年末調整を初めて担当する人のための全体フロー

年末調整を初めて担当する人のための全体フロー 労務管理
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「年末調整を担当することになったけれど、何から手をつければいいかわからない」——そんな不安を抱えている方は多いはずです。専任の人事担当者がいない中小企業では、通常業務と並行しながら年末調整を進めなければならず、全体像が見えないまま期限だけが迫ってくる状況が珍しくありません。この記事では、初めて年末調整を担当する方が迷わず動けるよう、年末調整のやることを実務目線で整理しました。

年末調整とは何か、なぜ会社がやるのか

給与から天引きされている税金の「精算作業」

年末調整とは、毎月の給与から源泉徴収(天引き)してきた所得税の合計額と、実際に納めるべき税額を照らし合わせて、差額を精算する手続きです。毎月の源泉徴収額はあくまでも概算であるため、年間を通じて見ると「取りすぎ」や「取り少なすぎ」が生じます。多くの従業員では12月の給与や賞与支払い時に還付(返金)が発生します。

会社(事業者)の法的義務である

年末調整は所得税法第190条〜第193条に基づく、源泉徴収義務者(会社)の法的義務です。「やったほうがいい作業」ではなく、「必ずやらなければならない手続き」です。対象となるのは「給与所得者の扶養控除等申告書」を会社に提出している従業員(原則として主たる勤務先から給与を受け取っている人)です。

従業員が確定申告をしなくて済む仕組み

年末調整が適切に行われることで、多くの従業員は確定申告が不要になります。逆に言えば、会社側が年末調整を怠ったり誤ったりすると、従業員が自分で確定申告をしなければならなくなったり、税務署から指摘を受けるリスクが生じます。担当者としての責任の重さを理解したうえで、全体の流れを把握しておくことが大切です。

年末調整のスケジュール全体像

10月〜11月上旬:準備と書類配布

年末調整の実務は、10月頃から動き始めます。まず、国税庁から毎年公表される最新の様式(扶養控除等申告書・保険料控除申告書・基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書)を入手・印刷し、従業員へ配布します。前年と様式が変更になる場合があるため、必ず当年分の最新版を使用してください。あわせて、記入方法の案内文や記載例をセットで渡すと回収率が上がります。

11月中旬〜下旬:書類の回収と確認

配布した申告書と、従業員が自分で用意する添付書類(生命保険料控除証明書・地震保険料控除証明書・社会保険料の納付証明書・住宅ローン残高証明書など)を回収します。回収期限を事前に明確に伝え、「○月○日(○)までに提出」と書面でアナウンスしておくことが重要です。期限を過ぎてから催促するよりも、期限の1週間前に「未提出者へのリマインド」を入れるのが実務的な対策です。回収後は記入漏れや誤記がないかを確認し、不備があれば速やかに差し戻します。

12月:計算・精算・源泉徴収票の作成

回収した書類をもとに年末調整の計算を行い、過不足税額を12月の給与または賞与支払い時に精算します。給与計算システムを利用している場合は、申告書の数値を正確に入力することが最重要です。入力元データ(控除申告書の金額)の転記ミスが最も起きやすいポイントなので、計算後に一度データと書類を照合する確認作業を必ず組み込みましょう。

回収する書類と、それぞれの役割

全員が提出する3種類の申告書

年末調整で回収する書類は大きく分けて申告書類と証明書類の2種類です。すべての従業員から回収する申告書には次の3種類があります。

  • 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書:配偶者や子どもなど扶養している家族の情報と、基礎控除・障害者控除などを申告する書類
  • 給与所得者の保険料控除申告書:生命保険料・地震保険料・小規模企業共済掛金などを申告するための書類
  • 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書:2020年分から統合された様式で、基礎控除額(最大48万円)や配偶者控除・配偶者特別控除の適用を確認するための書類

住宅ローン控除がある人だけ追加で必要な書類

住宅ローンを利用してマイホームを購入・増改築した従業員で、ローン控除の2年目以降に該当する人は「住宅借入金等特別控除申告書」と「住宅ローン残高証明書」を追加で提出してもらう必要があります。初年度は確定申告が必要なため、年末調整の対象になるのは2年目以降の従業員です。住宅ローン控除は「税額控除」として所得税の計算の最終段階で差し引かれるため、適用漏れが還付額に大きく影響します。

マイナンバーの取り扱いに注意する

扶養控除等申告書にはマイナンバー(個人番号)の記載が必要です。マイナンバーは「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(番号法)」に基づいて管理が義務づけられており、収集・保管・廃棄のすべての段階で安全管理措置が求められます。収集した書類は施錠できるキャビネットで保管し、業務上必要のない人が閲覧できないよう管理してください。個人情報保護委員会が公表する「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」を一度確認しておくことをおすすめします。

年末調整の計算フロー

課税対象額の集計から始める

計算の出発点は、1月から12月までに支払った給与・賞与の課税対象額の合計です。ここで注意が必要なのは「非課税通勤費」の扱いです。月15万円を上限として非課税となる通勤手当は、課税所得の計算から除外しなければなりません。給与計算システムを利用している場合は、通勤費が正しく非課税設定になっているかを確認してください。

中途入社の従業員については、前職の給与を前職発行の源泉徴収票から合算する必要があります。前職分の源泉徴収票が提出されていない場合は、計算を進めることができないため早めに回収を促しましょう。

各種控除を順番に差し引いて課税所得を算出する

課税対象の給与合計が確定したら、給与所得控除額を差し引いて「給与所得金額」を算出します。その後、社会保険料控除・生命保険料控除・地震保険料控除・扶養控除・基礎控除などの各種所得控除を順番に適用して「課税所得金額」を求めます。この課税所得金額に対して、国税庁が公表する税率表(速算表)を用いて所得税額を算出します。最後に住宅ローン控除がある場合はその金額を差し引き、最終的な税額を確定させます。

源泉徴収税額との差額を精算する

算出した最終税額と、1年間で実際に源泉徴収してきた税額の合計を比較します。源泉徴収額が多ければ差額を従業員に還付し、少なければ差額を追加徴収します。実務上は還付となるケースが大半です。精算は12月の給与または賞与支払い時に行います。給与から引ききれないほど大きな追加徴収が生じる場合(不足額が多額な場合)は、翌年1月から3月にかけて分割徴収できる特例もあります。

年末調整後の提出・交付業務

税務署へ法定調書合計表を提出する

年末調整が完了したら、翌年1月31日までに税務署へ「給与所得の源泉徴収票合計表」を含む「法定調書合計表」を提出します。これは会社全体の給与支払い状況を税務署に報告するための書類です。一定の条件(前々年の提出枚数が100枚以上など)を超える場合はe-Tax(国税電子申告システム)による電子提出が義務化されています。初めて担当する場合は自社が電子申告義務の対象かどうかを事前に確認しておきましょう。

市区町村へ給与支払報告書を提出する

同じく翌年1月31日までに、従業員が居住する各市区町村へ「給与支払報告書」を提出します。これは住民税の計算のために必要な書類で、提出先は従業員の住所地の市区町村です。複数の市区町村にまたがる場合は、それぞれの自治体に個別に提出します。従業員が100人以上の事業者は地方税法に基づきeLTAX(地方税電子申告)での提出が義務です。100人未満の事業者も推奨されています。

従業員への源泉徴収票の交付

翌年1月31日までに、各従業員へ「給与所得の源泉徴収票」を交付します。源泉徴収票は、従業員が確定申告を行う場合や、転職先に提出する場合に必要な書類です。発行漏れや内容の誤りがあると従業員に迷惑をかけることになるため、交付前にデータとの照合確認を行ってください。なお、給与支払報告書と源泉徴収票は基本的に同一内容のものが多く、給与計算システムで一括出力できる場合がほとんどです。

初めての担当者がつまずきやすいポイント

特殊ケースは早めに確認する

年の途中で入社した従業員(前職の源泉徴収票が必要)、育休・産休中の従業員(年間給与がゼロまたは少額の場合の対応)、副業・掛け持ちがある従業員(年末調整の対象外になるケースがある)など、教科書通りにいかないケースは少なくありません。特に副業収入がある従業員は、主たる勤務先(本業)でのみ年末調整を行い、副業分は従業員が自分で確定申告することが原則です。判断に迷うケースは、国税庁の「年末調整のしかた」パンフレットや税務署への問い合わせを活用しましょう。

書類の保管期間を把握しておく

回収した申告書類は、税務調査に備えて一定期間の保管が求められます。扶養控除等申告書などの年末調整関係書類は、提出年の翌年から7年間の保存義務があります(所得税法施行規則)。デジタル保管(電子的保存)をする場合は電子帳簿保存法の要件も確認が必要です。紙で保管する場合は、年度別にファイリングし、施錠できる場所に保管してください。

税制改正は毎年確認する習慣をつける

年末調整に関わる税制は毎年変更される場合があります。控除額の変更・新しい控除の創設・様式の変更などが発生するため、国税庁が毎年10月頃に公表する「年末調整のしかた」(パンフレット・PDF)を必ず最新版で確認することを習慣にしてください。前年の書類をそのまま流用することは、様式変更を見逃すリスクがあるため避けましょう。

まとめ

年末調整は、10月の書類準備・配布から始まり、11月の回収・確認、12月の計算・精算、翌年1月の各種提出・源泉徴収票交付まで、約3〜4ヶ月にわたる連続した業務です。全体の流れを把握し、スケジュールから逆算して動くことが、初めての担当者にとって最大の安心材料になります。

特に以下の3点は、初年度に見落としやすいポイントです。

  • 書類回収の期限設定と事前リマインド
  • 中途入社者の前職源泉徴収票の確認
  • 法定調書・給与支払報告書の提出先と期限の確認

年末調整の進め方について不安な点や、特殊なケースの対応方法について判断に迷うことがあれば、ウェルセンス株式会社にご相談ください。人事専任者がいない中小企業の経営者・兼務人事担当者の方が、日々の業務と並行しながら人事労務対応を進められるよう、実務的なサポートを提供しています。

よくある質問

Q. 年末調整の書類配布はいつ頃行うのが適切ですか?

A. 一般的には10月下旬〜11月上旬に配布し、11月中旬〜下旬を回収期限とするスケジュールが多いです。12月の給与計算に余裕を持って間に合わせるためには、遅くとも11月末には書類一式を手元に揃えておくことを目標にしましょう。配布時に記載例や記入方法の案内文を一緒に渡すと、記入ミスや記載漏れを減らせます。

Q. 年の途中で入社した従業員の年末調整はどうすればよいですか?

A. 中途入社の従業員は、前職の「給与所得の源泉徴収票」を提出してもらう必要があります。前職分の給与・源泉徴収税額を合算したうえで年末調整を行います。前職の源泉徴収票が提出されない場合は年末調整ができないため、入社時に早めに提出を依頼しておきましょう。1月1日以降の入社であれば、当年の前職分がある可能性が高いです。

Q. 副業をしている従業員の年末調整はどう扱いますか?

A. 副業収入がある従業員でも、主たる勤務先(本業の会社)での年末調整は通常どおり行います。副業の収入分については、従業員が自分で確定申告を行うのが原則です。ただし、副業収入が年間20万円以下の場合は確定申告が不要なケースもあります。会社側は主たる給与に関する年末調整を正確に行えば問題ありません。

Q. 法定調書合計表と給与支払報告書はどちらも1月31日までに提出が必要ですか?

A. はい、どちらも翌年1月31日が提出期限です。法定調書合計表は所轄の税務署へ、給与支払報告書は従業員の居住地の各市区町村へ提出します。提出先・様式・提出方法(紙または電子)がそれぞれ異なるため、混同しないよう注意が必要です。従業員が複数の市区町村に居住している場合は、それぞれの自治体に個別に提出します。

Q. 年末調整の計算でミスをしてしまった場合、どうすればよいですか?

A. 年末調整完了後に計算ミスが発覚した場合、翌年1月末の法定調書・給与支払報告書の提出前であれば、修正した内容で提出することが可能です。すでに提出済みの場合は「訂正」として再提出の手続きが必要になります。対応に迷う場合は所轄の税務署へ相談するのが確実です。ミスを防ぐためには、計算後に入力データと申告書の数値を必ず照合する確認作業を業務フローに組み込んでおくことが重要です。

【監修】ウェルセンス株式会社
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