就業中の飲酒が発覚したら取るべき処分と再発防止策

就業中の飲酒が発覚したら取るべき処分と再発防止策 コンプライアンス
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「においはするけど、本人は否定している。どう対応すればいいんだろう」「就業規則に飲酒禁止の条文がない。それでも処分できるのか」——就業中の飲酒が発覚した瞬間、経営者や人事担当者は判断に迷います。感情的に動けば不当解雇のリスクが生まれ、放置すれば職場秩序が崩れる。この記事では、就業中の飲酒に対する処分の根拠・手続きの進め方・再発防止策まで、中小企業の実務に即して整理します。

就業中の飲酒に対する処分の基本的な考え方

就業中の飲酒に対しては、戒告・減給・出勤停止・懲戒解雇まで複数の処分が選択肢になります。ただし、処分の重さは「行為の悪質性」と「会社が受けた・受けうる損害」の程度に比例させなければなりません。処分が重すぎれば権利濫用として無効になり、軽すぎれば職場秩序が損なわれます。

懲戒処分の種類と選択の目安

労働契約法第15条は、懲戒処分が有効であるためには「客観的に合理的な理由」があり「社会通念上相当」でなければならないと定めています。以下の表は、就業中の飲酒に対する処分の重さを判断する際の参考です。

状況 処分の目安
初回・軽微・業務への支障なし 口頭注意・書面による戒告
繰り返し・業務時間中・外部対応あり 減給・出勤停止
危険業務中・重大な影響・事実の隠蔽あり 出勤停止~諭旨解雇
常習的・依存症の疑い・指導を無視 休職制度の活用を先行検討(懲戒解雇は慎重に)

業種・職種による処分の重さの違い

同じ「就業中の飲酒」でも、運転業務・重機操作・医療・保育といった人命に直結する職種では、より重い処分が認められやすい傾向があります。一般事務職で初回・少量であれば戒告が妥当なケースでも、ドライバーや現場作業員であれば出勤停止以上が相当と判断される場合があります。自社の業種・職種を処分の重さを決める軸の一つとして必ず考慮してください。

「一杯だから大丈夫」という弁解への対処

本人が「少量だから業務に支障はない」「付き合いの席だった」と主張しても、就業中の飲酒が服務規律違反である事実は変わりません。重要なのは、弁解の内容を「処分の有無」ではなく「処分の軽重」の判断材料として扱うことです。弁解を丁寧に記録したうえで、それを踏まえた処分内容を決定するという手順を踏めば、後日のトラブルを防げます。

処分の前提となる就業規則の確認と整備

就業規則に飲酒禁止の明文規定がなくても一定の処分は可能ですが、明記されていない場合は処分の根拠があいまいになり、本人から「ルールがなかった」と反論されるリスクがあります。今回の事案への対応と並行して、規程の整備を進めることが重要です。

明文規定がない場合でも処分できるか

就業規則に「飲酒禁止」の条文がなくても、「職場秩序の維持」「安全衛生」を根拠とする包括的な服務規律条項があれば、処分の根拠として一定程度機能します。労働契約法第3条・第7条により、合理的な内容の就業規則は労働契約の一部になるためです。ただし、包括条項だけでは根拠が弱く、重い処分(出勤停止以上)を科した場合に争われるリスクが高まります。まず現在の就業規則を確認し、包括条項の有無を確かめてください。

就業規則に加えるべき条文

整備すべき内容は大きく二つです。まず服務規律条項に「就業時間中(前後を含む)の飲酒を禁止する」と明記します。次に懲戒事由の列挙条項に「就業中の飲酒」「飲酒運転」「アルコール検知器による測定の拒否」を加えます。これら二つを明記しておくだけで、処分根拠の明確さが大きく変わります。就業規則の変更は労働者代表への意見聴取と労働基準監督署への届け出が必要です(常時10名以上の事業場の場合)。

アルコールチェック規程を別途定めるメリット

アルコールチェックの対象者・実施場面・測定基準値・拒否した場合の取り扱いを別規程として定めると、運用の透明性が高まります。基準値は道路交通法の呼気中アルコール濃度0.15mg/L以上を参考にしつつ、自社の業務内容に応じて設定します。規程内に「相談・治療支援の窓口」を明示しておくと、アルコール問題を抱える従業員が自己申告しやすくなり、問題の早期発見にもつながります。

発覚から処分決定までの手続きの進め方

処分を有効にするために必要な手続きは、事実確認・証拠保全・弁明の機会付与の三つです。この順序を守ることが、後日「不当解雇」と主張されるリスクを防ぐ最大の防御になります。

事実確認と証拠の集め方

においの確認だけで処分を進めることは避けてください。可能であれば呼気検査を実施し、その結果を記録します。呼気検査を本人が拒否した場合は、「拒否した事実」そのものを記録として残します(就業規則にアルコール測定拒否を懲戒事由として明記していれば、拒否行為自体が処分対象になります)。また、目撃者がいれば証言を文書化し、当日の業務記録・勤怠記録も合わせて保全してください。自白のみに頼った処分は後から覆されるリスクがあるため、複数の客観的証拠を揃えることが原則です。

本人への事実確認と弁明の機会付与

証拠を揃えたうえで、本人に事実を確認します。この面談は必ず複数人(上司と人事担当者など)で実施し、内容を記録します。面談では「事実確認」と「弁明の機会付与」を同時に行います。弁明の機会を与えることは、労働契約法第15条が求める「手続き的正当性」の観点から不可欠です。本人が認めた場合も、認めない場合も、面談記録を書面に残し、本人の署名を求めてください。

処分の決定と通知の方法

弁明の内容も踏まえて処分の種類を決定し、書面(懲戒処分通知書)で本人に交付します。口頭のみでの通知は後日「知らなかった」という主張を招くため避けてください。減給処分の場合は労働基準法第91条の上限(1回の額が平均賃金の1日分の半額以内、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1以内)を守る必要があります。

アルコール依存症の可能性がある場合の対応

習慣的な就業中飲酒は、意志の問題ではなくアルコール依存症という疾患のサインである可能性があります。疾病が疑われる場合は、懲戒処分のみで対応しようとすることが安全配慮義務(労働契約法第5条)の観点から問題になりうるため、医療・支援との連携を組み合わせた対応が必要です。

アルコール依存症を見分けるサイン

以下のような状況が重なる場合は、疾病としての評価が必要です。

  • 注意・指導を受けても繰り返す
  • 「やめようとしてもやめられない」と本人が話す
  • 飲酒量が以前より増えている
  • 朝から飲酒している、または飲まないと手が震える
  • 仕事以外の場面でも生活に支障が出ている

これらのサインが複数見られる場合は、産業医(産業医がいない場合は地域の産業保健総合支援センター)に相談することを優先してください。

疾病が疑われる場合の会社の対応

アルコール依存症の疑いがある従業員に対しては、懲戒処分を一時的に留保し、まず医療機関への受診を勧奨します。受診を拒否する場合は、産業医や外部のEAP(従業員支援プログラム)を通じた介入を検討します。治療への協力を求めることは、障害者雇用促進法が求める「合理的配慮」の実践にもなります。治療の経過を見守りつつ、再び就業中飲酒が発生した場合の対応方針(休職・復職の条件など)を事前に本人と合意しておくことが重要です。

産業医がいない中小企業の選択肢

常時50名未満の事業場は産業医の選任義務がありませんが、地域の産業保健総合支援センターでは無料で産業医や保健師への相談ができます。また、アルコール依存症の専門医療機関(精神科・心療内科)への紹介状を用意するだけでも、受診のハードルを下げる効果があります。「専門家に相談できる窓口を会社が案内した」という事実が、後日の安全配慮義務の観点から重要な記録になります。

再発防止のための規程整備と職場環境の見直し

今回の事案を機に規程を整備し、再発を防ぐ仕組みを作ることが、最も長期的な効果をもたらします。規程の整備は「処分の根拠作り」と「予防」の両方を同時に実現します。

規程整備と周知の進め方

就業規則への条文追加と並行して、全従業員への周知を行います。周知の方法は書面配布・朝礼・社内メール等で構いませんが、「周知した記録」(受領サインや配布記録)を残すことが重要です。「知らなかった」という主張を封じるためです。また、アルコールチェック規程を新設した場合は、チェックの実施手順と担当者を明確にし、形骸化しないよう定期的な実施記録を残す運用を設計してください。

少人数組織ならではの再発防止策

職種が固定されている中小企業では「飲酒リスクの高い場面から遠ざける」配置転換が難しいケースがあります。その場合は、業務前のアルコールチェックを定常化する・昼休みの外出を制限するなど、チェックの仕組みで代替することを検討してください。また、管理職が「昼間から飲酒しやすい雰囲気」を無意識に作っていないか(得意先との昼食での飲酒を黙認するなど)も点検するポイントです。

再発時の対応方針をあらかじめ決めておく

初回の事案処理と同時に、「再発した場合はどう対応するか」の方針を決めておくことを推奨します。たとえば「再発した場合は出勤停止○日間」「3回目以降は諭旨解雇を検討する」といった基準を内部で文書化しておけば、次の事案が起きたとき感情的な判断を避けられます。この方針は全従業員に開示する必要はありませんが、管理職間で共有しておくだけで対応の一貫性が保たれます。

まとめ

就業中の飲酒が発覚した場合、まず行為の悪質性・業種・職種・繰り返しの有無を確認し、処分の重さを判断します。次に、事実確認・証拠保全・弁明の機会付与という手続きを踏んで処分を決定・通知します。アルコール依存症の疑いがある場合は、懲戒処分だけでなく医療との連携を組み合わせた対応が必要です。そして今回の事案を機に、就業規則の飲酒禁止条文・アルコールチェック規程の整備と全従業員への周知を進めることで、再発リスクを大きく下げられます。

「就業規則に条文がない」「産業医がいない」「依存症かどうかわからない」といった状況での対応に迷いがあれば、外部の専門家に早めに相談することをお勧めします。ウェルセンス株式会社では、メンタルヘルス・休職復職・人事労務に関する課題を抱える中小企業の経営者・人事担当者からのご相談をお受けしています。一人で抱え込まず、まずは現状をお聞かせください。

よくある質問

Q. 就業規則に飲酒禁止の条文がなくても処分できますか?

A. 「職場秩序の維持」や「安全衛生」を根拠とする包括的な服務規律条項があれば、戒告・注意程度の処分は可能です。ただし、明文規定がない状態で出勤停止以上の重い処分を科すと、本人から「ルールがなかった」と争われるリスクがあります。今回の対応と並行して、就業規則に飲酒禁止の条文を追加することを強くお勧めします。

Q. 本人が呼気検査を拒否した場合、どう対応すればよいですか?

A. 就業規則や別規程にアルコール測定への協力義務と拒否した場合の取り扱い(業務従事禁止など)を明記している場合は、拒否行為そのものを懲戒事由として扱うことができます。規程の整備がない場合でも、「拒否した事実」「その状況」を詳細に記録として残し、目撃者の証言とあわせて事実確認の資料にしてください。

Q. 減給処分をする場合、金額に上限はありますか?

A. あります。労働基準法第91条により、1回の減給額は「平均賃金の1日分の半額」以内、複数回の減給を同一賃金支払期に科す場合でも合計額が「その期の賃金総額の10分の1」以内でなければなりません。この上限を超えた減給は違法となるため、処分内容を決定する際は必ず確認してください。

Q. アルコール依存症の疑いがある従業員を懲戒解雇できますか?

A. アルコール依存症は「疾病」であるため、懲戒解雇のみで対応しようとすることは、安全配慮義務(労働契約法第5条)の観点から問題になりうります。まず産業医や専門医療機関と連携して治療を促し、休職制度を活用することが基本的な対応です。治療への協力を拒否し、就業中飲酒を繰り返す場合は、その経緯を丁寧に記録したうえで、労働問題に詳しい弁護士や社会保険労務士に相談することをお勧めします。

Q. 産業医がいない会社でも、アルコール問題に対応できますか?

A. 対応できます。常時50名未満の事業場は産業医の選任義務がありませんが、都道府県ごとに設置されている産業保健総合支援センターでは、産業医や保健師への無料相談が利用できます。また、アルコール依存症の専門医療機関(精神科・心療内科)への受診を会社として案内するだけでも、支援の第一歩になります。外部のEAP(従業員支援プログラム)を契約する方法もあります。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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