皆勤手当の支給基準を就業規則に明文化するポイント

皆勤手当の支給基準を就業規則に明文化するポイント 労務管理
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「皆勤手当は毎月払っているけれど、就業規則に何も書いていない」——そう気づいたとき、多くの経営者・人事担当者は不安を覚えます。欠勤が続くパート社員への手当を止めようとしたら反論された、有給を取った社員への不支給を指摘された、退職者から未払い請求が届いた。こうしたトラブルの根本には、皆勤手当の支給基準の「曖昧さ」があります。この記事では、皆勤手当を就業規則に正しく明文化するポイントを、法的根拠と具体的な記載例を交えて解説します。

皆勤手当は「賃金」だから就業規則への記載が義務になる

皆勤手当は「ご褒美」や「任意の支給」ではなく、労働基準法上の「賃金」に該当します。そのため、支給基準を就業規則に明記することは、一定規模の会社では法律上の義務です。

労働基準法第89条が求めること

常時10名以上の労働者を使用する事業場は、労働基準法第89条により就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務づけられています。この就業規則には「賃金の決定・計算・支払方法」を必ず記載しなければならず、皆勤手当もその対象です。「毎月口頭で伝えているから大丈夫」「慣習として払っているから問題ない」という認識は法的に通用しません。

なお、常時9名以下の事業場であっても、就業規則がない状態で皆勤手当をめぐるトラブルが起きた場合、支給基準を証明する手段がなく、会社側が不利な立場に置かれます。規模にかかわらず文書化しておくことが実務上の鉄則です。

「口約束」「慣習」では支給基準として不十分な理由

口約束や慣習による運用が続いている会社では、「去年は遅刻しても手当をもらえた」「以前の担当者は有給でも皆勤扱いにしてくれた」という社員の期待が積み重なっています。この期待は「労働慣行」として法的効力を持つ場合があり、後から「今月から変えます」と言い出しても、社員から不利益変更として異議を唱えられるリスクがあります。明文化は「今後のルールを明確にする」だけでなく、「過去の慣行を整理してリセットする」ためにも必要なプロセスです。

就業規則に盛り込むべき支給基準の6項目

皆勤手当の規定に最低限書かなければならない項目は6つあります。これらが欠けると「書いてあるけれど解釈が割れる」という状態になり、再びトラブルの温床になります。

支給対象者・支給金額・対象期間の明記

まず、「誰に」「いくら」「何を基準に」支給するかを明記します。正社員とパートタイム社員で金額や基準が異なる場合は、それぞれの規定(または条文)で明確に分けます。対象期間は「各月の初日から末日まで」のように月単位で区切るのが一般的ですが、年単位(例:4月〜翌3月)で設計している会社もあります。対象期間が曖昧だと、中途入社・退職時の日割り計算の根拠が崩れるため、必ず確定させてください。

欠勤・遅刻・早退・半日欠勤のカウント方法

トラブルの大半はここで起きます。「欠勤1回で不支給」なのか「遅刻3回で欠勤1日換算」なのか、会社ごとに異なるルールを文書化せずに運用していると、管理者によって判断がばらつきます。以下の表を参考に、自社の方針を明文化してください。

事由 記載例(一例)
欠勤 1日でも欠勤した場合は不支給
遅刻・早退 同一月に3回以上の遅刻または早退で不支給
半日欠勤 半日欠勤2回を欠勤1日として扱う
有給休暇 皆勤日数に算入する(欠勤扱いにしない)
業務上の負傷・疾病 休業日数にかかわらず支給する
産前産後・育児・介護休業 取得した月は支給対象外とする(または支給する)

除外事由(不支給にしない事情)の列挙

欠勤に該当しても「皆勤扱いにする」または「不支給にしない」特別事情を除外事由として列挙します。業務上災害、慶弔休暇、裁判員裁判への出席、会社命令による研修などが代表例です。これらを書いていないと「業務中に怪我をして休んだのに皆勤手当がゼロになった」という不満や、法的問題につながる可能性があります。除外事由は「洩れなく書く」より「大きなカテゴリで網羅する」設計が現実的です。

有給休暇を欠勤扱いにすると何が問題になるか

有給休暇の取得日を欠勤としてカウントし、皆勤手当を不支給にする運用は、労働基準法第136条の趣旨に反するとして、実務上・裁判上ともに問題視されてきた経緯があります。

労働基準法第136条が禁じる「不利益な取扱い」

労働基準法第136条は、「使用者は、有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない」と定めています。有給取得日を欠勤扱いにして皆勤手当をゼロにする行為は、この「不利益な取扱い」に該当するとみなされるリスクがあります。

ただし、同条は罰則のない訓示規定(努力義務)であることから、「完全に違法か」という点は状況によって判断が分かれます。就業規則に明記されていた場合、手当の金額が軽微である場合など、個別の事情が絡むため、問題が生じたときは専門家への相談が不可欠です。

「有給を皆勤日数に算入する」と明記することが最も安全

リスクを避けるための実務上の結論は明快です。「年次有給休暇を取得した日は、皆勤手当の算定において出勤したものとみなす」と規定することです。この一文があれば、有給取得による不支給トラブルはほぼ防げます。「有給を取りにくい雰囲気にしたくない」という現場の文化にも合致し、社員の信頼にもつながります。

有給の扱いや皆勤手当の基準について「今の運用で本当に大丈夫か」と疑問に感じたら、早めに専門家に確認することをお勧めします。小さな疑問が後で大きなトラブルに発展することはよくあります。

過去の運用が違法に近かった場合の対処

すでに有給取得日を欠勤扱いにして皆勤手当を不支給にしてきた場合、遡及請求のリスクがあります。在籍中の社員からの申し出であれば、会社として過去の対応を振り返り、必要に応じて差額を補填する形で円満解決を図ることが現実的です。退職者からの請求には労働基準法上の賃金請求権の時効(2020年4月以降は原則3年)も関わるため、金額の規模や事情に応じて弁護士・社会保険労務士に早めに相談してください。

パート社員の皆勤手当は別規程で整備する

正社員の就業規則だけで運用しているケースでは、パートタイム社員への皆勤手当が「グレーゾーン」になりがちです。パートタイム・有期雇用労働者には、別途の就業規則(パート就業規則)または個別の明示が求められます。

パートタイム・有期雇用労働法が求める明示義務

パートタイム・有期雇用労働法(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)第6条・第7条は、パートタイム労働者の雇用管理に関する事項の明示を使用者に義務づけています。正社員の就業規則を「準用している」という曖昧な状態では、パートへの適用範囲が不明確になり、「私も皆勤手当をもらえるはずだ」という主張を受けたときに反論できません。

正社員とパートで支給基準が異なる場合の根拠整理

正社員とパートで皆勤手当の金額や基準を変える場合、その差異に「合理的な理由」があるかを確認してください。同一労働同一賃金の観点から、職務内容・責任範囲・配置転換の有無などによって差がある場合は根拠を文書化しておくことが重要です。理由なく「パートだから半額」では、同一労働同一賃金違反として問題になる可能性があります。

曖昧な運用をリセットして整備するための手順

「これまで感覚で払ってきた」状態から就業規則への明文化に移行する場合、順番を間違えると不利益変更トラブルを招きます。正しい手順で進めることが整備の成否を分けます。

現状の棚卸しと問題点の整理

まず、現在の運用を文書化します。「誰に・いくら・どの条件で払ってきたか」を書き出し、正社員とパートで違いがないかを確認します。次に、「有給取得日を欠勤扱いにしていないか」「遅刻の扱いが管理者によって異なっていないか」などの問題点をリストアップします。この棚卸しをせずに規程を作ると、現行慣行と新規程が食い違って混乱が生じます。

不利益変更への対応:合理的理由と周知が鍵

現在の運用より社員に不利な変更(例:「遅刻でも手当が出ていた」→「遅刻3回で不支給」)は、労働契約法第10条に定める就業規則の不利益変更に該当します。不利益変更が認められるためには、変更に合理的理由があること、および変更内容を社員に適切に周知することが必要です。一方的に新ルールを押しつけると、社員から異議申し立てを受けるリスクがあります。変更前に社員への説明機会を設け、可能であれば個別同意書を取得するのが望ましい対応です。

新規程の作成と届出・周知

規程の文案ができたら、社会保険労務士などの専門家に確認を依頼し、内容の整合性を確認します。常時10名以上の事業場では、就業規則の変更を労働基準監督署に届け出る義務があります。届出と同時に、全社員が閲覧できる場所への掲示、または電子的な共有により「周知」を完了させます。周知がなければ、新しい就業規則は効力を持たない点に注意が必要です(労働契約法第7条)。

まとめ

皆勤手当は「賃金」であるため、支給基準の明文化は法律上の義務であり、トラブル防止の基本です。就業規則には、支給対象者・金額・対象期間・欠勤のカウント方法・除外事由(有給休暇は皆勤日数に算入する旨を含む)を漏れなく盛り込む必要があります。パートタイム社員については正社員とは別にパート就業規則または個別明示で整備し、同一労働同一賃金の視点から支給基準の差異の根拠を明確にしてください。過去の曖昧な運用をリセットする際は、不利益変更のルール(労働契約法第10条)に従い、合理的理由の確認と社員への丁寧な周知が欠かせません。

皆勤手当の整備は「人事だけで判断すると後で困る」という相談をよく受けます。法的リスクと現場の実情のバランスを取るには、専門的なアドバイスがあると安心です。ウェルセンス株式会社にご相談ください。

よくある質問

Q. 従業員が9名以下でも就業規則に皆勤手当の基準を書く必要がありますか?

A. 常時9名以下の事業場は労働基準法第89条による就業規則の作成義務はありません。ただし、支給基準を文書化していない状態でトラブルが起きた場合、会社側が基準を証明できず不利になります。規模にかかわらず「皆勤手当支給規程」や「給与規程」として文書化しておくことを強くお勧めします。

Q. 有給休暇を取得した月の皆勤手当を今まで不支給にしていました。過去分を遡って払わなければなりませんか?

A. 遡及請求リスクはゼロではありません。賃金の請求権には原則3年の時効(2020年4月以降)があります。在籍中の社員から申し出があった場合は、状況に応じた対応が必要です。まず過去の運用の問題点を整理した上で、社会保険労務士や弁護士に相談し、和解・補填の可否を判断することをお勧めします。

Q. 遅刻を皆勤手当の不支給事由にする場合、何回から不支給にするのが一般的ですか?

A. 法律上「何回」という定めはなく、会社が合理的な基準を設定できます。実務では「同一月に3回以上の遅刻で不支給」や「遅刻3回を欠勤1日換算」とするケースが多く見られます。重要なのは「基準を就業規則に明記すること」であり、回数そのものより明文化の有無がトラブルを左右します。

Q. パートタイム社員に皆勤手当を払わないことは問題になりますか?

A. 同一労働同一賃金の観点から、正社員と同じ職務内容・責任でありながらパートだからという理由だけで皆勤手当を支給しない場合は問題になる可能性があります。職務内容・責任の程度・配置転換の有無などで合理的な差異があれば支給しないことも認められますが、その根拠を明文化しておく必要があります。不明な場合は専門家への確認をお勧めします。

Q. 就業規則の皆勤手当の条項を社員に不利な方向に変更したい場合、社員全員の同意が必要ですか?

A. 全員の個別同意は法律上の絶対条件ではありませんが、労働契約法第10条により「合理的な理由」と「適切な周知」が不利益変更の有効要件となります。変更内容が社員に与える不利益が大きいほど、より高い合理性と丁寧な説明が求められます。可能な限り社員への説明と個別同意書の取得を行うことが、後々のトラブルを防ぐ実務上の最善策です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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