「うちの給与、なんとなくで決めてきたけど、このままでいいのかな……」と感じていませんか。採用時の交渉や経営者の勘で給与を決めてきた結果、社員間のバランスが崩れ、「なぜあの人がこの給与なのか」を説明できない状態になっている中小企業は少なくありません。この記事では、専任人事がいない20〜50名規模の企業でも実際に運用できる、シンプルな給与テーブルの作り方を3つのステップでわかりやすく解説します。
給与テーブルを整備すべき理由
「なんとなく給与」が引き起こす問題
組織が20名を超えてくると、創業期に「経営者の判断」で決めてきた給与のひずみが表面化しやすくなります。入社時期や交渉力の差で同じ仕事をしているのに給与が数万円違う、勤続10年のベテランより中途採用の新人のほうが給与が高いといった状況は、放置すれば社内の不公平感と不信感を生み出します。
実際、「頑張ったのに給与が上がらない」「評価されている実感がない」という声は、優秀な人材の離職につながる代表的な不満です。経営者が「ちゃんと評価している」つもりでも、それが給与という形で見える化されていなければ、社員には伝わりません。
給与テーブルは「公平の証明」になる
給与テーブルとは、等級(グレード)ごとに「この等級の人はこの給与帯」というルールを明文化した一覧表です。これがあることで、経営者は給与の根拠を客観的に説明できるようになります。また、評価結果がどう昇給に反映されるかを社員が理解できるため、モチベーション維持にも直結します。
さらに法的な観点からも、給与テーブルの整備は重要です。パートや契約社員と正社員の待遇差について合理的な説明ができない場合、同一労働同一賃金(パートタイム・有期雇用労働法)への違反リスクが生じます。2021年4月から中小企業にも適用されたこの規制に対応するためにも、等級と給与の根拠を整理しておくことが求められています。
給与テーブルを作る前に整理すること
現状の給与と手当を棚卸しする
給与テーブルを設計する前に、まず現状を把握することが出発点です。全社員の現在の基本給・各種手当・総支給額を一覧化し、等級や職種ごとのばらつきを可視化します。このとき、「職務と直接関係のない手当」——たとえば家族手当や住宅手当——が多い場合は注意が必要です。これらの手当は正社員にしか支給されないケースが多く、同一労働同一賃金の観点から見直しを求められることがあります。
手当の整理と並行して、「基本給」「役職手当」「資格手当」など、給与の構成要素を整理しておきましょう。給与テーブルは基本給をベースに設計するのが一般的です。
等級の数はシンプルに設定する
20〜50名規模の企業が陥りやすい失敗のひとつが、等級を細かく作りすぎることです。大企業向けの人事制度をそのまま参考にすると、10段階以上の等級体系になってしまい、運用が追いつかなくなります。
まずは「3等級」からスタートするのが現実的です。たとえば、一般職(GR1)・中堅職(GR2)・管理職(GR3)という区分で始め、運用しながら必要に応じて細分化するアプローチをおすすめします。等級ごとに「どんな仕事ができる人か」「どんな役割を担う人か」を一言で定義しておくことが、後の評価設計にも役立ちます。
給与テーブルの作り方
等級定義を決める
最初のステップは、等級ごとの「役割・期待行動」を言語化することです。たとえば次のように定義します。
- GR1(一般職):指示のもとで定型業務をこなせる。ミスなく正確に仕事を進められる段階。
- GR2(中堅職):自律的に業務を推進でき、後輩への指導や顧客対応もこなせる。チームの中心メンバー。
- GR3(管理職):チーム・部門の成果に責任を持ち、メンバーの育成・目標設定ができる。
等級定義が曖昧だと、「なぜこの人がGR2なのか」という疑問が社員の間で生まれます。抽象的な言葉を避け、実際の業務イメージが浮かぶ表現にすることが大切です。
各等級に給与レンジを設定する
次のステップは、等級ごとに「最低額〜最高額」の給与帯(レンジ)を設定することです。たとえば以下のような設計になります。
- GR1:月額基本給 220,000円〜260,000円
- GR2:月額基本給 250,000円〜320,000円
- GR3:月額基本給 310,000円〜400,000円
ここで重要なのが「オーバーラップ」です。GR1の上限(260,000円)とGR2の下限(250,000円)が重なっているのは意図的な設計で、等級間に連続性を持たせることで「等級が上がっても給与が逆転しない」違和感を防ぎます。また、GR1の最低額が適用地域の最低賃金(月換算)を下回らないことを必ず確認してください。
評価と昇給の連動ルールを明文化する
最後のステップが、評価結果と昇給額を連動させるルールの明文化です。給与テーブルを作っても、評価と昇給のルールがなければ「結局は経営者の気分次第」になってしまいます。
シンプルな例として、以下のような連動ルールを設けます。
- S評価(期待を大きく上回る):昇給 5,000円/年
- A評価(期待を上回る):昇給 3,000円/年
- B評価(期待通り):昇給 1,000円/年
- C評価(期待を下回る):昇給なし
このルールに基づいて昇給を行い、レンジの上限に達した社員は「等級昇格かどうかを判断する」という流れにします。評価基準が明文化されると、社員は「どう行動すれば給与が上がるか」を自分で考えられるようになり、主体性の向上にもつながります。
既存社員への移行措置をどう設計するか
テーブル適用時の給与ギャップへの対処
新しい給与テーブルを導入する際、現在の給与とテーブル上の金額に差が出る社員が必ず現れます。特に、現行給与がテーブルの上限を超えている社員の扱いは慎重に対処する必要があります。給与を引き下げることは「労働条件の不利益変更」(労働契約法第9条・第10条)にあたる可能性があり、本人の同意なく一方的に実施することは法的リスクを伴います。
こうした場合、一般的に用いられる手法が「調整給」の設定です。テーブル上の給与との差額を調整給として別途支給し、昇給のたびに調整給を削減していくことで、数年かけて新制度に移行する経過措置を設けます。
社員への丁寧な説明が定着の鍵
どれだけ精緻な給与テーブルを設計しても、社員に理解されなければ制度は機能しません。制度導入の際は、「なぜ今この制度を作るのか」「どんな基準で等級が決まるのか」「評価はどう給与に反映されるのか」を、個別面談または全体説明会を通じて丁寧に伝えましょう。
特に、既存社員を新等級に当てはめる「格付け」の場面は、納得感を得られるかどうかが制度への信頼を大きく左右します。「なぜ自分はGR2なのか」に答えられるよう、等級定義と本人の業務内容を照らし合わせた説明を準備しておくことが重要です。
給与テーブルはメンタルヘルスにも関係する
評価・給与の不透明さがストレスを生む
給与や評価の仕組みが不透明な職場では、社員は「自分はどう評価されているのか」「これだけ頑張っても報われないのか」という慢性的な不安を抱えやすくなります。この種の不公平感や見通しの立たなさは、職場ストレスの代表的な要因のひとつであり、メンタルヘルス不調のリスクを高めることが知られています。
給与テーブルを整備し、評価基準を明文化することは、単なる制度整備ではありません。社員が「自分の努力が正当に評価され、将来の見通しが立つ職場」であると感じられる環境をつくることにつながり、結果的にメンタルヘルス上のリスク低減にも寄与します。
制度整備が離職防止と採用力にも波及する
給与の透明性は、採用場面でも差別化ポイントになります。「うちは等級制度があり、評価に応じて昇給する仕組みがあります」と説明できれば、候補者の安心感と信頼感は格段に高まります。離職防止と採用力向上、そして職場の心理的安全性の向上——これらはすべて、給与テーブルという一つの仕組みから波及する効果です。
まとめ
給与テーブルの作り方を整理すると、まず現状の給与・手当を棚卸しして等級数をシンプルに決め、次に各等級の役割定義と給与レンジを設定し、最後に評価と昇給の連動ルールを明文化するという流れになります。20〜50名規模の企業では、3等級・評価4段階程度のシンプルな設計から始めることが、長く運用できる制度につながります。既存社員への移行措置と丁寧な説明も欠かせないポイントです。
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