「内科の先生が書いてくれた診断書なんですが、これで手続きを進めていいんでしょうか」——経営者や兼務人事の方から、こうした相談が増えています。精神科や心療内科ではなく、かかりつけの内科医が「うつ病のため休養を要する」と書いた診断書を持って従業員が休職を申し出てきた。「信頼していいのか」「拒否してしまっていいのか」「専門医に行くよう伝えたらハラスメントになるのか」。産業医もいない中で判断を迫られる状況は、決して珍しくありません。この記事では、内科の診断書をどう扱うべきか、会社として確認すべき4つの判断軸を実務的に解説します。
内科の診断書は法的に有効か
結論から言えば、内科が発行した診断書を「精神科ではないから」という理由だけで無効とすることはできません。診断書はあくまで「医師が発行した文書」であり、発行した診療科によって法的効力に差が生じるという規定は、労働基準法にも労働契約法にも存在しません。
診断書の発行科目に関する法的根拠
労働基準法・労働契約法のいずれも、「休職申請に用いる診断書は特定の診療科が発行しなければならない」とは定めていません。医師法上も、内科医が精神症状を診断・治療することに制限はなく、医師免許を持つ医師が診察のうえで発行した文書は、原則として公的な医師の意見として扱われます。
内科の診断書を拒否する危険性
内科発行という理由だけで診断書を無効とし、休職申請を拒否した場合、後日の労働審判や訴訟において会社側が不利な立場に置かれるリスクがあります。特に、従業員が実際に体調を崩しており、その後に症状が悪化したり、出勤を続けた結果として重大な問題が生じた場合、安全配慮義務(労働契約法第5条)違反として会社責任を問われる可能性があります。「診断書の内容に疑義がある場合の対処」と「診断書の無効化・拒否」は、まったく別の問題です。
内科医が精神疾患の診断書を出す背景
精神科や心療内科への受診には、いまだ偏見や抵抗感(スティグマ)を感じる方が少なくありません。「精神科に行くと周囲にバレるのでは」「精神的に弱い人が行くところだと思われたくない」という心理から、まずかかりつけの内科を受診するケースは珍しくないのです。内科医は患者との信頼関係もあり、一時的な対応として診断書を発行することがあります。こうした背景を知ると、「内科で診断書が出た=信頼性が低い」という評価が適切でないことが理解できるはずです。
会社が確認すべき4つの判断軸
内科の診断書を受け取ったとき、会社がすべきことは「有効か無効か」の二択ではありません。以下の4つの軸で状況を整理することが、適切かつリスクの少ない対応につながります。
就業規則に「会社指定医受診条項」があるか
最初に確認すべきは就業規則です。「会社が指定する医師の診断を求めることができる」という条項(会社指定医受診条項)があれば、従業員に対して追加の診察を求めることが正当化されます。この条項がある場合、産業医や会社指定の医療機関への受診を命じることができ、診断書の医学的妥当性を会社として確認する手続きを踏むことが可能です。逆に、この条項がない場合は受診を「命令」する根拠がなく、あくまで「お願い」ベースでの対応になります。就業規則の整備状況によって、会社が取れるアクションは大きく変わります。
診断書の記載内容が業務との関連性を示しているか
診断書に記載された病名・症状・休養期間が、従業員の実際の勤務状況や申し出の内容と整合しているかを確認します。たとえば、診断書に「うつ状態・3か月の休養を要する」と記載されているのに、直前まで普段どおり勤務しており上司への相談もなかった場合は、会社として追加情報を求めることに合理性があります。一方、「以前から遅刻や欠勤が増えていた」「面談で本人も不調を訴えていた」という経緯があれば、診断書の内容に一定の信頼を置くことができます。
休職の長さ・処遇への影響を就業規則で確認できるか
休職期間中の給与支払い義務は法律上ありませんが、就業規則や労働契約の内容によっては一部支給や傷病手当金の手続き支援が必要になります。また、休職期間の上限・満了時の扱い(自然退職か解雇か)も就業規則次第です。内科・精神科どちらの診断書であっても、こうした社内ルールに基づいて手続きを進めることが基本です。診断書の発行科目に関係なく、就業規則の休職条項が手続きの根拠になります。
従業員の状態から「放置リスク」を評価できるか
「本当に休む必要があるのか」という疑問を持つこと自体は自然ですが、その疑問を根拠に対応を先送りすることには大きなリスクがあります。従業員が診断書を提出するまでに至ったということは、少なくとも本人が「休む必要がある」と判断したことを意味します。その状態で出勤を継続させ、症状が悪化した場合の安全配慮義務違反リスクは、休職を認めることのコストをはるかに上回る可能性があります。
精神科・専門医への受診を促すときの伝え方
専門医への受診を勧めること自体は、厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」においても適切な対応とされています。ただし、伝え方を誤るとハラスメントリスクが生じます。
「強制」ではなく「協力のお願い」として設計する
就業規則に会社指定医受診条項がない場合、「精神科に行かなければ休職を認めない」という条件提示は権利濫用・ハラスメントと評価されるリスクがあります。そうではなく、「会社として従業員の状態を正確に把握し、適切なサポートを行いたい」という文脈で、専門医への受診を協力としてお願いするアプローチが適切です。たとえば「より専門的な治療を受けることで、回復の見通しが立てやすくなります。よろしければ心療内科や精神科への受診もご検討いただけますか」という伝え方が一つの例です。
プライバシーへの配慮と記録の残し方
専門医受診を促す際のやりとりは、必ず文書や記録として残しておきます。「強制した」「傷ついた」といった後日の主張に対して、会社がどのような文脈・言葉で伝えたかを示せることが重要です。口頭だけでなく、メールや面談記録として経緯を残すことをお勧めします。また、受診先や診断内容は個人の健康情報(要配慮個人情報)にあたるため、取り扱いには十分な注意が必要です。
「精神科」という言葉への抵抗感に配慮する
従業員によっては「精神科」という言葉自体に強い抵抗を感じる方もいます。「心療内科」や「メンタルクリニック」という表現を使う、あるいは「今の内科の先生に加えて、もう少し専門的な視点から診ていただける先生に相談してみませんか」という言い方にするだけで、受け入れやすさが変わることがあります。言葉の選び方ひとつが、その後の関係性に影響します。
内科と精神科で診断が異なる場合の対応
後から精神科を受診した結果、診断が変わった・軽くなった・重くなったというケースがあります。この場合、会社はどちらの診断を優先すべきでしょうか。原則として、より専門的な診断・直近の診断を重視しつつ、複数の意見を総合的に判断する姿勢が求められます。
専門性と診察継続性のどちらを重視するか
精神科・心療内科は精神疾患の専門医であり、診断の精度という点では内科より高いと一般的には言えます。一方で、長年の経過を知るかかりつけ医の判断にも意味があります。会社として医学的な優劣を判断するのは難しいため、産業医がいる場合はその意見を踏まえて判断します。産業医がいない50名未満の企業では、社内での医療判断が難しいという現実があります。こうした場合、外部の産業保健の専門家やEAPサービスの活用が選択肢になります。
診断が変わっても基本的な対応方針は変わらない
診断名や重症度が変わったとしても、会社として行うべき基本的な対応の方向性は変わりません。診断書が提出された時点での対応(安全配慮・記録・面談実施)を適切に行っておくことが、後のいかなるケースでも会社を守ることにつながります。「診断が変わったから最初の対応は無意味だった」とはなりません。
🔗 診断書の判断に迷ったら、精神科医による産業医相談で医学的見地からのアドバイスを受けることをお勧めします。 →
産業医がいない企業での現実的な対応フロー
従業員数50名未満の企業は産業医の選任義務がなく、診断書の医学的妥当性を社内で評価できる人材がいないケースがほとんどです。この制約を前提に、現実的な対応の流れを整理します。
まず確認すべき社内の状況
| 確認項目 | ある場合 | ない場合 |
|---|---|---|
| 就業規則の休職条項 | 条項に沿って手続きを進める | 至急整備を検討。当面は労働契約書・慣行に基づく |
| 会社指定医受診条項 | 追加診察を求める根拠になる | 強制はできない。協力ベースで対応 |
| 産業医・EAPサービス | 医学的見解の参照先として活用 | 外部専門家への相談を検討する |
診断書を受け取った後の対応の流れ
診断書を受け取ったら、まず就業規則の休職条項を確認し、定められた手続きに沿って処理します。次に、従業員本人と面談を行い、現在の状態・業務への影響・復職の見通しについて確認します。このとき、「診断書を疑っている」という姿勢ではなく、「サポートするために状況を教えてほしい」というスタンスで臨むことが重要です。その後、傷病手当金の申請支援・休職中の連絡体制の確認・復職支援プランの準備へと進みます。
外部専門家を活用する視点
産業医がいない企業でも、地域の産業保健総合支援センター(産業保健センター)では無料の相談窓口を提供しています。また、メンタルヘルス・労務対応に特化した外部専門家に相談することで、個別ケースに応じた対応方針を得ることができます。「自社だけで判断しなければならない」という状況は、適切なリソースを活用することで変えられます。
🔗 判断軸の確認だけでなく、専門医に相談することで、より適切で安心した対応が実現します。 →
まとめ
内科の診断書は、発行科目を理由に無効とすることはできません。会社として確認すべきは、就業規則の整備状況・診断書の内容と実態の整合性・休職処遇の根拠・放置リスクの評価という4つの判断軸です。専門医への受診を促す際は「強制」ではなく「協力のお願い」として設計し、記録を残すことが重要です。また、診断が後から変わった場合でも、会社が行うべき基本的な安全配慮の方向性は変わりません。産業医がいない50名未満の企業では、外部専門家の活用が現実的な選択肢になります。
「診断書を受け取ったが、どう対応すればいいかわからない」「就業規則の休職条項が整備されているか不安」という方は、ウェルセンス株式会社にご相談ください。休職・復職支援や就業規則の整備、メンタルヘルス対応の実務について、専任人事がいない中小企業の実情に合わせた形でサポートしています。
よくある質問
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。
不調者対応を、人事だけで抱えない。
メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。


