メンタル不調の社員にテレワーク廃止・出社命令はできる?

メンタル不調の社員にテレワーク廃止・出社命令はできる? メンタルヘルス対応
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「テレワークを続けている社員に、そろそろ出社してもらいたい。でも、メンタル不調を抱えている社員に出社命令を出しても法的に問題ないのだろうか——」。そう感じながらも動けずにいる経営者・人事担当者は少なくありません。主治医の意見書を提示されると、それ以上踏み込めない。かといって、このままテレワークを無期限に続けることもチーム運営上の限界がある。本記事では、メンタル不調の社員への出社命令の法的な可否から、安全に命令を進める手順、パワハラ・安全配慮義務違反と言われないための備えまでを整理します。

出社命令は「原則できる」が、条件がある

結論から言えば、メンタル不調の社員に対しても、適切なプロセスを踏めば出社命令は法的に可能です。ただし「無条件にできる」わけではなく、三つの要件を満たすことが求められます。

テレワークは法律上の「権利」ではない

テレワークは、育児介護休業法のように法律が労働者に付与した権利ではありません。会社が就業規則や労働契約によって定める「労務提供の方法」の一つです。つまり、就業規則や個別合意に特別な定めがない限り、社員がテレワーク継続を一方的に主張する根拠は原則として存在しません。コロナ禍以降、事実上テレワークが続いている状態であっても、それだけで「権利として確立した」とは判断されないのが法的な整理です。

出社命令を適法にする三つの柱

出社命令が有効と認められるためには、以下の三点を同時に満たしている必要があります。

要件 具体的な内容
就業規則・労働契約上の根拠 「テレワークは会社の判断で終了できる」旨が就業規則等に明記されているか
業務上の必要性 チームワーク、情報管理、業務効率など合理的な理由があるか。報復・嫌がらせ目的でないこと
健康配慮の履行 社員の健康状態を確認し、段階的な対応を検討・提案したプロセスが記録されているか(労働契約法第5条の安全配慮義務)

注意が必要なケース

個別の雇用契約書や覚書に「テレワーク継続」と明記している場合は、その合意内容が優先されます。また、障害者雇用促進法上の「合理的配慮」として在宅勤務が必要と認められる障害がある場合は、一方的な取り消しがリスクになることがあります。自社の契約内容と就業規則を今一度確認してください。

主治医の意見書は「絶対的な拒否権」ではない

「主治医からテレワーク継続を勧められている」と言われると、それ以上動けなくなる担当者が多くいます。しかし、主治医の意見書は会社の業務命令権を直接制約するものではありません。

主治医の役割とその限界

主治医は患者の日常生活における症状や治療経過を診ることが主な役割です。「この職場でこの業務量をこなせるか」という就業適性の判断は、本来の守備範囲ではありません。厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」でも、主治医の診断書はあくまで「職場復帰の可否に関する意見」であり、最終的な就業上の措置は事業者が決定するものと整理されています。

主治医意見の正しい扱い方

主治医が「テレワーク継続が望ましい」と述べていても、それは会社が考慮すべき一要素です。重要なのは、「その意見を無視した」のではなく「参照したうえで、業務上の必要性と健康配慮を両立する対応を検討した」というプロセスと記録を残すことです。主治医意見を完全に無視して強行した場合、事後的に安全配慮義務違反やハラスメントと判断されるリスクが高まります。

産業医がいない場合はどうするか

従業員50名未満の事業場には産業医の選任義務はなく、主治医の意見書が唯一の医療情報源になりがちです。この場合、外部の産業保健の専門家(地域の産業保健総合支援センターへの相談、または外部EAP・メンタルヘルス支援会社への依頼)を活用して、客観的な就業判定の視点を補完することを検討してください。主治医以外の専門的意見を参照したという記録があるだけで、会社の対応の合理性は大きく高まります。

出社命令を出す前に確認すべき就業規則の整備

出社命令が有効に機能するかどうかは、就業規則の記載内容に大きく左右されます。命令を出す前に、自社の就業規則を必ず確認してください。

テレワーク規程で確認すべき三点

まず確認したいのは、テレワーク規程(または就業規則のテレワーク関連条項)に以下が盛り込まれているかどうかです。一つ目は「テレワークの利用は会社の許可を要する」という許可制の規定。二つ目は「業務の状況または会社の判断によりテレワークを終了させることができる」という終了条件の規定。三つ目は「健康状態の回復・業務上の必要性が生じた場合は出社を命じることができる」という明示的な根拠規定です。

就業規則が整備されていない場合のリスク

テレワーク導入時に就業規則を整備しなかった会社では、「テレワークが事実上の労働条件として定着している」と判断される余地が生まれます。この状態で一方的に出社命令を出すと、労働条件の不利益変更(労働契約法第10条)として争われるリスクがあります。整備が不十分な場合は、命令を急ぐ前に就業規則の改訂と社員への周知を先に行うことを検討してください。

休職・復職規定との整合性も確認する

テレワーク継続が事実上の「休職に準じた措置」として機能している場合、休職・復職規定との整合性が問われることがあります。就業規則の休職条件・復職条件とテレワーク継続の扱いが矛盾していないか、あわせて点検しておきましょう。

安全に出社命令を進めるための実務手順

メンタル不調の社員に出社命令を進める際、一度に全面出社を求めるのではなく、段階的なアプローチが基本です。以下の流れを踏むことで、安全配慮義務を果たしながら業務上の必要性を実現できます。

健康状態の把握と面談記録の作成

まず最初に行うべきは、現在の社員の健康状態を正確に把握することです。直属の上司または人事担当者が面談を実施し、「現在の体調」「テレワーク継続の理由」「主治医からの指示内容」を確認します。この面談の内容は必ず記録に残してください。「いつ、誰が、どのような状態を確認したか」が残っていることが、後日の安全配慮義務の履行証明になります。

段階的な出社移行の提案

次に、いきなり週5日フル出社を命じるのではなく、段階的な移行を提案します。たとえば、最初の1か月は週1〜2日の出社から始め、状態を見ながら徐々に日数を増やしていく方法です。この段階的なアプローチを「提案した記録」「社員の反応の記録」「その後の経過観察の記録」として残すことで、会社が一方的に強行したのではなく配慮して進めたという事実が証明できます。

出社後のフォローアップ体制を整える

出社命令を出した後のフォローアップも安全配慮義務の一部です。出社開始後は定期的な状態確認の面談を設定し、「出社後に症状が悪化した場合の対応方針」をあらかじめ社内で決めておきます。「出社させたら悪化した場合に備えて何もできない」という状態は、フォローアップ体制を事前に設計することで防ぐことができます。

パワハラと判断されないために避けるべき行為

出社命令そのものが適法であっても、その進め方によってはパワハラ(優越的な関係を背景にした業務上不要・不当な言動)と判断されるリスクがあります。法的に有効な命令を出すためには、命令の「中身」だけでなく「方法」も重要です。

パワハラリスクが高まる言動のパターン

次のような言動は、たとえ出社命令の法的根拠があったとしても、ハラスメントと判断される可能性があります。「出社できないなら解雇だ」「甘えているだけだろう」などの精神的な圧力をかけること。突然の通告で猶予を与えずに出社を迫ること。他の社員の前で体調や休みを指摘すること。これらは会社側の主張を著しく弱めます。

記録と手続きがリスク回避の最大の武器

パワハラ・安全配慮義務違反の双方に共通して有効なリスク回避策は、「手続きを踏んだ記録」を残すことです。面談記録、主治医意見の参照履歴、段階的移行の提案記録、出社後の経過観察記録——これらが揃っていれば、万一紛争になったときに会社の対応の合理性を示す証拠になります。書面でのやり取りや議事録の作成を習慣化することを強くお勧めします。

まとめ

メンタル不調の社員へのテレワーク廃止・出社命令は、適切な手順を踏めば法的に可能です。ポイントを整理すると、テレワークは労働者の権利ではなく会社が定める労務提供の方法であること、主治医の意見書は考慮すべき一要素であり絶対的な拒否権ではないこと、就業規則の整備・業務上の必要性・健康配慮の三点が出社命令を有効にする柱であること、段階的な移行と記録の積み重ねがパワハラ・安全配慮義務違反のリスクを下げること——以上が核心です。

とはいえ、「自社の就業規則でこの命令は有効か」「この社員の状態で段階的出社は始められるか」といった個別判断は、状況によって大きく異なります。専任の人事担当者や産業医がいない環境では特に、一人で判断することの限界があります。

ウェルセンス株式会社では、中小企業の経営者・兼務人事担当者向けに、メンタル不調社員への対応・就業規則の確認・復職支援プロセスの設計を一緒に考えるご相談を受け付けています。「自社のケースで何から始めればよいか」をまず整理したいという段階からでも、お気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 主治医が「テレワーク継続を勧める」という診断書を出しています。それでも出社命令は出せますか?

A. 出すこと自体は可能です。主治医の意見は会社が考慮すべき重要な要素ですが、業務命令権を直接制約する法的効力はありません。ただし、主治医意見を参照したうえで、段階的な出社移行や健康面のフォローを検討・記録したプロセスを残すことが、安全配慮義務を果たす観点から不可欠です。意見を「無視した」のではなく「踏まえたうえで判断した」という記録が会社を守ります。

Q. 就業規則にテレワークの規定がありません。この状態で出社命令を出すとどんなリスクがありますか?

A. テレワークが「事実上の労働条件として定着している」と判断される余地が生まれ、一方的な出社命令が労働条件の不利益変更(労働契約法第10条)として争われるリスクがあります。命令を急ぐ前に、まずテレワーク規程の整備(終了条件・許可制の明記)と社員への周知を行い、その後に命令を出す順序が安全です。

Q. 出社命令を出した後に症状が悪化した場合、会社は責任を問われますか?

A. 段階的な移行を提案せず、健康状態の確認も不十分なまま強行した場合は、安全配慮義務違反(労働契約法第5条)として責任を問われる可能性があります。一方、健康状態の確認・主治医意見の参照・段階的な出社設計・出社後のフォローアップという手順を踏んでいれば、会社の対応の合理性が認められやすくなります。「何を確認し、どう配慮したか」の記録が最大の防御になります。

Q. 産業医がいない場合、主治医以外にどこに相談すればよいですか?

A. 各都道府県に設置されている「産業保健総合支援センター(さんぽセンター)」では、50名未満の事業場向けに無料で産業保健の専門家への相談が受けられます。また、外部のEAP(従業員支援プログラム)やメンタルヘルス支援会社を活用して、就業適性の判定や復職支援の専門的サポートを得ることも有効な選択肢です。

Q. テレワーク廃止の命令を口頭で伝えてしまいました。書面でも通知し直した方がよいですか?

A. はい、書面(メール可)での通知を追って行うことを強くお勧めします。口頭のみでは「言った・言わない」の争いになりやすく、業務命令の内容・理由・開始時期・段階的な対応内容を記録として残せません。書面には「業務上の理由」「移行スケジュール」「相談窓口や体調確認の連絡先」を明記することで、会社の誠実な対応姿勢も示せます。

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【監修】ウェルセンス株式会社
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