試用期間終了後に本採用通知しないとどうなる?

試用期間終了後に本採用通知しないとどうなる? 労務管理
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「そういえば、Aさんの試用期間、先月で終わってたな……」——気づいたとき、すでに1ヶ月が過ぎていた。採用・労務・総務をひとりでこなす兼務担当者にとって、試用期間の満了日を見落とすのは決して珍しいことではありません。しかし、本採用の通知を出し忘れた場合、法的には「自動的に正社員になった」とみなされるリスクがあります。この記事では、試用期間終了後に本採用通知しない場合の法的リスク、本採用拒否の限界、通知書の書き方まで、実務で使えるポイントを整理します。

通知しないまま働かせると「自動的に正社員」になる

試用期間が満了しても本採用の可否を明示しないまま就労を継続させた場合、法律上は「黙示の本採用」とみなされる可能性が高く、後から取り消すことは困難になります。

なぜ「黙示の本採用」が成立するのか

試用期間は、採用の段階からすでに労働契約が成立した状態で始まります。最高裁大法廷の三菱樹脂事件判決(昭和48年12月12日)は、試用期間中の雇用を「解約権が留保された労働契約」と位置づけています。つまり、試用期間は「雇用するかどうかを決める期間」ではなく、「契約を維持するかどうかを判断する期間」に過ぎません。

この解約権(本採用拒否の権利)は、試用期間が満了した時点で行使しなければ、自動的に消滅します。その後も本人を出社させ、給与を支払い続けた場合、会社が黙示的に本採用を承認したとみなされるのです。

「まだ判断できない」という先送りが一番危ない

「もう少し様子を見てから決めよう」と試用期間満了後も意思表示をしないまま数週間・数ヶ月が経過するケースが多く見られます。この状態は法的に非常に不安定であり、万が一本人から「自分は正社員のはずだ」と主張された場合、会社側に反論の余地がほとんどなくなります。判断が難しいと感じたときこそ、後述する「試用期間の延長」という選択肢を正しく使う必要があります。

通知忘れが発覚したらまず確認すべきこと

すでに試用期間満了日を過ぎてしまった場合は、次の点を確認してください。まず、雇用契約書や就業規則に「期間満了時に明示的な意思表示がなければ本採用とする」または「しない」旨の記載があるかどうかを確認します。次に、満了後に給与明細・業務指示・社会保険の継続手続きなどが行われているかを確認します。これらが行われている場合、本採用が既に成立している可能性が高いと判断し、早急に労働法の専門家に相談することをお勧めします。

本採用拒否のハードルは「低め」だが、ゼロではない

試用期間終了時の本採用拒否は通常解雇より広い裁量が認められていますが、「合理的な理由」と「社会通念上の相当性」は依然として必要です。

通常解雇との違い

試用期間中・終了時の本採用拒否は、通常の解雇と比べると使用者に認められる裁量が広いとされています。これは、試用期間が「採用した人材の適性を見極めるための期間」として設けられているためです。ただし、それはあくまで「通常より広い」というだけであり、理由のない恣意的な拒否は無効になります。労働契約法第16条(解雇権濫用法理)が類推適用されるため、「なんとなく合わない」「他の従業員が嫌がっている」といった漠然とした理由では正当性を認められません。

本採用拒否が認められやすい理由・認められにくい理由

認められやすい理由の例 認められにくい理由の例
履歴書・職務経歴書の重大な虚偽記載 「なんとなく雰囲気が合わない」
業務遂行能力が採用時の説明と著しく乖離している(記録あり) 性別・国籍・思想信条を理由にする
無断欠勤・ハラスメント行為など規律違反が複数回記録されている 妊娠・育児を理由にする(違法)
試用期間中に面談・フィードバックを行い改善が見られなかった 面談・指導の記録が一切なく、突然拒否する

解雇予告は試用期間でも必要になる

試用期間中だからといって解雇予告が不要というわけではありません。労働基準法第21条により、採用から14日を超えて継続雇用した場合は、本採用拒否(解雇)にも30日前の解雇予告、または解雇予告手当(平均賃金の30日分)の支払いが原則として必要です。多くの企業の試用期間は3〜6ヶ月に設定されており、ほぼ全ての場合がこの規制の対象になると考えてください。

試用期間を延長したい場合の正しい手順

試用期間の延長は、就業規則・雇用契約書への明記と本人の同意があれば可能ですが、根拠なく一方的に延長することは法的リスクを生みます。

延長に必要な二つの要件

試用期間の延長が認められるためには、就業規則または雇用契約書に「一定の場合に試用期間を延長することがある」旨があらかじめ記載されていること、そして延長する際に本人の同意を得ることの、二つが必要です。どちらが欠けていても、延長の効力が否定されるリスクがあります。入社時に交わした雇用契約書に試用期間の延長条件が書かれているかどうかを、まず確認してください。

「もう少し見たい」は口頭では通らない

「口頭で延長を伝えたから大丈夫」という処理は避けるべきです。延長の事実と理由は書面で残し、本人の署名を得ることが実務上の鉄則です。後日「延長の合意はしていない」「説明を受けていない」と主張された場合、書面がなければ会社側は証明できません。延長期間の長さも合理的な範囲にとどめる必要があり、長期にわたる延長は「本採用を意図的に避けている」として問題視されることがあります。

就業規則に試用期間の規定がない会社の場合

従業員数が10名未満の会社は就業規則の作成義務がありませんが、試用期間を設けるのであれば雇用契約書に試用期間の長さ・延長条件・本採用拒否の要件を明記することを強くお勧めします。これらの記載がない場合、本採用拒否の根拠が極めて薄くなります。

本採用通知書・本採用拒否通知書の書き方

本採用の可否は必ず書面で通知することが実務の基本です。口頭のみの伝達は「言った言わない」のトラブルを招き、会社にとって不利な証拠状況を生み出します。

本採用通知書に盛り込むべき内容

本採用通知書は、試用期間満了日の前に交付するのが理想です。記載すべき主な内容は次のとおりです。まず、本採用の確定日(例:「令和〇年〇月〇日をもって本採用とする」)を明記します。次に、本採用後の労働条件(職種・賃金・勤務場所・勤務時間など)を改めて確認する文言を入れます。入社時の雇用契約書と条件が変わる場合は特に重要です。最後に、受領年月日と本人の署名欄を設け、必ず署名をもらってください。

本採用拒否通知書に盛り込むべき内容

本採用拒否通知書は、試用期間満了日の30日以上前に交付するか、解雇予告手当を添えて交付します。記載すべき内容は、本採用を行わない旨の明示、拒否の理由(具体的な事実に基づく記載)、試用期間満了日または退職日、解雇予告手当の支払い方法(該当する場合)、そして本人の受領署名欄です。拒否理由は「能力不足」などの抽象的な表現にとどめず、「〇月〇日の面談でお伝えした○○業務における習熟度の不足」のように、具体的な事実と、それを事前に本人に伝えていたことが分かる記述にすることが重要です。

通知のタイミングと渡し方

通知は本人との面談の場で直接手渡し、その場で内容を説明するのが基本です。郵送・メールのみで済ませると、受け取りの事実や説明の機会の有無が争われる原因になります。面談の際は、通知書の内容を読み上げた上で署名を求め、コピーを1部本人に渡してください。面談記録(日時・場所・出席者・伝えた内容の要点)も残しておくと、後のトラブル対応に役立ちます。

日常的な管理で「通知忘れ」を防ぐ仕組みをつくる

本採用通知の漏れを防ぐためには、採用時点でアラートの仕組みを組み込むことが最も確実な対策です。

試用期間終了日の管理方法

採用が決まった時点で、Googleカレンダーや人事管理ツールに「試用期間終了の30日前」「試用期間終了の14日前」「試用期間終了日」の3つのリマインダーを設定することを習慣にしてください。30日前のアラートは、本採用拒否を行う場合の解雇予告期間を確保するためのものです。14日前のアラートは、本採用・拒否どちらの場合でも通知書の準備・面談調整を行うための目安です。この二段階のアラートを入社時に必ず設定するルールにするだけで、試用期間終了後に本採用通知しないという漏れの多くは防げます。

雇用契約書・就業規則の整備状況チェック

試用期間の運用を適法に行うためには、雇用契約書と就業規則の記載内容の整備が前提になります。次の項目を確認してください。

  • 雇用契約書に試用期間の開始日・終了日が明記されているか
  • 試用期間中・満了時の本採用拒否事由が就業規則に列挙されているか
  • 試用期間の延長に関する規定が就業規則にあるか
  • 試用期間中の労働条件(給与・待遇)が本採用後と異なる場合、その旨が明記されているか

これらの記載が不十分な場合、採用活動を一時止める必要はありませんが、新規採用の際には改善した書式を使用するよう切り替えることを優先してください。

問題が発生しそうな場合は早めに専門家へ

試用期間中に「この人を本採用すべきか迷っている」と感じた段階で、社会保険労務士や弁護士に相談することをお勧めします。問題が表面化してから相談する場合と比べて、選択肢も費用も大きく異なります。特に、本採用拒否後に本人から異議申し立てやSNS投稿・労働基準監督署への申告などが懸念される状況では、通知書の文面や伝え方を事前に専門家と確認しておくことが重要です。

まとめ

試用期間が満了しても本採用通知を出さないまま就労を継続させると、「黙示の本採用」として法的に正社員扱いになるリスクがあります。本採用拒否は通常解雇より裁量が広いものの、合理的な理由と事前の記録が不可欠です。試用開始から14日を超えた場合は解雇予告または解雇予告手当の支払いも必要になります。通知は必ず書面で、満了日の30日以上前を目安に交付してください。そして何より、採用時点でリマインダーを設定し、雇用契約書・就業規則の記載を整備しておくことが、試用期間終了後に本採用通知しないという漏れを防ぎ、トラブルを未然に防ぐ最大の対策です。

「うちの雇用契約書、試用期間の記載が曖昧かもしれない」「今まさに本採用を迷っている社員がいる」という場合は、ウェルセンス株式会社にご相談ください。人事専任担当者がいない中小企業の労務課題に数多く対応してきた知見から、御社の状況に合った対応方法を一緒に考えます。

よくある質問

Q. 試用期間満了から2ヶ月が経過してしまいました。今から本採用拒否はできますか?

A. 非常に難しい状況です。満了後も給与支払いや業務指示が継続していた場合、黙示の本採用が成立しているとみなされる可能性が高く、この段階での本採用拒否は通常の解雇と同等の手続きと正当な理由が必要になります。まずは社会保険労務士または弁護士に状況を詳しく説明し、対応方針を確認することを強くお勧めします。

Q. 試用期間中にメンタル不調で長期休んでいる社員の本採用を拒否できますか?

A. メンタル不調であること自体を理由に本採用拒否することは、障害者差別解消法や不当解雇のリスクがあるため、慎重に判断する必要があります。業務遂行上の問題が記録されており、休職前にすでにその指摘を行っていた場合など、メンタル不調とは独立した合理的な理由がある場合に限り検討できます。個別の状況によって判断が大きく変わるため、専門家への相談が不可欠です。

Q. 本採用拒否を伝えたら「不当解雇だ」と言われました。どう対応すればよいですか?

A. 感情的に対応せず、まず事実関係の記録(面談記録・業務上の問題を指摘した文書・通知書の写しなど)を整理してください。本人の主張を書面で受け取り、口頭でのやり取りを最小限にすることも重要です。その上で、社会保険労務士または弁護士に記録を持参して相談し、労働審判や団体交渉への対応方針を立てることを優先してください。

Q. 試用期間を6ヶ月から3ヶ月に短縮することはできますか?

A. 新たに採用する従業員に対して試用期間を3ヶ月に変更することは可能ですが、就業規則の変更と労働基準監督署への届け出(従業員10名以上の企業)が必要です。すでに6ヶ月の試用期間で採用した従業員に対して途中で期間を短縮する場合は、本人の同意が必要です。なお、試用期間の長さに法定の上限はありませんが、合理的な範囲(一般的には3〜6ヶ月)を超えると法的な問題が生じやすくなります。

Q. 試用期間中の社員を本採用する際、改めて雇用契約書を作り直す必要がありますか?

A. 本採用時に労働条件が変わる場合(給与・役職・勤務地など)は、変更後の条件を記載した労働条件通知書または雇用契約書を新たに交付する義務があります(労働基準法第15条)。条件に変更がない場合でも、本採用通知書に「入社時の雇用契約書に定める労働条件を継続する」旨を明記することで、後のトラブルを防ぐことができます。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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