社内恋愛で別れた後の嫌がらせ、どう対処すればいい?

社内恋愛で別れた後の嫌がらせ、どう対処すればいい? コンプライアンス
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「別れた後も職場で監視されている気がする」「無視・陰口・業務妨害が続いている」——被害を受けている社員からこんな相談が来たとき、会社はどう動けばいいのか。社内恋愛の破局後のトラブルは「個人間の問題」と「職場問題」の境界が見えにくく、対応を後回しにしてしまいがちです。しかし放置した結果、被害者が精神疾患で休職し、会社が損害賠償請求を受けたケースも現実に起きています。この記事では、ハラスメント認定の判断基準から証拠の集め方、懲戒処分の判断基準まで、専任人事がいない企業でも実践できる対応の流れを解説します。

「個人的な問題」では済まない理由

社内恋愛の破局後の嫌がらせは、交際という私的な経緯があったとしても、職場で発生している以上、会社が対応すべきハラスメントになりえます。

会社に課せられている法的義務

男女雇用機会均等法第11条は、事業主にセクシュアルハラスメント(セクハラ)の防止措置を義務付けています。また労働施策総合推進法第30条の2(いわゆるパワハラ防止法)は、職場内の優位性を使った嫌がらせへの対策も義務付けています。これらの法律は「交際の有無」を例外として認めていません。「かつて合意して付き合っていた」という事実は、現在の嫌がらせ行為の違法性を打ち消す根拠にはならないのです。

放置した場合のリスク

会社が「私的なことだから」と対応を放置した場合、労働契約法第5条に定める安全配慮義務違反を問われるリスクがあります。被害者が精神疾患を発症して休職・退職に至った場合、会社に対して損害賠償請求が行われる可能性があります。また、被害者が労働基準監督署や都道府県労働局に申告すれば、行政指導の対象になることもあります。「見て見ぬふり」は会社にとって最もリスクの高い選択です。

「私的な問題」と主張されたときの切り返し方

加害者や周囲から「プライベートのことに会社が口を出すな」と言われることがあります。そのときは「職場環境の維持は会社の法的義務であり、業務への支障や他の社員への影響が生じている以上、職場問題として対応する」と明確に伝えましょう。感情的な議論ではなく、法的根拠をもとに会社の立場を示すことが重要です。

どこからがハラスメントになるのか

別れた後の行為がハラスメントに該当するかどうかは、「行為の内容」「継続性」「職場への影響」の三点で判断します。

セクハラに該当するケース

元交際相手への継続的な連絡要求、性的な内容を含むメッセージの送付、身体への不必要な接触などは、交際関係が終了した後であっても男女雇用機会均等法上のセクハラとして成立しえます。「以前は受け入れていた」という過去の事実は、現在の行為への同意とはなりません。たとえば、別れた後も毎日LINEを送り続ける、職場で二人きりになろうとする、といった行為がこれに当たります。

パワハラに該当するケース

加害者が上司や先輩など職場内で優位な立場にいる場合、その優位性を利用して嫌がらせをすればパワハラにも該当しえます。具体的には、仕事を一切振らない・過剰に難しい業務を押しつける・業績評価で不当に低い点数をつける・チームの情報共有から意図的に外す、などの行為です。上下関係がない同僚間であっても、複数人での無視・陰口・仕事の妨害は「職場環境を害する行為」として問題になります。

ストーカー行為に発展しているケース

職場内外での継続的なつきまとい、帰宅時の待ち伏せ、SNSでの執拗なメッセージ送付などはストーカー行為等の規制等に関する法律(ストーカー規制法)の「つきまとい等」に該当する可能性があります。被害者が警察への相談を希望する場合、会社はそれを妨げず、むしろ積極的に支援する姿勢が必要です。証拠の保全(後述)も警察への相談時に役立ちます。

証拠の集め方と保全の手順

証拠は「被害者自身が持つもの」と「会社が収集・確認できるもの」に分かれます。どちらも早期に保全することが重要です。

有効な証拠の種類

証拠の種類 具体例 保全の方法
電子的記録 LINEのトーク履歴・メール・SNSのDM・着信履歴 スクリーンショットを日付ごとに保存、クラウドにバックアップ
書面・メモ 被害の日時・場所・内容・目撃者を記録した日記やメモ 手書きでもデジタルでも可。日付を必ず記載する
第三者の証言 同席していた同僚・目撃者の証言 会社がヒアリング調査を実施し、記録として残す
業務上の記録 評価履歴・業務指示の内容・シフト変更の記録 人事・勤怠システムのデータを印刷・保存

被害者への依頼とプライバシーの配慮

スマートフォン内のLINEやメール履歴は被害者本人のプライバシーに属するため、会社が強制的に提出を求めることはできません。「懲戒処分や調停・訴訟で証拠として使えることを説明したうえで、任意での提供をお願いする」というアプローチが基本です。また、被害者がスクリーンショットを保存する際は「送信者名・日時・内容がすべて映るように撮影すること」「削除されないうちに複数の保存先に保管すること」を伝えましょう。

会社側が独自に確認できる記録

会社が直接アクセスできる証拠としては、社内メールのサーバーログ、入退室記録、防犯カメラ映像、業務用チャットツールの履歴などがあります。ただし社内メールや通話記録の監視には就業規則や利用規程への明記が必要です。就業規則にその根拠がない状態で強引に調査すると、かえって法的トラブルになるリスクがあります。まず自社の就業規則を確認し、必要であれば社会保険労務士などの専門家に相談してから動くことをおすすめします。

事実調査の進め方

調査は「被害者→第三者→加害者」の順番で行うことが原則です。この順序を守らないと、被害者への二次被害や証拠の隠滅につながるリスクがあります。

被害者ヒアリングで押さえるポイント

まず最初に被害者と面談する際は、「この相談内容は秘密を守る」「不利益な扱いはしない」「加害者への報復はしない」という三点を明確に伝えてから始めましょう。聴取する内容は、いつ・どこで・何が起きたか、その後どう感じたか、ほかに目撃者はいたか、証拠となる記録があるか、今どのような状態か(業務継続が可能かどうか)です。担当者は2名体制(同性が望ましい場合もある)で、必ず記録を残してください。

第三者・目撃者へのヒアリング

次に、被害者・加害者の双方と利害関係が薄い第三者に話を聞きます。「どちらかの味方をしてほしい」という場ではなく、「事実を確認するためにお話を聞かせてほしい」という姿勢を明確にしましょう。証言の秘密保持も約束してください。第三者への聴取内容は、具体的な行為を目撃したか、職場の雰囲気に変化があったかなどに絞ります。

加害者ヒアリングの注意点

加害者へのヒアリングは必ず被害者・第三者への聴取が終わった後に行います。この順序が逆になると、加害者が被害者に直接圧力をかけたり、証拠を消したりするリスクがあります。ヒアリングでは「事実確認のために話を聞いている段階であり、この時点で処分を決定したわけではない」と伝え、弁明の機会を十分に保障します。加害者が「合意だった」「相手も連絡してきた」と反論した場合は、その主張も記録に残したうえで、証拠と照合して事実認定を行います。双方向のやり取りがある場合でも、「どちらが断りを入れていたか」「断った後も連絡が続いていたか」が判断の分岐点になります。

懲戒処分をどのレベルで判断するか

懲戒処分は行為の重大性・継続性・反省の程度・業務への影響などを総合的に考慮して決定します。軽微なものから順に、注意指導・譴責(けん責)・減給・出勤停止・降格・諭旨退職・懲戒解雇の段階があります。

処分判断の前提条件

懲戒処分を行うには、まず就業規則に懲戒事由と処分の種別が明記されていることが必要です(労働基準法第89条第9号)。「職場秩序を乱した者」という曖昧な一文だけでは、今回のようなケースへの適用が難しくなることがあります。就業規則が古い場合は、社会保険労務士に依頼して速やかに見直しましょう。次に、処分が「客観的合理的理由」と「社会通念上の相当性」を持つことが必要です(労働契約法第15条)。過去に同様のケースがあれば、その処分内容との均衡も問われます。

行為の重さと処分レベルの目安

一回の軽微な接触や一度の不適切な発言であれば、注意指導・譴責が相当とされることが多いです。繰り返し行為があり、被害者が精神的苦痛を訴えている場合は減給・出勤停止が視野に入ります。身体的接触を伴う行為や、被害者が休職に至るほど重大な場合は降格以上の処分も検討されます。ストーカー規制法違反や刑事事件に発展したケースでは諭旨退職・懲戒解雇も選択肢になります。ただしこれはあくまで一般的な目安であり、実際の判断は個別事情や法的リスクを踏まえて行う必要があります。

手続きの適正を守るチェックリスト

処分を実施する前に、以下を確認してください。就業規則に当該行為を懲戒できる根拠条文があるか。事実調査が適切な手順で行われ、記録が残っているか。加害者に弁明の機会を与えたか。過去の類似ケースとの処分レベルに矛盾がないか。これらが不十分な状態で処分を下すと、加害者から「懲戒権の濫用」として無効を主張される可能性があります。特に解雇を含む重い処分を検討する場合は、労働問題に詳しい弁護士や社会保険労務士への相談を強く推奨します。

対応体制が整っていない企業がまず取るべき行動

就業規則の整備・相談窓口の設置・管理職への研修——これら三つが揃っていない企業でも、今すぐできる対応はあります。

今すぐ動ける「最低限の初動」

相談を受けたら、まず被害者の話を丁寧に聞き、記録を残すことから始めましょう。「すぐに解決できない」としても、「会社として受け付けた」という事実が被害者の安心感につながり、後の対応にも効いてきます。加害者と被害者の接触機会を減らすための配置換えや、テレワーク・時差出勤の活用も有効な一時的措置です。物理的に離すことが難しい場合は、第三者が立ち会える業務環境を整えることを検討してください。

従業員規模別に考える外部リソースの活用

産業医の選任義務がある50名以上の事業所は、メンタルヘルス的な側面から産業医に相談することもできます。50名未満の事業所で専任人事がいない場合は、社会保険労務士・弁護士・外部のハラスメント相談窓口サービスなどを活用しましょう。都道府県労働局の「総合労働相談コーナー」は無料で相談でき、ハラスメント対応の一般的なアドバイスを得ることができます。就業規則の見直しと相談窓口の整備は、今回のトラブル対応と並行して着手することをおすすめします。

再発防止のために整備しておくべきこと

今回のケースを機に整備しておきたいのは、ハラスメント防止規程の策定(または就業規則の改定)、社内相談窓口の設置と周知、管理職向けのハラスメント対応研修の三点です。特に相談窓口は「誰に言えばいいかわからない」という状況をなくすために重要です。窓口担当者が一人の場合、当事者と同じ部署では機能しないため、部署をまたいだ体制か外部委託が望ましいです。

まとめ

社内恋愛の破局後の嫌がらせは、交際という経緯があっても「職場でのハラスメント」として会社が対応すべき問題です。放置すれば安全配慮義務違反に問われるリスクがあり、被害者が休職・退職に至った場合は損害賠償請求にも発展しえます。対応の基本は、被害者ヒアリングを最初に行い、第三者・加害者の順で事実確認を進め、証拠を早期に保全すること。懲戒処分は就業規則の根拠と手続きの適正を守ることが前提です。就業規則が古い、相談窓口がない、調査の進め方がわからない——そういった状況でも、一人で抱え込まずに専門家に相談することで解決の糸口が見えてきます。ウェルセンス株式会社では、専任人事がいない中小企業の経営者・兼務人事担当者からのハラスメント対応・休職復職支援に関するご相談を承っています。「まず話を聞いてほしい」という段階からでも、お気軽にお問い合わせください。

よくある質問

Q. 被害者が「大げさにしたくない」と言って正式な相談を渋っています。それでも会社は動いていいのですか?

A. はい、動くことができます。会社はハラスメントの事実を認識した時点で対応義務が生じます。被害者本人の希望は最大限尊重すべきですが、「何もしない」ことが被害者の意思であっても、会社として状況を記録しておくこと・加害者と被害者の接触機会を減らす措置を検討することは可能です。被害者に対しては「正式な申告をしなくても話を聞く体制がある」「いつでも相談できる」と伝え続けることが重要です。

Q. 加害者が「相手も自分に連絡してきた」と言っています。双方向のやり取りがある場合、ハラスメントにはならないのですか?

A. 双方向のやり取りがあってもハラスメントになりえます。判断のポイントは「被害者が断りを入れた後も連絡が続いていたか」「拒否の意思が示されていたにもかかわらず接触があったか」です。過去に被害者からの連絡があった事実は、現在の加害行為を正当化する根拠にはなりません。LINEや通話履歴の内容・文脈を確認し、拒否後の継続行為があるかどうかを中心に事実認定を行いましょう。

Q. 就業規則にハラスメントに関する規定がありません。それでも懲戒処分はできますか?

A. 懲戒処分を行うには就業規則への規定が必要です(労働基準法第89条第9号)。「職場秩序を乱した者」などの一般的な条文しかない場合でも適用できるケースはありますが、処分の有効性が争われるリスクが高くなります。まずは社会保険労務士に相談して就業規則を速やかに見直すことが先決です。見直しには一定の時間がかかるため、並行して注意指導など就業規則に依存しない段階的な対応を進めておきましょう。

Q. 被害者が精神的に不安定になっており、業務に支障が出ています。休職を勧めてもいいですか?

A. 状況によっては休職を検討することは適切です。ただし、会社が一方的に「休んでほしい」と伝えるのではなく、まず医療機関への受診を勧め、主治医や産業医(50名以上の場合)の意見をもとに判断することが基本です。休職中も嫌がらせへの対応は継続して進める必要があります。被害者を職場から遠ざけるだけで問題を解決せずにいると、復職後に同じ問題が再発するリスクがあります。

Q. 加害者・被害者どちらも辞めさせたくない場合、どう対応すればいいですか?

A. 双方を雇用継続しつつ問題を解決するには、物理的な接触機会の削減(部署異動・テレワーク・席替え等)と、加害者への明確な行為の禁止通告・再発時の処分の明示が重要です。加害者に「具体的にどの行為が問題か」「今後同様の行為があった場合は懲戒処分になる」と文書で伝えておくことで、再発防止と将来の処分の根拠づくりを同時に行えます。双方の関係修復を焦る必要はなく、まず安全な職場環境の確保を優先させてください。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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