社員の高額贈答品を無報告で発見したら読む対処法

社員の高額贈答品を無報告で発見したら読む対処法 コンプライアンス
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先週、経理担当者から「〇〇さんの引き出しに高級百貨店の包み紙と商品券が複数枚ありました」と報告を受けた——そんな場面を想像するだけで、頭を抱えたくなる経営者の方は少なくないでしょう。「社員が顧客から高額贈答品を無報告で受け取っていた。これは横領になるのか」「どこまで調査すればいいのか」「処分して訴えられたら困る」と、次々と不安が押し寄せてきます。専任人事がいない環境でこうした案件を一人で抱えるのは、精神的にも実務的にも大きな負担です。この記事では、社員が顧客から高額贈答品を無報告で受け取っていた場合に、法的な整理・処分の判断・再発防止策まで、実務担当者が自分のケースに当てはめて判断できるよう順を追って解説します。

まず確認すべきこと:これは横領・背任にあたるのか

社員が顧客から高額贈答品を受け取ったと判明した場合、まず浮かぶのが「これは横領罪では」という疑問です。結論から言うと、社員が顧客から贈答品を受け取っただけでは、刑法上の横領罪や背任罪が直ちに成立するわけではありません。ただし、受領の経緯や対価関係によっては、刑事責任に近い問題へと発展する可能性があります。

横領罪が「直接適用しにくい」理由

刑法第252条・第253条の横領罪は、「他人の財物を自己の占有下で横領する」行為を指します。顧客から社員個人へ直接手渡された贈答品は、もともと会社の財産ではないため、会社の物を着服したという構図が成立しにくいのです。

ただし、その贈答品が「本来であれば会社に入るはずの値引きや報奨金の代替」として渡されたと認定できる場合には、実質的に会社の利益を個人に流したと見なされ、横領的な性格を帯びることがあります。この場合、処分の根拠が強化される可能性があります。

背任罪が問題になりやすいケース

刑法第247条の背任罪は、「他人のためにその事務を処理する者が、自己または第三者の利益を図る目的で任務に背く行為」を指します。たとえば、購買担当者が仕入れ先から高額な商品券を受け取ることで、競合他社より割高な見積もりを承認していた場合、会社の利益より自己の利益を優先した「任務違背」として背任罪の構成要件に近づきます。

刑事事件として立件されるかは検察・警察の判断によりますが、会社としての懲戒処分と刑事告訴は切り離して考えることが重要です。懲戒処分の判断に刑事罪の成立を待つ必要はありません。

「収賄罪では?」という誤解

「贈り物を受け取ったなら収賄ではないか」と思う方もいますが、刑法上の収賄罪は公務員にのみ適用されます。民間企業の社員には適用されません。不正競争防止法第18条も対象は外国公務員への利益供与であり、国内の民間企業間の贈答には直接適用されません。

実務上の対応は、主に就業規則上の懲戒規定と雇用契約上の誠実義務・職務専念義務を根拠に進めることになります。これが会社の対応の基本軸となります。

懲戒処分の根拠と相場感を把握する

懲戒処分を行うためには、就業規則への記載と「社会通念上の相当性」が不可欠です。金額や状況によって適切な処分の重さは大きく変わります。

就業規則がなければ処分は無効になりうる

労働基準法第89条により、常時10名以上の労働者を使用する事業場は就業規則の作成・届出が義務付けられています。そして懲戒処分の種類と事由は就業規則に明記されていなければ、処分自体が無効とされるリスクがあります(最高裁・フジ興産事件など)。

就業規則に「贈答品受領の禁止・報告義務」が書かれていない場合、まずその現状を確認することが出発点です。10名未満の事業場でも、就業規則を整備しておくことは将来のトラブル防止に直結します。

処分の重さを判断する基準

労働契約法第15条は、懲戒が「客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当」でなければならないと定めています。一律に懲戒解雇とすることは懲戒権の濫用とみなされるリスクがあるため、以下の要素を総合的に考慮して処分水準を決める必要があります。

考慮要素 処分の目安
金額が社会通念上の贈答の範囲内(数千円程度)かつ悪意なし 訓戒・戒告
報告義務違反のみ・隠蔽意図なし 戒告・減給(上限目安)
金額が高額・反復継続している 出勤停止〜降格
取引上の便宜との対価関係が認定できる 懲戒解雇も視野
組織的・計画的な受領・隠蔽あり 懲戒解雇+刑事告訴の検討

「慣習だから」は通じない理由と通じる場面

本人が「昔からある商慣習」として認識していた場合でも、報告義務が就業規則に明記されていれば、それに違反したことは厳然たる事実です。一方、就業規則に規定がなく、過去に会社が黙認してきた経緯がある場合は、「悪意・隠蔽意図がない」として処分を軽くする方向の事情として考慮されます。

処分の重さを決める際は、「会社がどこまでルールを明確にしていたか」も問われるのです。この点が、懲戒権濫用と判断されるか否かの重要な分岐点になります。

証拠収集と社内調査の進め方

懲戒処分の有効性を守るためには、処分前に十分な調査と事実確認が必要です。調査を誤ると、処分が後から覆るリスクがあります。

確保すべき証拠の種類

まず社内で確認できる証拠を優先的に集めます。具体的には、贈答品の現物・写真・発見の経緯、当該社員の業務記録(取引先との面談履歴・発注承認記録など)、社内メール・チャット履歴などが該当します。

贈答品の受領が業務上の便宜と対価関係にあるかどうかを示す資料が特に重要で、それが懲戒解雇の可否を左右します。購買や営業などの職種では、取引先との関係記録が決め手になる場合が多いです。

顧客への確認は慎重に

調査のために顧客に直接問い合わせることは、関係悪化のリスクがあるため、中小企業では特に慎重な判断が求められます。まず社内の証拠と本人へのヒアリングで事実関係を固めることを優先し、顧客への確認は法的手続きが必要な段階(刑事告訴・民事訴訟)まで温存するのが現実的です。

ただし顧客が自発的に情報提供してきた場合は、その内容を日時・発言者と共に記録に残しておくことが重要です。

本人へのヒアリングと弁明の機会

懲戒処分の前には、必ず本人に弁明の機会を与えることが求められます。適正手続きを省略すると処分が無効になるリスクがあります。ヒアリングでは「いつ・誰から・何を・どのような経緯で受け取ったか」「会社への報告をしなかった理由」を確認し、記録に残します。

本人の回答が事実と矛盾する場合は、その矛盾点も記録しておくことが重要です。この記録が、後に処分の有効性が問われた場合の強力な証拠となります。

処分後の社内周知をどう行うか

処分後の社内への伝え方は、「再発防止のメッセージ」と「個人情報・プライバシーの保護」のバランスを意識する必要があります。

個人を特定しない周知の原則

懲戒処分の事実を社内に周知する場合、原則として個人が特定できる情報(氏名・所属部署・具体的な金額など)は開示しないのが望ましい対応です。「贈答品の無報告受領を理由として懲戒処分を行いました」という事実と、今後のルール(報告義務の明確化)を伝えることで、抑止効果を持たせつつ当事者のプライバシーを守ることができます。

「なぜこのルールが必要か」を伝える

ルールの存在だけを通達しても、社員の理解と納得は得られにくいです。「顧客との公正な取引関係を守るため」「会社全体の信頼を守るため」という目的を丁寧に伝えることで、処分の背景にある会社の姿勢を共有できます。

特に、ルールが新たに整備・明確化された場合は、その経緯も含めて説明することが、社員の自発的なコンプライアンス意識につながります。

再発防止のための規程整備

今回のような案件を機に、贈答品受領に関する社内ルールを整備することが不可欠です。ルールがなければ、同じことが繰り返される可能性があります。

就業規則に盛り込むべき内容

就業規則の「服務規律」または「禁止行為」の条項に、以下の内容を追加することが基本です。

まず「顧客・取引先からの金品・贈答品の受領禁止」を明記します。次に、受領した場合の報告義務(誰に・いつまでに報告するか)と報告先を具体的に定めます。さらに、違反した場合の懲戒処分の種類(戒告・減給・出勤停止・懲戒解雇)との対応関係も記載しておくと、処分時の根拠が明確になります。

利益相反防止規程の整備

就業規則の補完として、「利益相反防止規程」または「贈答品受領規程」を別規程として整備する方法もあります。この規程では、受領可能な贈答品の金額上限(例:社会通念上の目安として5,000円程度)、報告フォームや台帳の運用方法、管理職への開示義務などを定めます。

大手企業では一般的な規程ですが、20〜50名規模の会社でも、取引先との関係が深い業種(建設・製造・購買部門など)では早期の整備が有効です。

規程整備後の周知と研修

規程を作っただけでは機能しません。全社員への書面または電子での周知、年1回程度のコンプライアンス研修、入社時のオリエンテーションへの組み込みなど、継続的な教育の仕組みをセットで整えることが重要です。

特に営業・購買・接客部門など贈答品を受け取りやすいポジションの社員には、具体的な場面を想定した説明が効果的です。

まとめ

社員が顧客から高額贈答品を無報告で受領していた場合、刑法上の横領罪・背任罪の直接適用は状況によりますが、就業規則上の懲戒処分の対象となることは明確です。処分の有効性を守るためには、就業規則への規定の有無の確認、十分な証拠収集と本人への弁明機会の付与、処分水準の合理性確保という三つの柱が欠かせません。

また、今回の案件を機に、贈答品受領に関する規程と報告フローを整備しておくことが、同種トラブルの再発防止につながります。

「就業規則に規定がない」「証拠の集め方がわからない」「処分の重さが適切かどうか判断できない」——そうした不安を一人で抱えている経営者・兼務人事担当者の方は、ウェルセンス株式会社にご相談ください。労務問題・就業規則整備・社員対応のノウハウを持つ専門家が、御社の規模と状況に合わせた現実的なアドバイスをお伝えします。

よくある質問

Q. 就業規則に贈答品の規定がない場合、今回の件で懲戒処分はできますか?

A. 就業規則に明示的な規定がない場合、懲戒処分の有効性は著しく低下します。ただし「誠実義務・職務専念義務」に基づく軽い処分(訓戒・戒告)は行える余地があります。まず就業規則を確認・整備し、今後の処分の根拠を明確にすることを優先してください。今回の案件については、処分の可否を社会保険労務士や弁護士に相談することをお勧めします。

Q. 社員が「昔からの慣習でやっていた」と主張しています。それでも処分できますか?

A. 会社が過去にその慣行を黙認してきた実態がある場合、処分の重さを軽減する事情として考慮される可能性があります。しかし、就業規則に報告義務が明記されていれば、慣習を理由に違反を正当化することはできません。慣習の有無・会社の黙認実態・就業規則の内容を総合的に確認したうえで処分水準を判断してください。

Q. 顧客への事実確認は必ずしなければなりませんか?

A. 必須ではありません。懲戒処分は社内の証拠と本人へのヒアリングで進めることができます。顧客への確認は、取引関係を損なうリスクがあるため、刑事告訴や民事訴訟を検討する段階まで温存するのが現実的な対応です。ただし顧客が自発的に情報提供してきた場合は、必ず記録に残しておいてください。

Q. 贈答品の金額はどの程度から「高額」と判断されますか?

A. 法律上の明確な金額基準はありませんが、社会通念上の「贈り物の相場」として数千円程度(目安として5,000円以下)は許容される場合があります。一方、数万円を超える商品券・現金・高級品などは、取引上の便宜との対価関係が疑われる水準です。金額だけでなく、反復継続性・品目・取引先との関係性を総合的に判断することが重要です。

Q. 専任人事がいない中で、こうした案件はどこに相談すればよいですか?

A. 社会保険労務士(社労士)または弁護士への相談が基本です。就業規則の整備・懲戒手続きの妥当性確認は社労士、刑事告訴や損害賠償請求を検討する場合は弁護士が専門となります。ウェルセンス株式会社では、こうした人事労務の突発的な課題に対して、経営者・兼務人事担当者の方が次の一手を判断できるようサポートしています。お気軽にご相談ください。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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