健康診断で内定取り消しは違法?合法になる3つの条件

健康診断で内定取り消しは違法?合法になる3つの条件 コンプライアンス
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「内定を出した後の健康診断で、重い持病が発覚した。このまま採用してよいのだろうか……」。採用担当を兼務しながら、そんな判断を一人で抱え込んでいる方は少なくありません。しかし、健康上の理由による内定取り消しは、やり方を誤ると違法となるリスクが高く、後から紛争に発展するケースもあります。この記事では、内定取り消しが違法になる理由と、例外的に認められる3つの条件を、法的根拠とともにわかりやすく解説します。

内定は「解雇に準じる」ほど重い法的契約である

内定を取り消すことは、採用前だから自由にできる——この認識は法的に誤りです。内定の段階ですでに「解約権留保付き労働契約」が成立しており、取り消しには解雇と同水準の正当性が求められます。

内定の法的性質を示した2つの最高裁判例

最高裁は1977年の電電公社近畿電話局事件および1979年の大日本印刷事件において、採用内定の段階で労働契約が成立するという判断を示しました。つまり内定取り消しは「採用をやめる」ではなく、「成立した労働契約を解消する」行為です。労働契約法第16条が定める解雇権濫用法理が類推適用され、客観的合理的理由社会通念上の相当性の両方を欠く取り消しは無効となります。

「就労前だから自由」という誤解が招くリスク

中小企業では「まだ入社していないのだから」という感覚で内定取り消しを口頭で通告してしまうケースがあります。しかし内定者が損害賠償を求めて労働審判や訴訟に踏み切った場合、企業側は合理的理由の立証を求められます。書面を残していない、理由を明確にしていないといった状況は、企業にとって著しく不利です。

新卒採用の場合はさらに届出義務がある

新卒者の内定を取り消す場合、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)第17条に基づき、ハローワークへの届出義務が生じるケースがあります。また厚生労働省は「内定取り消しを行う場合は理由を書面で明示すること」を求めており、手続きを軽視すると行政指導の対象になることもあります。

健康診断の結果を採用判断に使うことは原則として許されない

健康診断の結果を採用の合否判断に用いることは、個人情報保護法および厚生労働省指針により、原則として禁止に近い扱いを受けます。「本人の同意を得て受診させた」という事実は、この問題を解消しません。

健康情報は「要配慮個人情報」として特別に保護される

2017年に全面施行された改正個人情報保護法により、病歴・身体障害・精神障害といった健康情報は要配慮個人情報に指定されました。要配慮個人情報の収集には原則として本人の明示的な同意が必要であり、収集した目的以外の利用——たとえば採用の可否を判断するための利用——は法律違反となります。

厚生労働省指針が示す「採用判断への利用禁止」

厚生労働省が定めた「雇用管理分野における個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項」(2017年改正)では、健康情報は「必要最小限の範囲で収集し、採用選考の合否判断に利用しない」ことが強く求められています。入社後の安全配慮義務を果たすために収集するのは認められていますが、それを「採用しない理由」に転用することは同指針の趣旨に明確に反します。

採用前に健康診断書の提出を求めること自体がリスクになりうる

「入社前提出書類として健康診断書を求めている」という慣行を持つ企業は少なくありません。しかしその提出を採用判断の材料にしている実態があれば、要配慮個人情報の目的外利用として問題視されます。提出を求める場合は「入社後の業務配置や安全配慮のため」という目的を明確にし、合否判断とは切り離して管理する体制が必要です。

内定取り消しが違法にならない3つの条件

健康上の理由による内定取り消しが例外的に認められるケースはあります。ただしその条件は非常に限定的であり、3つの要件をすべて満たす必要があります。

業務の本質的部分を遂行することが医学的に不可能または著しく困難である

「少し体調が心配」「将来的に問題が出るかもしれない」という漠然とした理由では不十分です。当該ポジションで求められる業務の本質的な部分(例:現場作業・夜間勤務・危険物取扱いなど)を遂行することが、医学的根拠に基づいて不可能または著しく困難であると判断できる場合に限られます。医師の診断書等の客観的な証拠が不可欠です。

合理的配慮を検討・実施してもなお対応が困難である

障害者差別解消法および障害者雇用促進法は、障害や疾病を持つ人への合理的配慮を事業主に求めています。内定取り消しを検討する前に、業務内容の変更・勤務時間の調整・配属部署の変更といった合理的配慮を具体的に検討したかどうかが問われます。「検討したが対応できなかった」という事実と経緯を記録として残すことが重要です。

内定時に告知された情報と実態に著しい乖離がある

採用選考の過程で虚偽の申告(例:就労に支障がある重篤な疾患を意図的に隠していた)があり、それが採用判断に直接影響するような重大な事実であった場合は、解約留保権の行使が認められる可能性があります。ただしこれも「仮に事前に知っていれば採用しなかった」という合理的判断が医学的・業務的に説明できることが条件です。単なる「知らなかった」だけでは不十分です。

条件 必要な要素 注意点
業務遂行の医学的不可能性 医師の診断書・職務記述書との照合 「将来的なリスク」は理由にならない
合理的配慮の検討・不能 配慮案の具体的検討記録 検討なしに取り消すと差別的扱いと見なされる
重大な虚偽申告の存在 虚偽の事実・採用判断との因果関係 「隠していた」だけでは不十分な場合もある

障害・精神疾患を理由とした取り消しには差別禁止規定が適用される

身体障害・精神障害・慢性疾患を理由とした採用拒否や内定取り消しは、障害者差別解消法および障害者雇用促進法の差別的取扱い禁止規定に抵触する可能性があります。

障害者雇用促進法が禁じる「差別的取扱い」とは

障害者雇用促進法は、障害を理由とした採用拒否・解雇・賃金差別等を明確に禁止しています。精神疾患の既往歴(うつ病・適応障害など)を理由に「採用リスクが高い」と判断して内定を取り消すことは、この禁止規定に抵触するリスクが高いと言えます。精神疾患は現在も偏見が残りやすい領域ですが、法的には身体障害と同等の保護が与えられています。

「業務への影響可能性」を理由にすることの危険性

「この疾患があると将来的に休みが増えるかもしれない」「チームに負担がかかるかもしれない」という推測に基づく判断は、差別的取扱いと認定されるリスクが特に高い類型です。実際に業務への支障が生じているわけではなく、属性(病名・障害名)に基づいて不利益な判断をしている点で、差別的取扱いの典型例に当たります。

企業規模を問わず適用されるという認識を持つ

障害者差別解消法の合理的配慮提供義務は、2024年の法改正により民間事業者にも義務化されました(それ以前は努力義務)。従業員数20〜50名規模であっても例外はなく、「小さい会社だから」という理由で免除されるものではありません。就業規則や採用フローにこの視点を組み込む必要があります。

内定取り消しを回避するための実務対応フロー

内定取り消しを検討する前に取るべきステップがあります。適切なプロセスを踏むことで、法的リスクを最小化しつつ、採用後のリスク管理にもつながります。

まず本人と丁寧に面談し、状況を正確に把握する

健康上の懸念が生じた場合、まず内定者本人と面談を設定し、現在の状態・治療状況・就労への意欲・必要な配慮事項を直接確認することが出発点です。この際、「採用を取り消す可能性がある」という前提で臨むのではなく、「どうすれば一緒に働けるかを考えたい」という姿勢で臨むことが、法的にも倫理的にも適切です。面談内容は記録として残しておきましょう。

産業医・主治医の意見を文書で取得する

産業医が選任されている企業(常時50名以上の事業場では選任義務あり)であれば、産業医に業務内容を提示した上で就労可否の意見を求めます。50名未満で産業医がいない場合は、内定者の同意を得た上で主治医に対して業務内容を説明し、就労に関する意見書を依頼することが現実的です。医師の意見なしに「業務に支障がある」と判断することは、客観的合理性を欠きます。

医師の意見取得は、判断の客観性を確保する上で最も重要なステップです。判断に迷うなら、この段階で専門家に相談することで、後々のトラブル防止につながります。

配慮案を具体的に検討・記録し、それでも困難な場合のみ法的判断へ

医師の意見を踏まえ、業務内容の変更・時短勤務・配属部署の調整・テレワーク活用など合理的配慮の具体案を検討します。その内容と、なぜ対応が困難なのかを文書化した上で、労働法に詳しい社会保険労務士や弁護士に相談することを強くお勧めします。この段階を経ずに内定取り消しを行うことは、後から争われた際に企業側が著しく不利な立場に置かれます。

まとめ

健康診断の結果を理由とした内定取り消しは、原則として違法リスクが高い行為です。内定はすでに「解約権留保付き労働契約」として成立しており、取り消しには客観的合理的理由と社会通念上の相当性が求められます。健康情報は要配慮個人情報として採用判断への利用が制限されており、障害・疾病を理由とした取り消しは差別的取扱いにも問われます。例外的に認められる3つの条件(医学的な業務遂行不能・合理的配慮の検討・重大な虚偽申告)を満たしていない限り、安易な取り消しは避けるべきです。

「この内定者への対応、このままでいいのだろうか」と感じたとき、一人で抱え込まないことが大切です。ウェルセンス株式会社では、専任人事が不在の中小企業の経営者・兼務人事担当者を対象に、メンタルヘルス対応・休職復職支援から採用時の健康情報の取扱いに関するご相談まで、実務に即したサポートを行っています。判断に迷ったタイミングで、お気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 内定者が健康診断で重大な疾患が発覚した事実を自分から隠していた場合、内定取り消しは可能ですか?

A. 可能性はありますが、条件があります。虚偽申告の事実、その情報が採用判断に直結する重大性、および実際に業務の本質的部分の遂行が困難であることを医学的に示す必要があります。「隠していた」という事実だけで自動的に取り消しが認められるわけではないため、弁護士や社会保険労務士への相談を先に行うことを強くお勧めします。

Q. 入社前に「健康に関して申告すべきことはありますか」というアンケートを取るのは問題ありませんか?

A. 質問の目的と範囲によります。「入社後の安全配慮や業務配置のために必要な情報を確認する」という目的で、本人の同意を得た上で行う場合は一定の合理性があります。ただし収集した回答を採用の合否判断に使用することは個人情報保護法および厚生労働省指針に抵触するリスクがあります。目的を明確に説明し、採用判断とは切り離した管理体制を整えることが重要です。

Q. 精神疾患の既往歴がある内定者を「採用リスクが高い」と判断して断ることはできますか?

A. 原則としてできません。精神疾患の既往歴を理由とした採用拒否は、障害者雇用促進法が禁じる差別的取扱いに該当するリスクが高い類型です。「将来的に休むかもしれない」という推測に基づく判断も同様です。現時点での就労可否について医師の意見を確認し、合理的配慮を検討した上でなお困難な場合に限り、法的根拠に基づいた対応を検討してください。

Q. 内定取り消しを行う場合、どのような手続きが必要ですか?

A. まず内定者本人に対して取り消しの理由を書面で明示することが求められます。新卒者の場合は労働施策総合推進法第17条に基づきハローワークへの届出義務が生じる場合があります。口頭だけで済ませると、後から「理由を告げられなかった」と争われるリスクが高まります。理由の記録・書面化・届出の要否確認を必ず行い、判断に迷う場合は社会保険労務士に相談することをお勧めします。

Q. 内定取り消しを避けた場合、入社後に体調が悪化したときはどう対応すればよいですか?

A. 入社後の体調悪化には、休職制度の適用・業務内容の調整・産業医や支援機関との連携といった対応が基本となります。就業規則に休職規定が整備されているかを確認し、なければ早めに整備することをお勧めします。50名未満で産業医がいない場合でも、外部の産業保健サービスや専門家への相談窓口を設けておくことで、入社後の対応力が大きく向上します。ウェルセンス株式会社では、こうした休職復職対応の体制づくりもサポートしています。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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