人事制度見直しのタイミングと優先改定箇所の見極め方

人事制度見直しのタイミングと優先改定箇所の見極め方 人事制度
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「10名のころに決めたルールが、30名になった今もそのまま残っている」——気づいてはいても、日々の業務に追われてなかなか手が動かない。そんな状況にある経営者・兼務人事担当者は少なくありません。人事制度の見直しは「いつか必要」とわかっていても、見直しのタイミングの判断基準も、何から手をつけるかも、なかなか整理できないものです。この記事では、見直しのタイミングを見極めるサイン、優先して手をつけるべき箇所、そして放置した場合のリスクを、実務に即した視点でわかりやすく解説します。

人事制度が「機能しなくなる」3つの兆候

人事制度の見直しが必要なタイミングは、多くの場合「制度がない」ことより「制度が実態とズレはじめた」ことで訪れます。以下の兆候が出始めたら、見直しのサインと受け止めてください。

「聞いていない」「人によって違う」が増えてくる

創業初期は経営者が直接説明し、口頭での取り決めで十分まわっていたルールも、社員数が20名・30名を超えると「入社時に聞いた話と違う」「あの人だけ特別扱いされている」という声が出始めます。ルールが文書化されていないため、入社時期や担当者によって伝達内容にばらつきが生じるのです。これは不満・不信感の温床になり、離職の遠因にもなります。

評価の「なぜ」が説明できなくなる

10名以下の組織では、経営者が全員の働きぶりを見て評価を下せます。しかし組織が大きくなると、経営者の目は届かなくなり、中間管理職や主任クラスが評価に関わるようになります。このとき評価基準が明文化されていなければ、評価は「上司の好み」や「古参優遇」に流れ、若手・中途入社者の離職率が上がりはじめます。「なぜこの評価なのか」を誰も説明できない状態は、組織の信頼を静かに損ないます。

採用・昇給のたびに「その場しのぎ」の対応になる

給与テーブルや等級定義がないと、採用のたびに個別交渉で給与を決めることになります。その結果、中途採用者の給与が既存社員を上回る「逆転現象」が起きたり、昇給額がその年の交渉次第で変わったりします。社員の側から見ると「この会社は基準がない」という不信につながり、採用広報や口コミにも影響します。

見直しのタイミングを判断する基準

「なんとなく機能していない気がする」という感覚だけでは動きにくいものです。従業員数・組織の変化・法的義務という3つの軸で、具体的な判断基準を整理します。

従業員数による「節目」がある

組織の規模が変わるとき、既存のルールは一気に陳腐化します。特に注意すべき節目は以下のとおりです。

従業員数の節目 対応が必要になる主な事項
10名到達 就業規則の作成・労働基準監督署への届出が法律上の義務に(労働基準法第89条)
20〜30名 評価基準の明文化、等級・給与テーブルの骨格整備が実務上必要になる
50名到達 産業医の選任、衛生委員会の設置、ストレスチェックの実施が義務化

特に「10名の壁」は法的義務が発生する重要な節目です。すでに10名を超えているにもかかわらず就業規則が未整備、あるいは10年以上前に作成したまま放置されているケースは、早急な対応が必要です。

組織・採用の変化が起きたとき

従業員数だけでなく、組織の「質的変化」も見直しのトリガーになります。たとえば、異業種・大企業出身の中途社員が増えてきたとき。少人数時代の暗黙のルール(残業は当然、有休は取りにくい等)が通用せず、軋轢や早期離職の原因になります。また、パート・契約社員・業務委託など雇用形態が多様化してきた場合は、同一労働同一賃金(パートタイム・有期雇用労働法、中小企業は2021年4月から適用)の観点からも制度の点検が必要です。

法改正・労務トラブルが発生したとき

2024年4月には労働条件明示のルールが強化され、就業場所・業務の変更の範囲や契約更新の上限を採用・更新時に書面で明示することが新たに求められるようになりました(労働基準法第15条・労働契約法第4条関連)。採用書類や雇用契約書が古いままであれば、直近の採用から見直しが必要です。また、退職トラブル・ハラスメント申告・休職者の発生など、何らかの労務問題が起きたタイミングも、制度全体を棚卸しする好機です。

優先順位の考え方——何から手をつけるか

人事制度の整備は、「法的リスクの高い順」かつ「後続の制度の土台になるもの順」に着手するのが実務上の王道です。全部一度に整えようとすると頓挫するため、優先度を絞ることが重要です。

まず就業規則を「現状に合わせて」整える

最初に手をつけるべきは就業規則です。就業規則は評価制度や等級制度の「土台」であるだけでなく、整備しなければ法的リスクが直結します。労働基準法第89条の届出義務に加え、就業規則は「周知」されなければ法的効力に影響するとされています(労働基準法第106条)。作成して終わりではなく、全社員が確認できる状態にしてはじめて機能します。現状の働き方・休暇制度・ハラスメント対応方針などと乖離していないか、まず確認してください。

次に等級・給与テーブルの「骨格」を作る

就業規則の次に整備すべきは、等級定義と給与テーブルの骨格です。ここで注意したいのは「精緻さ」より「説明できる状態」を目指すことです。最初から複雑な職務グレード体系を設計しようとすると、設計に半年かかって結局使われない、という結末になりがちです。まずはシンプルな3〜4等級の区分と各等級の給与レンジを設定し、「なぜこの給与なのか、経営者が社員に説明できる状態」を最初のゴールに置くことをお勧めします。

評価制度は土台ができてから導入する

評価制度は運用負荷が高く、導入後に「評価者によってバラつきが大きい」「形骸化した」という問題が起きやすいです。評価制度を機能させるには、評価基準の設計だけでなく、評価者(管理職・リーダー層)へのトレーニング(キャリブレーション)が不可欠です。就業規則と等級・給与テーブルが整い、評価の「物差し」が明確になってから着手するのが現実的です。

見直しを放置するとどんなリスクがあるか

「今はなんとか回っているから後回し」という判断が続くほど、リスクは複利のように積み上がります。法的・組織的・採用面の3つのリスクを把握しておきましょう。

法的リスク——不利益変更と未整備による罰則

就業規則が未整備または実態と乖離したまま放置されている場合、退職トラブルや残業代請求が起きたときに会社側の根拠が弱くなります。また、制度を「改定しなければならない」タイミングが来たとき、既存社員にとって不利益な変更(給与テーブルの下方修正・手当廃止など)を行う場合は、労働者の合意または合理的理由と周知が必要です(労働契約法第9条・第10条)。後になって一度に整備しようとするほど、この不利益変更のリスクが高まります。

組織リスク——評価不満による離職と採用力の低下

評価基準がなく「上司の好み」で処遇が決まる環境では、特に優秀な中堅・中途社員が早期離職します。退職者が増えると採用コストが増大するだけでなく、口コミサイトやSNSを通じて「評価が不透明な会社」という評判が広がり、採用競争力が落ちます。採用難の時代に、この悪循環は経営に直接響きます。

運用リスク——「制度を作っただけ」で終わる落とし穴

精緻な制度を外部コンサルタントに依頼して設計してもらっても、運用する人・時間・ツールがなければ数年で形骸化します。専任人事がいない中小企業であれば特に、「継続して自社で運用できる複雑さ」を選ぶことが重要です。制度整備は「作ること」がゴールではなく、「社員に周知され、日々の判断基準として使われること」がゴールです。

兼務人事担当者が「動ける」体制を作るために

専任人事がいない環境で制度整備を進めるには、「いつか時間ができたら」という考え方を捨て、「外部リソースをどう使うか」という発想に切り替えることが現実的です。

外部の専門家と役割分担する

就業規則の作成・改定は社会保険労務士(社労士)への依頼が一般的です。等級・評価制度の設計は人事コンサルタントやHRの専門会社が担えます。重要なのは「丸投げ」にならないこと。外部が設計した制度でも、社員への周知・管理職への説明は必ず内部で行う必要があります。分担する際は「設計は外部、運用・説明は内部」という役割を明確にしてください。

メンタルヘルス・休職対応と制度整備は連動させる

休職者が出たとき、就業規則に休職規定が整備されていないと対応が属人化し、復職の判断基準もブレます。メンタルヘルス対応や休職・復職支援は、人事制度の整備と表裏一体です。「制度を整えながら、現場の相談に対応できる体制」を同時に作ることが、組織として持続可能な人事対応につながります。

まとめ

人事制度の見直しは、「10名到達」「組織の質的変化」「法改正・労務トラブルの発生」のいずれかのタイミングで動くのが原則です。手をつける順番は、就業規則の整備・現状合わせを最優先とし、次に等級・給与テーブルの骨格、そのうえで評価制度へと進む流れが実務上の王道です。全部一度に完璧にしようとせず、「今の自社で運用できる状態」を最初のゴールに置くことが、形骸化を防ぐ最大のポイントです。

「うちの状況はどこから手をつければいいのか」と迷っているなら、専門家に相談することで優先順位が格段に明確になります。ウェルセンス株式会社では、20〜50名規模の成長企業における人事労務課題の整理から、メンタルヘルス対応・休職復職支援まで、現場の実態に即した対応をご支援しています。制度整備の優先順位を一緒に整理するだけでも、次の一手が見えてきます。

よくある質問

Q. 従業員が9名で就業規則がありません。作らなくていいですか?

A. 法律上の作成・届出義務(労働基準法第89条)は「常時10名以上」が基準ですが、9名以下でも就業規則を整備することは強く推奨されます。10名に達した時点で即座に対応が難しくなることも多く、また未整備のままでは労務トラブル時に会社側の根拠が弱まります。採用・退職・休職のルールを文書化しておくだけでも、トラブル予防に大きな効果があります。

Q. 評価制度を整備したいのですが、どこから始めればいいですか?

A. 評価制度を導入する前に、まず等級定義(どういうレベルの社員がどの等級か)を明確にすることが先決です。評価の「物差し」となる等級がない状態で評価シートだけ作っても、評価結果を処遇に結びつけられず形骸化します。等級の骨格を3〜4段階でシンプルに定義し、各等級に期待する行動・成果を言語化してから、評価制度の設計に入るのが現実的な順序です。

Q. 既存の給与テーブルを下げる方向で見直したい場合、注意点はありますか?

A. 既存社員の給与を下げる方向の変更は「不利益変更」にあたり、労働契約法第9条・第10条の規定が適用されます。原則として労働者本人の同意が必要であり、同意なく変更する場合は変更の合理的な理由と周知が求められます。合理的理由の判断は裁判例でも争点になりやすく、専門家(社会保険労務士・弁護士)に相談したうえで進めることを強くお勧めします。

Q. 人事制度の整備にかかる期間はどのくらいですか?

A. 就業規則の整備・更新のみであれば、社労士と連携して1〜2ヶ月程度で完了するケースが多いです。等級定義と給与テーブルの骨格を合わせて整備する場合は3〜4ヶ月、評価制度まで含めると半年〜1年程度が目安です。ただし、社内での合意形成・社員への説明・管理職研修の工数によって大きく変わります。「完璧な制度を一度に作る」より「シンプルな制度を早く動かす」ほうが、中小企業には合っています。

Q. 休職者が出てから就業規則の休職規定がないことに気づきました。どう対応すればよいですか?

A. 就業規則に休職規定がない場合、休職の開始・期間・復職の判断基準がすべて属人的な判断になり、トラブルの温床になります。緊急対応として、まず当該社員と個別に休職の条件(期間・給与・社会保険の扱いなど)を書面で合意しておくことが重要です。同時に社労士と連携して就業規則に休職規定を追加する手続きを進めてください。メンタルヘルス関連の休職は復職対応も含めて専門的な知見が必要なため、外部の支援サービス活用も選択肢に入れることをお勧めします。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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