誰がやるの?」が続くなら役割の重複と責任の空白を見直す時

誰がやるの?」が続くなら役割の重複と責任の空白を見直す時 組織運営
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「この件、誰が対応するんだっけ?」——会議でその一言が出るたび、少し場の空気が重くなる。誰かが引き受けるまで沈黙が続き、結局いつも同じ人に押しつけられる。そんな場面が繰り返されているなら、それは個人の責任感の問題ではありません。役割の重複と責任の空白という、組織構造の問題です。この記事では、なぜそれが起きるのか、そして専任人事がいない中小企業でも今日から始められる整理の方法を、実務的な視点でお伝えします。

「誰がやるか問題」は、なぜなくならないのか

役割の重複と責任の空白は、組織が成長する過程でほぼ必然的に生まれます。個人の意識や努力で解決できるものではなく、仕組みの問題として捉えることが出発点です。

成長スピードに役割定義が追いつかない

創業期や急成長期は「全員で何でもやる」ことが合理的な選択です。しかし、人数が20名、30名と増えていくにつれて、誰が何を担うかを明示しないまま走り続けることのコストが急激に上昇します。業務の総量が増えるほど、「なんとなく声をかけられた人がやる」という運用の限界が露呈します。採用・事業拡大のたびに役割の再定義が必要になりますが、日常業務に追われる中でその作業は後回しになりやすい。気づけば「最初から曖昧なまま大きくなってしまった」状態が出来上がります。

兼務・マルチロールの境界線が言語化されていない

20〜50名規模では、一人が営業兼採用担当、総務兼経理といった複数の役割を担うことが当たり前です。しかし「どこからどこまでが自分の仕事か」が言語化されていないと、真面目な人ほど抱え込みすぎ、一方で「それは自分の仕事ではない」と明確に線引きできる人との間に極端な負荷の差が生まれます。この不公平感は、やがて職場の人間関係の摩擦として表面化します。

経営者の属人的な調整が「仕組み」を育てない

役割が曖昧なときに最終的に頼られるのは、経営者本人です。都度判断することで問題はその場で収まりますが、同じ問題が繰り返されます。経営者の時間は逼迫し、「言われた人がやる文化」が静かに定着していく。これはスケールしない組織の典型的なパターンです。

放置すると何が起きるか——見えにくいリスクを整理する

責任の空白を放置すると、業務効率の低下にとどまらず、法的リスクや人材流出につながる可能性があります。経営者や上位者への説明材料としても、このリスクの整理は重要です。

ミスが起きたときに「言い訳」が生まれる

担当が曖昧な業務でミスが発生すると、「それは自分の担当ではなかった」という主張が出やすくなります。責任の所在を問いただすほど人間関係は悪化し、マネジャーが板挟みになります。問題の原因を「個人の怠慢」として処理してしまうと、構造的な問題は解決されず同じことが繰り返されます。

過重負担がメンタルヘルス不調につながる

役割の曖昧さは、真面目な従業員ほど精神的な疲弊を招きます。「どこまでやれば終わりなのかわからない」という状態が続くと、慢性的なストレスと燃え尽き感が積み重なります。労働契約法第5条が定める安全配慮義務の観点からも、使用者は労働者が過度な精神的負荷を受けないよう配慮する責任があります。役割の不明確さが長期的なメンタルヘルス不調につながるケースは、実務上決して少なくありません。

採用・労務管理の法的根拠が弱くなる

2024年4月施行の労働基準法施行規則改正により、雇用時に「就業場所・業務の変更の範囲」を書面で明示することが義務化されました。役割定義が曖昧なまま雇用契約書を作成していると、業務変更や責任追及を行う際の法的根拠が弱くなります。後になって「そんな業務は聞いていない」というトラブルを防ぐためにも、役割の整理は採用・労務管理と直結した課題です。

よくある誤解——「組織図を作れば解決する」は間違い

組織図を整備しても、現場の「誰がやるか問題」は解消されません。組織図と業務分担表は、別物として整理する必要があります。

組織図が示すのは「ポジションの関係」だけ

組織図は「誰が誰の上司か」という報告ラインを示すものです。「誰がどの業務をどこまで担うか」は示しません。形式的な組織図はあるけれど、実際の意思決定ルートや業務分担が別で動いている——そういった企業は中小企業に多く見られます。「形式の組織図」と「実態の組織図」を並べて可視化するだけでも、問題の所在が浮き彫りになることがあります。

「一度決めれば終わり」ではない

役割定義は静的なものではありません。採用・退職・昇進があるたびに業務分担は実態として変化しますが、それを明示的に再定義しないまま運用すると、すぐに曖昧な状態に戻ります。役割の整理は「作って終わり」ではなく、四半期に一度など定期的に見直す仕組みをセットで設計することが重要です。

今日から始められる役割整理の実務手順

完全な職務規程や組織図を一から作る必要はありません。小さく始めて、段階的に整備していくアプローチが現実的です。

まず「宙に浮いている業務」を書き出す

最初にやるべきことは、現状の可視化です。「誰がやるか問題」が繰り返されている業務を、思いつく限り書き出してください。完璧なリストでなくて構いません。「この仕事、私の担当でしたっけ?」と確認コストが発生しがちな業務を5〜10個でも洗い出せれば、次のステップに進めます。

RACI表で責任の所在を明示する

業務ごとの役割分担を整理するフレームワークとして、RACI分析が有効です。特別な知識がなくても使えるシンプルなツールです。

記号 意味 具体例
R(Responsible) 実際に作業・実行する人 請求書を作成する担当者
A(Accountable) 最終的な責任を持つ人 請求書の承認・差し戻しをする管理職
C(Consulted) 相談・確認される人 金額の判断を求められる経営者
I(Informed) 結果を共有される人 処理完了を通知される経理担当

すべての業務をいきなり整理しようとすると挫折します。まずは「誰がやるか問題」が頻発している業務トップ5に絞って、このRACIを埋めてみてください。「Aが誰にも設定されていない業務」が責任の空白の正体です。

職務記述書は「主な職責3〜5項目+しないこと1〜2項目」から始める

欧米では一般的な職務記述書(ジョブディスクリプション)も、完全版を最初から作る必要はありません。各ポジションについて、「主な職責3〜5項目」と「このポジションがしないこと1〜2項目」を書くだけでも、役割の境界線が格段に明確になります。「しないこと」を明示することへの心理的抵抗を感じる経営者も多いですが、これが「言われた人がやる文化」からの脱却に最も効く一手です。

企業の状況別——整理を進める際のポイント

役割整理の優先度と進め方は、企業の状況によって異なります。自社のケースに当てはめて判断してください。

就業規則・雇用契約書の整備状況で変わる対応

就業規則が整備されている企業では、業務の範囲に関する記載を確認し、現状とのズレを修正することから始めましょう。就業規則がない、あるいは10年以上見直されていない場合は、労務リスクの観点からも早期の整備を検討してください。2024年4月からの労働基準法施行規則改正で義務化された「業務の変更の範囲」の明示対応ができているかの確認も合わせて行うことをお勧めします。

専任人事がいない企業での「旗振り役」設定

専任人事がいない中小企業では、役割整理を推進する旗振り役がいないことが最大の障壁になります。経営者が全部抱えるのではなく、総務兼務の担当者や信頼できるマネジャーに「役割整理プロジェクトのオーナー」を明示的に任命することが、作業を前進させる鍵です。オーナーを決めること自体が、役割の明確化の第一歩になります。

採用・退職のタイミングが最大のチャンス

役割整理を「いつやるか」という問いに対する実務的な答えは、「人が入るとき、または出るとき」です。採用・退職・昇進のタイミングは、業務分担を見直す自然な契機です。このタイミングを逃さず、「この人が抜けた後/入った後に誰が何をやるか」をチームで明示的に確認する習慣をつけるだけで、曖昧さの蓄積スピードを大幅に落とせます。

まとめ

「誰がやるか問題」は、個人の意識や責任感ではなく、役割の重複と責任の空白という組織構造の問題から生まれます。組織図を作るだけでは解決せず、業務レベルの役割定義と定期的な見直しの仕組みが必要です。完全な制度を一から構築しなくても、「宙に浮いている業務の書き出し」「RACI表による責任の明示」「職務記述書の簡易版作成」という順序で小さく始めることができます。また、2024年4月施行の法改正への対応という観点からも、役割の整理は今すぐ着手すべき課題です。

ウェルセンス株式会社では、専任人事がいない中小企業の経営者・兼務人事担当者からの「どこから手をつければいいかわからない」というご相談を日常的にお受けしています。役割整理・組織体制の見直し・メンタルヘルスリスクの未然防止まで、貴社の現状に合わせた実務的なサポートが可能です。まずは現状をお聞かせください。

よくある質問

Q. 組織図はすでにあります。それだけでは不十分ですか?

A. 組織図だけでは不十分です。組織図は「誰が誰の上司か」という報告ラインを示すものであり、「誰がどの業務をどこまで担うか」は示しません。組織図(ポジションの関係)と業務分担表(業務の責任者)は別物として整理する必要があります。組織図が整備されていても「誰がやるか問題」が続く場合、業務レベルの役割定義が不足していることがほとんどです。

Q. RACI分析は何人規模から使えますか?導入のハードルは高いですか?

A. 10名程度から有効に活用できます。導入のハードルは低く、Excelや表計算ソフトで作成できます。最初から全業務を網羅しようとする必要はなく、「誰がやるか問題」が頻発している業務を5〜10個に絞ってRACIを埋めるところから始めるのが現実的です。特別なツールや専門知識がなくても使えるフレームワークです。

Q. 役割を明確にすると「それ以外はやらない」という人が出てきそうで心配です。

A. 役割の明確化は「その業務しかやってはいけない」という意味ではありません。「基本的にこの業務はこの人が担う」という主担当を明示することが目的です。緊急時や協力が必要な場面での柔軟な対応は別途取り決めておくことが重要です。むしろ役割が曖昧なほど、責任から逃げる行動が生まれやすくなります。適切な範囲の明示は、抱え込みと押しつけ合いの両方を防ぎます。

Q. 2024年4月の法改正で「業務の変更の範囲」の明示が義務化されたとのことですが、具体的に何を準備すればいいですか?

A. 2024年4月施行の労働基準法施行規則改正により、雇用時の書面明示事項に「就業場所・業務の変更の範囲」が追加されました。対応としては、新たに雇用する従業員との雇用契約書・労働条件通知書に「将来的に変更しうる業務の範囲」を記載することが求められます。「当社の業務全般」といった包括的な記載でも法令上は対応できますが、後のトラブル防止には具体的な記載が望ましいです。既存従業員への対応は新規雇用とは異なりますが、不安な点は社会保険労務士等の専門家に確認することをお勧めします。

Q. 役割の整理をしたいのですが、経営者一人では進められません。どう進めればいいですか?

A. まず「役割整理プロジェクトのオーナー」を一人決めることから始めてください。経営者が全部抱える必要はなく、総務兼務の担当者や信頼できるマネジャーに明示的に任命することが有効です。外部の専門家(人事コンサルタントや社労士)に整理の枠組み作りだけでも依頼することで、作業を大幅に前進させることもできます。ウェルセンス株式会社でも、こうした組織体制の見直しに関するご相談をお受けしていますので、お気軽にご連絡ください。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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