副業の業務影響が出たとき、どう対応すればいい?

組織運営

「副業OKと伝えてきたのに、最近あの社員、明らかに疲れているし、ミスも増えている。でも今さら何か言えるのか…」——こうした板挟みに直面している経営者・人事担当者は少なくありません。副業を認めた後で業務影響が出たとき、どんな根拠で、どう動けばいいのか。法的なリスクを負わずに対処するための判断基準と具体的な手順を、実務の流れに沿って解説します。

副業を「制限・禁止」できるのか?法的な整理

副業を一律に禁止することは難しいものの、業務への支障・競業・情報漏えいリスクがある場合は制限の正当な根拠になります。重要なのは「禁止できるかどうか」よりも「どんな条件なら制限できるか」を押さえることです。

労働者の副業は「原則自由」が出発点

裁判例上、労働者は労働時間外の時間の使い方について基本的に自由を持つとされています。そのため、就業規則に「副業禁止」と書いてあっても、合理的な理由がなければその条項は無効と判断されるリスクがあります。厚生労働省も「副業・兼業の促進に関するガイドライン(令和2年改定)」の中で、副業・兼業を原則として認める方向性を示しています。

制限・禁止が正当化されやすい4つのケース

以下のいずれかに該当する場合は、副業の制限・禁止に合理的な根拠があると認められやすくなります。

  • 自社での労務提供に支障が生じている(遅刻・欠勤・業務ミスの増加など)
  • 競業他社での就労にあたる(競業避止義務違反)
  • 業務上知り得た秘密情報が漏えいするおそれがある
  • 副業先を含めた総労働時間が過重となり、安全配慮義務(労働契約法第5条)と抵触する

逆に言えば、これらに該当しない場合に「やっぱり副業を禁止したい」と就業規則を一方的に変更すると、不利益変更として争われるリスクがあります。「業務に影響が出ているか」が、対処の出発点です。

「副業OK」と言ってしまった後でも制限できるか

採用時に副業可と伝えた、社内告知で副業を認めた——そういった状況でも、業務影響が実際に発生しているのであれば、その事実を根拠に対応を取ることは可能です。ポイントは「副業そのものを問題にする」のではなく、「業務パフォーマンスの低下を問題にする」という切り口で動くことです。これは後述する面談の進め方にも直結します。

「業務影響あり」とみなす判断基準をつくる

業務影響の有無を判断するには、感覚ではなく記録と事実に基づく基準が必要です。「副業のせいだ」と断定するのではなく、行動・成果の変化を客観的に積み上げることが、後々のトラブル防止につながります。

記録すべき具体的な事実

「なんとなく元気がない」ではなく、以下のような具体的な事実を日時とともに記録します。

カテゴリ 具体例
勤怠の乱れ 遅刻・早退・欠勤の頻度増加、所定時間中の居眠り
業務品質の低下 ケアレスミスの増加、期日遅れ、顧客クレームの発生
体調・様子の変化 顔色が悪い、疲労を訴える発言、集中力の明らかな低下
コミュニケーションの変化 報連相が減った、ミーティングで発言がなくなった

「副業が原因」と断定しないことが重要

記録した事実に対して、「副業のせいだ」と会社が先に決めつけることは避けてください。体調不良・家庭環境・職場環境など他の要因の可能性もあります。「業務パフォーマンスに変化がある」という事実を確認し、その背景を面談で本人から聞き取る——この順番が法的リスクを避けるうえで大切です。「副業差別だ」と言われないためにも、副業の有無にかかわらず同じ基準で対応していることが重要です。

就業規則に承認基準がない場合の対処

「副業は会社の承認を得ること」とだけ書いてあり、承認基準が何も決まっていないケースは非常に多くあります。この状態で「さかのぼって承認しなかったことにする」のは通用しません。まず現状の届出実態を確認し、今後のルール整備(届出・承認制の明文化)に着手しながら、今起きている問題には「業務影響」という切り口で対応するのが現実的です。

副業による業務影響が出たときの対応フロー

業務影響が確認できたら、感情的に動かず、記録・面談・合意のステップを踏むことが重要です。このフローを守ることで、後になって「不当な制限だった」と争われるリスクを大幅に下げられます。

事実の記録と確認(面談前の準備)

まず最初に、業務影響に関する事実を整理します。「いつ、何が起きたか」を具体的に手元に用意しておくことで、面談の場で感情的にならずに話を進められます。遅刻の日時・ミスの内容・それによって発生した影響(他メンバーへの負荷など)を簡潔にまとめておきましょう。

1on1面談の実施と副業状況の確認

次に、1on1面談を設定します。切り出し方の例としては、「最近、業務の面でいくつか気になる点があって、一度話を聞かせてほしいのですが」という形がスムーズです。「副業について聞きたい」と最初に言ってしまうと、プライバシーへの干渉と受け取られるリスクがあります。業務パフォーマンスを主訴として話を始め、本人が副業による疲労を認識しているようであれば、自然な流れで副業の状況(就労時間・時間帯・業種など)を確認します。

この面談では、以下の点を確認することが実務上のポイントです。

  • 副業の就労時間帯(深夜・早朝など自社業務と重なりやすい時間かどうか)
  • 週あたりの副業時間数(自社と合算した総労働時間の把握)
  • 副業の業種・内容(競合・情報漏えいリスクの確認)
  • 本人が現状の疲労・負荷をどう認識しているか

改善目標の設定と記録

面談の結果、業務影響が副業に起因している可能性が高い場合は、口頭だけで終わらせず、改善目標と確認事項を書面(メールでも可)で残します。「遅刻を月〇回以内にする」「〇月末までに業務ミスの件数を減らす」など、具体的な目標を双方で合意した形で記録することが重要です。この記録が、その後の対応(副業の一時停止要請・就業規則に基づく制限)の根拠になります。

労働時間の「通算」と安全配慮義務——見落としやすい法的リスク

副業を認めている会社が見落としがちなのが、労働基準法上の「労働時間通算ルール」と、安全配慮義務との関係です。これを知らないままでいると、会社側が思わぬリスクを抱えることになります。

副業先と自社の労働時間は「合算」が原則

労働基準法第38条第1項では、副業先と自社の労働時間を通算して管理することが定められています。自社での勤務が法定労働時間(週40時間)の範囲内であっても、副業先での時間と合算すると超過している場合、原則として先に労働契約を締結した側(多くの場合、自社)が時間外割増賃金の支払い義務を負う可能性があります(令和2年9月の厚生労働省通達参照)。副業の届出制を設けることは、この通算管理を適切に行うためにも不可欠です。

安全配慮義務との関係で「放置」は禁物

労働契約法第5条は、会社が労働者の安全・健康に配慮する義務を定めています。副業による睡眠不足・過重労働の状態を会社が認識していながら放置し、その後本人が体調を崩したり業務中に事故を起こした場合、「知っていたのに対応しなかった」として安全配慮義務違反を問われうるリスクがあります。「本人の自由だから関係ない」では済まない点に注意が必要です。

産業医・専門家との連携が必要なタイミング

産業医が選任されている企業(常時50人以上の事業場)では、副業による疲労・健康懸念が出た時点で産業医に相談し、就業上の措置(労働時間の制限など)について意見を求めることが安全配慮の観点から有効です。産業医がいない規模の会社では、社会保険労務士や外部の支援機関に相談しながら対応の方針を決めるのが現実的です。

今後のトラブルを防ぐ就業規則と社内ルールの整備

問題が起きてから動くより、ルールを整備しておくほうが圧倒的に対応しやすくなります。特に「届出・承認制」への移行と、承認基準の明文化が優先度の高い対策です。

「届出・承認制」が安定した運用の基本

副業を完全禁止にするよりも、届出・承認制を採用するほうが法的にも運用上も安定しています。届出の際に確認すべき内容として、副業先の業種・就労時間帯・週あたりの時間数を含めることで、業務影響や競業リスクを事前に把握できます。「承認しない場合の基準」(競合他社、週〇時間超の場合など)も就業規則に明記しておくことが重要です。

競業避止・秘密保持条項の見直し

就業規則や雇用契約書に競業避止義務・秘密保持義務が明記されていれば、競合他社での副業や機密情報に関わる副業を制限する根拠になります。ただし、競業避止については範囲・期間・代償の合理性がないと裁判例上無効になりやすい傾向があります。「在職中は競合他社での就労を禁ずる」という形で範囲を在職中に限定するほうが、有効性は高まります。

会社規模・現状に応じた対応の分岐

就業規則の有無や会社規模によって、対応の優先順位は変わります。就業規則が未整備(常時10人未満で作成義務のない会社など)の場合でも、副業に関するルールを雇用契約書や社内文書として別途整備することは可能です。まず現状を確認し、「届出制の導入→承認基準の明文化→秘密保持・競業避止の見直し」の順で整備を進めることをお勧めします。

まとめ

副業による業務影響が出たとき、会社が取るべきアクションは「副業を問題にする」のではなく「業務パフォーマンスの変化を事実として記録し、面談で確認し、合意の上で対応する」という流れです。法的には、業務への支障・競業・安全配慮の観点があれば副業の制限は正当化されます。一方で、労働時間の通算管理や安全配慮義務は、副業を認めている会社が見落としやすいリスクです。就業規則の届出・承認制の整備も含め、「問題が起きてから」ではなく「起きる前に」仕組みを作ることがトラブル防止の根本策です。

ウェルセンス株式会社では、副業対応をはじめとした人事労務の課題について、専任人事がいない中小企業の経営者・兼務人事担当者からのご相談を受け付けています。「自社のケースではどう動けばいいか」「就業規則をどう整備すればいいか」など、具体的な状況に合わせてお話しできます。ご質問やご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

よくある質問

Q. 採用時に「副業OK」と伝えた社員に対して、業務影響を理由に副業をやめさせることはできますか?

A. 「副業OK」と伝えた場合でも、実際に業務への支障(遅刻・ミスの増加・体調不良など)が具体的に生じているのであれば、その事実を根拠に副業の一時停止や制限を求めることは可能です。重要なのは、副業そのものを問題にするのではなく、業務パフォーマンスの低下という具体的事実を根拠にすることです。感情的・一方的な禁止命令は避け、面談で状況を確認しながら合意形成を図ってください。

Q. 副業について面談で聞くことは、プライバシー侵害やパワハラになりませんか?

A. 業務影響の確認を目的として副業の状況を確認すること自体は、適切な範囲で行えばプライバシー侵害やパワハラにはあたりません。ポイントは、最初から「副業をやめろ」という結論で話し始めないこと、強圧的な言い方をしないこと、そして確認する内容を業務管理上必要な範囲(就労時間・時間帯・業種)に絞ることです。面談の記録を残しておくことで、後からの主張への備えにもなります。

Q. 社員が競合他社で副業をしていることがわかりました。すぐに禁止できますか?

A. 就業規則や雇用契約書に競業避止義務が明記されている場合は、競合他社での副業を制限する根拠になります。ただし、競業避止条項は範囲・期間・代償の合理性がないと裁判例上無効になりやすい傾向があります。在職中の競合就労を禁ずる条項であれば比較的有効性が認められやすいです。まず契約書・就業規則の内容を確認し、条項がない場合は法的対応の前に専門家への相談をお勧めします。

Q. 副業の労働時間を通算する義務があると聞きましたが、実際にどう管理すればよいですか?

A. 労働基準法第38条第1項に基づき、副業先と自社の労働時間は合算して管理する必要があります。実務上は、副業届出の際に「週あたりの副業時間数・時間帯」を申告させる形が現実的です。自社の勤務時間と合算して法定労働時間(週40時間)を超える場合、時間外割増賃金の問題が生じる可能性があるため、申告内容に基づいて自社の勤務時間を調整するか、超過分の賃金対応を検討する必要があります。詳細は社会保険労務士に確認することをお勧めします。

Q. 就業規則に副業の規定がありません。今から整備するにはどこから手をつければよいですか?

A. まず「届出・承認制」の導入から始めることをお勧めします。届出内容(副業先の業種・週あたり時間数・時間帯)と、承認しない場合の基準(競合他社・週〇時間超など)を明文化することが優先度の高い対応です。次に、秘密保持・競業避止の条項が雇用契約書や就業規則に含まれているかを確認し、不足があれば見直します。就業規則の変更は労働者への不利益変更にならないよう手続きを踏む必要があるため、社会保険労務士や専門家と連携しながら進めることが安全です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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