テレワーク労災、会社が取るべき3つの対応と安全配慮義務

テレワーク労災、会社が取るべき3つの対応と安全配慮義務 組織運営
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「在宅勤務中に社員が転倒してケガをした。これって労災になるの?」——実際にこうした場面に直面して初めて、テレワークと労災の関係を調べ始める経営者・人事担当者は少なくありません。オフィス勤務と違い、社員の自宅という「見えない場所」で起きた出来事に対して、会社がどこまで責任を負うのか。専任人事がいない中小企業にとって、判断の手がかりすら見つからないのが実情です。この記事では、テレワーク中の労災認定の判断基準から、安全配慮義務の範囲、今すぐ着手すべき規程整備まで、実務的な視点でわかりやすく解説します。

テレワーク中のケガは労災になるのか

結論から言えば、テレワーク中のケガであっても労災は適用されます。就業場所が自宅であるかどうかは、労災認定の判断基準とは直接関係ありません。

労災認定の2つの要件

労働基準法が定める「業務上の災害」かどうかは、「業務遂行性」と「業務起因性」の2つの要件で判断されます。この原則は、オフィス勤務でもテレワークでも変わりません。

  • 業務遂行性:ケガが発生した時点で、労働者が使用者の支配・管理下にある状態(=就業中)だったか
  • 業務起因性:業務が原因となってケガが生じたといえるか

この2要件を満たしていれば、自宅での作業中のケガであっても労災として認定される可能性があります。逆に言えば、「業務中ではない時間帯」や「業務と無関係な行為」によるケガは、たとえ自宅の作業スペースで起きたとしても認定されません。

認定される例・されにくい例

実務上の判断イメージをつかむために、具体的な場面で整理します。

ケース 判断の目安
所定労働時間中に作業スペースで転倒した 認定されやすい
業務中に資料を取りに行く途中でケガをした 認定されやすい
昼休み中に台所でケガをした 認定されにくい(私的行為中)
業務時間外に家事をしていてケガをした 認定されにくい(業務外)
テレワーク日に外出中でケガをした 認定されにくい(就業場所外)

通勤災害との関係も知っておく

テレワーク勤務の日は、「住居から就業場所への往復」という通勤そのものが発生しないため、その日の通勤災害の適用対象外となります。「フレックス制で途中から出社した」「外出先から直接帰宅した」といった場合は個別判断が必要になるため、勤務形態が複合的な場合は社会保険労務士への確認を推奨します。

安全配慮義務はどこまで及ぶのか

安全配慮義務はテレワーク中の自宅環境にも及びます。ただし、「会社が合理的に管理・把握できる範囲での義務」という点が重要な解釈の枠組みです。

安全配慮義務の根拠と内容

安全配慮義務の根拠は労働契約法第5条です。同条は「使用者は、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする義務を負う」と定めています。この義務はテレワーク環境にも適用されると解されており、厚生労働省の「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」でも、事業者がテレワーク社員の作業環境整備に努めるよう明示されています。

「義務を果たした」と言えるための考え方

自宅は会社が直接管理できる場所ではないため、義務の範囲は「すべてのリスクをゼロにすること」ではありません。判例の流れや行政の解釈においても、「把握しようとしたか」「指導・是正の機会を設けたか」というプロセスの有無が義務履行の証拠として評価されます。つまり、「チェックリストで環境確認をした」「問題があれば改善を促した」「その記録を残している」という一連の行為が重要になります。

義務違反になるとどうなるのか

労災認定は労働基準監督署が行う行政上の判断ですが、それとは別に、会社が安全配慮義務を怠ったとして民事上の損害賠償請求(民法709条・415条)を受けるリスクがあります。労災保険から給付を受けた社員であっても、会社の過失を理由に慰謝料や逸失利益の上乗せ請求をすることは法的に可能です。こうした訴訟リスクを低減するためにも、事前の対応記録が重要な意味を持ちます。

判断に迷う場面が多い場合は、労務管理の専門家に現状確認から始めることで、不要な対応と優先すべき対応が整理できます。

会社が取るべき3つの対応

テレワークに関して会社が取るべき対応は、「規程の整備」「環境の確認・記録」「労働時間の管理」の3つに集約されます。それぞれを順に解説します。

テレワーク規程を整備する

まず着手すべきは就業規則へのテレワーク条項の追加、または別途テレワーク規程の策定です。コロナ禍で急きょテレワークを導入した企業の多くが、この整備を後回しにしたまま現在に至っています。規程がなければ、トラブル発生時に「会社のルールとして何を定めていたか」が証明できません。

テレワーク規程に盛り込むべき主な事項は以下のとおりです。

  • 対象者・対象業務の範囲
  • 労働時間の管理方法(始業・終業の記録手段)
  • 作業場所の要件(集中できる環境、通信環境など)
  • 費用負担の取り決め(通信費・備品など)
  • ケガ・緊急時の連絡・報告フロー

就業規則は常時10名以上の労働者を使用する事業場では所轄の労働基準監督署への届け出が義務です(労働基準法第89条・90条)。テレワーク規程を追加・変更した場合も同様に届け出が必要になる場合があります。

作業環境を確認し記録として残す

次に行うのが、テレワーク開始時における作業環境の確認です。会社が自宅に立ち入って確認することはプライバシー上困難なため、社員による自己申告方式のチェックリストが現実的な手段です。チェック項目の例を挙げると、「専用の作業スペースがあるか」「机・椅子は安定しているか」「照明は十分か」「通路に段差やコード類の障害物がないか」などが含まれます。

このチェックリストの提出・記録を保管しておくことが、「環境確認を行った」という義務履行の証拠になります。問題のある環境が申告された場合は、改善を促す指導を行い、その記録も残してください。プライバシーへの配慮から「自宅の写真を送れ」と求める必要はなく、自己申告と記録の保管で対応できます。

労働時間を可視化する仕組みを作る

テレワーク中の労災認定において、「その時間帯に業務をしていたかどうか」は極めて重要な争点になります。後から証明できる状態を作るために、始業・終業時刻をPCログ、チャットツール(SlackやTeamsの投稿記録など)、または勤怠管理システムで記録することが必要です。「テレワーク中は時間管理が難しい」と感じている場合でも、チャットでの「始業連絡・終業連絡」をルール化するだけで記録として機能します。裁量労働制やフレックスタイム制を採用している場合でも、コアタイムや業務記録の記録は必要です。

規程がない場合に今すぐできること

「テレワーク規程がなく、就業規則も古いまま」という場合でも、すぐに始められることはあります。完璧な規程がなくても、記録と対話の積み重ねが会社を守ります。

従業員規模・状況別の優先対応

会社の状況によって、優先すべき対応は異なります。以下を参考に自社のケースに当てはめてください。

  • 社労士との顧問契約がある場合:テレワーク規程の追加・就業規則改訂を依頼するのが最も確実です。費用と時間を抑えながら適法な規程を整備できます。
  • 社労士との契約がない場合:厚生労働省が公開している「テレワークモデル就業規則」を参考に、まず社内ルールとして文書化し、後から社労士に確認・整備してもらう順序でも構いません。
  • 従業員数が10名未満の場合:就業規則の届け出義務はありませんが、社内ルールとして明文化することで、労使間のトラブル防止に直結します。

まず記録から始める

規程整備と並行して、今すぐ始められる最小限の対応が「記録」です。テレワーク社員に対して、作業環境の自己チェックリストの提出を求め、始業・終業の記録を残すルールを口頭・メールでも構わず周知してください。規程が整っていなくても、「確認した事実と記録」が積み重なっていれば、万一のときの証拠として機能します。

万が一ケガが発生した場合の初動

テレワーク中に社員がケガをした場合、まず社員の安全確保と医療機関への受診を優先します。その後、ケガの発生状況(日時・場所・何をしていたか)を書面で確認し、記録を残してください。「労災かどうか」を会社が独自に判断して申請を止めることはできません。社員が労災申請を希望する場合、会社は申請手続きに協力する義務があります(労働基準法施行規則第23条)。申請フォームや手続きの流れが不明な場合は、所轄の労働基準監督署に問い合わせるか、社労士に相談してください。

人事の判断を一人で抱えないことが、労務トラブルを未然に防ぐ鍵です。わからないことは専門家に早めに相談する習慣をつけておくと、後の対応がぐっと楽になります。

まとめ

テレワーク中のケガであっても、業務遂行性・業務起因性の2要件を満たせば労災として認定されます。会社は労働契約法第5条に基づく安全配慮義務を負っており、その範囲は「合理的に管理・把握できる範囲での配慮」です。具体的には、テレワーク規程の整備・作業環境チェックリストによる確認と記録・労働時間の可視化という3つの対応が求められます。規程が整っていない状態であっても、記録と対話の積み重ねが義務履行の証拠となり、万一の民事リスクを低減します。「何から手をつければいいかわからない」という場合は、まず現状のルールと記録の状況を整理することから始めましょう。

ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小企業の経営者・人事担当者からの人事労務・職場環境に関するご相談を承っています。テレワーク対応の規程整備や安全配慮義務の実務的な進め方について、お気軽にお問い合わせください。

よくある質問

Q. 昼休み中に自宅でケガをした場合、労災になりますか?

A. 原則として、昼休みは「私的行為中」となるため、労災認定は難しいケースがほとんどです。ただし、昼休みの過ごし方が業務と密接に関連していた場合(例:業務上必要な昼食ミーティング中など)は個別判断が必要です。不明な場合は労働基準監督署または社会保険労務士に相談してください。

Q. テレワーク規程がない状態でトラブルが起きた場合、会社はどうなりますか?

A. 規程がないこと自体が即座に法令違反になるわけではありませんが、労使間のトラブルや民事訴訟において会社側が不利な立場になるリスクが高まります。「ルールが明文化されていなかった」ことは、安全配慮義務を果たす意思がなかったと評価される材料になりかねません。早期に整備することを強くお勧めします。

Q. 社員の自宅環境を確認することはプライバシーの侵害になりませんか?

A. 自宅への立ち入り調査や写真の提出を強制することはプライバシー上の問題になる可能性があります。一般的には、社員による自己申告方式のチェックリストの活用が適切です。「机・椅子の有無」「照明の確保」「転倒リスクの有無」などの項目を設けた書面を提出してもらい、記録として保管する方法が現実的かつ法的にも合理的です。

Q. 社員が労災申請を希望した場合、会社は拒否できますか?

A. 会社には労災申請を拒否する権限はありません。労働基準法施行規則第23条により、会社は労災申請に必要な証明等に協力する義務があります。「会社が労災と認めない」という判断を根拠に申請を止めることは法的に認められておらず、そのような対応がかえって会社のリスクを高めます。申請の可否はあくまで労働基準監督署が判断します。

Q. フレックスタイム制でテレワークをしている社員の労働時間管理はどうすればいいですか?

A. フレックスタイム制であっても、始業・終業時刻の記録義務はなくなりません。労働基準法第108条および省令に基づき、労働時間の適正な把握が求められます。チャットツールでの始業・終業の連絡をルール化する、勤怠管理システムで打刻を記録するなどの方法で、「いつ業務をしていたか」を後から確認できる状態を維持してください。これはケガが起きた際の業務時間の証明にも直結します。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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