昇給できないと伝える前に知っておきたい社員の納得を得る方法

昇給できないと伝える前に知っておきたい社員の納得を得る方法 組織運営
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「今年は昇給できない、と伝えなければいけないけれど、何と言えばいいのか」——評価面談を前に、そんな言葉を飲み込んでいる経営者や人事担当者は少なくありません。特に、結果を出してくれている社員に対して昇給ができないとき、罪悪感と説明の難しさが重なり、面談そのものを後回しにしてしまうケースも多く見られます。この記事では、昇給できない事実を社員に伝える際の「伝え方の型」から、昇給以外の代替手段、離職リスクの見極め方まで、中小企業の現場で実践できる方法を整理してお伝えします。

昇給できないを伝える前に確認すべきこと

昇給できないと伝える前に、まず就業規則と評価の根拠を整理しておくことが、トラブル回避と社員の納得感につながります。

就業規則の昇給条項を確認する

「昇給なし」は原則として労働条件の不利益変更には当たりません。ただし、就業規則や雇用契約書に「毎年昇給する」「定期昇給を行う」といった記載や、事実上の慣行がある場合は注意が必要です。労働契約法第9条・第10条では、労働者に不利益な労働条件の変更は原則として労働者の同意が必要とされており、慣行として毎年昇給が行われてきた場合、昇給しないことが不利益変更と判断されるリスクがあります。

実務的な対応として、就業規則の昇給条項を「会社の業績および従業員の評価等を勘案したうえで行う」といった裁量規定に整備しておくことが重要です。面談の前に、自社の就業規則を一度確認してください。

評価の根拠を言語化しておく

法的に、会社は人事評価の結果を社員に開示する義務はありません。しかし評価基準やプロセスが不透明なまま「昇給なし」を伝えると、社員側が「評価されていない」「不当だ」と感じ、労働施策総合推進法(パワーハラスメント防止措置の観点)に関連した主張の口実にもなりえます。

具体的な行動・成果ベースで評価の根拠を記録しておくことで、面談での説明に一貫性が生まれます。「なぜ昇給できないか」ではなく「現在の評価はこういう根拠に基づいている」という説明軸を持っておくことが、社員の納得感を高める第一歩です。

社員が納得する説明の3点セット

昇給できない事実を社員に伝える際、最も効果的なのは「現状の理由・次の見直しタイミング・その間の対応策」の3点をセットで伝える構成です。

頑張りを認める言葉だけでは逆効果になる

「成果は出していると思っています、でも今年は難しくて……」という伝え方をした経験はないでしょうか。実は、承認の言葉だけで面談を締めようとするのは逆効果になりがちです。社員が求めているのは「承認」ではなく、「なぜ昇給できないのか」という根拠と「いつ状況が変わりうるのか」という見通しです。

「頑張りはわかっている」という言葉の後に具体的な見通しが続かない場合、社員は「わかっているなら上げてほしい」という気持ちになりやすく、かえって不満が高まります。

伝えるべき3点セットの構成

社員の納得を得やすい説明の構成は、以下の3点です。

  • 現状の昇給原資が不足している理由(定性的な説明で構いません。「今期は設備投資と採用費が重なり、原資の確保が難しい状況です」など)
  • 次に昇給の可否を見直すタイミング(「半期ごとの評価面談で改めて検討します」「来期の業績が一定水準を超えた場合に優先的に対応します」など)
  • 昇給の代わりに今できること(昇給以外の代替施策。次のセクションで詳述します)

この3点が揃うことで、社員は「放置されているわけではない」という安心感を得られます。特に「次の見直しタイミング」を明示することは、社員のモチベーション継続にとって非常に重要です。

面談での言葉の順序

面談の進め方として、まず社員の現在の業務状況や感じていることを聞くことから始めましょう。次に評価の根拠(成果・行動の事実)を共有し、その後に昇給の可否と理由を伝えます。最後に代替策と次の見直し時期を提示して面談を締めると、社員が一方的に通告された印象を持ちにくくなります。「今日話してよかった」という感覚を残すことが、中長期的な関係性の維持につながります。

昇給以外で社員の処遇に応える選択肢

昇給ができない状況でも、非金銭的な処遇を組み合わせることで、社員のモチベーションや定着率を維持できる可能性があります。ただし、場当たり的な対応は逆効果になるため、「全員に展開できるか」「制度として定着しても問題ないか」を確認してから実施することが重要です。

非金銭的処遇の主な選択肢

施策の種類 具体例 注意点
働き方の柔軟化 リモートワーク日数の拡大、フレックスタイム制の適用 継続適用で労働条件として定着するリスクあり。書面で期間・条件を明記する
役割・キャリアの明確化 リーダー職・専門職の肩書付与、特定プロジェクトの担当任命 名称だけの肩書は見透かされやすい。責任と裁量がセットであることが重要
学習・成長機会の提供 外部研修・資格取得費用の会社負担、社外勉強会への参加支援 本人の希望に合っているかを確認すること。押しつけになると逆効果
有給休暇・休暇制度の拡充 誕生日休暇・特別有給日の付与 他の社員への公平性を考慮し、できれば全社員に適用できる設計にする

「コストゼロ」ではないことを理解する

非金銭的処遇は「お金がかからない代替策」と思われがちですが、実際には業務体制の調整コスト、他社員との公平性への対応、将来の制度化コストが発生します。特定の社員にだけフレックスやリモートを認めた場合、「なぜあの人だけ?」という声が上がりやすい20〜50名規模の職場では、この問題は顕在化しやすいです。

口頭での約束が労働条件として定着するリスクもあります。労働契約法の観点から、「試験的に3か月間」「業務状況によって変更あり」といった条件を書面または労働条件変更通知書で明示しておくことが実務上の必須対応です。

特定社員への対応と社内公平性のバランス

非金銭的処遇を一部の社員に先行適用する場合、他の社員への説明軸を事前に準備しておくことが重要です。「評価や役割に応じて柔軟に対応する」という人事方針を全社で共有しておくと、個別対応への納得感が生まれやすくなります。「なぜあの人だけ」という疑問が出たとき、「役割と責任に応じて判断している」と答えられる状態を作っておきましょう。

昇給できないことを丁寧に説明することは重要ですが、一人で判断に悩みすぎることは避けるべきです。社員との話し合いの進め方や代替施策の選択肢について、第三者の視点からアドバイスを受けることで、より良い対応が見えてくることは多くあります。

昇給なしを放置した場合に起こること

昇給できないことをうやむやにしたまま放置すると、離職・エンゲージメント低下・職場の士気悪化という連鎖が起こりやすくなります。特に成果を出している社員ほど、転職市場での選択肢があるため、リスクは高まります。

「まだ大丈夫」という判断の危うさ

「不満そうだが、辞めるとは言っていない」「今は我慢してくれているはず」という受け身の判断をしているうちに、実際の退職が決まってから初めて深刻さに気づくケースは非常に多くあります。特に中小企業では、一人が辞めることで業務が回らなくなるリスクが大企業より高く、採用・教育コストも直接的に経営に影響します。

昇給なしを言わないことが生む誤解

面談を避けたり、昇給の可否を明確に伝えなかったりすると、社員は「自分の頑張りが評価されていない」と誤解することがあります。実際には「原資がないから昇給できないだけで、評価は高い」という会社側の意図が伝わらず、「評価されていないから昇給がない」と解釈される悪循環が生じます。伝えないことのリスクは、伝えることのリスクよりも大きいと考えてください。

退職リスクが高い社員の見極め方

以下のような状況が重なっている場合、離職のリスクが高まっているサインとして注意が必要です。面談前に社員の状態を観察しておくことで、面談の進め方を調整できます。

  • 以前より業務への発言・提案が減ってきた
  • 評価面談や1on1に対して消極的な反応を示すようになった
  • 「将来のキャリア」に関する話題を自分から出さなくなった
  • 同業他社や転職市場について話題にすることが増えた

就業規則・評価制度が整っていない会社が先にやるべきこと

昇給の説明が難しくなる根本的な原因の多くは、評価基準や昇給条件が文書化されていないことにあります。今すぐ制度を整備するのが難しい場合でも、最低限の対応から着手することが重要です。

規模別の優先対応

専任人事がいない中小企業では、完全な人事制度の構築は現実的でないこともあります。会社の規模や現状に応じて、優先度の高い対応から始めましょう。

  • 従業員数20名未満・就業規則未整備:まず就業規則の昇給条項を「業績・評価に基づき決定する」旨の裁量規定に整備する。評価基準は簡易でよいので文書化しておく
  • 従業員数20〜50名・就業規則あり:昇給条件の明文化と、評価根拠の記録を習慣化する。面談記録を残す仕組みを作る
  • 産業医・社労士と契約している場合:制度の見直しや面談の進め方について専門家に相談しながら整備を進める

「説明できる評価」を作る最低ラインの準備

評価制度が整っていなくても、「この社員にどういう期待をしていたか」「実際の成果・行動はどうだったか」を記録しておくだけで、面談の説明の質は大きく変わります。メールやチャットのやり取り、プロジェクトの記録、目標設定時のメモなどを面談前に整理しておくだけでも十分なスタートラインになります。

まとめ

「昇給できない」という事実を社員に伝えることは、多くの経営者・人事担当者にとって難しい場面です。しかし、伝え方の型を持ち、昇給以外の代替策と次の見直しタイミングをセットで示すことで、社員の納得感は大きく変わります。重要なのは「何も言わない」「曖昧にする」ではなく、根拠と見通しをもって誠実に向き合うことです。

また、こうした場面が繰り返されるようであれば、就業規則の昇給条項の整備や評価基準の文書化など、制度の土台を整えることが中長期的なリスク低減につながります。

昇給の説明方法や代替施策の検討は、人事だけで抱え込まずに相談することが解決の近道です。ウェルセンス株式会社は、人事の専門担当者がいない中小企業の現場に寄り添い、評価面談の進め方から制度整備まで実務的なサポートをご提供しています。「どう伝えればいいかわからない」「昇給以外に何ができるか一緒に考えてほしい」という場合は、お気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 毎年昇給してきた実績がある場合、今年昇給なしにすると法的に問題になりますか?

A. 毎年の昇給が「慣行」として定着していると判断される場合、昇給を行わないことが労働契約法第9条・第10条の不利益変更にあたるリスクがあります。ただちに違法とは言えませんが、就業規則の昇給条項を「業績および評価に基づき決定する」旨の裁量規定に整備しておくことで、リスクを大幅に下げることができます。不安な場合は社会保険労務士に相談することをお勧めします。

Q. 昇給なしを伝えたら「辞める」と言われた場合、どう対応すればよいですか?

A. まずは感情的に引き止めようとせず、「どんなことが不満だったか、もう少し聞かせてほしい」と本人の話を聞く場を設けることが先決です。退職の意思が固まる前の段階であれば、昇給以外の対応策(働き方の柔軟化・役割の見直し等)を提示することで状況が変わることもあります。ただし、本人が意思を固めている場合は引き止めよりも円満な引継ぎ対応に切り替えることも、残るメンバーへの影響を考えると重要な判断です。

Q. 特定の社員だけにリモートワークを認めた場合、他の社員にはどう説明すればよいですか?

A. 「役割・業務内容・評価状況に応じて柔軟に対応する」という人事方針をあらかじめ社内に共有しておくことが重要です。個別の処遇の内容を開示する必要はありませんが、「どういう条件で特例的な対応をするのか」の判断基準を示しておくことで、他の社員の不公平感を和らげることができます。また、その施策が全社展開できる内容であれば、段階的に全社員に適用することを検討してください。

Q. 評価制度がない会社でも、昇給の説明はできますか?

A. 正式な評価制度がなくても、「どういう期待を持っていたか」「実際にどんな成果・行動があったか」を面談前に整理しておけば説明は可能です。メールや目標設定時のメモ、プロジェクトの実績など手元にある記録を活用してください。ただし、今後も同様の場面が繰り返されることを考えると、簡易的でよいので評価基準を文書化し、昇給条件を就業規則に明記しておくことを強くお勧めします。

Q. 昇給できないと伝えるタイミングはいつが適切ですか?

A. 評価面談のタイミングで伝えるのが最も自然です。重要なのは「後回しにしない」ことで、昇給の有無が決まったタイミングで面談を設定してください。曖昧に先延ばしにするほど、社員の不信感は高まります。昇給なしを伝える場合でも、「今の評価と今後の見通し」をセットで伝えることで、社員は「放置されていない」という安心感を持てます。面談後に内容を簡単に書面やメールで共有しておくと、後日のトラブル防止にもなります。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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