「来月から変動シフトに切り替えたい。でも、従業員に一方的に伝えてもいいものか……」。コスト管理や繁閑対応のために、固定シフトから変動シフトへの切り替えを検討する中小企業は少なくありません。しかし「経営判断だから会社が決めていい」「就業規則に書いてあればOK」という認識のまま進めてしまうと、後から大きなトラブルに発展するケースがあります。この記事では、シフト変更に同意が必要な理由と、正しい手順をわかりやすく解説します。
シフトの固定から変動への変更は「不利益変更」になりうる
結論からお伝えすると、シフトの固定から変動への切り替えは、多くのケースで「労働条件の不利益変更」に該当し、従業員の個別同意が必要です。経営上の判断だけで一方的に変更することは、法的リスクを伴います。
不利益変更とは何か
「不利益変更」とは、労働契約で定めた条件を、従業員にとって不利な方向へ変えることを指します。シフトの固定から変動への切り替えは、一見すると「勤務形態の調整」に見えますが、従業員の側からすると生活リズムの変化、収入の予見可能性の低下、育児・介護のスケジュール調整の困難といった実害が生じます。こうした影響がある以上、不利益変更として扱われるのが一般的です。
雇用契約書・労働条件通知書の記載内容が重要
変更が不利益変更に当たるかどうかを判断するうえで、まず確認すべきなのが雇用契約書や労働条件通知書の記載内容です。「毎週月・水・金勤務」「固定シフト制」のように曜日や時間帯が明記されている場合、それは契約内容として保護されます。一方、「シフトは会社が決定する」「変動シフト制」と記載されている場合は、契約上の根拠がすでに存在するため、変更の余地が生まれます。まずは手元の書類を確認することが出発点です。
パート・アルバイトも正社員も扱いは同じ
「パートだから気軽に変えられるだろう」という誤解は非常に多く見られます。しかしパートタイム・有期雇用労働法においても、短時間労働者の労働条件の明示・変更についてしっかりとした規律が設けられており、雇用形態による例外はありません。契約書に記載された条件は、正社員と同様に労使合意なしには変更できないのが原則です。
就業規則を変えれば個別同意は不要か
就業規則を改定するだけで個別同意なしに変更できる、というのは誤りです。法律上、就業規則による不利益変更には厳格な要件が求められており、「書き換えれば終わり」とはなりません。
労働契約法が定める「合意変更の原則」
労働契約法第8条は、「労働契約の内容は、労使合意によってのみ変更できる」と定めています。さらに同法第9条は、就業規則による一方的な不利益変更を原則禁止しています。これは、就業規則が会社側の文書である以上、それを変えるだけで従業員の契約内容を一方的に書き換えることを認めると、労働者保護が骨抜きになるからです。
例外的に有効となる「合理性」の要件
ただし、労働契約法第10条には例外があります。就業規則の変更が以下の要素を総合的に満たす場合、個別同意がなくても変更が有効と認められることがあります。
| 判断要素 | 確認すべき内容 |
|---|---|
| 変更の必要性 | 経営上・業務上の合理的な必要性があるか |
| 不利益の程度 | 従業員が受ける生活上・収入上の影響の大きさ |
| 代償措置・経過措置 | 手当の新設や移行期間の設定など緩和策があるか |
| 労使間の交渉経緯 | 誠実に協議・説明を行ったか |
| 周知の方法・程度 | 従業員に適切な方法で知らせたか |
| 業界慣行との整合性 | 同種事案での業界標準と大きく乖離していないか |
これらをすべて満たしても「必ず有効」とは限らず、裁判所が総合的に判断します。中小企業の実務では、こうした合理性の立証は容易ではないため、できる限り個別同意を取得するプロセスを踏むことが安全策です。
就業規則変更に必要な手続き
仮に就業規則を改定する場合も、労働基準法第90条に基づき、労働者代表への意見聴取と意見書の作成が必要です。常時10人以上の従業員がいる事業場では、変更した就業規則を労働基準監督署へ届け出る義務(労働基準法第89条)も生じます。意見聴取は「同意を得ること」とは異なりますが、誠実に行った記録を残すことが後のトラブル対応で重要になります。
正しい変更手順:合意取得の進め方
シフトを固定から変動へ変更するときは、就業規則の整備と個別合意の取得をセットで行うことが基本です。どちらか一方だけでは不十分です。
現状確認から始める
まず最初に、変更対象となる従業員の雇用契約書・労働条件通知書を全員分確認します。「シフト固定」「特定曜日勤務」などの記載があれば、それが変更対象の契約条件です。書面が存在しない・内容が曖昧な場合は、書面を整備してから変更交渉に入ることを推奨します。書面がない状態での変更は、後の紛争時に会社側の証拠が弱くなります。
説明・協議の場を設ける
次に、変更の目的・内容・不利益の程度・代償措置を従業員に丁寧に説明し、意見を聞く機会を設けます。「業務効率化のため」「人員配置の最適化のため」といった理由を具体的に伝えることが大切です。また、移行期間(たとえば「3か月間は現行シフトを優先的に組む」など)を設けることで、従業員の生活設計への配慮を示すことができます。長年固定シフトで働いてきた従業員ほど、この説明の丁寧さが納得度に直結します。
説明の進め方に不安がある場合、書面作成のポイントや従業員との面談の流れについて、事前に相談しておくと進めやすくなります。
合意書を書面で残す
説明・協議を経て従業員の同意が得られたら、必ず書面で合意書を作成し、双方が署名・押印して各自が一部を保管します。合意書には「変更内容」「変更時期」「代償措置の内容」を明記します。口頭での合意や「了解しました」というメールだけでは、後に「聞いていない」「強制された」という主張をされたときに対抗が難しくなります。
従業員が同意しなかった場合はどうなるか
従業員が変更に同意しない場合、会社は一方的に変更を強行することはできません。強行すれば、労働契約違反として損害賠償請求や労働審判・訴訟のリスクが生じます。
同意拒否はそれ自体が解雇理由にならない
「変更に同意しないなら辞めてもらう」という対応は、解雇権濫用法理(労働契約法第16条)に抵触する可能性が高く、原則として許されません。シフト変更への同意拒否を理由とした解雇は、裁判で無効と判断されるリスクが高い行為です。
合意できない従業員への現実的な対応
同意が得られなかった従業員については、現行の契約条件を維持するか、個別に再交渉を続けるのが基本的な対応です。どうしても業務上の変更が不可避であれば、整理解雇の要件(いわゆる「4要件」:人員削減の必要性・解雇回避努力・人選の合理性・手続きの相当性)を満たすことが必要になりますが、そのハードルは非常に高く、中小企業が単独で判断するのは困難です。こうした局面では、社会保険労務士や弁護士への相談を早めに行うことを強くお勧めします。
一方的変更が「違法」と判断された場合のリスク
従業員が同意していないにもかかわらずシフト変更を強行した場合、未払い賃金の請求(固定シフトで働けたはずの時間分の賃金)、慰謝料請求、労働基準監督署への申告といった形でトラブルが顕在化します。小規模な会社ほど、一件のトラブルが経営や職場全体の雰囲気に与える影響は大きくなります。
🔗 説明の進め方に不安がある場合、書面作成のポイントや従業員との面談の流れについて、事前に相談しておくと進めやすくなります。 →
雇用形態・従業員数による確認ポイントの違い
手順の基本は共通ですが、会社の規模や雇用形態によって確認すべきポイントが異なります。自社の状況に当てはめて判断してください。
従業員数が10人未満の場合
常時雇用する従業員が10人未満の事業場は、就業規則の作成・届出義務がありません(労働基準法第89条)。ただし、就業規則がなければ「変更手続き」のよりどころとなる文書が存在しない状態です。この場合は雇用契約書・労働条件通知書がより一層重要な役割を果たします。個別合意の取得プロセスを特に丁寧に行うことが求められます。
パート・有期雇用従業員が多い場合
パートタイム・有期雇用労働法は、短時間労働者・有期雇用労働者の労働条件明示や変更について、正社員と同等の保護を求めています。「パートだから」「アルバイトだから」という理由で手続きを省略することはできません。また、有期雇用契約の期間中は、契約期間内に条件変更をする場合のハードルがさらに高くなる点にも注意が必要です。
既存の就業規則にシフト関連の規定がある場合
就業規則に「会社はシフトを決定できる」という規定がある場合でも、その規定が雇用契約書の個別条件より後から定められたものであれば、個別契約が優先されることがあります(労働契約法第12条)。就業規則と雇用契約書の内容がどちらが従業員にとって有利かを確認し、有利な条件が適用されることを念頭に置いて手続きを設計してください。
「自社のケースに当てはめた判断が必要」と感じられたら、書面の内容確認や手続きの妥当性について、人事の専門家に相談することをお勧めします。
🔗 「手続きの流れが複雑で判断がつかない」「書面作成に不安がある」という場合は、人事労務の実務経験を持つ専門家のサポートが有効です。 →
まとめ
シフトを固定から変動へ変更するとき、雇用契約書・労働条件通知書に固定シフトが明記されている場合は、従業員の個別同意が必要です。就業規則を書き換えるだけでは不十分であり、従業員への丁寧な説明・協議・書面による合意取得のプロセスが不可欠です。パート・アルバイトも例外ではなく、雇用形態にかかわらず同様の手続きが求められます。同意が得られない場合に一方的な変更を強行することは法的リスクを伴い、解雇を持ち出すことも原則として認められません。
「手続きの流れが複雑で判断がつかない」「書面作成に不安がある」という場合は、人事労務の実務経験を持つ専門家のサポートが有効です。ウェルセンス株式会社では、人事専任担当者がいない中小企業向けに、シフト変更の手続き相談や書面整備のサポートを行っています。お気軽にお問い合わせください。
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