人事評価記録の開示請求が来たら確認すべき対応手順

人事評価記録の開示請求が来たら確認すべき対応手順 人事制度
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「社員から、自分の人事評価の記録を見せてほしいと言われました。どう対応すればよいですか?」——人事専任者がいない中小企業では、こうした問い合わせが突然やってくることがあります。開示するべきか、断ってよいのか、どこまで見せればいいのか。判断の手がかりがないまま時間だけが過ぎていく、そんな状況に置かれた経営者・人事担当者に向けて、法的根拠と実務対応をわかりやすく整理しました。

人事評価記録は開示請求の対象になるのか

結論からいうと、人事評価記録は個人情報保護法上の「保有個人データ」に該当し、社員(本人)からの開示請求に原則として応じる義務があります。

「保有個人データ」とは何か

個人情報保護法第16条第4項は、「保有個人データ」を「個人情報取扱事業者が開示・訂正・利用停止等の権限を有する個人データ」と定義しています。人事評価記録には氏名・評価点・上司のコメントなど特定の個人を識別できる情報が含まれているため、原則として「個人データ」に該当します。そして会社がその記録を管理・保管している以上、「保有個人データ」として開示請求の対象となります。

2022年改正法で何が変わったか

2022年4月に施行された改正個人情報保護法により、重要な変更がありました。改正前は「6ヶ月以内に消去する予定のデータは保有個人データに含まない」という例外規定が存在していましたが、この短期保有の例外規定は廃止されました。つまり、「すぐ捨てる予定だから開示しなくていい」という論理は現在では通用しません。評価記録の保有期間がどれだけ短くても、開示請求の対象になり得る点に注意が必要です。

「うちは小さい会社だから関係ない」は通じるか

個人情報保護法が適用されるのは「個人情報取扱事業者」です。かつては5,000件以下の個人情報しか扱わない事業者には適用が除外されていましたが、2017年の法改正でこの規模要件は撤廃されました。従業員が数名であっても、社員の氏名や評価情報を扱う以上は個人情報取扱事業者に該当し、開示請求への対応義務が生じます。企業規模を理由に対応を避けることはできません。

開示できる情報・できない情報の判断基準

開示請求への対応は「全部見せる」か「全部断る」かの二択ではありません。法律が定める不開示事由に該当する部分だけをマスキング(黒塗り)し、それ以外は開示するのが正しい対応です。

不開示にできる事由

個人情報保護法第33条第2項が認める不開示事由は以下の三つに限られています。

  • 本人または第三者の生命・身体・財産を害するおそれがある場合
  • 当該事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合
  • 他の法令に違反することとなる場合

「評価の根拠を知られると不都合だから」「開示した後にトラブルになりそうだから」といった漠然とした理由は不開示事由にはなりません。不開示を主張するには、上記いずれかに具体的に該当することを説明できる必要があります。

第三者情報が含まれる場合の取り扱い

評価コメントの中に他の社員の氏名や個人を特定できる情報が含まれている場合、その部分は第三者の権利利益を害するおそれがあるとして不開示・マスキング対応が可能です。一方で、評価者(上司)の氏名や主観的なコメントそのものが直ちに不開示事由になるわけではありません。「上司のコメントだから見せなくていい」とはならない点に注意してください。個別の記録内容を確認したうえで、開示・非開示を項目ごとに判断することが求められます。

判断に迷う情報の整理

情報の種類 開示の可否 備考
本人の評価点数・評価ランク 原則開示 本人に関する情報のため
評価者(上司)のコメント 原則開示 直ちに不開示事由にはならない
評価者の氏名 個別判断 社内で広く知られている場合は開示が原則
他社員との比較情報・順位 第三者部分はマスキング 他の社員を特定できる部分は不開示可
評価会議での議事内容 個別判断 業務適正実施への支障が具体的に示せれば不開示可能な場合あり

開示請求への実務対応手順

開示請求が来たら、まず「受け付ける体制を整えること」が先決です。慌てて口頭で対応しようとすると、後からトラブルの原因になります。

本人確認と請求書の受領

まず、請求者が本当に本人であることを確認します。在職中の社員であれば社員証や従業員番号で確認できますが、退職者から請求が来る場合は運転免許証等の公的身分証明書のコピーを求めることが一般的です。請求は口頭ではなく書面(開示請求書)で受け付けるルールをあらかじめ定めておくと、後の記録管理がしやすくなります。社内にひな型がない場合は、個人情報保護委員会が公表している参考様式を活用することができます。

対象記録の特定と内容確認

次に、請求対象となる評価記録を特定します。「いつの評価か」「どの部署在籍時の記録か」を請求書で確認し、該当する記録を洗い出します。その後、記録の内容を精査して開示・マスキング・不開示の判断を行います。この判断は口頭で済ませず、社内で検討した経緯を記録として残しておくことが重要です。後日「なぜその判断をしたか」を説明できる状態にしておくためです。

開示対応の判断に迷う場合や、自社の対応フローが不明確な場合は、無理に判断を進めるより一度専門家に相談することをお勧めします。

回答期限と手数料の考え方

個人情報保護法第33条第1項は「遅滞なく」開示することを求めています。個人情報保護委員会のガイドラインでは、合理的な期間内(目安として2〜3週間程度)に対応することが一般的な解釈とされています。請求から1ヶ月以上放置することは「遅滞なく」の要件を満たさない可能性があります。また、開示対応にかかる実費を勘案した合理的な範囲で手数料を設定することも法律上認められています(法第38条)。手数料を定めていなくても違法ではありませんが、あらかじめ就業規則や社内規程に定めておくと対応がスムーズになります。

人事評価記録の保管ルールを整備する

開示請求に適切に対応できるかどうかは、日頃の保管ルールの整備にかかっています。「どこに何があるかわからない」という状態では、請求が来るたびに現場が混乱します。

保管媒体とアクセス管理

評価記録が紙の場合は施錠できるキャビネットで保管し、閲覧できる担当者を限定します。電子データの場合は、アクセス権限を人事担当者・直属上長・経営者に絞り、共有フォルダに誰でもアクセスできる状態は解消する必要があります。Excelファイルが複数の場所に点在しているケースはリスクが高く、一元管理への移行を検討してください。

保管期間と廃棄ルール

労働基準法上、労働者名簿・賃金台帳・雇入れ・解雇等に関する書類は3年間の保存義務が課されています(2020年改正により5年への延長が経過措置として進行中)。人事評価記録そのものに法定の保管期間は明示されていませんが、実務上は退職後3〜5年を目安とする企業が多い状況です。重要なのは「各社の就業規則や社内規程で保管期間を明示すること」です。期間を定めずに漫然と保管し続けると、保有個人データとして開示請求の対象であり続けます。保管期間満了後は確実に廃棄・削除し、廃棄した日時と担当者の記録を残しておきましょう。

退職者の評価記録の扱い

退職後も、会社が評価記録を保管している限りは保有個人データとして開示請求の対象になります。「退職したから関係ない」とはなりません。退職者から開示請求が来た場合の対応フローも、在職者向けと同様に整備しておく必要があります。退職者情報の管理担当者を明確にし、保管場所と廃棄スケジュールを規程に落とし込むことが実務上の対策になります。

開示請求が「不満・申告」に発展するリスクへの備え

開示請求は、処遇への不満やハラスメントの申告と同時期に来ることが少なくありません。開示対応そのものを丁寧に行うことが、その後のリスクを抑える最善策です。

開示請求を「警戒すべき行為」と捉えないこと

開示請求は法律が認めた本人の権利です。「なぜ開示を求めてくるのか」と身構えて対応が遅れると、それ自体が社員の不信感を高める原因になります。請求を受け取ったら、まず「確認して所定の手続きでご回答します」と落ち着いて受理の意思を伝えることが最初の対応です。感情的な反応や即座の拒絶は避けてください。

開示後のフォローアップと記録の重要性

開示した内容について「評価が不当だ」と社員が主張してきた場合、評価の過程が適切であったことを説明できる記録があるかどうかが重要になります。評価基準・評価会議の開催記録・フィードバックを行った記録などを整備しておくことで、後の紛争リスクを大幅に軽減できます。開示請求への対応は、同時に自社の評価プロセスの見直し機会でもあります。

就業規則・個人情報保護方針の整備状況を確認する

就業規則に開示請求の対応手続きが記載されているか、個人情報保護方針(プライバシーポリシー)が社員向けに周知されているかを確認してください。これらが未整備の場合、「どういうルールで対応するか」の根拠がなく、担当者が場当たり的な判断を迫られます。専任人事がいない企業ほど、こうした規程の整備が後回しになりやすいため、開示請求への対応を機に整備を進めることをお勧めします。

複数の対応が重なると、人事だけで判断するのは難しくなります。必要に応じて弁護士や社会保険労務士など外部専門家のサポートを受けることも検討してください。

まとめ

人事評価記録は個人情報保護法上の「保有個人データ」に該当し、社員から開示請求があった場合は原則として応じる義務があります。不開示にできるのは法定事由に該当する場合のみであり、「見せたくない」という理由は通用しません。対応にあたっては、本人確認・請求書の受領・記録の特定・開示内容の精査という流れを踏み、遅滞なく(目安2〜3週間以内に)回答することが求められます。また、日頃から評価記録の保管場所・アクセス権限・保管期間・廃棄ルールを規程として整備しておくことが、開示請求だけでなくその後の紛争リスクを抑える土台になります。

「自社の評価記録の管理状況が不安」「開示請求の対応フローを整えたい」「就業規則や個人情報管理の規程が未整備」といったお悩みがあれば、ウェルセンス株式会社にご相談ください。人事労務課題に対応した実務サポートをご提供しています。

よくある質問

Q. 社員から「評価記録を見せてほしい」と口頭で言われました。書面でなければ対応しなくてよいですか?

A. 法律上、請求の方式(口頭か書面か)は開示義務の有無に直結しません。ただし、社内規程で「書面による請求を受け付ける」と定めている場合は、書面での再申請をお願いすることができます。規程がない場合は口頭での請求も有効と解される可能性があるため、まず「所定の手続きで対応します」と伝えたうえで、社内の対応フローに乗せることを優先してください。

Q. 退職した元社員から評価記録の開示請求が来ました。応じる必要がありますか?

A. 会社がその記録を保管している限り、退職者の評価記録も保有個人データとして開示請求の対象になります。在職・退職の別は法律上の開示義務の有無に影響しないため、原則として対応が必要です。ただし、すでに廃棄・削除が完了している場合は「当該記録は保有していない」と回答することになります。廃棄した記録は廃棄日時と担当者を記録として残しておくことが重要です。

Q. 評価記録を開示したら、社員から「評価が不当だ」と訴えられませんか?

A. 開示請求への対応自体が訴訟リスクを高めるわけではありません。むしろ、正当な権利行使に応じないことや、対応を長期間放置することの方がリスクになります。評価内容への異議申立てに備えるためには、評価基準・評価プロセス・フィードバックの記録をあらかじめ整備しておくことが有効です。評価記録の開示対応を機に、評価プロセス全体の記録管理を見直すことをお勧めします。

Q. 人事評価記録は何年間保管すればよいですか?

A. 人事評価記録そのものに法定の保管期間は明示されていません。労働基準法上の書類(労働者名簿・賃金台帳等)は3年(2020年改正により5年への延長が経過措置中)とされていますが、評価記録はこれとは別に、各社が就業規則や社内規程で期間を定める必要があります。実務上は退職後3〜5年を目安とする企業が多い状況です。重要なのは期間を社内規程で明示し、満了後は確実に廃棄・記録を残すことです。

Q. 開示請求への対応フロー・社内規程がまったく整っていません。どこから始めればよいですか?

A. まず「現状把握」から始めることをお勧めします。評価記録がどこにどのような形で保管されているかをリストアップし、アクセスできる人を確認します。次に、個人情報保護方針(プライバシーポリシー)が社員向けに整備・周知されているかを確認します。そのうえで、開示請求の受付様式・対応フロー・保管期間・廃棄ルールを就業規則または別規程として整備します。専任人事がいない場合は、外部の専門家や支援機関に相談しながら進めることが現実的です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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