「休職者への連絡、主治医とのやり取り、復職の判断……気づけば全部自分でやっている」。そんな状況に陥っている経営者・兼務人事担当者は少なくありません。本業の傍ら、誰かに相談できるわけでもなく、正解もわからないまま対応を続けていると、精神的にも時間的にも限界が来ます。この記事では、休職対応のどこを外部に任せられるのか、どんな専門家に何を頼むべきかを、法的な観点も含めて整理します。
休職対応、なぜ経営者一人では限界になるのか
休職対応が経営者の手に余るのは、当然のことです。休職対応には「医療」「法律」「労務管理」「コミュニケーション」という異なる4つの専門領域が絡み合っており、一人の人間がすべてをカバーすることは構造的に難しいからです。
対応の重さが「本業」を侵食する
休職者への月次連絡、診断書の受け取りと内容確認、主治医との情報共有、復職可否の判断、現場スタッフへの説明——これらをすべて経営者が担うと、1件の休職対応だけで毎月数時間が消えることも珍しくありません。しかも感情的な重さを伴うため、心理的な消耗は時間以上のものがあります。「この人の将来を自分が決めてしまっていいのか」というプレッシャーが、経営判断全体に影を落とすことにもなります。
「何が正解かわからない」まま動いている
連絡の頻度は月何回が適切か、復職を認める基準はどこか、就業規則に記載がなければどう処理するか——こうした問いに対して、ネット検索で得られる情報は断片的であり、自社の状況に当てはまるかどうかの確信が持てません。専門家に確認せずに「なんとなくこうだろう」で進めていることが、後から法的リスクに変わるケースがあります。
三者間の利害調整が経営者に集中する
主治医は「本人が戻りたいと言っている」と言い、本人は「早く戻りたい」と言い、現場は「今はまだ受け入れが難しい」と言う。この三者のズレを一人で吸収しようとすると、誰も納得できない着地点に追い込まれます。中立的な第三者が調整に入るだけで、この構造は大きく改善します。
経営者がやるべきこと・任せてよいことを分ける
休職対応のすべてを経営者が担う必要はありません。法的に経営者が最終責任を持つ部分は確かにありますが、実務の多くは外部専門家に委託できます。
経営者が手放せない「最終判断」とは
労働契約法第5条に定める安全配慮義務——労働者の生命・身体・健康を危険から保護する義務——は、外部に委託しても使用者(経営者)に残り続けます。つまり、社労士やEAPに実務を任せていても、「復職を認める」「休職期間満了として扱う」「就業規則に基づいて退職とする」といった最終意思決定は経営者が行う必要があります。専門家の助言をもとに判断する、という構造が正解です。
外部に委託できる実務の範囲
一方で、以下のような業務は外部専門家に任せることができます。
- 休職中の定期連絡窓口(社労士またはEAPが担当)
- 診断書の内容確認と記録管理
- 就業規則の休職・復職規定の整備(社労士)
- 復職に向けた本人のカウンセリング・アセスメント(EAP・産業カウンセラー)
- 主治医との情報共有の段取り(産業医または外部支援機関)
- 労基署対応・書類作成(社労士)
これらを経営者が一人でやっている場合、外部に移行することで毎月の実務時間を大幅に削減できます。
外部リソースの役割の違いを整理する
社労士・EAP・産業医はそれぞれ担える領域が異なります。「誰かに全部任せた」つもりでも、カバーされていない領域が残っているケースが非常に多いため、役割の棲み分けを明確にすることが重要です。
社労士は「労務・法律・書類」のプロ
社労士(社会保険労務士)は、就業規則の整備、労基署への届出・対応、傷病手当金の手続き支援、休職期間の管理ルール設計など、労務手続き全般を担います。「休職規定がない」「復職の基準が曖昧」「労災になりそうで怖い」といった場面では社労士が中心的な役割を担います。ただし、本人の心理的サポートや医学的な復職可否の判断は業務範囲外です。
EAPは「本人支援・メンタルケア」のプロ
EAP(Employee Assistance Program:従業員支援プログラム)は、カウンセリング、復職に向けたリワークプログラムのコーディネート、職場復帰アセスメントなどを提供します。「大企業向けでは?」と思われがちですが、近年は中小企業向けの低コストプランも増えており、月額数千円から導入できるサービスもあります。一方、就業規則の修正や労基署対応はEAPでは対応できません。
産業医は「医学的判断」の専門家
産業医は、復職可否の医学的意見を出す立場です。労働安全衛生法により、常時50名以上の事業場では選任が義務付けられていますが、50名未満の企業では義務がありません。ただし、50名未満でも産業医や産業保健師と外部委託契約を結ぶことは可能であり、特にメンタルヘルス事案では主治医と職場の間を繋ぐ役割として非常に有効です。
| 役割 | 担える主な業務 | 担えない業務 |
|---|---|---|
| 社労士 | 就業規則整備・労基署対応・休職手続き管理 | 本人カウンセリング・医学的判断 |
| EAP | カウンセリング・復職アセスメント・ライン相談 | 就業規則修正・労基署対応 |
| 産業医(外部委託) | 復職可否の医学的意見・主治医連携 | 労務手続き・就業規則作成 |
知っておくべき法的リスクと対応の落とし穴
休職対応の不備は、後から訴訟・労災認定・ハラスメント認定に発展するリスクがあります。「なんとなく対応してきた」という状態で問題が起きると、経営者が法的責任を問われることになります。
就業規則に休職規定がない場合のリスク
労働基準法第89条により、常時10名以上の労働者を使用する事業場では就業規則の作成・届出が義務です。休職期間の上限・復職の条件・期間満了時の取り扱い(自然退職か解雇か)が明記されていないと、復職を巡るトラブル時に「根拠がない」状態になります。退職扱いにしたい場合も、就業規則の根拠なく退職させると解雇無効の問題に発展する可能性があります。まず自社の就業規則を確認し、規定が不十分であれば社労士に整備を依頼することが先決です。
連絡の「しすぎ」も「放置」も問題になる
休職中の連絡対応についても注意が必要です。まったく連絡しないことは安全配慮義務の観点から問題になりえますが、頻繁な進捗確認や業務依頼は「休養の妨害」「ハラスメント」として問題になるケースがあります。実務上は月1回程度の安否確認を書面または第三者経由(社労士・EAP窓口)で行うことが一つの目安とされています。「経営者が直接連絡する」構造を変え、窓口を外部に移すだけでも、このリスクは大きく下がります。
「私傷病」として処理していても労災になるケースがある
メンタルヘルス不調の原因が長時間労働やハラスメントにある場合、経営者が「私傷病(業務外の病気)」として処理していても、後から労災認定されることがあります。労災申請が絡む場合、労基署への対応・必要書類の作成は社労士との連携が不可欠です。「労災になるはずがない」という思い込みで進めることが、後の対応を複雑にします。不調の背景に業務要因がある可能性を意識しておくことが重要です。
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自社の状況に合わせた体制の組み方
外部リソースの活用方法は、従業員規模・就業規則の整備状況・産業医の有無によって変わります。自社の状況を確認しながら、現実的な体制を組むことが大切です。
従業員数・産業医の有無で変わる対応方針
まず自社の状況を確認しましょう。従業員が10名以上であれば就業規則の作成・届出が義務です。50名以上であれば産業医の選任が義務付けられています。50名未満の場合、産業医の選任義務はありませんが、外部の産業医や産業保健師と顧問契約を結ぶことで、医学的なアドバイスを得られる体制を作ることができます。地域の産業保健総合支援センター(各都道府県に設置)では、50名未満の事業場向けに無料または低コストで産業保健サービスを提供していることもあります。
最低限から始める「外部委託の優先順位」
すべてを一度に整備する必要はありません。まず着手すべきは就業規則の休職・復職規定の整備(社労士への依頼)です。これがあるだけで、トラブル時の根拠が生まれ、経営者の判断基準も明確になります。次に、休職中の本人連絡窓口を社労士またはEAPに移すことで、経営者の直接対応から離れられます。本人のカウンセリングや復職アセスメントが必要な段階になったらEAP・産業医を加える、という段階的な体制構築が現実的です。
健康情報の取り扱いには契約上の手当が必要
主治医の診断内容や病名は個人情報保護法上の「要配慮個人情報」に該当します。社労士やEAPと情報を共有する際は、本人の同意取得と、外部委託先との守秘義務・情報管理に関する契約上の取り決めが必要です。「口頭で任せた」だけの状態では、情報漏えい時の責任が曖昧になります。委託開始時に書面での契約を交わすことを必ず確認してください。
まとめ
休職対応を経営者一人で抱えることには、時間・感情・法的リスクの三重の負担があります。しかし、対応のすべてを自分でやる必要はありません。社労士・EAP・産業医はそれぞれ担える領域が異なり、役割を整理して組み合わせることで、経営者の負担を大幅に減らしながら、法的にも実務的にも適切な対応体制を作ることができます。まず就業規則の整備から着手し、連絡窓口を外部に移すことが第一歩です。
ウェルセンス株式会社では、休職対応の体制設計から社労士・産業保健スタッフとの連携コーディネートまで、中小企業の実情に合わせた支援を行っています。「今の対応に不安がある」「どこから手をつければいいかわからない」という場合は、ぜひお気軽にご相談ください。
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