。

  • 評価シートに「積極的に周囲をサポートしている」「職場の雰囲気を明るくしている」など、物理的な存在を前提とした行動評価が残っている
  • 管理職が「テレワーク社員は評価しにくい」と感じている
  • 勤怠打刻のデータ以外に、テレワーク社員の業務状況を確認する手段がない
  • 評価面談で「在宅の日は何をしているか見えない」という発言が出ている

こうした状態は、評価の不公平感や社員の不満につながるだけでなく、後述するように法的リスクを生む可能性もあります。

規程と評価制度を「連動」させるとはどういうことか

連動とは、テレワーク規程で定めたルール(例:コアタイムの有無、業務報告の方法、オンライン会議への参加要件など)が、評価制度の評価基準と矛盾しない状態をつくることです。たとえば「テレワーク時は成果で評価する」と規程に明記しながら、評価シートに「出勤率」や「在籍時間の長さ」を評価軸として残していれば、規程と評価が矛盾します。整合させるには、評価制度の改定作業を規程整備と同時に、または直後に行う必要があります。

勤怠データを評価に使える範囲と使えない範囲

テレワーク下での勤怠データは、評価の「主軸」ではなく「補助指標」として活用するのが現実的かつリスクの低い整理です。何でも評価に使ってよいわけではありません。

法的に求められる労働時間把握の義務

テレワーク時であっても、使用者は労働基準法第32条等に基づき労働時間を適切に把握する義務を負います。厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(2017年)では、PC等の使用時間と申告された労働時間に大きな乖離がある場合、使用者が確認・是正する義務があると明示されています。つまり、勤怠データの管理は評価のためではなく、まず労働時間管理の適正化が目的です。

評価に使えるデータ・使えないデータの判断基準

取得できるデータが増えたからといって、すべてを評価に使えるわけではありません。以下の表を参考に、用途を整理してください。

データの種類 労働時間管理への活用 評価への活用 主な注意点
勤怠システムの打刻記録 適切 補助的に可(遅刻・欠勤の事実確認) 打刻と実態の乖離に注意
PCログイン・ログオフ時刻 適切(申告との乖離確認に活用) 補助的に可(労働実態の確認) 就業規則・テレワーク規程への明記と本人周知が必要
チャットツールの既読・返信時刻 限定的 原則として不適切 プライバシー侵害・ハラスメントリスクあり
スクリーンショット・キーロガー 不適切(過度な監視に該当) 不適切 個人情報保護法・プライバシー権の侵害リスクが高い
Web会議の参加・退出時刻 参考情報として可 会議への参加状況確認として限定的に可 評価の主軸にすることは避ける

モニタリングを実施する場合の最低限の要件

テレワーク社員のPC操作ログや位置情報等を取得する場合、個人情報保護法上の「個人情報」に該当しうるため、取得目的の明示と従業員への事前通知が必要です。具体的には、就業規則またはテレワーク規程に「モニタリングの目的・取得するデータの種類・管理方法」を明記し、全従業員に周知することが最低限の要件となります。周知なしに取得・利用すると、プライバシー侵害として不法行為(民法第709条)に基づく損害賠償請求の対象になりうる点に注意が必要です。

「評価基準をどう設計すればいいのか判断がつかない」という段階でも、専門家に早めに相談することで、後々のトラブルや運用負荷を大幅に削減できます。

評価基準をテレワーク対応に切り替える方法

テレワーク対応の評価制度への転換は、「インプット型」から「アウトプット型」への切り替えを基本方向として進めます。ただし、すべての職種で成果だけを評価するのは現実的ではありません。

インプット型評価からアウトプット型評価への転換

出社前提の評価制度では「何時間働いたか」「どれだけ職場にいたか」という在籍時間・行動量が評価の根拠になりがちです。テレワーク下ではこの把握が困難になるため、「何を達成したか」「どのような成果・貢献があったか」という目標・成果・プロセスを評価軸にする方向へ転換することが基本です。具体的には、評価期間の開始時に上司と部下が目標を合意し、期末に達成度を確認する「目標管理制度(MBO)」や、より頻繁な1on1面談による進捗確認の仕組みを組み合わせることが有効です。

数値化しにくい職種への対応

企画・人事・総務・経理など、成果が数値に表れにくい職種では、アウトプット型評価だけでは「見えない貢献」が評価から漏れるリスクがあります。この場合、成果(何を達成したか)に加えて、プロセス(どのように取り組んだか:コミュニケーションの質・情報共有の積極性・チームへの貢献度)を評価項目に設けることで補完できます。重要なのは、評価者が主観で補完するのではなく、あらかじめ評価基準を文書化しておくことです。

管理職への評価基準の共有と訓練

評価制度を改定しても、評価者である管理職がその基準を正しく理解していなければ意味がありません。テレワーク下では「見えないから評価できない」と感じる管理職が一定数います。評価基準の文書化に加えて、評価者向けの勉強会や評価シートの記入例の共有が効果的です。特に、「テレワーク利用者であることを理由に評価を引き下げることは、育児介護休業法上の不利益取扱いに該当しうる」という法的リスクについても、管理職に明確に伝える必要があります。

規程・評価制度を変更するときの手続きと落とし穴

評価制度を変更する場合、就業規則との整合確認と所定の手続きが必要です。手続きを怠ると、変更が法的に無効となるリスクがあります。

就業規則変更時の法的手続き

評価制度の変更が賃金・処遇に影響する場合、就業規則や賃金規程の変更が必要になります。この場合、労働基準法第89条・第90条に基づき、労働者代表への意見聴取と所轄の労働基準監督署への届出が義務付けられています。また、変更内容が従業員に不利益な変更に該当する場合、労働契約法第10条により、変更の合理性・周知が要件となります。中小企業では「変更したことを社内で口頭で伝えた」だけで終わるケースがありますが、書面による周知と保管が不可欠です。

事業場外みなし労働時間制の誤用に注意

テレワークに「事業場外みなし労働時間制」(労働基準法第38条の2)を適用しようとする企業がありますが、要件は厳格です。厚生労働省の「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(2021年改定)では、情報通信機器を使用して使用者の指示に随時対応できる状態にある場合は、この制度を適用できないと明記されています。チャットやメールで随時連絡が取れる環境でテレワークを行っている場合は、原則として適用できないと考えてください。この誤用は、残業代未払いリスクに直結します。

従業員規模別の対応の違い

従業員数によって、整備すべき内容の優先順位が変わります。まず、従業員数が10人未満の場合でも就業規則の整備は推奨されますが、法的な届出義務は10人以上から生じます(労働基準法第89条)。20〜30名規模では、テレワーク規程・評価制度・勤怠管理システムを同時に整備・連動させる設計が現実的です。50名規模に近づくと、産業医の選任義務(労働安全衛生法第13条:常時50人以上)や、ストレスチェックの実施義務(50人以上)が生じるため、メンタルヘルス対応との連動も視野に入れた設計が必要になります。

勤怠データと評価制度を連動させる実務設計のポイント

勤怠データを評価制度に活用するには、システムの連携設計と運用ルールの明確化が必要です。後から「やはりデータを使いたい」となっても、導入時の設計が抜けていると対応が難しくなります。

勤怠管理システム選定時に確認すべき点

テレワーク対応の勤怠管理システムを選ぶ際には、打刻機能だけでなく、PCログとの連携機能や、残業時間・有給消化状況のレポート出力機能が備わっているかを確認してください。これらのデータを評価補助として活用する場合、評価者が参照できる形式でデータが出力できることが前提です。ただし、勤怠システムのデータを評価シートに手動転記する運用は、転記ミスや恣意的な加工のリスクがあるため、できる限り自動連携の設計を検討してください。

定期的な整合チェックの仕組みをつくる

テレワーク規程・評価制度・勤怠管理の運用は、一度整備して終わりではありません。少なくとも年に一度、三つの整合性を確認するタイミングを設けることを推奨します。確認の観点は、「評価基準に時代遅れの項目が残っていないか」「法令改正や厚生労働省のガイドライン改定への対応ができているか」「管理職から評価基準への疑問や不満が出ていないか」の三点です。この定期チェックを怠ると、気づかぬうちに規程と実態がずれていくリスクがあります。

まとめ

テレワーク規程と評価制度の整合は、「規程を作った」「システムを入れた」だけでは完成しません。勤怠データの活用範囲を正しく理解し、評価基準をテレワーク実態に合わせて文書化し、管理職に共有する——この一連の設計が揃って初めて、公平で法的リスクの低い評価運用が実現します。特に専任人事がいない20〜50名規模の企業では、こうした整備を後回しにしがちです。しかし、評価トラブルや残業代未払い問題が顕在化してからでは対応コストが格段に上がります。

人事の判断に迷った段階で専門家に相談することで、規程と実務の矛盾を未然に防ぎ、組織全体の納得度も高まります。ウェルセンス株式会社では、テレワーク規程・評価制度・勤怠管理の整合支援をはじめ、人事労務の課題全般についてのご相談をお受けしています。

よくある質問

Q. 勤怠システムのログイン・ログオフ時刻を評価に使うことは問題ありませんか?

A. 就業規則またはテレワーク規程に取得目的と利用範囲を明記し、従業員に周知した上であれば、労働実態の確認という補助的な用途での活用は可能です。ただし、ログイン時刻だけを根拠に評価を大きく変動させることは、実態と乖離したデータに基づく不当評価につながるリスクがあるため避けてください。評価の主軸はあくまで目標・成果・プロセスです。

Q. テレワーク社員に事業場外みなし労働時間制を適用してよいですか?

A. 原則として、テレワーク中にチャットやメールで随時連絡が取れる状態にある社員には適用できません。厚生労働省の「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(2021年改定)でも、情報通信機器を使用して使用者の指示に随時対応できる場合は同制度の適用外と明示されています。誤って適用すると残業代未払いリスクにつながります。

Q. 育児でテレワークを利用している社員の評価を下げることはできますか?

A. テレワーク利用を理由として評価を恣意的に引き下げることは、育児介護休業法上の不利益取扱いの禁止規定に抵触する可能性があります。育児を理由としたテレワーク利用者への評価上の不利益は、法的トラブルに発展するリスクが高い類型の一つです。評価基準を文書化し、テレワーク非利用の社員と同じ基準で評価することが原則です。

Q. 評価制度を変更する際に、従業員の同意は必要ですか?

A. 変更内容が従業員に不利益かどうかによって異なります。賃金・処遇に影響する不利益変更の場合、労働契約法第10条により変更の合理性と周知が必要であり、個別の同意取得が望ましいとされています。不利益変更ではない場合でも、就業規則の変更手続き(労働者代表への意見聴取・労働基準監督署への届出・従業員への周知)は必ず行ってください。

Q. テレワーク規程と評価制度の整合は、自社でできますか?

A. 現状の課題整理と評価軸の方向性確認は自社内で進められますが、就業規則・賃金規程との整合確認や法的手続きの判断には、社労士や専門家の関与を推奨します。特に評価制度の変更が処遇に影響する場合、手続きの誤りが後から問題化するリスクがあります。まず自社の現状を棚卸しした上で、専門家に相談するのが効率的です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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