パワハラ防止措置、中小企業は何を最低限整備すればいい?

パワハラ防止措置、中小企業は何を最低限整備すればいい? コンプライアンス
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「2022年4月から中小企業にもパワハラ防止措置が義務化された」——そう聞いてはいるものの、具体的に何をどこまで整備すればよいのか、まだ手がついていないという経営者・担当者の方も多いのではないでしょうか。専任の人事担当者がいない環境では、「完璧な体制より、まず最低限のラインを知りたい」というのが本音のはずです。この記事では、法令上求められる4つの措置を実務レベルに噛み砕き、今すぐ自社の状態を点検できるよう整理しています。

「もう義務化されている」現状と未対応のリスク

中小企業に対するパワハラ防止措置の義務化は、2022年4月1日にすでに始まっています。「努力義務」の段階は終わっており、現在は義務化から2年以上が経過した状態です。

根拠となる法律と指針

根拠法は労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)第30条の2です。事業主に対し、職場におけるパワーハラスメント防止のための雇用管理上の措置を講じることを義務付けています。具体的に何をすべきかは、厚生労働大臣が定めた「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年1月15日告示第5号)に詳しく規定されています。法律の条文だけを読んでも実務に落とし込みにくいため、この指針が実質的な行動基準となります。

違反した場合に何が起きるか

現時点でパワハラ防止措置の不備に対する刑事罰(罰金等)は規定されていません。ただし、都道府県労働局による助言・指導・勧告の対象となり、勧告に従わない場合は企業名が公表される仕組みがあります(労働施策総合推進法第33条)。さらに、措置が不十分な状態でハラスメント被害が発生した場合、会社が民事上の損害賠償責任を問われるリスクが高まります。「罰金がないから大丈夫」という認識は危険です。

法令が求める4つの措置——最低限のラインはここ

パワハラ防止措置の義務内容は、厚労省の指針に基づく4つの柱に整理できます。この4本柱が「法令上の最低ライン」であり、中小企業でも実装可能な現実的なレベルです。

内容(最低限やること)
方針の明確化と周知・啓発 パワハラを行ってはならない旨の方針を策定し、従業員に周知する
相談に応じる体制の整備 相談窓口をあらかじめ定め、担当者を置く
事後の迅速・適切な対応 事実確認→行為者への対処→被害者ケア→再発防止のフロー整備
プライバシー保護・不利益取扱い禁止 相談者・行為者のプライバシー保護と不利益取扱いの禁止を周知

方針の明確化——就業規則と社内周知のセット

まず着手すべきは、パワハラを禁止する方針を文書化することです。具体的には、就業規則にハラスメントの定義・禁止規定・懲戒処分との連動を明記します。就業規則を作成したきりアップデートしていない会社は、この機会に必ず見直してください。ただし、就業規則に書くだけでは「周知」とはみなされません。指針は研修や朝礼・社内掲示などによる啓発活動を求めています。文書の配布や読み合わせも「周知」の手段として有効です。

相談窓口——担当者の教育と対応手順がセット

「社内に相談メールアドレスを作った」「総務が担当者です」という状態で止まっているケースが多く見られます。しかし指針は、担当者が「相談内容や状況に応じて適切に対応できるようにすること」を求めています。つまり、窓口の名称を掲示するだけでなく、担当者が何を聞き取り、どう記録し、誰に報告するかという対応マニュアルの整備が必要です。社外の相談窓口(EAPサービスや社労士・弁護士の活用)を組み合わせることも、指針上認められている有効な手段です。

事後対応フロー——相談が来た後の手順が決まっているか

窓口を設けても、相談が実際に来たときの初動が決まっていなければ機能しません。最低限、「相談受付→事実確認(当事者・関係者へのヒアリング)→判断→行為者への対処→被害者へのケア→再発防止策の検討」という流れを社内ドキュメントとして整備しておく必要があります。また、調査・対応の全過程でプライバシーを保護すること、相談を理由に相談者を不利益に扱わないことを明文化し、従業員全員に周知することも義務の一部です。

自社の整備状況を点検する——チェックリスト

以下の項目を確認することで、自社に何が不足しているかを把握できます。すべてに「できている」と答えられない項目が、今すぐ手をつけるべき優先課題です。

就業規則・社内ルールの整備状況

  • 就業規則にパワハラの定義・禁止規定が明記されている
  • 就業規則にパワハラ行為を懲戒処分の対象とする条項がある
  • 就業規則が直近3年以内に見直されている
  • 従業員がいつでも就業規則を閲覧できる状態になっている

相談窓口・対応体制の整備状況

  • 相談窓口の担当者・連絡先が従業員に周知されている
  • 相談担当者が対応マニュアルまたは研修を受けている
  • 相談を受けた際の記録ルール(記録フォームなど)がある
  • 社内に相談しにくい構造(担当者が役員・社長のみ)を補う外部窓口がある
  • プライバシー保護・不利益取扱い禁止について従業員に周知している

周知・啓発の実施状況

  • 入社時または定期的にパワハラに関する説明・研修を実施している
  • 管理職に対してパワハラ防止に関する教育を行っている
  • 社内掲示・配布文書などで方針を継続的に発信している

「社内完結が難しい」中小企業が取りやすい現実解

20〜50名規模の会社では、相談窓口の担当者が経営者や役員と兼務になるケースが多く、「加害者になりうる立場の人が窓口」という矛盾が生じます。この構造的な問題には、外部リソースの活用が現実的な解決策です。

外部相談窓口の活用

社労士・弁護士・EAP(従業員支援プログラム)サービスなどの外部機関を相談窓口として契約することは、指針上も適切な措置として認められています。「社内に適切な担当者がいない」「相談者が社内で話しにくい」という場合は、外部窓口を設けることが最も早く「体制整備」の要件を満たす方法のひとつです。費用面でも、月額数万円程度のEAPサービスや、スポット契約の社労士への委託など、中小企業でも導入しやすい選択肢が増えています。

厚労省の無料ひな形・ツールを活用する

厚生労働省は、パワハラ防止措置に関する就業規則の規定例・相談対応マニュアル・研修用資料を無料で公開しています(職場のハラスメント対策ポータルサイト「あかるい職場応援団」)。ゼロから作成する必要はなく、これらのひな形を自社の実態に合わせて修正するだけで大幅に工数を削減できます。まず就業規則の規定例と相談窓口設置のひな形をダウンロードするところから始めると、整備の全体像が見えやすくなります。

従業員規模別の優先順位の考え方

整備の優先順位は従業員数や既存の制度状況によって変わります。就業規則がそもそも未整備または10年以上更新されていない場合は、まず就業規則の見直しを最優先にしてください。就業規則が整っている場合は、相談窓口の担当者設置と周知・啓発(研修)を並行して進めるのが効率的です。産業医が選任されている会社(常時50人以上の事業場が選任義務対象)は、産業医を相談体制に組み込む選択肢もあります。

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よくある落とし穴——「やった気」になりやすい2つのミス

対応したつもりが実は不十分、というケースには共通のパターンがあります。措置義務の判断基準は「形式があるか」ではなく「機能しているか」です。

「窓口を作るだけ」では義務を果たしていない

相談窓口の設置について、担当者の名前とメールアドレスを掲示するだけで完了と思っている会社が少なくありません。しかし指針が求めているのは、担当者が「適切に対応できる状態」であることです。実際に相談が来たときに担当者が何をすべきか分からない状態では、窓口の名称だけがある「名目上の窓口」に過ぎず、措置義務を果たしているとは言えないリスクがあります。担当者教育と対応手順の文書化はセットで行ってください。

「就業規則に書いた=周知した」ではない

就業規則にハラスメント禁止を明記することは重要ですが、それだけで「周知・啓発」の要件を満たすとは言えません。指針は「研修の実施その他の啓発活動」を手段として例示しており、従業員が実際に内容を理解できるよう働きかけることが求められています。研修は外部講師を招いた大規模なものでなくても構いません。30分程度の社内勉強会、動画視聴、文書配布と読み合わせなど、自社の規模と状況に合わせた形で「実施した記録を残す」ことが重要です。

人事判断だけで抱え込まず、整備の進め方を専門家とともに確認するのが確実です。

まとめ

中小企業に対するパワハラ防止措置の義務化は2022年4月にすでに始まっており、「努力義務」の段階はとっくに終わっています。法令上求められる最低ラインは、方針の明確化と就業規則への明記・相談窓口の設置と担当者教育・事後対応フローの整備・プライバシー保護の周知という4本柱です。専任人事がいない環境では、厚労省のひな形活用と外部窓口の組み合わせが最も現実的な整備方法です。

「何をどこまでやれば十分か」「うちの会社では誰が何を担うべきか」について個別に整理したい場合は、ウェルセンス株式会社にご相談ください。会社の規模・現在の整備状況・優先すべき課題を一緒に確認し、御社に合った対応の進め方をご提案しています。

よくある質問

Q. 何も整備していない状態でも、今すぐ罰金を取られることはありますか?

A. 現時点では、パワハラ防止措置の不備に対する直接的な刑事罰(罰金等)は規定されていません。ただし、都道府県労働局による助言・指導・勧告の対象となり、勧告に従わない場合は企業名が公表されます(労働施策総合推進法第33条)。また、措置が不十分な状態でハラスメント被害が発生した場合は、民事上の損害賠償責任を問われるリスクが高まります。「罰金がないから問題ない」とは言えない状況です。

Q. 相談窓口の担当者を社長が兼務しても法令上は問題ないですか?

A. 法令上、担当者を社長が兼務することを明示的に禁止する規定はありません。ただし、「社長がハラスメントの当事者になる可能性がある」場合や「相談者が社長に話しにくい」という構造的な問題が生じやすいため、実態として機能しない窓口になるリスクがあります。社外の社労士・弁護士・EAPサービスなどを外部窓口として併設することで、この問題を補うことが推奨されます。

Q. 研修は必ず外部講師を呼んで実施しなければなりませんか?

A. 外部講師の招聘は必須ではありません。厚労省が無料公開している研修用資料や動画を活用した社内勉強会、資料の配布と読み合わせなど、自社の規模・状況に合った方法で構いません。重要なのは「実施した記録を残すこと」です。実施日・参加者・内容がわかる記録を保管しておくことで、万が一のときに措置を講じていた証拠になります。

Q. 就業規則の変更は労働基準監督署への届け出が必要ですか?

A. 常時10人以上の従業員を雇用している事業場は、就業規則を作成・変更した場合に労働基準監督署への届け出が義務となっています(労働基準法第89条・第90条)。届け出の際は、労働者代表の意見書を添付する必要があります。10人未満の事業場では届け出義務はありませんが、従業員への周知は義務です。就業規則の変更を機に、現在の規則全体を見直す良い機会にもなります。

Q. パワハラ防止措置の整備を外部に委託することはできますか?

A. 相談窓口機能の外部委託(社労士・弁護士・EAPサービスへの委託)は指針上も認められた手段です。ただし、就業規則の整備・方針の策定・従業員への周知・啓発といった社内向けの取り組みは、最終的に会社として実施・管理する責任があります。外部に委託できる部分と、社内で主体的に行わなければならない部分を切り分けて考えることが重要です。何をどこまで委託できるかは、自社の状況を踏まえて専門家に相談するのが確実です。

【監修】ウェルセンス株式会社
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