「試用期間がもうすぐ終わるけれど、正直まだ判断できない。もう少し様子を見たい」——そう気づいたとき、頭を抱えていませんか。いつ・どうやって本人に伝えればいいのか、そもそも法的に延長できるのか、何も準備がないまま期日が迫ってくる。専任の人事担当者がいない中小企業では、こうした場面で経営者や兼務の担当者が一人で判断を迫られます。この記事では、試用期間延長の法的な条件から本人への伝え方、延長後のリスク管理まで、実務で使える手順と文例をまとめて解説します。
試用期間延長は「条件を満たせば」合法
試用期間延長は、一定の条件を満たせば法的に有効です。ただし、条件を欠いた延長は無効とみなされるリスクがあり、「延長したつもりが本採用が成立していた」という事態になりかねません。
試用期間中も労働契約は成立している
試用期間中の従業員は「見習い」ではなく、正式な労働契約のもとで働いています。最高裁判所の三菱樹脂事件(昭和48年12月12日判決)では、試用期間は「解約権留保付き労働契約」であると定義されました。つまり会社は一定の裁量を持ちつつも、本採用を拒否するには客観的・合理的な理由が必要とされます。この性質は「試用期間延長する場合」にも同様に適用されます。
延長に必要な3つの条件
試用期間を適法に延長するには、次の3点がすべて揃っている必要があります。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 就業規則に延長規定がある | 「会社が必要と認めた場合は延長できる」などの根拠条項が必要。規定がない延長通知は無効リスクあり |
| 延長期間・上限が明示されている | 無期限の延長は認められない。「最長○か月延長できる」と上限を定める必要あり |
| 延長の合理的な理由がある | 長期欠勤・業務習熟度の著しい遅れなど、評価に必要な期間が確保できなかった事情が必須 |
就業規則を確認・整備することが最初の一歩
20〜50名規模の企業では、就業規則の試用期間条項に延長規定が存在しない、または「会社が必要と認めた場合」とだけ書かれていて上限が明示されていないケースが少なくありません。このような状態で延長通知を行っても、法的に無効とされる可能性があります。延長を検討する前に、まず就業規則の該当箇所を確認してください。規定がない、または上限が書かれていない場合は、延長通知の前に就業規則を改訂する必要があります(10名以上の事業場では労働基準監督署への届出が必要です)。
延長通知は「いつ」「どのように」行うか
試用期間延長通知は、試用期間満了日より前に書面で行うことが原則です。口頭だけでは後から「聞いていない」とトラブルになりやすく、書面による合意取得が実務上の鉄則です。
通知のタイミング
少なくとも試用期間満了日の2週間前、できれば1か月前に通知するのが望ましいといえます。満了日の直前や当日に「もう少し様子を見たい」と気づいた場合は、状況によっては通知が間に合わないこともあります。その場合、延長自体が認められない可能性を考慮し、早急に就業規則の内容と書面の準備を進めながら、必要に応じて社会保険労務士や弁護士に相談することをおすすめします。
書面に記載すべき内容
試用期間延長通知書(合意書)には、少なくとも次の内容を盛り込みます。
- 延長の対象となる従業員の氏名
- 延長の理由(具体的に記載する)
- 延長後の試用期間の開始日と終了日
- 延長期間中の評価基準や会社が期待する改善内容
- 従業員本人の署名・押印欄
本人の署名があることで、延長に合意したという記録が残ります。一方的な通知書だけでは合意の証明として弱いため、必ず署名を求めてください。
通知書の文例
以下は試用期間延長通知書の文例です。実際に使用する際は、就業規則の条項番号や具体的な理由を必ず記載してください。
【試用期間延長に関するご通知】
○○ ○○ 様
このたびは就業規則第○条の規定に基づき、あなたの試用期間を下記のとおり延長することをお伝えします。
延長の理由:入社後、業務習熟度の観点から評価に必要な期間が十分に確保できなかったため、引き続き状況を確認させていただくものです。
延長期間:○年○月○日〜○年○月○日(○か月間)
延長期間中に期待すること:(具体的な改善目標・行動を記載)
上記の内容についてご確認のうえ、ご署名をお願いいたします。
確認・同意 氏名:________ 日付:○年○月○日
本人への伝え方——関係を壊さずに話すコツ
試用期間延長を本人に伝えるときは、「評価している部分」と「懸念している部分」を明確に分けて伝えることが大切です。感情的・一方的な説明はトラブルのもとになるだけでなく、本人のメンタル不調を招くリスクもあります。
面談前に準備すること
面談の場に臨む前に、次の3点を整理しておきます。まず、延長の理由を具体的な事実ベースで言語化します。「なんとなく不安」という感覚的な判断は、本人への説明でも紛争対応でも通用しません。たとえば「入社後3か月間で○○業務の習熟が求められる水準に達していない」「欠勤が○日あり、業務を評価するために十分な期間が確保できなかった」など、客観的な事実に基づく理由を準備します。次に、延長期間中に本人に達成してほしい具体的な目標を言葉にします。最後に、延長の合意書を準備しておきます。
面談での伝え方の基本
伝える順番は「まず事実を伝え、次に会社の意図を説明し、そして今後の期待を示す」という流れが基本です。たとえば次のような言い方です。「正直にお伝えしたいのですが、現時点では○○の部分について、当社が求める水準に達しているかを判断できていない状況です。一方で、○○の部分については確実に成長していると評価しています。そのため、もう○か月、引き続き一緒に働きながら見させていただきたいと思っています」。否定の言葉だけで終わらせず、何を期待しているのかをセットで伝えることが重要です。
メンタル不調・ハラスメントリスクに注意する
試用期間延長通知は本人にとって「問題社員と思われている」というメッセージとして届きます。説明が不十分・一方的な場合、本人が精神的に追い詰められてメンタル不調に至ることがあります。また、延長理由が曖昧なまま繰り返し指摘されることは、場合によってはパワーハラスメントとして問題化するリスクもあります。面談後は、話した内容の記録を残し、延長期間中は定期的に面談の機会を設けることが望ましいといえます。
延長後に「本採用しない」と決断する場合のリスクと手順
試用期間を延長した結果として本採用を拒否する場合は、解雇予告の義務が必ず発生します。また、本採用拒否には客観的・合理的な理由と、それを裏付ける記録が不可欠です。
解雇予告義務は必ず適用される
労働基準法第21条では、試用期間中でも採用後14日を超えた場合は、解雇の際に30日前の解雇予告または解雇予告手当(平均賃金の30日分)の支払いが必要とされています。試用期間延長後の本採用拒否は当然ながらこの期間を超えるため、解雇予告なしに即日の本採用拒否を行うことはできません。この点を見落とすと、労働基準法違反となりますので注意が必要です。
本採用拒否に必要な「客観的合理的理由」とは
三菱樹脂事件の最高裁判決が示したとおり、本採用拒否は通常の解雇より広い裁量が認められますが、客観的に合理的な理由が必要です。具体的には、業務上必要なスキルが延長後も改善されなかった、指導を行ったが改善の見込みがないと判断できる記録がある、欠勤・遅刻が継続している、など事実に基づく記録が必要です。「なんとなく合わない」「雰囲気が気になる」という理由だけでは不十分です。
延長期間中の記録整備が紛争予防の要
延長期間中は、指導した日時・内容・本人の反応を記録し続けることが重要です。万一、本採用拒否後に労働紛争や労働審判に発展した場合、この記録が会社の主張を支える証拠になります。逆に記録がなければ、会社側は客観的な根拠を示すことができず、不当解雇と判断されるリスクが高まります。面談記録・業務評価シート・指導メモなど、形式は問いませんので継続的に残してください。
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就業規則に規定がない場合・採用前の準備が不十分な場合の対処
すでに試用期間が進行しており、就業規則に延長規定がない状態で延長を検討している場合は、慎重に対応する必要があります。状況に応じた判断基準を整理します。
就業規則に延長規定がない場合
試用期間延長規定のない状態で延長通知を行っても、その効力は認められないリスクがあります。まず社会保険労務士や弁護士に相談し、規則の改訂が間に合うか、現在の状況でどのような対応が可能かを確認してください。状況によっては、延長ではなく「評価期間の設定と本採用の保留」という形で対応することや、試用期間を延長せずに本採用した上で雇用契約を整えながら状況を観察するという選択肢もあります。いずれも専門家の助言のもとで判断することが重要です。
採用前の準備として今後に備える
次回以降の採用に向けては、採用時の労働条件通知書に「一定の場合に試用期間を最長○か月まで延長することがある」と明記しておくことで、後からのトラブルを防ぐことができます。労働基準法第15条および同法施行規則第5条では、労働条件の明示が義務付けられています。就業規則・労働条件通知書・雇用契約書の3点を整合的に整備しておくことが、スモールビジネスにおける採用リスク管理の基本です。
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まとめ
試用期間延長は、就業規則に根拠規定があり、延長の合理的な理由があり、書面で本人の合意を得ることで適法に行えます。試用期間延長通知のタイミングは満了日より前、通知書には延長理由・期間・評価基準を明記し、本人への説明は事実と期待をセットで伝えることが関係悪化を防ぐポイントです。延長後に本採用拒否となる場合は、解雇予告義務が必ず適用されるため、少なくとも30日前の通知または予告手当の支払いが必要です。そして何より、延長期間中の指導・評価の記録を残すことが、万一の紛争への最大の備えになります。
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