試用期間を後から就業規則に追加できる?

試用期間を後から就業規則に追加できる? 労務管理
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「そういえばウチの就業規則、試用期間の記載がないかもしれない……」採用したばかりの社員の様子が気になり始めたとき、ふとそんな不安が頭をよぎることがあります。試用期間の定めがなければ、入社初日から本採用と同じ扱いになるのか。今から就業規則に試用期間を追加することはできるのか。この記事では、試用期間を後から就業規則に設ける際の法的な可否と手続きの注意点を、実務目線でわかりやすく解説します。

試用期間を後から就業規則に追加することはできる?

結論からお伝えすると、就業規則に試用期間を新たに追加すること自体は可能です。ただし、既存の社員にはほぼ適用できないため、「今いる社員に試用期間を設けたい」という目的での後付けは法律上難しいと考えておく必要があります。

試用期間は就業規則への記載が法的要件

試用期間そのものを定める法律の条文は存在しません。しかし、労働基準法第89条は「試みの使用期間に関する事項」を就業規則の絶対的記載事項として定めており、試用期間を設けるならば必ず就業規則に明記しなければなりません。雇用契約書だけに書いておけばよい、という対応では法的効力が不安定になります。

特に本採用拒否(事実上の解雇)の場面で「就業規則に定めがないから無効だ」と主張されるリスクがあるため、就業規則と雇用契約書の両方を整合させることが必須です。

試用期間の法的な性格を正確に理解する

試用期間とは、判例(三菱樹脂事件・最高裁大法廷昭和48年12月12日)において「解約権留保付き労働契約」と解釈されています。つまり、「一定期間内に適性を見極めて本採用を拒否できる権利を留保した状態での雇用」です。

試用期間中でも労働契約は成立しており、労働基準法・労働契約法の保護は通常どおり適用されます。「試用期間中だから何でもできる」は大きな誤解です。

就業規則に定めがない状態で採用した場合のリスク

就業規則に試用期間の記載がないまま社員を採用した場合、その社員は入社初日から本採用と同等の法的保護を受けることになります。解雇するためには客観的・合理的な理由と社会通念上の相当性が必要(労働契約法第16条)となり、試用期間中と比べてハードルが格段に上がります。

「もっと早く気づいていれば……」という後悔を避けるためにも、就業規則の整備は採用活動を始める前に済ませておくことが理想です。

既存社員への遡及適用がなぜできないのか

就業規則に試用期間を新設しても、すでに在籍している社員に遡って適用することは原則としてできません。これは「不利益変更」という法的な問題に関わります。

試用期間の新設が不利益変更にあたる理由

試用期間を設けるということは、本採用拒否(事実上の解雇)の可能性が留保された状態に置かれることを意味します。これは身分保障の観点から、労働者にとって不利益な変更と評価されます。

労働契約法第10条は、就業規則の不利益変更が有効となるためには「変更の合理性」と「労働者への周知」の両方が必要だと定めていますが、既存社員に試用期間を新たに課すことに合理性を見出すのは非常に困難です。裁判所もこのような変更には厳しい目を向けます。

入社して間もない社員への適用も要注意

「入社してまだ1ヶ月だから実質試用期間と同じだろう」という感覚は、法律上通用しません。就業規則の変更前に採用した社員である以上、変更後の試用期間規定は適用されないのが原則です。

また、変更前に内定を出していた人についても同様で、内定者との個別合意なしに試用期間を課すことはできません。「内定通知書に試用期間の記載がなかった」という事実は、後から追加することができない根拠になり得ます。

既存社員に試用期間を設けたい場合の現実的な対応

どうしても既存社員に試用期間に相当する評価期間を設けたい場合は、労働者本人との個別合意(書面)を取り付ける方法が考えられます。ただし、合意を得るためには合理的な説明と社員の真意に基づく同意が必要であり、会社側からの強制・圧力があったとみなされれば合意自体が無効とされるリスクがあります。

こうしたケースでは社労士や弁護士への相談を先に行うことを強くお勧めします。

就業規則を変更するための正しい手続き

就業規則への試用期間の追加は、決められた手続きを踏まなければ効力を持ちません。「こっそり書き換える」は法律上の無効だけでなく、労使トラブルの火種になります。

変更手続きの流れ

就業規則を変更する際の基本的な流れは以下のとおりです。

手順 内容 注意点
変更案の作成 試用期間の期間・開始日・本採用拒否の条件等を明記 曖昧な記載は後のトラブルの原因になる
労働者代表の意見聴取 過半数を代表する労働者(または労働組合)から意見書を取得 同意は不要。反対意見でも手続きは進められる
労働基準監督署への届出 変更後の就業規則と意見書を添付して届出 常時10人以上の事業場は届出義務あり
労働者への周知 掲示・備置き・配布・社内イントラ公開等 周知なき就業規則は効力なし(労働契約法第7条)

常時10人未満の事業場の場合

常時雇用する労働者が10人未満の事業場は、就業規則の作成・届出義務が法律上は発生しません。ただし、就業規則がないこと自体がリスクです。試用期間に限らず、労働条件・服務規律・懲戒基準が明文化されていなければ、トラブルが起きた際に会社が対応できる根拠を持てません。

10人未満であっても就業規則を整備し、届け出ておくことが実務的には推奨されます。

新入社員への適用はいつから?

就業規則の変更・届出・周知がすべて完了した後に、新たに採用する社員から適用するのが原則です。変更手続きの完了前に採用活動が始まっている場合は、タイミングに注意が必要です。

内定を出すタイミングで条件を明示する

就業規則の変更が完了した後に内定を出す場合は、内定通知書・労働条件通知書・雇用契約書のすべてに試用期間の期間(例:入社から3ヶ月)と条件を明記してください。口頭での説明だけでは後日のトラブルになりえます。

また、内定者が「試用期間の条件に同意して入社した」という事実を明確にするために、雇用契約書に本人のサインをもらっておくことが重要です。

変更前に内定を出していた候補者への対応

就業規則の変更前にすでに内定を出していた候補者については、変更後の就業規則の試用期間規定を自動的に適用することはできません。内定者と個別に話し合い、条件変更への同意を得る必要があります。

もし候補者が同意しない場合は、変更前の条件(試用期間なし)で雇用契約を結ぶことになります。内定取り消しを検討する場合も法的リスクが伴うため、慎重な判断が求められます。

試用期間中の解雇・本採用拒否は「何でもあり」ではない

試用期間を正しく設けたとしても、本採用拒否は「試用期間だから自由に解雇できる」という意味ではありません。要件を理解していないと、かえって会社が訴訟リスクにさらされます。

本採用拒否に必要な要件

試用期間中の本採用拒否は、通常の解雇より広い範囲で認められる場合があるとする判例(三菱樹脂事件)の解釈はありますが、それでも客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要です(労働契約法第16条)。

「なんとなく雰囲気が合わない」「期待していた能力より低い」という曖昧な理由だけでは不十分で、指導・注意・教育の記録が会社側の判断を支える根拠になります。

14日ルールと試用期間延長の注意点

入社後14日以内であれば、労働基準法第21条により解雇予告なしで解雇できる場合があります(試用期間中に限らず、14日以内の者への特例)。ただし、14日を超えた後の本採用拒否には30日前の予告または解雇予告手当(平均賃金の30日分)が必要です。

また、就業規則に試用期間の延長を定めていない限り、一方的に試用期間を延長することもできません。試用期間の長さ・延長の可否・延長の上限期間は、就業規則に明確に定めておく必要があります。

指導記録が本採用拒否の根拠になる

仮に本採用を拒否した場合、後から「不当解雇だ」と主張されたとき、会社が示せる根拠は指導・注意の記録です。何月何日に何を指導し、どのような改善を求め、それに対して本人がどう応じたかをメモ・メールなどで残しておくことが、訴訟リスクを下げる実務上の最重要ポイントです。

試用期間を設けるだけで安心するのではなく、期間中の記録管理を徹底してください。

まとめ

試用期間を後から就業規則に追加することは手続き上は可能ですが、既存社員への遡及適用は原則として認められません。新設できるのは、手続き完了後に新たに採用する社員からです。また、試用期間中であっても本採用拒否には客観的・合理的な理由と記録が必要であり、「試用期間があれば何でもできる」という過信は法的リスクを招きます。

就業規則の整備は、問題が起きてから慌てて動いても間に合わないケースが少なくありません。試用期間の設置・変更手続きに不安を感じたら、ウェルセンス株式会社にご相談ください。就業規則の現状確認から、採用・休職・復職に関わる人事労務の課題まで、中小企業の実情に合わせた対応をサポートしています。

よくある質問

Q. 就業規則がなくても、雇用契約書に試用期間と書けば有効ですか?

A. 雇用契約書への記載だけでは法的効力が不安定です。労働基準法第89条は、試用期間を定める場合は就業規則への記載を義務づけています。本採用拒否の局面で「就業規則に定めがないから無効」と主張される可能性があるため、就業規則と雇用契約書の両方に整合性のある記載が必要です。

Q. 入社してまだ2週間の社員に、今から試用期間を適用することはできますか?

A. 就業規則の変更前に採用された社員には、変更後の試用期間規定を遡って適用することは原則できません。入社してまもないとしても、採用時の条件が優先されます。どうしても対応が必要な場合は、本人との個別合意を得る方法がありますが、強制や圧力と受け取られないよう慎重な進め方が求められます。社労士への相談をお勧めします。

Q. 試用期間の長さに法律上の上限はありますか?

A. 法律上の明確な上限規定はありませんが、判例では長すぎる試用期間は公序良俗に反するとされることがあります。一般的には3ヶ月から6ヶ月が実務上の目安とされており、1年を超えるような設定は適切でないと判断されるリスクがあります。また、就業規則に定めた期間を超えて一方的に延長することも認められないため、試用期間の長さと延長の可否・上限は就業規則に明記しておくことが重要です。

Q. 就業規則の変更手続きで、従業員全員の同意が必要ですか?

A. 全員の同意は不要です。労働基準法第90条が求めているのは、過半数を代表する労働者(または労働組合)からの「意見聴取」であり、同意書ではなく意見書の添付で足ります。ただし、不利益変更にあたる場合は変更の合理性が問われるため、説明会の実施や周知の徹底が後のトラブル防止につながります。

Q. 試用期間中に本採用を拒否した場合、解雇予告は必要ですか?

A. 入社後14日以内であれば労働基準法第21条の特例により解雇予告が不要な場合がありますが、14日を超えた後の本採用拒否には原則として30日前の解雇予告または解雇予告手当(平均賃金の30日分相当)が必要です。試用期間中だからといって予告なしで即日解雇できるわけではありませんので、注意が必要です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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