テレワーク申請ルールの作り方|中小企業向け整備手順

テレワーク申請ルールの作り方|中小企業向け整備手順 組織運営
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「うちはSlackでOKって返信してるだけで、特にルールはないんですよね」——中小企業の経営者や兼務人事担当者から、こうした声をよく聞きます。テレワークを柔軟に運用することは悪いことではありませんが、基準や記録がないまま続けていると、ある日突然「なぜ私はダメなんですか」「テレワーク中に怪我をしたのですが、労災ですよね」といった問いに答えられない状況に直面します。この記事では、専任人事がいない中小企業でも整備できる、テレワーク申請ルールの作り方を実務的な手順で解説します。

「なんとなく運用」が招くリスクを整理する

申請ルールがない状態のテレワーク運用は、トラブルが起きた瞬間に会社側の根拠がすべて崩れるという構造的な弱さを抱えています。まずそのリスクを具体的に把握することが、整備へ動き出す第一歩です。

不公平感と「言った・言わない」問題

基準がない状態では、上司との関係性や声の大きさで「使える人・使えない人」が分かれます。子育て中の社員だけが実質的に利用できていたり、同じ役職なのに承認率が異なったりすると、職場内に不満が蓄積します。口頭やSlackの返信だけで承認している場合、「了解した」という記録は残っていても「どの条件で・いつまで」という合意内容が残りません。後から「そんな約束はしていない」という状況が生まれやすくなります。

労災・労働時間管理でのリスク

テレワーク中に業務に起因して生じた災害は、労働者災害補償保険法のもとで労災の対象になります。一方、私的行為中の事故は対象外です。申請・承認記録がなければ「その時間に業務をしていたかどうか」を確認する手段がなく、会社にとっても労働者にとっても不利な状況を招きます。また、労働基準法第32条が定める労働時間管理義務はテレワーク中も変わりません。「在宅だから把握しなくていい」は法的に通用しない認識です。

慣行化による「既得権」問題

明確なルールなしにテレワークを長期間認め続けると、それが労働条件の一部として慣行化するリスクがあります。採用時に「テレワークOK」と口頭で伝えていた場合、後から条件を変更しようとすると「労働条件の不利益変更」として法的問題になりうるのです。就業規則に記載がなければ変更の根拠も持てません。

最低限決めるべき「申請ルールの4要素」

テレワーク申請ルールを整備するうえで押さえるべき要素は、申請条件・承認フロー・取り消し基準・費用負担の4つです。この4つを文書化するだけで、運用上のほとんどのトラブルに対応できる土台が整います。

申請条件:誰がどんな理由で使えるか

「業務の性質上、在宅での遂行が可能な業務に従事していること」を大前提にしたうえで、以下のような観点で条件を設定します。勤続期間(例:入社後6か月以上)、試用期間中でないこと、直近の評価や勤怠状況に問題がないこと、といった基準を組み合わせるのが一般的です。重要なのは「テレワークは会社が業務上の判断として承認する制度であり、労働者の権利ではない」と規程に明記することです。この一文があるかないかで、後のトラブル対応が大きく変わります。

承認フロー:記録が残る形にする

承認フローで最も重視すべきは「記録が残ること」です。Slack上でのやり取りも記録にはなりますが、「誰が・いつ・何を承認したか」が検索・確認しやすい形で保存されているかが問われます。シンプルな方法として、Googleフォームや社内の申請システムを使い、申請内容(日時・場所・業務内容)と承認者・承認日を記録する運用が有効です。申請から承認までの期限(例:前日の17時まで)と、承認者が不在の場合の代理承認者も決めておくと、現場の迷いが減ります。

取り消し基準と見直しタイミング

「取り消しの基準がないから、問題のある社員にも何も言えない」という状況を防ぐために、取り消し・停止条件をあらかじめ規程に盛り込みます。例えば「勤怠不良(遅刻・無断欠勤)が一定回数以上あった場合」「業務報告が規定通りに行われなかった場合」「上長が業務上テレワーク継続が困難と判断した場合」などです。また、承認は一度出したら永続するのではなく「四半期ごとに継続確認を行う」と設計することで、定期的に状況を見直す正当な機会が生まれます。

就業規則への記載と規程整備の進め方

テレワークのルールは、口頭や個別通知だけでなく就業規則または別規程(テレワーク勤務規程)として文書化することが法的・実務的に必要です。整備の手順と、自社の状況に応じた対応方針を以下で確認してください。

常時10人以上の事業場は就業規則の変更・届出が必要

労働基準法第89条により、常時10人以上の労働者を使用する事業場は就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務付けられています。テレワークに伴って「始業・終業時刻の変更」「在宅勤務手当の新設」「費用負担のルール」などを定める場合は、就業規則の変更・届出が必要です。既存の就業規則に「テレワーク勤務に関する事項は別に定める」という一文を加え、テレワーク勤務規程を別途作成する方法が整理しやすく、中小企業でも取り組みやすい形です。

常時10人未満の事業場・規程が整備途上の場合

従業員が10人未満の場合、就業規則の作成義務はありませんが、「文書化されたルールがない」状態でのリスクは変わりません。労働条件通知書や個別の合意書にテレワークの条件を明記しておくことが最低限の対策になります。将来的に人数が増えることを見越して、早めに規程の骨格を作っておくと後の負担が大幅に減ります。

厚生労働省のガイドラインをチェックリスト代わりに使う

厚生労働省が2021年3月に改定した「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」には、申請・承認フロー、費用負担、労働時間管理、安全衛生管理について具体的な指針が示されています。規程を作成する際にこのガイドラインを参照することで、「何を決めれば十分か」の見落としを防ぐことができます。無料で公開されているため、まずここから確認するのが効率的です。

申請条件・承認フロー・費用負担の設計例

実際にルールを設計するうえで、判断に迷いやすい項目を整理しておきます。以下の表は、中小企業向けに設計する際の基本的な考え方を示したものです。

項目 設計のポイント 注意点
申請条件 勤続期間・試用期間・勤怠・業務適性を基準にする 「会社が承認する制度」と明記し権利化を防ぐ
申請方法 フォームやシステムで記録が残る方法を選ぶ 口頭・Slackのみは後の確認が困難になる
承認者・代理承認者 直属の上長+不在時の代理を明確にする 承認者不明だと現場が混乱する
承認期間・更新 都度申請または月次・四半期の継続確認制にする 一度承認したら永続と誤解されないよう明記
費用負担 通信費・光熱費の補助額または負担方針を明示する 曖昧にすると後から費用請求を受けるリスクがある
取り消し条件 勤怠不良・報告義務違反・業務上の必要性を列挙 恣意的に見えないよう客観的基準を設ける

費用負担の考え方

通信費・光熱費の費用負担については、労働契約法や民法のもとで「業務に必要な費用は使用者が負担すべき」という考え方が基本にあります。実務的には、定額の在宅勤務手当(例:月額2,000円〜5,000円程度)を設ける企業が増えています。金額の多寡より「規程に明記されているかどうか」が重要で、曖昧なままにすると後から精算請求を受けるリスクがあります。

労働時間管理の方法を決める

テレワーク中の労働時間管理については、「事業場外みなし労働時間制」を適用しようとする企業もありますが、テレワークにこの制度を適用するには「労働時間の算定が困難であること」という厳しい要件があり、現在は多くのケースで適用が難しい状況です。現実的な対応としては、PCのログオン・ログオフ時刻を記録する、勤怠管理システムで打刻する、日報・業務報告で始業・終業・休憩を記録するといった方法を組み合わせて管理するのが安全です。

ルール整備の進め方に迷ったとき、実際にどの項目から手をつけるべきか判断に困ることは少なくありません。専門家に相談しながら進めることで、より確実な対応ができます。

専任人事がいない会社でも無理なく整備するための進め方

規程整備を「完璧なものを一気に作る」と考えると手が止まります。まず最低限の骨格を作り、運用しながら修正するという発想で進めることが、専任人事がいない中小企業には現実的です。

まず「口頭ルール」を文書に落とす

いきなり就業規則を書き換えようとせず、現在口頭で行っているルールを紙やドキュメントに書き出すことから始めます。「誰がどんな理由で申請できるか」「誰が承認するか」「記録はどこに残すか」という3点だけでも文書化すれば、明日からの運用が変わります。この段階では社労士への相談は必須ではありませんが、10人以上の事業場で就業規則の変更・届出が発生する場合は、社労士に作成を依頼するのが最も効率的です。

社内への周知と合意形成

ルールを作っても、社員が知らなければ意味がありません。規程を整備したら、全社への説明の場を設けるか、説明資料を配布して内容を共有します。特に「これまでの運用と変わる部分」については丁寧に説明することが重要です。「会社がルールを決めた」ではなく「みんなが安心してテレワークを使えるよう基準を整えた」というコミュニケーションが、社員の受け入れをスムーズにします。

見直しタイミングをあらかじめ設定する

テレワーク勤務規程は、作ったら終わりではありません。法令の改正や働き方の変化に応じて定期的に見直すことが必要です。規程の中に「年1回または業務環境の変化が生じた場合に見直しを行う」と明記しておくと、見直しの機会を作ることが義務化され、形骸化を防ぐことができます。四半期ごとの継続承認確認のタイミングを見直しの起点にするのも実用的です。

規程整備は「人事だけの課題」ではなく、経営層・管理職・現場まで関わる全社的なプロセスです。一人で完結させず、必要に応じて外部サポートを活用することが、実質的かつ持続可能な運用につながります。

まとめ

テレワーク申請ルールの整備は、申請条件・承認フロー・取り消し基準・費用負担の4要素を文書化することから始まります。口頭やSlackだけの運用は、労災対応・労働時間管理・不公平感の対処といった場面で根拠を失うリスクがあります。常時10人以上の事業場では就業規則の変更・届出が必要になるため、社労士との連携も検討が必要です。「完璧な規程を一気に作る」のではなく、現在の口頭ルールを文書に落とすところから着手し、運用しながら精度を高めていくことが、専任人事がいない中小企業には現実的なアプローチです。

ウェルセンス株式会社では、テレワーク申請ルールの整備を含む人事労務の仕組みづくりについて、中小企業の経営者・兼務人事担当者からのご相談を受けています。「ルール作りをどこから始めるべきか」「自社に合った条件設計がわからない」といった段階からでも、一緒に整理することができます。まずはお気軽にお問い合わせください。

よくある質問

Q. 従業員が10人未満の会社でも就業規則は必要ですか?

A. 労働基準法上、就業規則の作成義務は常時10人以上の労働者を使用する事業場に課されています。10人未満であれば法的な義務はありませんが、テレワークのルールを労働条件通知書や個別の合意書に明記しておくことは、トラブル防止の観点から強くお勧めします。将来的に人員が増えることを見越して、骨格だけでも早めに整えておくと後の負担が減ります。

Q. 成果が出ていない社員のテレワークを取り消してもよいですか?

A. 取り消し基準をあらかじめ規程に明記しており、かつその基準に照らして合理的な判断であれば、取り消し自体は可能です。ただし、基準がない状態で「成果が悪いから」と個別に取り消そうとすると、「差別的な対応」として受け取られるリスクがあります。規程の中に「業務報告の不履行」「勤怠不良」「上長が業務上テレワーク継続が困難と判断した場合」などの取り消し条件を明示しておくことが先決です。

Q. テレワーク中の労災は、どのように判断されますか?

A. テレワーク中であっても、業務に従事している時間中に業務に起因して生じた災害は労働者災害補償保険法のもとで労災の対象になります。一方、休憩中や私的行為中の事故は対象外です。申請・承認記録や業務報告が残っていると「その時間に業務をしていたか」の確認が容易になります。記録が残っていない運用では、認定の判断が困難になる場合があります。

Q. 採用時に「テレワークOK」と伝えてしまいました。後から条件を変えることはできますか?

A. 採用時の説明が労働条件の一部として認定されていた場合、後から条件を変更することは「不利益変更」として法的問題になりうるため慎重な対応が必要です。今後は「テレワークは会社が業務上の必要性を踏まえて承認する制度であり、申請条件・取り消し条件があります」と正確に伝えること、そして規程に基づく運用に切り替えることが重要です。既存の社員への変更については、丁寧な説明と合意形成が必要になる場合があります。

Q. 規程整備は自社だけで進められますか?社労士は必須ですか?

A. 現在の口頭ルールを文書に落とす段階であれば、自社だけで進めることも可能です。ただし、常時10人以上の事業場で就業規則の変更・労働基準監督署への届出が必要になる場合は、社労士に依頼するのが確実で効率的です。また「何を決めれば十分か」「自社のケースでどう設計すべきか」という相談は、社労士のほか、人事労務の専門家に相談することで整理が早まります。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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