勤怠改ざん発覚時の正しい対応手順4ステップ

勤怠改ざん発覚時の正しい対応手順4ステップ コンプライアンス
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「打刻記録を見ていたら、どう考えても合わない数字が出てきた」——そこから始まる対応に、正解はあるのでしょうか。勤怠改ざんが疑われる状況に直面した経営者・人事担当者が真っ先に感じるのは、「何から手をつければいいかわからない」という混乱です。証拠の押さえ方、本人への聴き方、懲戒処分の判断基準、そして管理職が関与していたときの対処——この記事では、法的リスクを踏まえながら、勤怠改ざん発覚直後から再発防止までの対応を4つのステップで整理します。

勤怠改ざんが引き起こす法的リスクを正しく理解する

勤怠改ざんは「ルール違反」にとどまらず、複数の法律に抵触しうる深刻な問題です。まず会社側の対応を誤ると、処分した側が法的責任を問われる逆転リスクが生じます。

改ざんの態様ごとに異なる法的問題

勤怠改ざんは、その内容によって関連する法的問題が異なります。たとえば残業時間の過少申告・削除は、労働基準法第24条(賃金全額払いの原則)・第37条(割増賃金の支払義務)違反の隠蔽への加担となりえます。さらに会社支給のシステム上で電磁的記録を無断で書き換えた場合、刑法第161条の2(電磁的記録不正作出・毀棄)に該当する可能性もあります。

特に見落とされやすいのが、「本人が自ら打刻を削除していても、会社の賃金支払義務はなくならない」という点です。厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(2017年)は、使用者が客観的な記録によって労働時間を把握する義務を明示しています。打刻記録だけを過信して実態を確認しなかった場合、会社側が労基法違反を問われるリスクがあります。

改ざんと賃金未払いが重なるケースへの注意

残業代を減らすために打刻を削除・修正していた場合、本人を懲戒処分するのと並行して、実際の労働時間に基づく未払い賃金の精算義務が会社側に生じる可能性があります。「改ざんしたのは本人だから払わなくていい」とはならない点を、対応の初期段階で認識しておく必要があります。

証拠を確実に保全する

勤怠改ざんへの対応でまず行うべきは証拠保全です。事情聴取や処分の検討は、証拠が固まってから進めるのが鉄則です。

照合すべきデータの種類

打刻記録単体では改ざんの証明が難しいケースがあります。以下の複数データを照合することで、改ざんの蓋然性を高めることができます。

  • 勤怠システムの操作ログ(誰が・いつ・どのレコードを変更したか)
  • 入退館記録・セキュリティカードの通過履歴
  • PC のログオン・ログオフ記録
  • メール・チャットツールのタイムスタンプ(深夜・休日の送受信記録)
  • 本人が提出した紙の残業申請書や日報
  • 給与明細・賃金台帳(労働基準法第109条に基づき3年間の保存義務あり)

これらのデータは、調査開始と同時にコピー・バックアップを取得し、上書き・削除が生じないよう管理権限を制限してください。

調査中の情報管理と漏えい防止

証拠保全の段階で本人に感づかれると、データを上書きされたり関係者に口裏合わせをされたりするリスクがあります。調査は経営者・人事の限られた範囲に留め、当該従業員の直属上司には原則として伝えないことが原則です(管理職が関与しているケースでは特に重要です)。また、社内システムの管理権限を一時的に変更・制限しておくことも有効な対策です。

事実確認・事情聴取を適切に行う

証拠が揃ったら、本人への事情聴取を行います。この段階でのやり方の誤りが、後の懲戒処分を無効にする最大の原因になります。

聴取前に確認すべき準備事項

事情聴取は「詰問」ではなく「事実確認」として設計してください。具体的には、照合したデータをもとに「この日の退館時刻はXX時ですが、打刻記録はYY時になっています。これについて説明してもらえますか」と、事実ベースの質問を準備します。事前に質問リストを作成し、複数人(経営者+人事担当者など)で対応するのが望ましいです。

録音については、会社側が行う場合は一方的録音であっても一般に違法にはなりません(ただし目的・利用方法によって評価が異なるため、事前に社労士・弁護士に確認することを推奨します)。少なくとも、聴取内容は詳細なメモに残し、本人に確認・署名を求める形が理想です。

弁明の機会は必ず与える

労働契約法第15条に基づき、懲戒処分が有効とされるためには本人への弁明の機会の付与が必須です。一度の聴取で処分を決定するのではなく、「次回までに書面で説明を提出してください」など、本人が反論できる機会を設けてください。この手続きを省略すると、処分の内容が正当でも手続き違反として無効になるリスクがあります。

管理職が関与していた場合の対応分岐

現場から「上司に残業を申告するなと言われた」「管理職が打刻を修正していた」という証言が出るケースは少なくありません。この場合、一般従業員と管理職を同一ラインで調査することは利益相反になります。管理職への聴取は別チームで、かつ一般従業員の調査と並行して行い、供述が相互に影響しないよう管理してください。会社が「知らなかった」という主張は、客観的な証拠が残っている場合には通りにくいため、早期に事実を把握することが重要です。

懲戒処分の種類と判断基準を整理する

懲戒処分は、行為の内容・期間・悪意の程度・前歴などを総合的に判断して決定します。「厳しくしたいが不当解雇にならないか」という不安がある場合、判断基準の軸を持つことが重要です。

処分の重さを決める主な判断要素

判断要素 処分を重くする方向 処分を軽くする方向
改ざんの期間 数か月〜数年にわたる継続的な行為 単発・短期間
金額・影響 多額の未払い賃金・会社への損害 少額・軽微
動機・悪意 意図的な詐欺的行為 上司の圧力・やむを得ない事情
前歴 過去に同種の問題あり 初犯・前歴なし
反省の態度 否認・隠蔽・証拠隠滅 自発的な申告・素直な謝罪

就業規則の確認が先決

懲戒処分が有効であるためには、就業規則に懲戒事由と処分の種類が明記されていることが前提です(労働契約法第15条)。「勤怠改ざん」が懲戒事由として明記されていない場合でも、「不正行為」「会社の信頼を損なう行為」などの包括的規定が適用できるかを確認してください。就業規則が存在しない(または10人未満で届出が不要な)企業でも、処分を行うためには合理的な根拠と手続きが必要です。

不当解雇リスクを回避するために

懲戒解雇を検討している場合、最も注意すべきは「相当性」と「平等取扱い」の原則です。最高裁判所の判例(ネスレ日本事件ほか)においても、処分内容が行為の重大性に見合っているか、類似の過去事案と整合しているかが厳しく問われています。特に、同じような行為をした別の従業員を軽い処分にしたことがある場合、今回だけ重い処分を下すと不均衡として争われるリスクがあります。処分を決定する前に、社労士または弁護士への相談を強く推奨します。

再発防止策を仕組みとして整備する

処分で終わりにせず、再発防止の仕組みを整備することが、会社を守る最後のステップです。「また起きるかもしれない」という不安は、制度と運用で軽減できます。

勤怠管理の客観化

最も効果的な再発防止策は、打刻記録の改ざんが物理的・システム的に困難な環境をつくることです。具体的には、ICカード・生体認証・GPS打刻など改ざんが難しい勤怠管理システムへの切り替えが有効です。また、打刻後の修正には上長+人事の二重承認が必要な運用フローを設けることで、単独での改ざんを防止できます。

就業規則の整備と周知

今回の対応を経て、就業規則に「勤怠記録の改ざんは懲戒事由に該当する」と明記し、処分の水準も記載しておくことが必要です。就業規則は作成・変更後に従業員への周知(掲示・配布・社内イントラへの掲載)が義務付けられており(労働基準法第106条)、周知がなければ効力を持ちません。専任人事がいない環境では、社労士に定期的な就業規則の見直しを依頼することが現実的な選択肢です。

管理職への教育と内部通報の整備

管理職が「残業を申告させない」プレッシャーをかけていた場合、その背景には労働時間管理の知識不足や、上位からの人件費削減プレッシャーがある場合があります。管理職向けの労務管理研修の実施と、従業員が安心して問題を報告できる内部通報窓口の整備(外部の社労士・弁護士への直接相談ルートを含む)を検討してください。

まとめ

勤怠改ざんへの対応は、証拠保全・事実確認・懲戒処分・再発防止という4つの段階を、法的なリスクを意識しながら順番に進めることが重要です。特に「本人が改ざんしていても会社の賃金支払義務はなくならない」「弁明の機会なしの処分は無効になりうる」「就業規則に根拠規定がないと処分が争われる」という3点は、対応を誤りやすいポイントです。管理職の関与があるケースや解雇を検討しているケースでは、専門家の関与なしに進めることは高リスクです。

ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小企業の経営者・兼務人事担当者からの労務課題に関するご相談をお受けしています。「今まさに対応中で何から手をつけるべきかわからない」「就業規則が実態に合っているか確認したい」という段階でのご相談も歓迎しています。人事対応に不安があるときは、お気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 就業規則に「勤怠改ざん」の記載がありません。それでも懲戒処分できますか?

A. 「勤怠改ざん」という文言がなくても、「不正行為」「会社の信頼を損なう行為」「職務上の義務違反」などの包括的な懲戒事由が就業規則に存在すれば、適用できる可能性があります。ただし、重い処分(降格・解雇など)を行う場合は適用根拠が争点になりやすいため、社労士または弁護士に確認したうえで進めることを強くお勧めします。また、今後に備えて就業規則を速やかに整備することが重要です。

Q. 本人が「上司に言われたからやった」と主張しています。この場合、誰を処分すればいいですか?

A. 本人と管理職の双方を対象に調査を行い、それぞれの関与の程度に応じて処分を判断する必要があります。「指示された側」の処分を重くして「指示した側」を軽くすると、公平性・整合性の観点から処分が争われるリスクがあります。管理職には管理監督責任として、場合によってはより重い処分が相当とされることもあります。両者を切り分けた調査と、弁護士・社労士との協議が不可欠です。

Q. 改ざんが発覚した期間の未払い残業代は、会社が支払わなければなりませんか?

A. 実態として労働していた時間が確認できる場合、たとえ本人が打刻を削除していても、会社は労働基準法に基づく賃金支払義務を免れないケースがあります。入退館記録やPCログなどで実際の労働時間を再構成し、未払いが生じているかどうかを確認してください。未払い賃金の時効は現在3年(経過措置あり)です。本人への懲戒処分と並行して、賃金精算の問題も専門家と検討することを推奨します。

Q. 事情聴取の際、本人が録音しているかもしれません。問題ありますか?

A. 従業員が自分の身を守るために聴取を録音すること自体は、一般に違法にはなりません。むしろ「録音されている前提」で聴取を行うことが、会社側にとっても適切な対応の担保になります。圧迫的な聴取・暴言・長時間の拘束などがあると、録音を証拠にパワーハラスメントや強要として争われるリスクがあります。事実確認に徹した冷静な聴取を心がけ、内容は詳細にメモを残してください。

Q. 懲戒処分ではなく、注意・指導で済ませることはできますか?

A. 改ざんの期間が短く・金額も少額で・初犯であり・本人が素直に認めて謝罪しているような軽微なケースでは、口頭または書面での厳重注意・始末書の提出で対応することも選択肢の一つです。ただし、注意・指導の記録は必ず書面で残してください。記録がないと、再発時に「以前も同じ問題があった」という事実を懲戒処分の根拠として使えなくなります。また、他の従業員との公平性も考慮したうえで判断することが重要です。

【監修】ウェルセンス株式会社
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