慶弔休暇、同性パートナーや事実婚はどこまで認める?

慶弔休暇、同性パートナーや事実婚はどこまで認める? 採用・定着
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「社員から、同性パートナーが亡くなったので忌引きを取りたいと申し出がありました。どう対応すればよいですか?」——人事担当者からこうした相談が届くケースが、ここ数年で確実に増えています。既存の就業規則には「配偶者・2親等以内の親族」と書いてあるだけ。事実婚や同性パートナーのことは、一切触れられていない。その場で答えられず、判断を先送りにしてしまった、という経験をお持ちの方もいるのではないでしょうか。この記事では、法的な位置づけの整理から、規程の見直し方、証明書類の扱い方まで、実務に即して解説します。

慶弔休暇に「法的義務」はない──だから規程整備が重要になる

慶弔休暇(忌引き休暇)は法定外休暇であり、企業が任意で設ける制度です。同性パートナーや事実婚の相手を対象に含めるかどうかは、原則として企業の裁量に委ねられています。

慶弔休暇の法的な位置づけ

労働基準法は慶弔休暇の付与を義務付けていません。有給休暇や育児休業とは異なり、「設けなければならない」という法的強制力はありません。ただし、就業規則に慶弔休暇を定めた場合、その内容は労働基準法第89条が定める絶対的必要記載事項(休暇に関する事項)に該当するため、就業規則への明記が必要です。「設けるかどうか」は任意、「設けた以上は明記が必要」という関係です。

「義務がないから対応しなくていい」は危険な判断

法的義務がないことを確認した上で、次の問いに向き合う必要があります。規程が曖昧なまま放置すると、管理職や担当者が個別に判断せざるを得なくなります。その結果、「Aさんは認めてもらえたのに、なぜ自分は違うのか」という不公平感が社内に広がりやすくなります。規程の不備が生むのは「対応しないリスク」だけでなく、「属人的な運用が招く不満」です。

LGBT理解増進法(2023年施行)との関係

2023年に施行された「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」(LGBT理解増進法)は、企業に対して理解増進のための措置を努力義務として求めています。罰則規定はなく、直接の法的強制力はありませんが、同性パートナーを慶弔規程の対象外と明記することは、この法律の趣旨とは相容れない方向性となります。法律の求める方向と自社の規程が整合しているかどうかを確認することは、現代のリスク管理の一環といえます。

「どこまで認めるか」の線引き──合理的な基準の立て方

感情論ではなく、合理的な根拠に基づいて対象範囲を設定することが、社内での納得感につながります。キーワードは「生活上の実態」と「確認可能な証明」です。

事実婚(内縁関係)をどう扱うか

事実婚とは、婚姻届を提出していないものの、社会生活上の実態として婚姻と同等の関係にある状態を指します。健康保険法や雇用保険法では、被扶養者や受取人の認定において事実婚配偶者を認める仕組みが設けられています。慶弔規程への適用はあくまで企業判断ですが、社会保障制度と同等の基準を採用すること自体は合理的な根拠のある選択といえます。

同性パートナーをどう扱うか

同性カップルは法律上の婚姻が認められていないため、現行の「配偶者」という文言だけでは対象に含まれません。しかし、自治体が発行するパートナーシップ証明書を保有する場合、企業が独自に「パートナーシップ証明書の提出をもって配偶者と同等に扱う」と規程に定めることは可能です。法的な強制力はありませんが、企業内規範として有効であり、大企業を中心にこの方式を採用する事例が広がっています。

「長年の交際相手」はどうするか

「事実婚や同性パートナーを認めたら、長年付き合っているだけの交際相手はどうなるのか」という疑問は実務上よく出てきます。線引きの基準を「生活実態の証明ができるかどうか」に置くことで、この問いに一定の答えが出せます。同居の事実や、社会保障上の扶養関係など、客観的に確認できる状態を条件とすることで、「誰でも申し出ればOK」という状態を避けられます。

規程に盛り込む際の実務的な整備ポイント

規程の文言を変えるだけでなく、申請手順・証明書類・運用フローまで一体で整備することが、トラブルを防ぐ上で重要です。

規程の文言をどう書き直すか

既存の就業規則に「配偶者」とある箇所に、例えば「配偶者(婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同等の事情にある者、および会社が定める書類によりパートナー関係が確認できる者を含む)」という形で追記するアプローチが実務的です。文言が長くなる場合は、別途「慶弔規程」として詳細を切り出し、就業規則本体では「慶弔規程の定めによる」と参照する構成にすることもできます。

証明書類として何を求めるか

申し出だけで認める「申し出主義」も選択肢の一つですが、不公平感の防止と運用の一貫性を保つために、確認書類を定めることが一般的です。関係性ごとに求める書類の目安を以下に整理します。

関係性 確認書類の例
法律上の婚姻(配偶者) 戸籍謄本または住民票
事実婚(内縁関係) 続柄記載の住民票、健康保険の被扶養者証明など
同性パートナー 自治体発行のパートナーシップ証明書、または住民票(同一世帯記載)

証明書類がない場合の対応方針

パートナーシップ証明書を発行していない自治体に居住している場合や、住民票の続柄が「同居人」としか記載されないケースもあります。こうした場合に備えて「会社が合理的と判断した場合は、書類に代えて申告書を提出させることができる」という例外規定をあらかじめ設けておくと、現場の柔軟性を担保しつつ、属人的な判断に陥ることを防げます。

個別対応が既に始まっている場合や、どの対応が自社に適切かわかりにくいときは、人事労務の専門家に相談すると判断を整理しやすくなります。

会社の状況に応じた対応の考え方

すべての会社が同じ対応を取る必要はありません。従業員数・就業規則の整備状況・採用戦略などによって、優先すべき対応は変わります。

就業規則が未整備、または長年更新していない会社

まず現在の就業規則に慶弔規程が明記されているかを確認します。記載がない場合、「設けていない」のか「実態として運用しているが書かれていない」のかを整理することが先決です。慶弔休暇を実態として与えているにもかかわらず規程がなければ、労働基準監督署の指導対象になり得ます。この機会に規程全体の見直しとあわせて、対象範囲の整備を行うことを検討してください。

顧問社労士に相談しているが回答が得られない会社

就業規則の形式的な整備と、多様性に配慮した実態に即した運用ルールの整備は、別の専門性を要します。顧問社労士が必ずしもこの領域に精通しているとは限りません。慶弔規程の多様性対応は、労働法の知識に加えて、採用・組織文化・リスクマネジメントの観点が絡み合うテーマです。専門の相談窓口を活用することも一つの手です。

採用・ブランディングに力を入れている会社

求職者が企業を選ぶ際、口コミサイトやSNSでの評価はもはや無視できない情報源です。「同性パートナーの忌引きを認めてもらえなかった」という体験は、退職後に発信される可能性があります。採用競争力という観点でも、慶弔規程の多様性対応は投資対効果が見えやすい施策の一つです。自社がどのような文化・価値観を持つ企業として認知されたいか、という視点で規程整備を位置づけると判断しやすくなります。

整備を進める際に起きやすいミスと防ぎ方

規程を整備しようと動き始めると、いくつかの典型的なつまずきポイントがあります。事前に知っておくことで、対応をスムーズに進められます。

「認めた事例」が一人歩きするリスク

規程整備の前に個別対応してしまい、「前例があるから自分も認めてもらえるはずだ」という流れが生まれるケースがあります。個別の判断が先行した場合でも、その後に規程を整備して基準を明文化することで、「今後はこのルールに基づいて判断する」という姿勢を社内に示すことができます。過去の対応と規程が矛盾する場合は、「整備以降は規程に基づく」と明記しておくことが重要です。

規程は整備したが周知されていない問題

就業規則や慶弔規程を改定しても、社員に周知されていなければ意味がありません。労働基準法上も、就業規則は常時各作業場の見やすい場所に掲示または備え付けるなどの方法で周知しなければなりません(第106条)。改定の際は、変更内容をメールや社内ポータルで共有し、質問を受け付ける機会を設けることが実務的なトラブルを防ぎます。

「親族」の範囲との整合性を確認する

同性パートナーや事実婚配偶者を慶弔休暇の対象に加えた場合、その「親(義父母相当の関係)」が亡くなったときの扱いも整理が必要です。「パートナーが亡くなった場合」は規程に明記したが、「パートナーの親が亡くなった場合」については規定がない、という抜け漏れが起きやすいポイントです。対象範囲の整備は、本人だけでなく関連する親族関係まで視野に入れて検討してください。

規程の見直しが複雑に感じたら、人事だけで抱え込まず、外部の専門家に一度整理してもらうことで判断がシンプルになります。

まとめ

慶弔休暇は法定外休暇であり、同性パートナーや事実婚の相手を対象に含める法的義務はありません。しかし、規程が曖昧なままでは、個別対応の不公平感や離職リスク、採用上の評判低下など、別のリスクを招きます。対応の方向性としては、「生活実態の証明」を基準にした合理的な線引きを行い、確認書類の種類・例外対応・親族範囲まで含めて規程を一体的に整備することが重要です。

自社の規程が現状に合っているか確認したい、どこから手をつければよいかわからないという場合は、ウェルセンス株式会社にお気軽にご相談ください。就業規則の内容確認から、実態に即した運用ルールの整備まで、中小企業の人事担当者の視点に立ったアドバイスを提供しています。

よくある質問

Q. 同性パートナーの忌引きを認めないと、法律違反になりますか?

A. 現時点では直接の法律違反にはなりません。慶弔休暇は法定外休暇であり、対象範囲の設定は企業の裁量に委ねられています。ただし、2023年施行のLGBT理解増進法は企業に理解増進の努力義務を求めており、明示的に対象外とする規程はその趣旨と合わない方向性となります。法的リスクよりも、採用・組織文化・社員の信頼という観点でのリスクを意識することが現実的な判断軸です。

Q. パートナーシップ証明書がない自治体に住んでいる社員はどうすればよいですか?

A. パートナーシップ証明書を発行していない自治体も存在します。その場合は、同一世帯が確認できる住民票(続柄記載)や、会社所定の関係申告書の提出を条件とする例外規定を設けることで対応可能です。規程に「会社が合理的と認めた場合は書類に代えて申告書を提出させることができる」と明記しておくと、現場の柔軟性を確保しつつ運用の一貫性を保てます。

Q. 事実婚を認める場合、「長年の交際相手」との線引きはどうすればよいですか?

A. 「証明できる生活実態があるかどうか」を基準にすることが合理的です。具体的には、続柄が記載された住民票で同一世帯であることが確認できる、または健康保険の被扶養者として認定されているなど、客観的な書類で確認できる関係を対象とします。「交際しているだけ」の関係とは区別できる基準を設けることで、属人的な判断を避けられます。

Q. 規程整備は社労士に依頼すれば対応してもらえますか?

A. 就業規則の形式的な整備(法定記載事項の確認・文書作成)は社労士の得意領域ですが、同性パートナーや事実婚への多様性対応は、採用・組織文化・リスクマネジメントの視点が絡む領域であり、すべての社労士が詳しいわけではありません。顧問社労士に相談した上で回答が得られなかった場合や、実態に即した運用ルールまで踏み込んで整理したい場合は、専門の相談窓口の活用をご検討ください。

Q. 同性パートナーを認めた場合、そのパートナーの親が亡くなったときも忌引きになりますか?

A. 規程の文言次第です。「同性パートナーを配偶者と同等に扱う」と定めた場合、配偶者の父母(義父母相当)についても同等に扱うのか否かを明記しておく必要があります。「パートナー本人の死亡」だけを対象にした規程では、パートナーの親の死亡時に対応できないケースが生じます。規程整備の際は、本人だけでなく親族範囲まで含めて検討することをお勧めします。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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