「降格を伝えなければならないのに、何から手をつければいいかわからない」——そう感じている経営者や人事担当の方は少なくありません。専任人事がいない中小企業では、降格の根拠整理から面談の進め方、給与変更の手続きまで、すべてを自分たちで対応しなければならない。本記事では、社員が納得しやすい降格の伝え方を5つのステップで解説します。
降格を伝える前に「根拠」を固める
感覚ではなく記録で判断する
「なんとなくパフォーマンスが低い気がする」という感覚だけで降格を決定するのは、法的リスクの観点からも、社員の納得感の観点からも危険です。降格の判断には、客観的な評価記録が不可欠です。具体的には、数値目標の達成率、業務品質に関する上長からのフィードバック記録、顧客クレームの件数など、書面や数字で示せる情報を整理しておきましょう。
たとえば「営業担当として月次目標を6ヶ月連続で50%以下しか達成できていない」「製造ラインでの不良品率が社内基準の3倍を超えている」といった具体的なデータがあれば、本人も会社の判断を受け入れやすくなります。
改善機会を与えたプロセスを確認する
日本の労働法では、いきなりの降格は「人事権の濫用」として無効とされるリスクがあります。裁判所が重視するのは、事前に改善の機会が与えられていたかどうかです。口頭での注意・指導だけでなく、「いつ、何を、どのように指導したか」を記録した書面が存在することが重要です。
PIP(Performance Improvement Plan=業績改善計画)と呼ばれる書面を活用する方法があります。「今後3ヶ月で目標達成率を80%以上に改善する」といった具体的な目標と期限を設定し、定期的に面談を実施した記録を残しておくと、降格判断の根拠として機能します。
就業規則に降格の規定があるか確認する
見落とされがちなのが、就業規則の確認です。降格・降給の規定が就業規則に存在しない場合、本人の同意なしに賃金を引き下げることは法的リスクとなるおそれがあります。まずは自社の就業規則を確認し、降格事由・手続き・賃金への影響が明記されているかをチェックしてください。規定がない場合は、専門家に相談しながら整備することを優先しましょう。
「懲戒降格」と「人事降格」を区別する
混同すると法的リスクが高まる
降格には大きく2種類があります。懲戒降格は、問題行動や服務規律違反(横領、ハラスメント、無断欠勤の繰り返しなど)を理由とする降格です。一方、人事降格は、能力や業績の問題を理由とするものです。この2つは根拠となる規定も、必要な手続きも異なります。
懲戒降格を行う場合は、就業規則の懲戒規定に「降格」が明記されていること、そして本人に弁明の機会を与えることが実務上求められます。これらのプロセスを省略すると、後から「手続きが不当だった」と争われるリスクがあります。
人事降格で特に重要な「一貫性」の視点
能力・業績を理由とする人事降格では、評価プロセスの透明性と一貫性が問われます。「同じような状況にある他の社員は降格していないのに、なぜ自分だけ?」という疑問が生まれると、社員は納得しません。社内で降格判断の基準が統一されているか、特定の個人だけが不均衡に扱われていないかを事前に確認しておきましょう。
面談前に「伝える内容」を書面で準備する
アドリブで話してはいけない
降格を伝える面談は、事前準備なしに臨んではいけません。感情的になりやすい場面だからこそ、何をどの順番で話すかを事前に設計しておく必要があります。面談で伝えるべき内容は大きく4つです。
- まず事実(何が起きていたか)を共有する
- 次に会社の判断とその根拠を説明する
- そのうえで本人の意見を聴く時間を設ける
- 最後に今後の期待と会社としての支援を伝える
この順番を守ることで、「一方的に通告された」という印象を避けられます。特に本人の意見を聴くステップは、納得感を高めるうえで非常に重要です。形式的にでも「あなたはどう思いますか?」と問いかける時間を設けてください。
誰が伝えるか・同席者を決める
中小企業では「誰が伝えるか」が曖昧になりがちです。原則として、降格の決定権を持つ人物(社長または部門責任者)が主体となり、直属の上長や第三者が同席する形が理想的です。社長一人で対応すると、感情的なやり取りになったときのフォローが難しくなります。同席者がいることで、面談の記録も取りやすくなります。
面談後は、話した内容・本人の反応・合意事項を記録した「面談メモ」を必ず作成・保管してください。後のトラブル防止に役立ちます。
変更後の処遇内容を書面で示す
口頭だけで降格と給与変更を伝えることは避けましょう。変更後の役職・職務内容・給与額・適用開始日を明記した書面(辞令)を用意し、面談の場で手渡します。給与の変更幅については、大幅な減額は法的リスクが高まるため、慎重に設定する必要があります。不安な場合は事前に社労士や弁護士に確認しておくことをおすすめします。
降格後のモチベーションを維持する仕組みを作る
「降格=罰」ではなく「再出発」として伝える
降格を受けた社員が「自分は見捨てられた」と解釈してしまうと、モチベーションが急落し、最悪の場合は離職や、職場への不満を周囲に撒き散らす行動につながります。これを防ぐには、降格の「意味づけ」を変えることが重要です。
たとえば「マネジメント職ではなく、現場のプロフェッショナルとして力を発揮してほしい」「今のポジションで成果を出してもらうことが、会社と本人双方にとってプラスになる」というフレームで伝えることで、降格を「適正配置」として受け止めてもらいやすくなります。言葉の選び方一つで、本人の受け取り方は大きく変わります。
定期的な1on1でフォローを続ける
降格後に放置することは最悪の対応です。月に1回以上の1on1面談を設定し、業務の状況・困っていること・小さな改善や成果に対して肯定的なフィードバックを継続的に行いましょう。「降格後に丁寧にフォローされた」という体験は、社員のエンゲージメントを回復させる力を持っています。
また、将来的に再昇格の可能性があることを示すことも重要です。「この半年で〇〇の成果が出れば、見直しの検討をする」という具体的なメッセージを伝えることで、社員は前向きに取り組むための目標を持てます。
他の社員への情報管理にも配慮する
降格の事実は、本人以外の社員にも影響を与えます。「なぜあの人が降格したのか」「自分も突然降格させられるのでは」という不安や不信感が広がらないよう、他の社員への説明は慎重に行う必要があります。基本的には本人のプライバシーを守りながら、役割変更があった事実のみを必要な範囲で共有するにとどめ、降格の詳細な理由は公表しないことが原則です。
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メンタル不調者の降格は特別な配慮が必要
休職明けの社員への対応は慎重に
休職から復職した社員に対して「元のポジションで対応できるか不安だから降格させたい」と考えるケースは少なくありません。しかし、うつ病や適応障害などの診断を受けている社員への降格通知は、症状を悪化させるリスクがあり、タイミングと方法の選択が非常に重要です。
まず復職直後の降格は避けるべきです。復職後一定期間(少なくとも1〜3ヶ月)は業務への適応状況を観察し、その後の判断とすることが現実的です。また、降格の判断や伝え方については、産業医や主治医の意見を事前に確認することが求められます。
産業医・主治医との連携を忘れない
メンタル不調のある社員に関わる人事判断では、産業医や主治医との連携が欠かせません。「本人の状態として降格の通知を受け止められる状況にあるか」「就業上の配慮として役職を変更することが治療上どのような影響をもたらすか」といった点を、医療の専門家に確認したうえで進めましょう。産業医がいない場合は、地域の産業保健総合支援センターに相談する方法もあります。
こうした配慮なしに降格を強行した場合、後から「症状悪化の原因は会社の対応にある」と主張される法的リスクも生じます。デリケートなケースこそ、専門家の力を借りることが会社を守ることにつながります。
まとめ
降格の伝え方は、根拠の整理・法的確認・面談設計・フォロー体制・メンタル配慮という5つの観点を順番に押さえることで、社員の納得感を高め、会社の法的リスクも最小化できます。専任人事がいない中小企業では、一つひとつのステップを丁寧に踏むことが、後のトラブルを防ぐ最大の予防策です。
とはいえ、「就業規則に規定がない」「メンタル不調の社員への対応が不安」「面談で感情的になった場合にどう対応すればよいかわからない」といった状況では、自社だけで対応することに限界があるのも事実です。ウェルセンス株式会社では、降格判断の根拠整理から面談シナリオの作成・同席支援、復職社員への対応まで、中小企業の実情に合わせたサポートを行っています。「実際のケースで困っている」「降格の進め方について不安がある」という場合は、ぜひお気軽にご相談ください。
よくある質問
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