急成長企業の人事制度、見直す3つのタイミングと手順

急成長企業の人事制度、見直す3つのタイミングと手順 人事制度
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「採用も増えてきたし、そろそろ評価制度を整えないといけない気がする。でも、何から手をつければいいのか……」。急成長の只中にある企業の経営者や兼務人事担当者から、こうした声をよく耳にします。人事制度の整備は「必要なのはわかっている、でも後回しになりがち」な課題の代表格です。放置すると優秀な社員の離職や組織の混乱につながりますが、焦って整えすぎると現場が硬直化するリスクもあります。この記事では、急成長企業が人事制度を見直すべき3つのタイミングと、各タイミングで優先すべき手順を実務的に整理します。

「なんとなくずれている」を放置してはいけない理由

人事制度が組織の実態に追いつかなくなると、最初は「なんとなく不公平な気がする」という漠然とした不満として現れます。しかしそのまま放置すると、優秀な人材の離職・採用力の低下・マネージャーの機能不全という、経営に直結するダメージへと発展します。

制度の劣化が静かに進む仕組み

創業期に作った就業規則や評価シートは、当時の人数・業態・働き方に合わせたものです。テレワークの導入、業態の拡張、人員の倍増などを経ても制度だけが更新されないと、「書いてあることと実態が全く違う」状態が生まれます。問題はその状態が当たり前になり、誰も疑問を持たなくなることです。

20名の壁で起きること

特に従業員数が20名を超えるタイミングは要注意です。それまでは経営者が全員の状況を把握し、感覚的な評価・昇給判断でも大きな摩擦は生まれにくいものです。しかし20名を超えると、経営者の目が全員に届かなくなります。「なぜAさんは昇給してBさんはしなかったのか」という問いに、論理的な根拠で答えられなければ、不満は一気に顕在化します。この段階で評価制度の明文化が急務になる企業が非常に多いです。

「昔作ったまま」の就業規則が抱えるリスク

法令面でも放置は危険です。就業規則は常時10名以上の労働者を使用する事業場で作成・届出が義務づけられています(労働基準法第89条)。テレワーク規程や育児・介護関連の規定が整備されていない状態で問題が起きると、会社側が著しく不利な立場に立たされることがあります。「誰も中身を把握していない就業規則」は、企業を守るどころかリスクになり得ます。

人事制度を見直すべき3つのタイミング

人事制度の見直しには「定期的にやるもの」という感覚が薄く、問題が起きてから慌てて動くケースが大半です。しかし実際には、組織フェーズに応じた明確な「見直しタイミング」が存在します。以下の3つを自社の状況と照らし合わせてみてください。

従業員数が15〜20名に達したとき

このフェーズでの最優先事項は「役割の言語化」と「最低限の評価基準の明文化」です。経営者の感覚評価から脱却し、なぜその人がその給与・役職なのかを説明できる状態を作ります。具体的には、役職ごとの役割・権限・期待値を1枚のドキュメントにまとめるところから始めると、現場の混乱が大幅に減ります。就業規則がない、または10年以上更新されていない場合は、この機会に社労士と連携して整備することを強く推奨します。

中途採用が増加し始めたとき

外部から人が入ってくると、「なぜこの条件なのか」という問いが必ず生まれます。既存社員は何となく受け入れてきたルールでも、前職で整った人事制度を経験してきた中途社員には違和感として映ります。このタイミングでは、採用基準・給与レンジ・等級定義を整備することが急務です。「採用できたのに定着しない」という状況は、多くの場合このフェーズの制度不備が原因です。

従業員数が30〜50名に達したとき

このフェーズになると、等級制度・評価制度・報酬テーブルの体系化が必要になります。また、従業員数が50名に達すると、ストレスチェックの実施義務(労働安全衛生法第66条の10)が発生するなど、法令上の節目も重なります。キャリアパスや育成体系への投資も、このフェーズで着手しておくと優秀人材の定着に大きく効きます。

組織フェーズ別・優先すべき制度の整理

人事制度は「等級・評価・報酬・採用・育成」など多岐にわたります。リソースが限られる中小企業が全てを一度に整えようとすることは現実的ではなく、フェーズに応じた優先順位の設定が不可欠です。

規模感 最優先で整えるべきもの 次のフェーズで整えるもの
〜15名 就業規則(最低限)、給与規程 役割定義、評価基準の骨格
15〜30名 役割・等級の言語化、評価基準の明文化 採用基準の整備、給与レンジの設定
30〜50名 等級制度・評価制度・報酬テーブルの体系化 育成・キャリアパスの整備
50名超 ストレスチェック・衛生委員会など法令対応 人事制度全体の定期見直しサイクル化

「評価制度」を最初に整える理由

優先順位の観点で特に重要なのが評価制度です。等級や報酬の整備は評価制度が土台になるため、順序として評価制度を先に整えることで後工程がスムーズになります。「どんな基準で何を評価するか」が決まれば、給与テーブルも等級定義も論理的に導き出せます。逆に給与から先に触ろうとすると、根拠のない数字合わせになりがちです。

就業規則の見直しは「変更届出」とセットで

就業規則を変更する際は、過半数代表者からの意見聴取と労働基準監督署への届出が義務です(労働基準法第89条・第90条)。この手続きを省略している企業は非常に多いため、見直しのタイミングで必ず確認してください。また、変更内容が既存社員の条件を引き下げる「不利益変更」に該当する場合、原則として労働者の個別同意が必要です(労働契約法第9条・第10条)。どこからが不利益変更にあたるかの判断は専門家に確認することを強くお勧めします。

見直しを失敗させる「やりすぎ」「早すぎ」の落とし穴

人事制度の整備は「やればいい」というものではなく、組織の実態と乖離した制度を作ると、社員の不満が逆に高まるケースがあります。急成長企業に特有の失敗パターンを知っておくことが、リスクを避ける上で重要です。

制度が先走りして現場が硬直化するパターン

大企業の人事制度をそのまま参考にして、30名規模で複雑な等級体系を導入した結果、評価の運用に膨大な工数がかかり、マネージャーが評価業務に追われて本来の業務ができなくなる、というケースがあります。このフェーズで必要なのは「完成した制度」ではなく「今の組織が運用できる最小限の制度」です。まず骨格だけ作り、運用しながら改善していく設計思想が急成長企業には向いています。

社員への説明不足が引き起こす不信感

制度の中身がどれだけ合理的でも、社員への説明・対話プロセスが不足していると「経営者に都合よく変えられた」という不信感を生みます。特に給与・手当・評価基準の変更は、変更前に「なぜ変えるのか」「自分にどう影響するか」を丁寧に説明する機会を設けることが、定着を左右します。制度設計と同じくらい、コミュニケーション設計に時間をかけることが成功のポイントです。

「全部一度に」は機能しない

制度見直しのスコープを広げすぎると、プロジェクトが長期化し、途中で頓挫するリスクが高まります。専任人事のいない環境では特に顕著です。まず最初に「最もダメージが出ている課題はどれか」を一つ特定して着手し、次に連動する制度へと広げていくアプローチが現実的です。焦らず、段階的に積み上げることが、結果として早く全体を整えることにつながります。

実際の見直し手順

制度を見直す際の手順は、まず現状の棚卸しから始め、次に課題の優先順位づけ、設計・運用テスト、そして社員説明という流れで進めるのが基本です。

現状の棚卸し「何が存在するか」を把握する

まず最初に、現在どんな規程・制度が存在するかをリストアップします。就業規則・給与規程・評価シート・雇用契約書のひな形など、過去に作ったものを全て集め、「最終更新日」「実際に運用されているか」「現状の実態と乖離がないか」を確認します。ここで意外と多いのが「就業規則は届出したが、その後の変更を届け出ていなかった」というケースです。

優先課題の特定「今どこで一番困っているか」を起点にする

次に、現在最も問題が顕在化している領域を一つ特定します。「評価に不満を持つ社員が増えている」なら評価制度、「役職者の役割が曖昧で指示系統が混乱している」なら等級・役割定義、「中途採用者が3ヶ月で辞める」なら採用基準と入社後のオンボーディング設計が優先課題です。全部触りたくなる気持ちはありますが、起点を一つに絞ることが重要です。

設計・運用テスト「小さく試して改善する」

制度を設計したら、いきなり全社展開するのではなく、特定の部門・チームで試験的に運用してみることをお勧めします。評価制度であれば、一つのチームで一クール回してみて、運用の負荷・評価の納得感・抜け漏れを確認します。そこで出た課題を修正してから全社展開することで、「使われない制度」になるリスクを大幅に減らせます。

まとめ

急成長企業が人事制度を見直すべきタイミングは、「従業員数が15〜20名に達したとき」「中途採用が増え始めたとき」「30〜50名規模に達したとき」の3つです。いずれのタイミングでも、全てを一度に整えようとせず、最も問題が顕在化している課題から着手し、段階的に広げていくアプローチが現実的かつ効果的です。就業規則の変更を伴う場合は不利益変更の法的リスクにも注意が必要で、社労士・弁護士との連携が欠かせません。

「自社は今どのフェーズで、何から手をつければいいのか」という判断は、専任人事がいない環境では特に難しいものです。ウェルセンス株式会社では、20〜50名規模の成長企業向けに、人事制度の現状整理から優先順位の設定・設計サポートまで、実務に寄り添った形でご支援しています。制度の見直しを検討されている場合は、初期段階での相談もお気軽にお受けしています。

よくある質問

Q. 従業員数が10名未満でも人事制度を整える必要はありますか?

A. 就業規則の作成・届出義務は常時10名以上の事業場から発生しますが、10名未満でも雇用契約書の整備や基本的な給与規程は必要です。また、急成長が予測される段階で最低限の骨格を作っておくと、後々の整備がスムーズになります。10名前後の節目で専門家に一度確認することをお勧めします。

Q. 給与テーブルを変えると既存社員の給与が下がる可能性があります。どう対処すればよいですか?

A. 就業規則の変更によって労働条件を引き下げる場合は「不利益変更」にあたり、原則として労働者との個別合意が必要です(労働契約法第9条・第10条)。ただし、変更の必要性・内容の相当性・説明・周知などの要件を満たす場合、合理的な変更として認められるケースもあります。どこからが不利益変更になるかは個別の状況で判断が異なるため、必ず社労士または弁護士に相談の上で進めてください。

Q. 評価制度を作ると、社員の不満が逆に増えることはありますか?

A. あります。特に多いのが「評価基準が抽象的すぎて何をすれば評価されるかわからない」「評価者によってバラつきが大きい」というケースです。制度設計と並行して、評価者へのトレーニングや評価結果のフィードバック方法を整えることが不満の防止につながります。また、制度導入前に社員への丁寧な説明・対話の機会を設けることも重要です。

Q. 人事制度の整備は社労士に依頼すれば全部やってもらえますか?

A. 社労士は主に労務・法令面(就業規則・給与規程・手続き対応など)を専門とします。一方、等級制度・評価制度・組織設計といった人事制度全体の設計は、組織コンサルタントや人事支援の専門家が担うことが多いです。課題の性質によって適切な専門家が異なるため、まず「どの領域で一番困っているか」を整理した上で相談先を選ぶと効率的です。

Q. 人事制度を整えたら、どのくらいの頻度で見直しが必要ですか?

A. 急成長フェーズにある企業では、組織の変化スピードが速いため、年に一度は制度と実態の乖離がないかを確認することをお勧めします。特に人員が大幅に増えたとき・業態が変わったとき・法改正があったときは、随時確認のタイミングです。「定期的に棚卸しする」という文化を作ることが、制度の形骸化を防ぐ最大の対策です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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