慶弔休暇の規程がなくて困ったら読む対処法

慶弔休暇の規程がなくて困ったら読む対処法 採用・定着
Photo by Pavel Danilyuk on Pexels

「慶弔休暇って何日あげればいいですか?」——社員からそう聞かれて、言葉に詰まった経験はないでしょうか。規程がない状態で申請が来ると、その場の判断で対応するしかなく、後になって「あのときと扱いが違う」とトラブルになることもあります。この記事では、慶弔休暇の規程がない状態で申請が来たときの即時対応策から、規程を急いで整備する方法まで、実務に使える情報をまとめました。

慶弔休暇は法律で義務付けられていない——だからこそ規程が必要

結論からいうと、慶弔休暇(慶弔見舞休暇)は法定外休暇であり、会社が付与するかどうか・何日与えるかはすべて会社の任意です。規程がなくても、それ自体が違法になるわけではありません。ただし、「だから何もしなくていい」とはなりません。

法定休暇との違い

年次有給休暇・産前産後休業・育児介護休業などは、労働基準法や育児介護休業法によって付与が義務付けられた「法定休暇」です。これらは会社の規程に関係なく、労働者が権利として請求できます。一方、慶弔休暇はこのカテゴリには入りません。付与するかしないかは会社が自由に決められます。

就業規則への記載義務が生じるケース

ただし、常時10名以上の労働者を雇用している事業場では、休暇に関する事項を就業規則に記載し、労働基準監督署へ届け出る義務があります(労働基準法第89条)。慶弔休暇を付与する運用をしているにもかかわらず、就業規則に記載がない場合は、規程の整備と変更届の提出が必要になります。9名以下の事業場であっても、口頭の約束や実際の運用が「労働条件」として定着している場合は、後述するとおり注意が必要です。

「慣行」になると後から変更できなくなる

一度「有給の慶弔休暇」として継続的に運用した実績があると、それが会社の慣行として定着したとみなされる可能性があります。後から「やはり無給にする」「日数を減らす」といった変更をしようとすると、労働条件の不利益変更(労働契約法第10条)に該当するリスクがあります。場当たり対応を続けることは、短期的には楽でも、長期的にはリスクを積み上げることになるため、慶弔休暇の規程整備は「早めの対応」がポイントです。

申請が来たときの暫定対応——規程整備までのつなぎ方

規程がない状態で申請が来たとき、「規程がないので対応できません」は現実的ではありません。まず社会通念上の目安を参考に暫定的な日数を認め、同時に規程整備に着手するのが実務的な対応です。

日数の目安を知っておく

慶弔休暇の日数には会社ごとにばらつきがありますが、一般的に多くの会社で使われている日数の目安は以下のとおりです。業種や規模によって差がありますが、初めて規程を作る際の参考として活用できます。

事由 よく使われる日数の目安
本人の結婚 3〜5日程度
子の結婚 1〜2日程度
配偶者・子の死亡(忌引き) 3〜5日程度
父母の死亡(忌引き) 3〜5日程度
兄弟姉妹・祖父母の死亡 1〜3日程度
配偶者の父母の死亡 1〜3日程度

有給か無給かを明示して対応する

暫定対応として対応する場合も、「この休暇は有給扱いです」または「無給扱いです」を必ず伝えておきましょう。何も言わずに休ませると、社員は有給を想定していたのに給与が減額された、というトラブルになります。実務的には、まず口頭で条件を伝え、あとで書面(メールや社内通知)で確認を残しておくと安心です。

「有給休暇で対応」は感情的な不満につながりやすい

「うちには慶弔休暇の規程がないので、年次有給休暇を使ってください」という対応は、法的には問題ありません。しかし、特に忌引きの場面でこれを求めると、「大切な家族を亡くしたのに有給を消化させられた」という感情的な不満につながりやすく、離職やエンゲージメント低下のきっかけになるケースがあります。有給休暇はあくまで社員が自分のために使うものです。慶弔休暇は別建てで整備することを強くおすすめします。

場当たり対応が引き起こすリスク——後から対応するほど複雑になる

「今回は特別に」という対応を繰り返すと、気づかないうちに大きなリスクが積み上がります。不公平感の蓄積、前例の矛盾、慣行化による変更困難——これらは中小企業で実際に起きやすいトラブルです。

前例の積み重ねが「不公平」と映る

Aさんの忌引きには5日認めたが、Bさんには3日しか認めなかった——この差が生まれるのは、その都度の判断に基準がないからです。差が生まれた理由が「たまたまその時の担当者の判断」であっても、社員側からは「えこひいきではないか」と受け取られることがあります。特に社員数が増えてきた段階では、こうした不公平感が組織の信頼を損なう原因になります。

前例が「会社の約束」になる——後から変更が困難に

口頭であっても「慶弔休暇は有給で3日取れる」という運用を続けると、それが労働条件として定着したとみなされる可能性があります。後から「やはり無給にします」「2日に減らします」と変更しようとすると、労働契約法第10条が定める不利益変更のルールに触れるリスクがあります。変更する場合は、合理的な理由と社員への十分な説明、場合によっては個別同意が必要になります。

採用・定着への影響も見逃せない

求職者が会社を選ぶ際、慶弔休暇の有無は「会社が従業員をどう扱うか」を測るバロメーターのひとつになっています。整備されていない場合、採用時の印象が下がることや、既存社員が「この会社はそういう会社なんだ」と感じて定着意欲が下がることがあります。法的義務がないからこそ、整備しているかどうかが会社の姿勢として見られます。

急いで規程を整備するときの最低限のポイント

慶弔休暇の規程を急ぎで作る場合でも、最低限おさえるべき項目があります。これを網羅しておけば、実務上の混乱を防ぐ規程として機能します。

規程に必ず書く5つの項目

慶弔休暇規程を新たに作成・追加する際には、次の5点を必ず明記しましょう。

  • 対象となる事由(結婚・忌引きなど)と対象者の範囲(続柄の具体的な記載)
  • 付与日数(事由ごとに明記)
  • 有給か無給かの明示
  • 日数の数え方(暦日数か所定労働日数か)
  • 申請手続きと証明書類の提出要否

特に「暦日数か所定労働日数か」は見落としやすいポイントです。「3日」と書いてあっても、土日を含めるかどうかで実質的な休暇日数が大きく変わります。「所定労働日で3日」と明記することで、週をまたぐケースでのトラブルを防げます。

就業規則への組み込み方

既存の就業規則に休暇の章がある場合は、そこに慶弔休暇の条文を追記するのが一般的です。就業規則とは別に「慶弔休暇規程」として独立した規程を作ることも可能ですが、その場合は就業規則本体で「慶弔休暇については別に定める慶弔休暇規程による」と参照条項を入れておく必要があります。どちらの方法でも、常時10名以上の事業場では変更届を労働基準監督署に提出する義務があります。提出の際は、変更後の就業規則に加え、過半数代表者の意見書も必要です。

続柄の範囲をどこまで広げるか

祖父母・義理の親・兄弟・配偶者の兄弟姉妹など、「どこまで対象にするか」で悩む方は多いです。最初から広く設定しておくと後で絞りにくくなるため、まず一般的な範囲(配偶者、一親等の血族・姻族、二親等の血族など)でスタートして運用しながら見直す方法が現実的です。いずれにしても「続柄を証明できる書類(戸籍謄本・死亡診断書など)の提出を求める」と明記しておくことで、申請の実態確認ができます。

従業員数別・状況別の対応チェックリスト

会社の規模や就業規則の整備状況によって、今とるべきアクションが異なります。自社の状況に当てはめて確認してみてください。

常時9名以下の場合

就業規則の作成・届出義務は生じません(労働基準法第89条)。ただし、労働契約書や雇用条件通知書で「慶弔休暇あり・有給・○日」と明記した場合は、その内容が労働条件として確定します。書面に記載した以上、後から変更するには合理的な理由と社員への説明が必要です。小規模でも、口約束や繰り返しの運用が「慣行」になるという点は共通のリスクとして意識しておきましょう。

常時10名以上・就業規則あり(慶弔休暇の記載なし)の場合

最も多いケースです。就業規則に慶弔休暇の規定がなければ、早急に追記・変更届の提出が必要です。変更内容については、過半数代表者(または過半数労働組合)の意見を聴取し、意見書を添えて最寄りの労働基準監督署へ届け出てください。届出後は、変更した就業規則を社員が確認できる場所に備え付けるか、配布・掲示・社内システムへの掲載などで周知する義務があります(労働基準法第106条)。

就業規則はあるが記載内容が曖昧な場合

「休暇については別途定める」とだけ書かれていて、実際には何も定めていないケースもあります。この状態では規程として機能しているとはいえません。「別に定める慶弔休暇規程」を作成するか、就業規則本体に条文を追加するかのどちらかで、具体的な内容を明文化することが必要です。社労士に相談できる環境であれば、条文の文言チェックも依頼しておくと安心です。

まとめ

慶弔休暇は法律上の義務はありませんが、規程がないまま放置すると、不公平感・トラブル・採用力の低下といったリスクにつながります。申請が来たときは、まず社会通念上の目安を参考に暫定対応し、有給か無給かを明示した上で対応することが大切です。そして、この機会に就業規則への記載整備と労基署への届出まで進めることが、会社を守るうえで最もシンプルな解決策です。

「規程をゼロから作るのは難しい」「何から手をつければいいかわからない」という場合は、ウェルセンス株式会社にご相談ください。人事専任者がいない中小企業の実情に合わせて、就業規則の整備から日常の人事対応まで、一緒に考えます。

よくある質問

Q. 慶弔休暇の規程がない会社が忌引き申請を断ることはできますか?

A. 法的には慶弔休暇を付与する義務がないため、断ること自体は違法ではありません。ただし、代わりに年次有給休暇の取得を妨げることはできません(労働基準法第39条)。また、断った場合は社員の信頼低下・離職リスクが生じやすいため、暫定的でも一定の対応をとりながら、規程整備を進めることをおすすめします。

Q. 慶弔休暇は有給にしなければなりませんか?

A. 法的な義務はなく、有給にするか無給にするかは会社が自由に決められます。ただし、一度「有給」として継続的に運用した場合は、後から無給に変更することが労働契約法第10条の不利益変更に該当するリスクがあります。最初に規程を作る段階で有給・無給を明確に定めておくことが重要です。

Q. 社員が5名しかいませんが、就業規則がなくても慶弔休暇の規程は必要ですか?

A. 常時9名以下の事業場には就業規則の作成・届出義務はありません。しかし、雇用条件通知書や労働契約書に「慶弔休暇あり」と記載した場合や、口頭での約束・継続した運用が慣行になっている場合は、その内容が労働条件として機能します。後のトラブルを防ぐために、書面で条件を整理しておくことをおすすめします。

Q. 慶弔休暇の申請に証明書類の提出を求めてもよいですか?

A. 問題ありません。戸籍謄本・死亡診断書・会葬礼状・結婚式の招待状などを提出書類として規程に明記することは一般的に行われています。ただし、「必ず事前提出」のような運用は実務上難しいケースもあるため、「申請から一定期間内に提出」といった柔軟な設計が現実的です。

Q. 規程を整備した後、社員への周知はどうすればよいですか?

A. 就業規則(または慶弔休暇規程)を変更・整備したら、労働基準法第106条に基づき、社員が確認できる方法で周知する義務があります。具体的には、職場への備え付け、全員への配布、社内イントラネットへの掲載などが認められています。単に「保管してある」だけでは周知義務を果たしたとはいえない点に注意してください。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

不調者対応を、人事だけで抱えない。

メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。

詳しく見る →

タイトルとURLをコピーしました