「まだ退職は決まっていないのに、社員から離職票を出してほしいと言われた」——こうした場面に直面したとき、どう対応すればよいか迷う担当者は少なくありません。休職中の雇用保険手続きは、発行タイミングを誤ると社員に経済的な不利益を与えるリスクがあります。この記事では、休職中の被保険者資格の考え方から、離職票の正しい発行タイミング、休職満了時の手続き順序まで、実務で判断に迷いやすいポイントを整理します。
休職中でも雇用保険の被保険者資格は継続する
結論から述べると、休職中であっても労働契約が継続している限り、雇用保険の被保険者資格は失われません。「休職させたら雇用保険の手続きが必要では」と誤解されることがありますが、休職は資格喪失事由ではないため、特別な届出は不要です。
被保険者資格は「雇用関係の存続」で判断する
雇用保険法における被保険者資格は、雇用関係の存続に基づいています。資格喪失事由として定められているのは、離職(退職・解雇)、65歳到達、所定労働時間の変更による要件非該当などです(雇用保険法第13条等)。メンタル不調による休職は、労働契約を終了させるものではなく、あくまでも「就労を一時的に免除している状態」です。したがって、休職中も被保険者資格は継続します。
賃金の支払いがなくても資格は継続する
休職中は多くの場合、会社からの給与支払いがゼロまたは大幅に減少します。それでも雇用保険の被保険者資格には影響しません。賃金支払いの有無は資格喪失の判断基準ではないからです。ただし、健康保険の傷病手当金とは別制度であるため、混同しないよう注意が必要です。傷病手当金は健康保険から給付される仕組みであり、雇用保険とは切り離して考えます。
資格喪失の手続きが必要になるのは退職が確定したとき
雇用保険被保険者資格喪失届をハローワークに提出するのは、退職(離職)が確定した時点です。就業規則に定める休職期間が満了して退職となる場合、退職勧奨に応じて退職となる場合、または本人が自ら退職を申し出た場合——いずれも「退職日が確定した後」に手続きを進めます。休職中は届出不要、退職確定後に速やかに届出、この原則を押さえておくことが実務の起点になります。
離職票は退職確定後にしか発行できない
離職票は、退職(離職)が確定した後に事業主がハローワークへ資格喪失届を提出し、ハローワークが交付するものです。退職が確定していない段階で発行を求めてもハローワークは受理しないため、まだ在籍中の社員に離職票を渡すことは手続き上できません。
「とりあえず離職票を出してほしい」という社員への対応
休職中の社員や家族から「失業給付を受けたいので離職票を出してほしい」と言われるケースがあります。この場合、担当者は毅然と「退職が確定していないため、現時点では発行できない」と説明する必要があります。これは企業の判断ではなく、制度上の仕組みです。また、重要な点として、傷病手当金を受給中(労務不能状態)の社員は、「労働の意思・能力があること」を要件とする失業給付を原則として受けることができません。退職後すぐに失業給付を申請しても支給されない可能性が高いため、この点もあわせて本人に伝えることが親切な対応です。
休職対応の判断に迷う場合や、社員対応をどう進めるべきか判断がつかないときは、早めに専門家に相談することで、対応の正確性と透明性を確保できます。
資格喪失届の提出期限と離職票の発行の流れ
退職が確定したら、事業主は離職日の翌日から起算して10日以内にハローワークへ雇用保険被保険者資格喪失届を提出しなければなりません(雇用保険法施行規則第7条)。このとき、離職票の交付を希望する場合は届出と同時に申請します。ハローワークが内容を確認・処理したうえで離職票が交付され、それを事業主から本人へ渡す流れになります。
| 手続きの順番 | タイミング | 担当 |
|---|---|---|
| 退職日の確定 | 就業規則の満了日、または合意した退職日 | 会社・本人 |
| 資格喪失届の提出 | 離職日翌日から10日以内 | 事業主(ハローワークへ) |
| 離職票の受取・交付 | ハローワーク処理後 | 事業主から本人へ |
| 受給期間延長申請(必要な場合) | 離職日翌日から30日経過後、1か月以内 | 本人(ハローワークへ) |
誤発行・手続き遅延のリスク
退職が確定していない段階で離職票を発行しようとした場合、ハローワークは受理しません。一方、退職が確定しているにもかかわらず手続きを怠ると、社員が受給申請できない期間が生じ、経済的な不利益につながります。また、傷病手当金を受給中の社員は、退職後も一定要件(資格喪失前に1年以上の被保険者期間があること等)を満たせば健康保険の傷病手当金を継続受給できますが、その手続きについても案内しておくと社員の安心につながります。
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休職期間満了による自然退職の手続き順序
就業規則に「休職期間満了をもって退職とする」旨の規定がある場合、その満了日が退職日(離職日)となります。この自然退職の場合、手続きの順序と離職理由の選択が特に重要です。
就業規則の確認が手続きの起点になる
休職期間満了による自然退職を適切に処理するには、まず就業規則に休職満了の規定が明記されているかを確認します。規定が存在しない場合、「満了日に自動的に退職となる」という根拠がなく、退職処理そのものが問題になる恐れがあります。就業規則が整備されていない企業では、この時点で専門家への相談を検討してください。規定がある場合は、満了日の前に本人へ通知し、復職可否の判断を明確にしたうえで、満了日を退職日として資格喪失届を提出します。
離職理由コードの選択に注意する
離職票に記載する離職理由(コード)は、社員が受け取る失業給付の給付制限期間の有無に直結します。一般的な自己都合退職であれば給付制限(原則2か月)がかかりますが、休職期間満了による退職は「就業規則の定めによる退職」として処理されるため、自己都合退職とは異なるコードを選択する必要があります。誤って「自己都合」のコードを選んでしまうと、社員が本来受けられるはずの給付を早期に受けられなくなるリスクがあります。コードの選択に迷う場合は、ハローワークの窓口に相談することをおすすめします。
復職・延長・退職の判断軸を事前に整理しておく
休職満了が近づいているのに「退職なのか延長なのか判断できない」という状況を避けるには、事前に判断軸を明確にしておくことが重要です。目安として、主治医の診断書による復職可否の確認、産業医がいる場合は就業可否の意見聴取、本人・家族との面談を経たうえで判断します。産業医が選任されていない規模の企業(常時50人未満)の場合、主治医の意見書をベースに会社として判断することになりますが、その際も「なぜその判断をしたか」のプロセスを記録しておくことがトラブル防止につながります。
傷病手当金受給中の社員への案内が欠かせない
退職後に傷病手当金を受給中の元社員が失業給付も申請しようとする場合、両者を同時に受けることはできません。事業主がこの点を適切に案内しておかないと、社員が手続きの誤りで経済的に困窮するリスクがあります。
傷病手当金と失業給付は併給できない
健康保険の傷病手当金は「療養中で労務不能」であることが要件です。一方、雇用保険の基本手当(失業給付)は「労働の意思・能力があり求職中」であることが要件です。この二つは要件が相反するため、原則として同時に受け取ることができません。退職後に傷病手当金を継続受給しながら求職活動ができない状態が続く場合、失業給付の申請を先送りする必要があります。
受給期間の延長申請を案内する
傷病等の理由で退職後すぐに求職活動ができない場合、本人はハローワークで「受給期間の延長申請」を行うことができます。通常、失業給付の受給期間は離職日翌日から1年間ですが、延長申請によって最大4年まで延長が可能です。この申請は、離職日の翌日から30日を経過した日以降、1か月以内に行う必要があります。事業主がこれを案内しないままでいると、本人が受給期間を過ぎてしまい、失業給付を一切受け取れなくなるケースもあります。退職時の案内として、口頭だけでなく書面でも伝えることを推奨します。
退職勧奨・解雇・休職満了で変わる離職理由の整理
退職の経緯が異なれば、離職票に記載する離職理由も変わります。誤った理由を記載すると社員の給付に影響が出るため、退職の実態に合った理由を正確に記載することが必要です。
退職の経緯ごとに異なる扱い
- 本人申し出による自己都合退職:一般的な自己都合退職として処理。給付制限(原則2か月)あり。
- 会社側からの退職勧奨に応じた退職:会社都合に準じた扱いとなる場合があり、給付制限なしとなるケースも。実態を正確に記載することが重要。
- 解雇:会社都合として処理。給付制限なし。
- 就業規則による休職期間満了:「就業規則の定めによる退職」として処理。自己都合とは区別される。給付制限の扱いについてはハローワークに確認。
記載ミスを防ぐための確認ポイント
離職理由コードの選択に迷ったときは、ハローワークの窓口で具体的な状況を説明して確認することが確実です。「とりあえずよく使うコードを入れた」という処理は避けてください。記載ミスが発覚した場合、離職票の訂正手続きが必要になり、社員の給付開始が遅れる原因になります。退職の経緯に関わる書類(退職届、面談記録、通知書など)を整理しておくことで、コード選択の根拠を明確にできます。
まとめ
休職中の社員に関する雇用保険手続きは、「休職は資格喪失事由ではない」「離職票は退職確定後にしか発行できない」「離職理由コードは退職の実態に合わせて選択する」という三つの原則を軸に考えることで、大きなミスを防ぐことができます。特に、傷病手当金受給中の社員への受給期間延長申請の案内は、見落としやすく社員への影響が大きいポイントです。
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