「業務委託契約だから、雇用関係はない。だから労務リスクもない」——そう思って外部コンサルタントを活用してきた経営者・人事担当者ほど、思わぬ落とし穴にはまりやすいのが現実です。偽装請負以外にも、ハラスメント防止措置の適用範囲、安全配慮義務、情報漏えい対策、そして2024年11月に施行されたフリーランス保護新法まで、外部コンサルタント契約をめぐるコンプライアンスリスクは多岐にわたります。本記事では、専任人事がいない中小企業でも実践できる「一括整備」の考え方と具体的な手順をわかりやすく解説します。
外部コンサルタント契約のリスク全体像
外部コンサルタント契約のコンプライアンスリスクは、偽装請負だけではありません。ハラスメント対応・安全配慮・情報管理・フリーランス保護法への対応という四つの柱を押さえることが、実務上の出発点です。
なぜ「偽装請負だけ気をつければいい」では足りないのか
偽装請負(業務委託契約を結んでいながら、実態は指揮命令関係がある状態)は確かに重大なリスクです。しかし、たとえ指揮命令関係がまったくない純粋な業務委託であっても、発注企業には複数の法的義務が生じます。「雇用契約がないから会社に責任はない」という思い込みが、むしろリスクを拡大させる原因になっています。
コンプライアンスリスクを四つの柱で整理する
外部コンサルタント契約に関わるコンプライアンスリスクは、大きく以下の四つに分類できます。これらは互いに連動しているため、バラバラに対処しようとすると抜け漏れが常態化します。
- ハラスメント防止措置の適用(パワハラ・セクハラ)
- 安全配慮義務(民法上の信義則に基づく責任)
- 個人情報・営業秘密の管理(個人情報保護法・不正競争防止法)
- フリーランス保護新法への対応(2024年11月施行)
それぞれの中身を順に確認していきましょう。
ハラスメント防止措置は外部コンサルタントにも及ぶ
職場のハラスメント防止義務は、雇用関係のある社員だけを対象にしているわけではありません。外部コンサルタントが被害者・加害者のどちらになる場合も、発注企業が対応を求められる場面があります。
パワハラ防止法の「職場」は雇用関係に限定されない
労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)に基づく厚生労働省の「パワーハラスメント防止指針」は、「職場」の概念を広く解釈しています。同じ職場空間で業務を行っている外部コンサルタントが自社社員からパワハラを受けた場合、または外部コンサルタントが自社社員にパワハラを行った場合のどちらについても、発注企業として適切な対応体制を整えることが求められます。「外部の人だから、うちは関係ない」という判断は通用しません。
セクハラは取引先・職場出入り者も対象
男女雇用機会均等法第11条は、事業主に対して自社の労働者だけでなく、取引先・顧客・職場に出入りする関係者からのセクシャルハラスメントも含めた対応を求めています。外部コンサルタントと自社社員の間で起きたセクハラも、発注企業が把握した時点で適切な対応を取る義務が生じます。
整備すべき具体的な対応策
専任人事がいない中小企業でまず取り組むべきは、既存のハラスメント防止規程や相談窓口の対象範囲を、外部コンサルタントにも広げることです。社員向けのハラスメント研修に「外部との関係でも同様のルールが適用される」旨を明示し、コンサルタントとの契約書にもハラスメント防止に関する条項を追加することが有効です。従業員数が50名以上で産業医を選任している場合は、産業医や外部相談窓口をコンサルタントも利用できる体制にすることを検討してください。
安全配慮義務は雇用契約がなくても問われる
発注企業の安全配慮義務は、雇用関係のない外部コンサルタントに対しても、業務の実態によっては民法上の責任として認められることがあります。「うちの社員じゃないから」では済まされないケースが存在します。
判例が示す「指揮命令に近い実態」という判断基準
労働契約法第5条は雇用契約を前提とした安全配慮義務を定めていますが、最高裁昭和59年4月10日判決(川義事件)は、安全配慮義務の一般論を確立しました。この判例の考え方を踏まえると、発注企業が外部コンサルタントに対して指揮命令に近い形で業務を遂行させていた場合、民法上の信義則に基づく安全配慮義務が認められる可能性があります。つまり、業務の実態が「指示・管理の度合い」によって判断されるということです。
自社オフィスで作業するコンサルタントへの対応
外部コンサルタントが自社オフィスで長時間作業し、業務上の過大なプレッシャーにさらされた結果、健康被害が生じた場合、発注企業がその状況を認識しながら何も対応しなかった事実は、法的・道義的責任の根拠になり得ます。業務量・作業環境・コミュニケーションの頻度が「実質的な雇用関係に近い」と認定されるリスクを下げるためにも、契約の実態を定期的に点検することが重要です。
疲労の蓄積や過度なストレスへの対応は、コンサルタントであっても企業が目を向けるべき課題です。判断に迷う場合は、外部の専門家に相談することも検討の価値があります。
産業医・就業規則の有無による対応の分岐
従業員数50名未満で産業医を選任していない場合でも、外部コンサルタントが体調不良を訴えた際の対応手順(誰に連絡するか、どう記録するか)を事前に決めておくだけで、リスクは大幅に低減します。50名以上で産業医がいる場合は、産業医との連携体制にコンサルタントのケースも含めておくと安心です。
情報管理の「口約束」がもたらす深刻なリスク
外部コンサルタントへの情報開示に関するリスクは、NDA(秘密保持契約)を結んでいるだけでは防げません。契約内容の精度と、実務上の管理体制の両方が揃って初めて有効な保護となります。
個人情報保護法が発注者に課す「監督義務」
個人情報保護法第25条は、委託先(外部コンサルタント)に個人データを取り扱わせる場合、発注者(委託元)に「必要かつ適切な監督」を義務付けています。単にNDAを締結するだけでは、この監督義務を果たしたことにはなりません。取り扱えるデータの範囲・使用端末の管理方法・業務終了後の廃棄手順まで、契約書と実務の両面で担保することが求められます。
不正競争防止法上の「営業秘密」として保護されるために
外部コンサルタントに開示した技術情報・顧客名簿・価格情報などが不正競争防止法による「営業秘密」として保護されるためには、秘密管理性(情報に対してアクセス制限をかけ、秘密であることが分かる形で管理している)・有用性・非公知性の三要件を満たす必要があります。「口頭で秘密と伝えた」「業務委託契約書に一行記載しただけ」では秘密管理性の要件を満たせず、不正競争防止法の保護は受けられません。
NDAで見落とされがちな抜け穴
NDAを結んでいても、以下の点が抜け落ちているケースが多く見られます。自社の現在の契約書と照らし合わせてチェックしてみてください。
| よくある抜け穴 | 整備のポイント |
|---|---|
| 秘密情報の定義が曖昧(「業務上知り得た情報」だけ) | 具体的なカテゴリ(顧客情報・財務情報・技術情報等)を列挙する |
| 第三者への再委託・再開示の制限がない | 再委託の禁止または書面承諾を条件とする条項を入れる |
| 契約終了後の情報返還・廃棄手続きが未規定 | 終了後の廃棄証明や返還期限を明記する |
| 違反時の損害賠償・差止請求の規定がない | 違反時の法的措置と損害賠償責任を明示する |
フリーランス保護新法で変わった「業務委託だから関係ない」の常識
2024年11月に施行されたフリーランス保護新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)により、個人フリーランスのコンサルタントと取引する中小企業にも、新たな義務が課されました。「業務委託契約だから労務法規は無関係」という認識はすでに過去のものです。
書面明示義務とハラスメント対応体制整備義務
フリーランス保護新法は、個人フリーランスのコンサルタントに業務を発注する際、業務内容・報酬額・支払期日・業務実施場所などを書面または電磁的方法で明示することを義務付けています。さらに、フリーランスがハラスメントを受けた場合の相談対応体制の整備も発注者に求められています。法人格のある企業と取引している場合は適用外ですが、個人として活動するコンサルタント・顧問・業務委託者との契約は対象となります。
中小企業が今すぐ確認すべきこと
まず、現在取引中の外部コンサルタントが「個人事業主」かどうかを確認してください。個人事業主であれば、契約書に法定の明示事項が含まれているかを点検し、不足があれば速やかに追記・再締結が必要です。報酬の支払期日についても、業務委託の場合は成果物受領後60日以内が上限とされており、これを超えている場合は是正が求められます。
コンプライアンスリスクを一括整備する実務手順
外部コンサルタント契約のコンプライアンスリスクを効率よく整備するには、現状把握から契約見直し・社内ルール整備・継続モニタリングという流れで進めることが最も合理的です。バラバラに対処するのではなく、一度の取り組みで複数のリスクを同時に手当てする発想が重要です。
現状把握:まず契約実態を棚卸しする
まず最初に、現在進行中の外部コンサルタント・顧問・業務委託契約をすべてリストアップします。その際、契約書の内容だけでなく、実際の業務の進め方(誰が指示を出しているか、勤怠管理はどうなっているか、情報共有の範囲はどこまでか)も確認することが重要です。契約書と実態に乖離がある場合、偽装請負リスクだけでなく安全配慮義務やフリーランス保護法への違反にもつながります。
優先度に基づいた整備の順番
次に、リストアップした契約ごとに「どのリスクがあるか」を仕分けし、影響度・緊急度に応じて整備の優先順位を決めます。個人事業主のコンサルタントとの契約でフリーランス保護新法の対応が未了の場合は即対応が必要です。自社オフィスで長時間作業している外部コンサルタントがいる場合は、安全配慮の観点から環境整備を優先します。情報を多く共有しているコンサルタントとNDAが未締結または内容が不十分な場合は、情報管理の整備を急ぎましょう。
社内ルール・研修・モニタリングの継続化
契約書の整備だけで終わらせず、社内ルール(ハラスメント防止規程・情報管理規程)の対象範囲を外部コンサルタントにも広げ、社員向け研修にその内容を盛り込むことで実効性が高まります。また、外部コンサルタントとの契約は定期的(最低でも年1回)に実態確認と契約内容の見直しを行う仕組みを作ることが、継続的なコンプライアンス維持のカギです。
「人事だけで判断できない」と感じたら、業務委託契約や情報管理の具体的な見直しを専門家に相談することで、ミスや後手対応を防ぐことができます。
まとめ
外部コンサルタント契約のコンプライアンスリスクは、偽装請負にとどまりません。ハラスメント防止措置・安全配慮義務・個人情報と営業秘密の管理・フリーランス保護新法への対応という四つの柱を、契約書の整備・社内ルールの拡充・継続的なモニタリングによって一括整備することが、専任人事のいない中小企業にとって現実的かつ効率的なアプローチです。「うちは大丈夫」と思いがちな盲点が、実は最大のリスクになっていることは少なくありません。ウェルセンス株式会社では、メンタルヘルス対応や休職復職支援と合わせて、外部人材を含む人事労務の体制整備についてもご相談をお受けしています。「どこから手をつければいいかわからない」という段階からでも、ぜひ一度お気軽にご相談ください。
よくある質問
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