育休中の内職で給付金不正受給、会社に責任はある?

育休中の内職で給付金不正受給、会社に責任はある? 労務管理
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「ハローワークから電話があって、うちの育休中の従業員が内職をしていたかもしれないと言われた。会社も何か責任を取らないといけないのか……」。そんな連絡が突然届いたとき、専任の人事担当者がいない会社では、誰に相談すればいいかすら分からず、不安だけが膨らんでいきます。育児休業給付金の不正受給は従業員個人の問題と思われがちですが、実は会社の対応次第でリスクが変わります。この記事では、会社の法的責任の範囲・ハローワークへの報告義務・従業員への対応・就業規則の整備まで、実務の流れに沿って整理します。

育児休業給付金の不正受給とは何か

育児休業給付金の「不正受給」とは、支給要件を満たしていないにもかかわらず給付金を受け取ることです。育休中の内職がすべて不正受給にあたるわけではなく、就業日数・時間のルールを超えているかどうかが判断基準になります。

支給停止になる「就業」の基準

育児休業給付金(雇用保険法第61条の7)は、育児休業期間中に原則として就業していないことが支給要件の一つです。ただし、支給単位期間(2週間ごとに区切られた期間)において就業日数が10日以内(または就業時間が80時間以内)であれば、給付金が一部減額されながらも支給される仕組みになっています。この上限を超えると、その支給単位期間の給付金は支給停止または返還の対象となります(雇用保険法施行規則第101条の11の3等)。

「育休中就業制度」との違いに注意

2022年10月の育児・介護休業法改正で「育休中就業」制度が創設されました。これは、労使の合意のもとで一定日数・時間の範囲内で就業しても育児休業として扱われる仕組みです。しかし、この制度はあくまで会社と従業員が書面で合意し、ハローワークへの届出も行ったうえで初めて成立するものです。会社に無断で行う内職・副業は、この制度とはまったく別物であり、支給要件違反として扱われます。「少し働いた程度なら問題ない」という誤解が不正受給を招くケースが少なくありません。

内職がバレる主なきっかけ

「どこからバレるのか」と疑問に思う方もいるかもしれません。実務上は、内職先の会社が雇用保険や社会保険の加入手続きを行ったことでハローワークや年金機構が把握するケースが代表的です。そのほか、SNSへの投稿を第三者が通報するケース、元同僚や知人からの申告なども報告されています。ハローワークは受給者の就労状況を調査する権限を持っており(雇用保険法第76条)、調査対象になれば在籍している会社にも確認が入ります。

会社に法的責任はあるか

結論から言えば、従業員が無断で内職をしていた場合、会社が給付金の返還義務や刑事罰を直接負うケースは原則ありません。ただし、会社の関与の程度によっては、事業主も連帯して返還命令の対象になりうるため、「完全に無関係」とは言い切れない点に注意が必要です。

会社が責任を問われる可能性がある場面

雇用保険法第83条は、不正受給に事業主が関与した場合、事業主も連帯して返還命令・納付命令の対象になることを定めています。具体的には、次のような場面が該当しえます。

  • 育児休業給付金の支給申請書にある「事業主証明欄」に虚偽の就業日数を記載した場合
  • 従業員の内職の事実を知りながら、ハローワークに報告せず放置・隠ぺいした場合
  • 会社として内職を斡旋・黙認していた場合

逆に言えば、会社が従業員の内職を把握しておらず、申請書類にも虚偽がなければ、会社が法的に責任を問われる可能性は低くなります。問題は「知っていたのに何もしなかった」という状態を作らないことです。

事業主証明の重さを理解する

育児休業給付金の支給申請は、事業主(または委託先の社会保険労務士)が就業日数等を証明してハローワークに提出する仕組みになっています。この証明は単なる書類上の手続きではなく、事業主が責任をもって事実確認をしたことを意味します。「従業員が自分で申告してきた内容をそのまま書いた」という対応は、確認義務を果たしたとは言えない場合があります。申請のたびに、就業の実態について従業員に確認する手続きを社内に組み込んでおくことが重要です。

ハローワークへの報告義務と実務対応の流れ

ハローワークから照会が来た、あるいは不正受給の可能性を自社で把握した場合、会社は速やかに事実確認を行い、状況に応じてハローワークに報告することが求められます。放置することで、後から「知っていながら隠蔽した」と判断されるリスクが生じます。

まず社内で事実確認を行う

最初に行うべきは、従業員への事実確認です。感情的にならず、「いつ・どこで・どれくらいの頻度で就業していたか」を記録に残す形で聴取します。この際、従業員が認めた内容は書面(確認書・事情聴取記録)として残しておくことが後の対応の根拠になります。なお、育休中の従業員に対する事実確認は可能ですが、不必要な圧迫は育児・介護休業法第10条(不利益取扱いの禁止)に抵触するリスクがあるため、事実確認の範囲にとどめることが重要です。

ハローワークへの相談・申告の流れ

事実が確認できたら、ハローワーク(管轄の公共職業安定所)に相談します。会社から自主的に申告することで、対応が誠実と評価され、トラブルの拡大を防ぎやすくなります。以下の流れを参考にしてください。

対応フェーズ 具体的な内容
事実確認 従業員への聴取・就業実態の記録化
ハローワークへの相談 管轄の公共職業安定所に電話または来所で状況を報告
従業員への自己申告の促し 本人がハローワークに自主申告するよう指導・記録
返還手続きの確認 不正受給額・追徴額の確認、会社の関与度合いの整理
再発防止策の実施 就業規則の整備・従業員への周知

ハローワークへ持参・準備すべき資料

ハローワークに相談する際には、育児休業給付金の支給申請書の控え、従業員の出勤・就業記録、聴取した内容の記録書を準備しておくとスムーズです。ハローワーク側から何を求められるかは状況によって異なりますが、会社として把握した情報を整理して持参することで、対応の誠実さが伝わります。

育休中の従業員への懲戒処分は可能か

育休中であっても、就業規則に定められた懲戒事由に該当すれば懲戒処分を行うことは可能です。ただし、育児・介護休業法との整合性を確保した手続きが不可欠であり、準備なく動くとかえってトラブルが拡大します。

育休中の懲戒処分が認められるための条件

まず、就業規則に「内職・副業の禁止」や「雇用保険不正受給への関与」を懲戒事由として明記していることが前提です。規定がなければ処分の根拠が薄く、後に従業員から異議申し立てを受けるリスクがあります。また、育児・介護休業法第10条は「育休取得を理由とした不利益取扱い」を禁じていますが、不正行為を理由とした懲戒処分はこれには該当しません。ただし、処分の理由が「育休中の行為」ではなく「規則違反という行為」であることを明確に記録しておく必要があります。

処分の重さと実務上の注意点

懲戒処分の内容(戒告・減給・出勤停止・懲戒解雇など)は、不正の程度・期間・悪意の有無などを総合的に判断して決定します。育休中は雇用契約が継続しているため、戒告や文書による注意から始めるケースが多いです。懲戒解雇まで進める場合は、不正受給の金額・期間・証拠の確実性を十分に確認したうえで、弁護士や社会保険労務士に事前確認することを強くお勧めします。感情的・拙速な対応は、後に不当解雇と判断されるリスクがあります。

不正受給への対応は法的に複雑で、判断を誤るとかえってトラブルが拡大することもあります。初期段階での専門家への相談が、のちのち大きな手戻りを防ぎます。

再発防止のための就業規則整備と社内ルール

今後同様のトラブルを防ぐために最も効果的な手段は、就業規則への明記と従業員への周知です。「副業禁止」の条項が既にあっても、育休中の扱いを具体的に規定していなければ、発覚時に会社が指導・処分を行う根拠として機能しません。

就業規則に盛り込むべき内容

育休中の就業・副業・内職に関して、就業規則には少なくとも以下の内容を明記することを検討してください。

  • 育児休業中は会社の事前承認なく就業・内職・副業を行ってはならない旨
  • 育休中就業制度(法定の合意手続きを経た就業)の利用手続き
  • 育児休業給付金の受給に関して虚偽申告・不正行為を行った場合の懲戒事由への該当
  • 不正受給が判明した場合の会社の対応方針(事実確認・ハローワーク報告等)

就業規則の変更は、労働者代表の意見聴取と労働基準監督署への届出(常時10人以上の事業所の場合)が必要です。10人未満の事業所でも書面での整備と周知は実務上不可欠です。

育休取得時のオリエンテーションで伝えること

就業規則を整備するだけでなく、従業員が育休に入る前に「育児休業給付金の支給要件」「就業日数の上限」「内職・副業に関する社内ルール」を説明する機会を設けることが有効です。書面で説明した記録を残しておけば、後にトラブルが起きた際に「会社は周知していた」という証拠になります。口頭だけでなく、チェックリストや確認書への署名を活用することをお勧めします。

小規模企業特有の落とし穴

従業員数が20〜50名規模の企業では、専任の人事担当者がおらず、育休中の従業員への申請書類確認が形式的になりがちです。申請のたびに就業実態を確認する内部手続き(例:本人記入の就業状況確認シート)を設けることで、不正の早期発見と会社の確認義務の履行を両立できます。

まとめ

育休中の内職による給付金不正受給は、従業員個人の問題にとどまらず、事業主の対応次第で会社も連帯返還命令の対象になりえます。重要なのは、不正を把握した時点で速やかに事実確認を行い、ハローワークに誠実に報告する姿勢を持つことです。また、懲戒処分を行う場合は就業規則の整備と育児・介護休業法との整合確認が不可欠です。再発防止には、就業規則への明記と育休取得前の周知を組み合わせることが効果的です。

「実務的にどう判断すればいいか分からない」「ハローワークへの報告が不安」という場合、専任人事のいない企業こそ専門家のサポートが重要です。ウェルセンス株式会社では、貴社の状況に合わせた実務的なアドバイスを提供しています。ぜひお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 育休中の内職がバレた場合、会社も給付金を返還しなければなりませんか?

A. 原則として返還義務は従業員本人が負います。ただし、会社が支給申請書に虚偽の就業日数を記載した場合や、不正を知りながら放置・隠蔽した場合は、雇用保険法第83条に基づき事業主も連帯して返還命令の対象になりえます。会社として虚偽申告に関与していないことを明確にするためにも、早期にハローワークへ相談することが重要です。

Q. 育休中の就業日数が10日以内であれば、内職をしても問題ありませんか?

A. 支給単位期間(2週間ごと)の就業日数が10日以内または就業時間が80時間以内であれば、給付金が一部減額されながらも受給できる場合があります。ただし、会社に無断で行う内職はそれ自体が就業規則違反になりえます。また、就業実態をハローワークに正しく報告する義務があるため、「少しなら黙っていてよい」ということにはなりません。

Q. 育休中の従業員を不正受給を理由に懲戒解雇することはできますか?

A. 就業規則に懲戒事由が明記されており、不正の程度が重大と認められる場合は懲戒解雇も法的には不可能ではありません。ただし、育休中という状況・不正の期間・金額・証拠の確実性を慎重に判断する必要があります。拙速に進めると不当解雇のリスクがあるため、弁護士や社会保険労務士への事前相談を強くお勧めします。

Q. 副業禁止規定はあるのですが、育休中の内職は別扱いになりますか?

A. 就業規則の副業禁止規定が「在職中」を対象にしている場合、育休中も雇用契約は継続しているため適用されるという解釈が一般的です。ただし、「育休中の就業・内職」を明示していない規定では、処分の根拠として不十分な場合があります。育休中の行為についても明確に定める形に規定を見直すことが、トラブル予防の観点から効果的です。

Q. 不正受給の可能性に気づいたとき、ハローワークへの報告は義務ですか?

A. 雇用保険法上、事業主には被保険者の就業状況等について正確に届け出る義務があります(同法第7条等)。「義務か任意か」という問いに対しては、知りながら放置することが事業主の義務違反とみなされるリスクがある、というのが実務上の回答です。自主的にハローワークに報告・相談することは、会社が誠実に対応したという記録にもなり、後のリスク軽減につながります。

【監修】ウェルセンス株式会社
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