パフォーマンスが低い社員の改善期間の正しい設け方

パフォーマンスが低い社員の改善期間の正しい設け方 人事制度
Photo by Lukas Blazek on Pexels

「もう半年以上、様子を見ているのに一向に改善しない。でも、どう動けばいいのかわからない——」。そんな状況を抱えたまま、判断を先送りにしてしまっている経営者・人事担当者は少なくありません。パフォーマンスの低い社員への対応は、感情論ではなく「正しい手順」で進めることが会社と社員の双方を守ります。この記事では、改善期間の設定から記録の残し方、そして改善が見られなかった場合の対応まで、実務で使える知識を整理しました。

改善期間を「なんとなく」設定してはいけない理由

改善期間は、単に時間を与えるためのものではありません。法的なトラブルに備えるうえでも、「なぜその期間を設けたか」を説明できることが不可欠です。

解雇権濫用法理という壁

日本では、労働契約法第16条により、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上も相当でない解雇は無効とされます。これを「解雇権濫用法理」といいます。特に能力不足・低パフォーマンスを理由とした解雇は、裁判所の判断基準が厳しく、「改善の機会を与えたか」が重要な争点になります。改善期間を設けずに解雇に踏み切ると、後日訴訟で無効判決が出るリスクが極めて高くなります。

「様子を見ている」は法的には何の意味もない

経営者からよく聞かれるのが、「半年以上待ったのに改善しなかった」という主張です。しかし、その期間に本人への明確な指摘がなく、改善目標の文書化もなく、面談の記録も残っていなければ、法的には「改善機会を与えた」とは認められません。何も言わずに待っていた期間は、会社にとって有利な証拠にはなりません。

就業規則の根拠規定を確認する

降格・降給・普通解雇を実施するには、就業規則にその根拠規定が必要です。常時10名以上を雇用する事業場では、労働基準法第89条により就業規則の作成・届出が義務付けられています。10名未満の事業場でも、就業規則がなければ降格・降給の法的有効性が不安定になります。まず自社の就業規則に「能力不足・低パフォーマンスへの対応」に関する条文があるかを確認してください。

改善期間は何ヶ月設ければよいのか

法令で期間が定められているわけではありませんが、実務・裁判例の傾向から目安があります。重要なのは期間の長さそのものより、「目標・支援・評価がセットになっているか」です。

職種・状況別の目安

以下の表を参考に、自社の状況に合わせて設定してください。

ケース 目安期間 備考
一般的な業務能力・成果の問題 3〜6ヶ月 最低1サイクルの評価期間を含むことが望ましい
技術職・専門職など習熟に時間がかかる職種 6〜12ヶ月 習熟曲線を考慮した期間設定が必要
試用期間中の低パフォーマンス 試用期間内(通常3〜6ヶ月) 本採用拒否のハードルは正規より低いが記録は必要
勤務態度・規律違反が主な問題 1〜3ヶ月 比較的短くても裁判例上認められるケースあり

期間の「根拠」を言語化しておく

たとえば「3ヶ月」と設定した場合、「四半期単位の目標管理サイクルに合わせ、1サイクル分の達成状況を評価できる期間として設定した」という説明ができれば十分です。根拠なく「なんとなく3ヶ月」では、万一トラブルになったときに会社側の説明力が弱くなります。設定時にひと言メモするだけで、後々の対応が変わります。

途中でリセット・延長する場合の注意点

改善期間を一度設定したあと、「もう少し様子を見よう」と延長を繰り返すことは、かえって会社の立場を弱めます。延長が必要な場合は、理由を文書で明記し、本人にも伝えてください。「改善の兆しが見えるため、追加で2ヶ月延長し、○月○日を最終評価日とする」という形で明確にすることが重要です。

PIPの正しい設計と運用方法

PIP(Performance Improvement Plan=業績改善計画)は大企業だけのものではありません。むしろ、記録の仕組みが整っていない中小企業こそ、シンプルな形で導入する価値があります。

PIPの核心は「具体的な目標設定」にある

PIPで最も重要なのは、改善目標を「何を・いつまでに・どの水準で」という形で具体化することです。「もっと積極的に取り組んでほしい」「成果を出してほしい」という曖昧な表現では、期間終了後に「達成した/していない」の判断ができません。たとえば「月次の訪問件数を現在の8件から15件に改善し、3ヶ月後の評価時点で12件以上を安定的に維持できていること」のように数値・期日・基準を明記します。

PIPに盛り込む5つの要素

  • 現状の問題の具体的な記述:「○月〜○月の期間、目標達成率が50%を下回る状態が続いている」など事実を記載する
  • 改善目標(数値・期日・基準):曖昧な表現を避け、客観的に判断できる形にする
  • 会社が提供するサポートの内容:研修・OJT・面談頻度など、会社側の支援を明記することで「改善機会を与えた」証拠になる
  • 評価時期と評価方法:いつ、誰が、どのように達成を確認するかを決めておく
  • 改善が見られない場合の対応の予告:「改善が認められない場合は降格・配置転換・解雇を含む措置を検討する」旨を明示する

本人への通知と合意の取り方

PIPを作成したら、本人と面談のうえ内容を説明し、書面に署名・受領印をもらうことが理想です。「聞いていない」「そんな話はなかった」という主張を防ぐためです。ただし、本人が署名を拒否した場合でも、面談を実施した事実・日時・参加者を記録し、書面を本人に手渡したこと(または送付したこと)を証拠として残せば、法的には有効と判断されるケースがほとんどです。

改善指導とパワハラの境界線

必要な指導はパワハラではありません。パワハラとの境界線を正しく理解することで、萎縮せずに適切な指導ができるようになります。

パワハラに該当しない指導の条件

厚生労働省のガイドラインによれば、パワーハラスメントとは「優越的な関係を背景に、業務上の必要性・相当性を欠いた言動によって就業環境を害すること」と定義されています。つまり、業務上の必要性があり、相当な方法で行われた指導はパワハラにはなりません。事実に基づいて問題点を指摘し、改善策を伝え、記録を残す——この流れを踏んでいれば、正当な指導として認められます。

パワハラになりやすい指導パターンを避ける

一方で、以下のような行為はパワハラと判断されるリスクがあります。感情的な叱責や人格否定(「なんでこんなこともできないんだ」)、業務と無関係な叱責、複数人の前での長時間にわたる叱責、業務上不必要な作業の強制などが代表例です。指導は「事実に基づいて、業務に関連する内容を、適切な場所・時間で行う」ことを原則としてください。

指導が「甘すぎる」場合のリスク

パワハラを恐れて指導を避けすぎると、本人に危機感が伝わらず、改善が進まないまま時間だけが経過します。また、後に解雇・降格の手続きに進む段階で「会社は問題を認識していなかった」「改善機会を与えなかった」と判断されるリスクにもつながります。必要な指導を適切な方法で行うことは、会社と社員の双方にとって必要なことです。

「本当は何が問題なのか」を見極め、正しい対応につなげることは、専門的な知識と経験が不可欠です。判断に迷う場合、人事の専門家に相談することで、リスクを大幅に減らせます。

記録の残し方:「言った・言わない」を防ぐ実務

改善指導の記録は、トラブルになったときに会社を守る唯一の証拠です。記録なき指導は、法的には「なかったこと」と同じです。

面談記録の作り方

面談を行ったあとは、必ず「面談記録」を作成します。記載すべき内容は、日時・場所・参加者・話し合った内容・決定事項・次回確認日です。難しく考える必要はなく、A4用紙1枚でも構いません。作成後は本人にメールで送付するか、印刷して確認のサインをもらうことで「伝えた事実」を証拠化できます。本人がサインを拒否した場合は、その事実自体をメモとして残してください。

記録に残すべき4つのポイント

  • いつ・どこで・誰が: 日時・場所・参加者を必ず記録する
  • 何を問題として指摘したか: 抽象的でなく、具体的な事実(日時・件数・内容)を記載する
  • 本人の反応・発言: 「本人は改善する意思を示した」「原因として○○を挙げていた」など
  • 次のアクションと期日: 「次回面談は○月○日に実施する」「○月末までに○○を達成する」など

メールを活用した記録の習慣化

面談後に上司から本人へ「本日の面談内容の確認」というメールを送ることは、記録として非常に有効です。本人からの返信がなくても、送付した事実・内容が証拠になります。また、定期面談を設定してカレンダーに残すことも、「継続的に指導していた」ことの証拠になります。特別な書式は不要で、事実を淡々と記録することが重要です。

改善期間後も改善されなかった場合の対応手順

改善期間終了後に目標が達成されなかった場合、会社は降格・配置転換・解雇などの措置を検討できます。ただし、ここでも手順を守ることが不可欠です。

最終評価と本人への通知

改善期間終了後、まず設定した目標に照らして達成状況を客観的に評価します。評価結果は文書化し、本人との面談で伝えます。「改善が認められなかった」という事実を明示したうえで、次のステップ(降格・配置転換・解雇の検討)に進む旨を伝えます。この面談の記録も必ず残してください。

普通解雇に進む場合の確認事項

普通解雇に進む場合は、以下がすべて揃っているかを確認してください。就業規則に解雇の根拠規定があること、問題行動・低パフォーマンスの具体的な事実が記録されていること、本人への明確な指摘と警告の記録があること、改善機会(PIPなど)を与えたことの記録があること、改善が見られなかったことの客観的な記録があること——これらが揃っていなければ、解雇の有効性が問われます。手続きに不安がある場合は、労働法に詳しい社会保険労務士や弁護士への事前相談を強くおすすめします。

解雇以外の選択肢も検討する

解雇は最終手段であり、降格・降給・配置転換なども有効な選択肢です。特に、別の業務であれば能力を発揮できる可能性がある場合、配置転換を試みることが求められるケースがあります。「解雇の前に配置転換を検討したか」は、裁判例でも問われる重要な視点です。また、メンタルヘルス不調が低パフォーマンスの背景にある場合は、全く異なるアプローチ(休職支援・産業医連携など)が必要になります。

まとめ

パフォーマンスの低い社員への対応は、「改善期間の設定→目標の具体化(PIP)→記録の徹底→最終評価→必要な措置」という流れで進めることが、会社と社員の双方を守ることにつながります。改善期間の目安は一般的な業務能力の問題であれば3〜6ヶ月ですが、重要なのは期間の長さより、目標・支援・記録がセットで機能しているかです。また、改善指導は適切に行えばパワハラにはなりません。必要な指導を事実に基づいて行い、記録に残すことを習慣にしてください。

こうした対応を一社だけで完結させるのは難しいもの。「自社の状況でどう進めればよいかわからない」「就業規則の整備から始めたい」「低パフォーマンスの背景にメンタル不調があるかもしれない」——そうした悩みをお持ちの場合、ウェルセンス株式会社では、中小企業の実情に合わせた人事労務・メンタルヘルス対応の相談をお受けしています。まずはお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 改善期間は必ず文書で設定しなければいけませんか?

A. 法律上の義務はありませんが、実務上は文書化を強くおすすめします。口頭のみでは「言った・言わない」のトラブルが起きやすく、万一解雇や降格が争点になった場合、会社側の立証が困難になります。簡易なフォーマットでも構わないので、目標・期間・支援内容・評価基準を書面にし、本人に渡してください。

Q. 本人がPIPへの署名を拒否した場合はどうすればいいですか?

A. 署名拒否は珍しいことではありません。その場合は、面談を実施した事実・日時・参加者と、本人に書面を交付したこと(または送付したこと)を記録してください。メールで書面を送付し、送信記録を残す方法も有効です。署名がなくても「通知した事実」が証明できれば、手続きとして有効と判断されるケースがほとんどです。

Q. 低パフォーマンスの背景にメンタル不調がある場合、改善期間の対応は変わりますか?

A. はい、大きく変わります。メンタル不調が疑われる場合は、パフォーマンス改善プロセスより先に、医療機関の受診や産業医との面談を促すことが必要です。不調を把握しながら改善目標の達成を一方的に求め続けると、安全配慮義務違反として会社が問われる可能性があります。低パフォーマンスが続く場合は、業務能力の問題なのか、健康上の問題なのかを慎重に見極めることが重要です。

Q. 試用期間中の社員にも同じ手順が必要ですか?

A. 試用期間中の本採用拒否は、正規雇用後の解雇と比べてハードルは低めですが、「採用時に予測できなかった能力不足・問題行動」である必要があります。試用期間中であっても問題点の指摘・記録・改善機会の付与は行うべきです。特に試用期間が14日を超えている場合は、本採用拒否に際して解雇予告(または予告手当)が必要になります。

Q. 社員10名未満の会社でも就業規則は必要ですか?

A. 常時10名未満の事業場では就業規則の作成・届出は法的義務ではありませんが、降格・降給・解雇などの措置を実施するには就業規則の根拠規定があることが望ましいです。就業規則がない場合、措置の法的有効性が不安定になります。規模が小さくても、雇用に関するルールを書面で整備しておくことは、会社を守るうえで重要な備えです。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

不調者対応を、人事だけで抱えない。

メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。

詳しく見る →

タイトルとURLをコピーしました