配偶者海外赴任帯同休職制度がない会社はどう対応すればいい?

配偶者海外赴任帯同休職制度がない会社はどう対応すればいい? 労務管理
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「社員から、配偶者が海外赴任になるので一緒に行きたいと相談されたのですが、うちには帯同休職の制度がなくて……どうすればいいでしょうか」——こんな相談が、人事担当者のいない中小企業にも珍しくなく届くようになっています。育児休業や傷病休職と違い、配偶者の海外赴任帯同は法律で定められた制度ではないため、就業規則に規定がなければ「認めるべきかどうか」の判断基準すら手元にありません。この記事では、制度がない状態でもすぐに動ける対応フローから、就業規則の整備方針まで、実務に沿って整理します。

帯同休職は法定制度ではない——だから「断れる」が「断れば済む」わけでもない

配偶者の海外赴任帯同を理由とした休職は、育児・介護休業法や労働基準法のどこにも規定がありません。会社が就業規則に定めて初めて成立する「会社独自の制度」です。したがって、制度がない状態では認める法的義務は原則としてありません。

制度がなければ拒否できる——ただし対応の仕方に注意

「就業規則に定めがないから対応できない」という説明自体は、法的に誤りではありません。しかし問題は対応の仕方です。「帯同したいなら辞めるしかない」という言い方は、退職強要と受け取られるリスクがあります。労働者が自らの意思で退職を選ぶのではなく、会社の言動によって退職を余儀なくされた場合、後から不当な退職勧奨として争われる可能性があります。

「前例を作りたくない」という不安と向き合う

「一人に認めたら次々と言われるのでは」という懸念はよく聞かれます。ただ、個別に対応した場合でも、書面による合意書(労働契約上の特別合意)として残しておけば、「就業規則に規定がない場合の例外的対応」として位置づけることができます。逆に何も書面化しなかった場合、後から「口約束で認めてもらった」と主張されると反証が難しくなります。

「個別対応」と「制度化」の使い分け

今すぐ相談を受けているのであれば、まず個別の書面合意で対応し、並行して就業規則の整備を進めるというのが現実的な流れです。制度を作ってから対応しようとすると、目の前の社員への対応が遅れ、退職につながりかねません。

制度がない状態での今すぐ使える対応フロー

就業規則に帯同休職の規定がない場合でも、個別の書面合意を締結することで一時的に対応することは可能です。重要なのは、口頭のみで進めず、条件を明文化して双方が署名することです。

合意書に盛り込むべき項目

個別合意書には、少なくとも以下の項目を明記してください。

  • 休職の開始日と終了予定日(または最長期間)
  • 給与・賞与の取り扱い(帯同休職は傷病手当金の対象外のため、基本的に無給となる旨)
  • 社会保険料の本人負担分の支払い方法と時期
  • 復職の条件(帰国後〇週間以内に復職の意思を会社に通知する、など)
  • 休職期間中の連絡方法と頻度
  • 休職期間満了時に復職しない場合の退職扱いとなる旨

社会保険・雇用保険の取り扱いを必ず説明する

雇用関係が継続している限り、休職中も健康保険・厚生年金の被保険者資格は原則継続します。保険料は労使折半のまま発生するため、給与からの天引きができない休職中は、本人が会社口座に毎月振り込む形が一般的です。この取り決めを事前にしておかないと、保険料の未払いが積み上がる事態になります。雇用保険の被保険者資格も継続しますが、休職中は失業給付の受給対象にはなりません。

1年以上の海外滞在が見込まれる場合は税務確認も

1年以上の継続した海外居住が見込まれる場合、所得税法上の非居住者となる可能性があり、住民税や源泉徴収の取り扱いが通常と異なります。この判断は会社側だけで行うのは難しく、顧問税理士や所轄税務署への確認が別途必要です。社員本人にもその旨を伝え、自身でも確認するよう促してください。

複数の判断が必要な場面では、無理に社内で完結しようとしないことが大切です。社会保険・税務・法務の専門家に相談することで、後のトラブルを防ぐことができます。

就業規則への帯同休職規定の盛り込み方

個別対応の繰り返しには限界があります。就業規則に帯同休職を明記することで、会社と社員の双方にとって条件が透明化され、「認めた・認めていない」の水掛け論を防ぐことができます。

休職事由に「配偶者帯同」を追加する際の論点

既存の就業規則に「傷病休職」しかない場合、帯同休職は傷病でも会社命令でもないため、既存の条文に当てはめることができません。新たな休職事由として独立した条項を追加するのが基本的な対応です。その際、以下の点を定義しておく必要があります。

決めるべき項目 検討ポイント
「配偶者」の定義 戸籍上の配偶者のみか、事実婚・同性パートナーを含めるか
「海外赴任」の要件 会社命令による赴任に限るか、本人の意思による転職・就業を含めるか
申請に必要な書類 配偶者の赴任辞令のコピー、雇用証明等
休職期間の上限 最長1年・2年など(配偶者の赴任期間に合わせた延長規定も検討)
給与・賞与の取り扱い 原則無給。賞与算定期間への影響も明記
復職条件 帰国後〇日以内の通知義務、復職時の職種・等級の扱い
自然退職規定 期間満了時に復職しない場合は退職とみなす旨

就業規則変更の手続き

常時10名以上の従業員を使用する事業場では、就業規則の新設・変更に際して、労働基準法第89条・第90条に基づき、労働者代表の意見聴取(意見書の添付)と所轄の労働基準監督署への届出が必要です。9名以下の事業場には届出義務はありませんが、就業規則を整備した場合は内容を社員に周知することが労働契約法第7条の観点からも重要です。就業規則を周知しなければ、その内容が労働契約の内容として効力を持たない場合があります。

帯同休職の新設は「不利益変更」にあたるか

新たに帯同休職を設けることは、社員にとって権利が増える内容であるため、原則として不利益変更には該当しません。ただし、既存の休職制度を統廃合して帯同休職を加える場合や、他の休職条件を厳しくする変更を同時に行う場合は、不利益変更の問題が生じる可能性があります。変更の内容によって判断が異なるため、不安があれば社会保険労務士に確認を取ることをお勧めします。

復職保証の設計——「約束しすぎない」ための言葉の作り方

「帰ってきたときにポジションはありますか?」という問いに、中小企業が「あります」と断言することはリスクを伴います。一方で「わかりません」だけでは人材が離れます。復職保証は「努力義務として明記する」ことが現実的なバランスです。

「原職復帰」と「同等職への配置」の違い

育児休業の場合、原則として原職または原職相当職への復帰が求められます(育児・介護休業法第10条の趣旨)。しかし帯同休職は法定制度ではないため、原職復帰を保証する義務はありません。就業規則や合意書には「復職時には業務上の必要性・会社の状況を踏まえて適切な職務に配置するよう努める」といった表現が適切です。「元のポジションに戻す」と断言してしまうと、組織変更や業務縮小があった場合に約束違反となる可能性があります。

休職期間満了時の「自然退職条項」を必ず設ける

帯同休職で問題になりやすいのが、休職中に現地での生活が定着し、帰国・復職の意思がなくなるケースです。就業規則に「休職期間満了までに復職の意思表示がない場合は退職とみなす」旨の規定がなければ、長期間にわたって雇用関係が宙ぶらりんのまま社会保険料だけが発生し続けるリスクがあります。この「自然退職規定」は、社員保護の観点からではなく、会社の経営リスク管理として不可欠な条項です。

復職前の「意思確認のタイミング」をルール化する

休職期間が1年以上にわたる場合は、6ヶ月ごとに会社への状況報告と復職意思の確認を義務づける規定を設けることを検討してください。これにより、復職の可否が直前まで不明な状態を防ぐことができ、後任の採用計画も立てやすくなります。

会社規模・就業規則の有無による対応の分岐

会社の状況によって、取るべき対応の優先順位は変わります。自社の状況に照らして、どのルートで動くべかを確認してください。

就業規則の届出義務がない9名以下の事業場

常時10名未満の事業場には就業規則の作成・届出義務はありません。ただし、帯同休職の申し出があった場合は、個別の書面合意(労働条件の変更に関する合意書)を必ず締結してください。この書面が後のトラブル防止の唯一の根拠になります。事業規模が小さいほど「口約束で済ませてしまう」ケースが多く、それが後の紛争の原因となります。

就業規則はあるが帯同休職の規定がない10名以上の事業場

この状況が最も多いケースです。既存の就業規則に帯同休職の条項を追加する形で変更手続きを進めてください。変更が完了するまでの間は、個別合意書で対応します。変更後の就業規則は社員全員に周知(社内掲示・イントラ・書面交付など)することを忘れないようにしてください。

専任人事がおらず、就業規則の更新が長年止まっている事業場

帯同休職への対応を機に、就業規則全体の見直しを行うことを検討する価値があります。休職事由の整理だけでなく、時間外労働の上限規制(労働基準法の改正対応)やハラスメント防止規定(男女雇用機会均等法・労働施策総合推進法上の義務)が未整備なケースも多く、今回の対応が就業規則全体の整備につながることがあります。

判断が複雑な場面では、法務・社会保険の専門家と相談しながら進めることをお勧めします。

まとめ

配偶者の海外赴任帯同休職は法定制度ではないため、就業規則に規定がなければ認める義務はありません。しかし「制度がないから」という理由だけで対応を止めると、退職強要のリスクや人材流出につながる可能性があります。目の前に相談が来ている場合は、まず個別の書面合意で対応することが現実的です。その上で、就業規則への休職事由の追加・期間・復職条件・自然退職規定の整備を進めることが、会社を守る長期的な対策になります。

社会保険料の取り扱い、住民税・所得税の確認、復職保証の言葉の設計など、判断が必要なポイントは複数あり、一度に全部整理しようとすると手が止まります。ウェルセンス株式会社では、就業規則の整備が追いついていない中小企業の人事・労務課題を一緒に整理するご支援を行っています。複数の判断が必要になったときこそ、専門家のサポートを受けることで、ミスなく適切な対応ができます。「何から手をつければいいかわからない」という段階でも構いません。まずはお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 就業規則に帯同休職の規定がない場合、社員から申し出があっても断ることはできますか?

A. 配偶者海外赴任帯同休職は法定制度ではないため、就業規則に定めがなければ認める法的義務は原則としてありません。ただし、「辞めるしかない」と断定するような対応は退職強要と見なされるリスクがあります。断る場合でも、丁寧に理由を説明し、可能であれば個別合意書による一時的な対応を検討することをお勧めします。

Q. 帯同休職中の給与はどう扱えばいいですか?

A. 帯同休職は傷病手当金などの法定給付の対象外です。会社が特別に定めない限り、休職中は無給となります。無給である旨と、社会保険料の本人負担分の支払い方法(毎月の振込など)を合意書または就業規則に明記し、本人に事前に説明しておくことが重要です。

Q. 「復職後も同じポジションを保証してほしい」と言われたらどう答えればいいですか?

A. 帯同休職は法定制度ではないため、育児休業のような原職復帰の義務はありません。「復職時には業務上の状況を踏まえて適切な職務に配置するよう努める」という努力義務の形で就業規則や合意書に明記するのが現実的です。「元のポジションを保証する」と断言することは、後の組織変更時にトラブルの原因となるため避けてください。

Q. 帯同休職中に「やはり帰国しない、そのまま退職したい」となった場合はどうすればいいですか?

A. このケースに備えて、就業規則や合意書に「休職期間満了までに復職の意思表示がない場合は退職とみなす」という自然退職規定を設けておくことが重要です。この規定がないと、退職の意思が明確にならないまま雇用関係が長期間継続し、社会保険料の負担だけが積み上がるリスクがあります。

Q. 従業員が9名以下の小規模事業者ですが、就業規則がなくても帯同休職に対応できますか?

A. 常時10名未満の事業場は就業規則の作成・届出義務がありませんが、帯同休職の申し出に応じる場合は個別の書面合意(労働条件変更に関する合意書)を必ず締結してください。口頭での取り決めは後のトラブルの原因になります。休職期間・給与・社会保険料・復職条件・満了時の取り扱いを書面に明記した上で、双方が署名することで対応することが可能です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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