定年再雇用を拒否したいが基準がなくて困ったら

定年再雇用を拒否したいが基準がなくて困ったら 労務管理
Photo by Pixabay on Pexels

「問題のある社員が定年を迎えた。できれば再雇用したくないのに、どう断ればいいか分からない」——人事担当者からよく聞く相談のひとつです。特に、今まで全員を再雇用してきた企業では「今さら断ったら不当扱いと言われるのでは」という不安が重なり、対応を先送りにしているケースが少なくありません。

この記事では、高年齢者雇用安定法のもとで定年後の再雇用を断ることができる条件・リスク・就業規則の整備方法を、専任人事のいない中小企業の担当者が自社の状況に照らして判断できるよう、実務的に解説します。

高年齢者雇用安定法の現状を知る

高年齢者雇用安定法のもとでは、原則として希望するすべての社員を65歳まで継続雇用することが企業に義務づけられています。「定年退職だから再雇用は自由に断れる」という理解は、法律の趣旨と大きくかけ離れています。

2013年改正で「希望者全員」が対象に

2013年の高年齢者雇用安定法改正により、それ以前は労使協定によって継続雇用の対象者を絞ることが認められていましたが、その仕組みは廃止されました。現在は、継続雇用を希望するすべての社員が原則として対象となります。定年廃止・定年延長・継続雇用制度のいずれかの措置を講じることが企業の義務であり、選択肢はあっても「全員対象の原則」は変わりません。

2021年改正で70歳までの努力義務が加わる

2021年の改正では、70歳までの就業確保措置が「努力義務」として追加されました。65歳までの措置とは異なり、あくまで努力義務にとどまりますが、今後の法改正の方向性を見据えると、早い段階で社内制度を整えておくことが賢明です。65歳までの措置が義務であることとの違いは、現時点では明確に区別して理解しておく必要があります。

「新規採用と同じだから断れる」は法的に誤り

定年後の再雇用を「いったん退職した人を新たに採用するかどうかの話」と捉えている経営者は少なくありません。しかし、継続雇用制度における再雇用の申出を断ることは、新規採用の拒否とは性質が異なります。法律上は継続雇用制度の対象者を正当な理由なく除外することそのものが違法となり得ます。「うちは小さい会社だから関係ない」という判断も禁物で、従業員数に関係なく適用されます。

定年再雇用を拒否できる「合理的理由」とは

法律上は希望者全員が継続雇用の対象ですが、例外的に拒否が認められる場面も実務・判例上存在します。ただし、そのハードルは一般的に思われているよりかなり高いと理解してください。

拒否が認められる可能性がある理由

実務上・判例上、拒否が認められ得るとされる主な理由は次のとおりです。

  • 心身の故障などにより、業務に耐えられる状態にないことが客観的に確認できる
  • 著しく低い職務遂行能力、または重大な服務規律違反がある(懲戒解雇相当のレベルが目安)
  • 事業の縮小など、客観的に合理的な経営上の理由がある

重要なのは「懲戒解雇に相当するレベル」という点です。勤怠不良や上司との摩擦がある程度では、拒否の合理的理由として認められないケースがほとんどです。

拒否が認められない主な理由

「性格的に合わない」「高齢になってきつそうだ」「若い人に入れ替えたい」「今後の業務量を考えると必要ない」といった抽象的・主観的・将来予測的な理由は、合理的理由とはみなされません。また、「なんとなく問題がある社員」「印象があまりよくない社員」という漠然とした評価を根拠に断ることも、法的には極めてリスクが高い判断です。

判例が示す「高いハードル」

定年再雇用の拒否に関する裁判例では、拒否が違法と判断される場合、「雇用契約が成立したと同視できる」として損害賠償や雇用の確認を認める方向性が見られます。NTT西日本事件や津田電気計器事件などが実務上参照される事案として知られていますが、個別の事実認定や結論は事案によって異なるため、自社の状況に当てはめる場合は必ず専門家に確認してください。共通して言えるのは、拒否側の企業が「客観的・具体的な理由」を事前に整備していなければ、法的保護を受けにくいという傾向です。

自社の現状チェック:どこにリスクが潜んでいるか

就業規則に継続雇用に関する規定がない、または曖昧なままにしている企業は、今すぐ自社の状況を確認する必要があります。現状によってリスクの性質と対応の優先度が変わります。

就業規則の状況別・リスクマップ

現状 リスクの性質 優先度
継続雇用制度の規定が就業規則にない 法令違反の状態。拒否の根拠自体がなく訴訟リスク大 最優先で整備
規定はあるが除外事由が「総合的に判断」など曖昧 基準の恣意性を指摘され、拒否の合理性を証明できない 早急に見直し
規定はあるが社員への周知がされていない 就業規則としての効力が弱く、法的主張の根拠が不安定 早急に周知を実施
規定・基準・周知がすべて整っている 拒否の根拠を示しやすい。ただし運用の適切さが問われる 運用の記録化を継続

「今まで全員再雇用してきた」場合の特有リスク

慣行として全員を再雇用してきた企業が特定の社員を断ると、「なぜ私だけ断るのか」という疑念が生じやすく、差別的扱いや恣意的判断と見られるリスクがあります。このケースでは、断る理由の客観性と、基準が事前に周知されていたかどうかが特に重要になります。「今回から基準を設ける」という後付け的な対応は、当該社員への適用においてリスクが残ります。

20~50名規模企業での対応のポイント

20~50名規模の企業では、産業医が選任されていないケースも多く、「心身の故障」を理由とする場合の医学的根拠の取得に手間がかかることがあります。その場合は、かかりつけ医の診断書や産業保健総合支援センターへの相談を活用する方法が現実的です。また、労働組合がない企業では過半数代表者との協議が別途必要になる場面があるため、就業規則の変更手続きとあわせて確認してください。

就業規則に何をどう書くべきか

就業規則への継続雇用制度の規定は、「書いてあればよい」ではなく「客観的・具体的・事前に周知されている」ことが法的保護の条件です。整備すべき内容は大きく三つに分かれます。

対象者と除外事由の明記

まず基本として「継続雇用を希望する者を対象とする」という原則を明示したうえで、除外できる客観的事由を具体的に列挙します。たとえば「直近の定期健康診断において就業に支障があると医師が判断した場合」「直近〇年以内に懲戒処分を受けた場合」「直近〇年間の人事考課において最低評価が連続した場合」などです。「総合的に判断する」だけでは法的根拠として機能しません。既存の懲戒規定や人事考課制度と連動させて書くと、客観性が高まります。

手続きと通知タイミングの明記

いつ、誰が、どのような形式で意思確認をするかを明記することも重要です。たとえば「定年の〇か月前までに会社が本人に意思確認を行い、継続雇用の可否を書面で通知する」といった具体的な手順を規定します。口頭のみの通知は後日の証明が困難になるため、書面化を原則としてください。また、本人が意思確認に応答しない場合の扱いについても定めておくと、後のトラブルを防げます。

規定の周知と運用記録の整備

就業規則は、社員への周知が法的効力の条件です(労働基準法第106条)。就業規則を社内イントラや紙で閲覧できる状態にするだけでなく、継続雇用制度の内容についての説明機会(入社時・定年前の説明など)を設け、その記録を残すことが望ましいです。また、個々の再雇用判断の根拠(評価記録・面談記録など)を残しておくことで、仮に後日紛争になった際の証拠として機能します。

拒否を伝えるときの実務的な手順

法的な根拠が整ったとしても、本人への伝え方を誤ると感情的なトラブルや紛争に発展するリスクがあります。拒否の連絡は、タイミング・形式・内容の三点を押さえて行ってください。

タイミングは定年の3~6か月前が目安

本人が次の就職活動や生活設計を考える時間を確保するためにも、遅くとも定年の3か月前、できれば6か月前には意思確認と判断通知を完了させることが望ましいです。定年直前に「再雇用しない」と告げることは、本人への配慮が欠けるとみなされ、紛争時の心証にも影響します。就業規則に通知時期を明記している場合は、その規定に従って動いてください。

理由は書面で、客観的事実に基づいて伝える

拒否の通知は必ず書面で行い、口頭通知のみにしないことが鉄則です。理由を記載する際は、「あなたとは合わない」「もう年齢的に難しい」といった主観的表現を避け、「人事考課において〇〇という評価が継続している」「〇〇の服務規律違反があり△月△日に懲戒処分を受けている」など、客観的な事実と就業規則の該当条項を示す形にしてください。

事前の面談で丁寧に経緯を説明する

書面通知の前に、上長または人事担当者が本人と面談する場を設けることが強く推奨されます。突然の書面通知は本人の感情的反発を高め、労働審判や訴訟に発展しやすくなります。面談では、これまでの問題点とそれへの対応経緯(指導記録など)を丁寧に説明し、拒否が突然の判断ではないことを示すことが重要です。面談の日時・出席者・主な内容は議事録として残してください。

まとめ

定年再雇用を拒否することは、高年齢者雇用安定法のもとでは原則として認められておらず、拒否できるのは「心身の故障」「懲戒解雇相当の問題行動」「客観的な経営上の理由」など、限られた合理的理由がある場合に限られます。「定年退職だから新規採用と同じ」「選考基準を書けば自由に断れる」という誤解は、深刻な法的リスクにつながります。

自社を守るために今すぐ取り組めることは、就業規則に継続雇用制度の対象者・除外事由・手続きを客観的かつ具体的に明記し、社員全体に周知し、運用記録を残す仕組みを整えることです。

「うちの就業規則で大丈夫か」「この社員を断れる根拠はあるか」といった判断は、専門知識なしに進めると取り返しのつかないトラブルになることがあります。ウェルセンス株式会社では、こうした定年再雇用・定年対応の実務相談を、専任人事のいない中小企業の目線で丁寧にサポートしています。就業規則の整備から個別ケースの対応方針まで、まずは一度ご相談ください。

よくある質問

Q. 就業規則に継続雇用制度の規定がありません。今、特定の社員を再雇用拒否することはできますか?

A. 規定がない状態での拒否は、法的リスクが非常に高いと言えます。拒否の根拠となる基準そのものが存在しないため、相手方から「恣意的な扱い」と主張されやすく、損害賠償請求や雇用確認を求める訴訟に発展するケースもあります。まず就業規則の整備を進めながら、個別対応については専門家に相談することを強くお勧めします。

Q. 「高齢で体力的にきつそう」という理由で再雇用を断ることはできますか?

A. 会社側の主観的な判断だけでは合理的理由とはみなされません。「業務に耐えられない」ことを理由とする場合は、医師による客観的な判断(健康診断結果や診断書など)が必要です。「なんとなく体力的に心配」という印象論での拒否は、法的には認められないと考えてください。

Q. 今まで全員再雇用してきましたが、今後は基準を設けて断れるようにしたいです。何から始めればいいですか?

A. まず就業規則の整備から着手してください。具体的には、継続雇用の対象者の原則と、除外できる客観的事由(懲戒処分歴・人事考課の基準・健康状態など)を明文化します。次に、その就業規則を社員全体に周知します。ただし、新たに設けた基準を定年直前の社員に遡って適用することはリスクが伴うため、施行後の運用については専門家への相談を並行させることをお勧めします。

Q. 再雇用を拒否した場合、どのようなペナルティが考えられますか?

A. 法的リスクとしては、損害賠償請求・雇用契約の成立確認訴訟・労働審判などが考えられます。判例の傾向では、合理的理由のない拒否については「雇用契約が成立したと同視できる」として企業側が不利な判断を受けるケースがあります。また、高年齢者雇用安定法に基づく行政からの指導・公表といった行政上の対応もあり得ます。

Q. 70歳までの継続雇用も義務になるのですか?

A. 現時点(2021年改正の内容)では、70歳までの就業確保措置は「努力義務」にとどまり、法的な義務ではありません。65歳までの継続雇用が義務であるのとは明確に区別されています。ただし、法改正の動向を踏まえ、社内制度の方向性を早めに検討しておくことが望ましいです。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

不調者対応を、人事だけで抱えない。

メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。

詳しく見る →

タイトルとURLをコピーしました