退職勧奨が違法にならないか不安なら読む進め方

コンプライアンス

「面談を重ねているうちに、これはもう強迫になるのでは…」と不安を感じながら進めている経営者・人事担当者は少なくありません。退職勧奨は解雇とは異なり、法律に明文の規定がないぶん、どこまでが適法でどこからが違法なのか、判断が難しい領域です。この記事では、退職勧奨を違法・トラブルなく進めるための進め方を、面談設計・記録の残し方・打ち切りのタイミングといった実務の視点から解説します。

退職勧奨とは何か、解雇と何が違うのか

退職勧奨の法的な位置づけ

退職勧奨とは、会社が従業員に対して「自発的に退職してほしい」と働きかける行為です。解雇のように会社が一方的に雇用契約を終了させるわけではなく、あくまで従業員本人が「辞める」という意思決定をすることが前提になります。そのため、本人が「辞めない」と意思表示した場合は、原則としてそこで勧奨を終了しなければなりません。

法律上、退職勧奨を直接規制する条文はありませんが、最高裁昭和55年の「下関商業高校事件」の判例が実務上の基準とされています。この判例では、本人の自由な意思決定を阻害するような退職勧奨は不法行為(民法709条)にあたり、損害賠償の対象になりうると示されています。

解雇との決定的な違い

解雇は、正当な理由(客観的・合理的な理由)と社会通念上の相当性がなければ「解雇権の濫用」として無効になります(労働契約法16条)。一方、退職勧奨は強制力を持たない「お願い」に過ぎないため、従業員が断れる環境が確保されていれば、行為自体は適法です。ただし、断れない状況を作り出したり、精神的に追い詰めたりすると、違法な強迫(民法96条)として扱われるリスクがあります。

「解雇するよりも退職勧奨のほうが楽」という認識は危険です。進め方を間違えると、慰謝料請求・労働審判・訴訟に発展するケースもあります。

違法・強迫と判断される具体的な行為

裁判例が示す「やってはいけない」行動パターン

退職勧奨が違法と判断されるのは、主に従業員の自由な意思決定を侵害した場合です。裁判例を踏まえると、以下のような行動が違法リスクを高めます。

  • 長時間・連日の面談:1回数時間に及ぶ面談や、連続した日程での呼び出しは精神的圧力とみなされます。目安として1回あたり30〜60分が常識的な範囲です。
  • 退職以外の選択肢を与えない発言:「辞めなければ解雇する」「あなたの居場所はもうない」といった発言は、断る自由を奪う言動として違法性が高まります。
  • 複数名で1名を囲む形での面談:上司3名対従業員1名のような状況は、圧力をかけているとみなされやすく避けるべきです。
  • 第三者の前での能力・業績への言及:「あなたは使えない」などを同僚の前で言うと名誉毀損・プライバシー侵害に発展します。

特に注意が必要な対象者

退職勧奨の相手によっては、通常よりも高い注意が必要です。休職中・療養中の従業員は、精神的に脆弱な状態での意思決定を迫ることになるため、強迫と認定されやすい傾向があります。メンタル不調による休職者に対して復職前に退職勧奨を行う場合は、主治医や産業医に現在の状態を確認してから判断するのが原則です。

また、妊娠中・育児休業中・介護休業中の従業員には、男女雇用機会均等法・育児介護休業法による特段の保護があります。これらの事情がある従業員への退職勧奨は、要件を満たさないと法律違反になりかねないため、専門家に相談してから動くことを強くお勧めします。

適法な退職勧奨を進めるための面談設計

面談前に準備すべき3つのこと

退職勧奨の面談は「その場の雰囲気で話す」のではなく、事前の設計が必要です。まず最初に、退職を求める理由を整理してください。業績不振・ハラスメント行為・長期休職による職務遂行困難など、具体的な根拠を言語化しておくことが重要です。理由が曖昧なまま面談に臨むと、本人への説明が不誠実とみなされます。

次に、提示できる条件を検討します。退職金の上乗せや猶予期間の設定、転職支援の提供などを事前に決めておくことで、面談中の場当たり的な約束を防げます。条件の水準は「相場より少し上乗せする程度」が目安で、過度な好条件は「会社に後ろめたい事情がある」とみなされることもあるため注意が必要です。

最後に、面談の同席者を1名に絞ることをお勧めします。直属の上司と人事担当者など2名以内が適切です。記録担当者を明確にしておくと後の記録作業がスムーズになります。

面談中に言うべきこと・言ってはいけないこと

面談の冒頭で「これはあくまでお願いです。断っていただいてもかまいません」と明示することが、適法な退職勧奨の絶対条件です。この一言があるかどうかで、後から「強迫された」と主張された際の対応が大きく変わります。

一方で、以下のような発言は避けてください。「辞めなければ懲戒処分にする」「この会社に居続けるのは難しい状況だ」「あなたのことを周囲はどう見ているか知っているか」など、退職を強いる印象を与える表現は、たとえ事実であってもそのままの形で使うのは危険です。言い方を変えて、「現在の業務状況を踏まえ、選択肢のひとつとして退職を提案したい」という形で伝えましょう。

本人が感情的になって「これは強迫だ」「弁護士に相談する」と言い出した場合は、その場での議論を続けず「一度持ち帰ってください。次回また話しましょう」と面談を終了させることが最善です。感情的な場で言葉を重ねると、後から「脅された」と主張される材料を増やすだけです。

退職勧奨の回数と打ち切りの判断基準

「あと何回まで」という問いへの現実的な答え

退職勧奨の回数に法律上の上限はありませんが、「本人が明確に拒否した後も継続する」ことが違法リスクを高める最大の要因です。「検討します」「考えます」という返答は拒否ではありませんが、「辞めません」「退職する気はありません」と明示された場合は、一度勧奨を停止するのが原則です。

実務上は、3〜5回程度の面談で意思が変わらなければ、退職勧奨の継続よりも別の対応策(業務改善指導・配置転換・解雇の検討など)に切り替えることを検討する時期です。回数を重ねるほど「しつこい勧奨」として違法性の評価が高まります。

打ち切りのタイミングと判断の流れ

退職勧奨を打ち切るべき状況のサインとして、本人が弁護士への相談を示唆した場合、面談のたびに激しく感情的になる場合、書面で「これ以上の面談には応じない」と意思表示した場合などが挙げられます。これらのサインが出た時点で、勧奨を続けることのリスクは急速に高まります。

打ち切り後に「どうしても辞めてもらわなければならない」という状況が続く場合は、解雇の可否・条件・手続きについて弁護士や社会保険労務士に相談することが現実的な選択肢になります。退職勧奨はあくまで「任意の合意」を目指すプロセスであり、強制的な手段ではないことを再確認してください。

面談記録の残し方とトラブル時の備え

記録すべき5つの項目

退職勧奨に関する面談記録は、後に労働審判・裁判になった際の証拠として機能します。記録が不十分だと、「言った・言わない」の水掛け論になり、会社側が不利になるケースが多くあります。記録には最低限、以下の5つを含めてください。

  • 面談の日時・場所・所要時間
  • 出席者の氏名と役職
  • 会社側が伝えた内容の概要(退職理由・提示条件など)
  • 本人の発言・反応・意思表示(「検討する」「断る」など)
  • 次回面談の予定または終了の確認

形式は書式の統一されたWordやExcelで管理するのが理想ですが、最低限、面談終了直後にメモを作成し、関係者間でメールに記録を残すだけでも有効です。本人に対しても「面談の内容を記録します」と事前に伝えておくと、後からの「そんなことは言っていない」という主張を抑止できます。

記録の保管と管理の注意点

面談記録は、対象者が退職した後も少なくとも3〜5年は保管することをお勧めします。労働審判の申立て期限(退職後1年以内が多い)や、不法行為の時効(3年または20年)を踏まえると、短期間での廃棄はリスクが伴います。

保管場所は経営者または人事担当者のみがアクセスできるフォルダに限定し、対象外の社員に閲覧されないよう管理することも重要です。個人情報保護の観点からも、退職勧奨の事実や面談内容が関係者以外に漏れることは避けなければなりません。

まとめ

退職勧奨を適法に進めるためのポイントは、「断る自由の確保」「根拠の明確化」「記録の徹底」「回数・時間の節度」の4点に集約されます。違法リスクが高まるのは、本人の意思を無視して続ける・圧力をかける・記録を残さないといった行動パターンです。特に休職中・メンタル不調者への退職勧奨は、通常よりも慎重な対応が求められます。

「これは適法な進め方なのか」「この言い方で問題ないか」と迷う場面は必ず出てきます。ウェルセンス株式会社では、退職勧奨の面談設計・記録フォーマットの整備・休職者への対応フローまで、中小企業の実情に合わせた実務サポートを提供しています。経営者や兼務の人事担当者として「ひとりで判断するのは不安」という場合は、いつでもお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 退職勧奨は何回まで行っても大丈夫ですか?

A. 法律上の回数制限はありませんが、本人が「辞めない」と明確に意思表示した後も継続することが違法リスクを高めます。実務上は3〜5回程度が目安で、それ以上続けても拒否が続く場合は、勧奨を一度停止して別の対応策を検討するのが適切です。

Q. メンタル不調で休職中の従業員に退職勧奨をしてもいいですか?

A. 原則として、療養中・精神的に不安定な状態の従業員への退職勧奨は強迫と認定されやすく、高リスクです。まず主治医や産業医に現在の状態を確認し、本人が適切な判断ができる状態かを確かめることが先決です。復職の可否を含めた慎重な検討が必要です。

Q. 面談中に「弁護士に相談する」と言われたらどうすればいいですか?

A. その場での議論を続けず、「もちろんご相談いただいて構いません」と冷静に答え、面談をいったん終了させることが最善です。感情的な場で言葉を重ねると、後から「脅された」と主張される材料になるリスクがあります。会社側も速やかに専門家への相談を検討してください。

Q. 退職勧奨の面談記録は何年間保管すればいいですか?

A. 少なくとも退職後3〜5年の保管を推奨します。不法行為に基づく損害賠償請求の時効は「損害と加害者を知った時から3年、行為から20年」とされているため、短期での廃棄はリスクがあります。労働審判の申立ては退職後1年以内が多いですが、念のため長めに保管するのが安心です。

Q. 退職勧奨を違法にしないための最大のポイントは何ですか?

A. 本人が自由に断ることができる環境を確保することです。「これはあくまでお願いです」と明言し、拒否の意思が伝わったら勧奨を停止する。記録を残す。感情的にならない。この3点が違法化を防ぐ最大の防線になります。迷った時点で専門家に相談するくらいの慎重さが、後々のトラブルを防ぎます。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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