休職中の従業員と連絡が取れない時、会社がすべき安否確認の対応

労務管理

ある日突然、休職中の従業員と連絡が取れなくなった。電話は出ない、メールも返ってこない——。「もしかして、何かあったのでは」と心配しながらも、「家族に連絡したら個人情報の問題になるかも」「強引に動いてハラスメントと言われたら困る」と、どう動けばいいかわからないまま時間だけが過ぎている。そんな状況に直面している経営者・人事担当者の方は少なくありません。休職中でも労働契約は続いており、会社には従業員の安全に配慮する法的義務があります。この記事では、休職中に連絡が取れない従業員への安否確認の対応を、法的根拠を踏まえながら実務的なステップで解説します。

休職中でも「安全配慮義務」は会社に残る

休職中の従業員と連絡が取れなくなった場合、会社は放置せず積極的に安否確認を行う義務があります。これは感情的な問題ではなく、法律に基づく責任です。

労働契約法第5条が定めること

労働契約法第5条は、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定めています。重要なのは、この義務が「就労中のみ」に限定されないという点です。休職中であっても労働契約は存続しているため、安全配慮義務は消滅しません。

つまり、休職者が突然連絡不能になった状態を「本人の問題だから」と放置することは、安全配慮義務の観点から会社にとってリスクになります。特にメンタルヘルス不調による休職の場合、自傷・自殺リスクが背景にある可能性もあるため、より慎重かつ迅速な対応が求められます。

「連絡を取ること」自体がハラスメントになるのか

「休職者に連絡すること自体がプレッシャーになるのでは」と心配する方もいます。確かに、業務の話題を振ったり、復職を急かすような連絡は問題になり得ます。しかし、安否確認を目的とした連絡は、それとは性質が異なります。「体調はいかがですか」「連絡が取れず心配しています」という内容は、安全配慮義務の履行であり、適切に記録を残したうえで行うべき正当な対応です。

個人情報保護と安否確認、どちらを優先すべきか

緊急性が高い場面では、個人情報保護法の例外規定により、本人の同意なく緊急連絡先(家族等)へ連絡することが法的に正当化される場合があります。

個人情報保護法の「例外規定」を理解する

個人情報保護法第18条第3項および第23条第1項は、「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難なとき」には、目的外利用や第三者への情報提供が認められると定めています。

連絡が取れない休職者の安否が危ぶまれる状況は、まさにこの例外に該当する可能性があります。「採用時に取得した緊急連絡先を、安否確認以外の目的で使うのはNG」という原則は守りつつも、緊急性が認められる状況であれば、家族への連絡は法的に根拠のある行動です。「個人情報だから絶対に連絡できない」という思い込みが、対応を遅らせる最大の落とし穴です。

判断の鍵は「緊急性の程度」と「記録」

ただし、例外規定を使う際に重要なのは、緊急性の程度が客観的に認められることと、対応の記録を残すことです。「1日返信がなかったから」という段階で家族に連絡するのは過剰かもしれません。一方、数日間にわたってあらゆる連絡手段を試みても応答がない場合は、緊急性があると判断できます。いつ・どのような方法で・何回連絡を試みたかを記録しておくことで、その後の対応の正当性を示せます。

連絡が取れない場合の対応フロー

休職中の従業員と連絡が取れなくなったときは、段階的にアプローチを広げていくことが基本です。一足飛びに強制的な手段を取るのではなく、記録を残しながら順を追って対応します。

まずは複数手段で本人に連絡する

最初に行うべきは、電話・メール・郵送(書面)など複数の手段で本人への連絡を試みることです。電話はつながらなくても、留守電にメッセージを残すことで「会社として連絡を試みた事実」を作れます。郵便は、特定記録郵便や内容証明郵便を使うと、発送・到達の記録が残るため有効です。「体調を心配しています。できる範囲でご連絡ください」というトーンで送付します。

緊急連絡先(家族等)への連絡へ移行する

複数回の試みにもかかわらず応答がない場合、採用時に登録された緊急連絡先へ連絡します。前述の個人情報保護法の例外規定を根拠として、「安否が心配で連絡した」という趣旨を簡潔に伝えます。このとき、家族に対して病名や詳細な症状など必要以上の個人情報を伝えることは控えましょう。あくまで「連絡が取れず安否を確認したい」という目的に絞った情報共有が適切です。

警察への安否確認依頼(ウェルネスチェック)という手段

家族とも連絡が取れない、または家族が状況を把握していないという場合には、居住地を管轄する警察署への安否確認依頼(ウェルネスチェック)を検討します。警察に「知人・関係者の安否確認をしてほしい」と依頼することは一般市民・法人ともに可能で、自傷・自殺リスクが懸念される旨を明確に伝えることが重要です。この手段を知らない担当者は多いですが、緊急時の有効な選択肢のひとつです。

対応フェーズ 具体的な行動 記録すべき内容
本人への複数手段での連絡 電話・留守電・メール・書面郵送 日時・手段・内容・担当者名
緊急連絡先(家族等)への連絡 採用時登録の緊急連絡先に電話・書面 連絡先・日時・伝えた内容・家族の反応
警察への安否確認依頼 居住地管轄の警察署に電話で依頼 依頼日時・警察署名・担当者名・結果
産業医・主治医との連携 接触できた範囲で情報共有・連携 連絡先・協議内容・日時

就業規則に「連絡義務」の規定がない場合のリスク

多くの中小企業では、就業規則に休職中の連絡義務や安否確認の手続きが定められていないため、いざというときに会社として正式な対応ができない状態に陥ります。

整備されていない就業規則が招くトラブル

就業規則に「休職中は月1回、会社所定の方法で状況を報告すること」などの規定がない場合、会社が連絡を求める根拠が曖昧になります。従業員側から「そんなルールは知らなかった」と言われても反論しにくく、対応の正当性を示せません。また、連絡不通が長期間続いた場合に「休職の継続要件を満たさない」と判断して休職を取り消したいケースでも、就業規則に根拠がなければ、その判断が違法とみなされるリスクがあります。

今すぐ確認・整備すべき就業規則の項目

就業規則または休職規程に以下の項目が明記されているか、今すぐ確認することをお勧めします。

  • 休職中の定期報告義務(例:月1回、書面または電話での状況報告)
  • 連絡が取れない場合の対応手順(会社が取り得る措置の明記)
  • 緊急連絡先の利用目的(安否確認・業務上の緊急事態への対応を明示)
  • 正当な理由なく長期間連絡が取れない場合の休職取消・解雇事由への該当性

専任人事がいない企業では、就業規則の整備が後回しになりがちです。しかし、こうした規定は「何かが起きたとき」に初めてその重要性が際立つものです。現在休職者がいない時期こそ、整備のタイミングです。

産業医の有無による対応の違い

産業医の選任義務がある従業員50人以上の企業と、それ以下の企業では、動ける手段が異なります。産業医がいる場合は、安否確認のプロセスで産業医に相談・連携することで、医療的観点からの判断が得られます。一方、50人未満で産業医がいない企業は、外部の産業保健機関(地域の産業保健総合支援センターなど)への相談や、社会保険労務士・メンタルヘルス専門の支援機関の活用を検討するといいでしょう。

対応の記録化が、後のトラブルを防ぐ

安否確認の対応で最も軽視されがちなのが「記録を残すこと」です。何をどこまでやったかの記録は、後の労働トラブルや訴訟の際に会社を守る最大の証拠になります。

記録すべき内容と残し方

対応記録には、「いつ(日時)」「誰が(担当者名)」「何をしたか(手段・内容)」「どうなったか(結果・相手の反応)」を必ず書き残してください。メールや郵便の控え、電話の留守電メモ、家族との通話記録(概要)など、形式を問わず記録として保管します。口頭のやり取りは、直後に社内メールや日報などで記録化しておくと信頼性が上がります。

記録がないと何が起きるか

「ちゃんと連絡したのに記録がない」というケースは珍しくありません。後から「会社は何もしてくれなかった」と主張された場合、記録がなければ反証できません。逆に、適切なプロセスで対応し、それを記録として残していれば、会社が安全配慮義務を誠実に果たしたことを示す証拠になります。記録化は従業員のためでもあり、会社自身を守るための行為でもあります。

まとめ

休職中の従業員と連絡が取れなくなった場合、会社は「放置せず、段階的に・記録を残しながら対応する」ことが求められます。安全配慮義務は休職中も消えず、緊急性が高い場面では個人情報保護法の例外規定を根拠に家族への連絡も正当化されます。また、警察への安否確認依頼(ウェルネスチェック)という手段も存在します。こうした対応を実効性あるものにするためには、就業規則に連絡義務・緊急連絡先の利用目的・休職取消事由を明記しておくことが前提となります。

「今まさに連絡が取れない従業員がいる」「就業規則が整っていない不安がある」「メンタル不調の休職者への対応に自信がない」——そういった状況をお一人で抱えているなら、ウェルセンス株式会社にご相談ください。休職・復職支援や人事労務の専門知識をもとに、御社の状況に合った実務的なアドバイスをご提供しています。

よくある質問

Q. 休職者と連絡が取れなくなってから、何日くらいで家族への連絡を検討すべきですか?

A. 法律上「何日目」という明確な基準はありませんが、複数の手段(電話・メール・書面郵送など)を使って数日間試みても一切応答がない場合、緊急連絡先への連絡を検討する段階と考えられます。特にメンタルヘルス不調による休職者の場合は、リスクが高い可能性もあるため、対応の遅れは禁物です。迷ったときは、社会保険労務士や専門機関に早めに相談することをお勧めします。

Q. 採用時に取得した緊急連絡先を安否確認に使うことは、個人情報保護法違反になりますか?

A. 安否が危ぶまれる緊急性が認められる状況であれば、個人情報保護法第18条第3項・第23条第1項の「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難なとき」という例外規定に基づき、目的外利用・第三者提供が認められる場合があります。ただし、事前に就業規則や雇用契約書で緊急連絡先の利用目的を明確にしておくことが、よりリスクの少ない運用につながります。

Q. 警察に安否確認を依頼することはできますか?どのように伝えればいいですか?

A. 可能です。従業員の居住地を管轄する警察署に電話し、「従業員と長期間連絡が取れず、精神的な不調で休職中であることから安否が心配です。自傷・自殺の恐れが否定できないため、自宅への安否確認をお願いしたい」と具体的に伝えてください。これはウェルネスチェックと呼ばれる対応であり、警察が対応してくれる場合があります。依頼した日時・警察署名・担当者名・結果は必ず記録に残しましょう。

Q. 就業規則に休職中の連絡義務が規定されていない場合、連絡不通を理由に休職を取り消すことはできますか?

A. 就業規則に明確な根拠規定がない状態での休職取消や解雇は、法的リスクが高くなります。連絡不通を休職取消・解雇の事由とするためには、就業規則にその旨を明記していることが前提です。現在規定がない場合は、まず就業規則の整備を優先してください。既に連絡不通の状態が続いている場合は、一方的に処分を進める前に、専門家に相談することを強くお勧めします。

Q. 従業員が50人未満で産業医がいません。安否確認の対応をどこに相談できますか?

A. 産業医が選任義務のない50人未満の企業では、都道府県ごとに設置されている「産業保健総合支援センター(さんぽセンター)」が無料で相談に応じています。また、社会保険労務士やメンタルヘルス支援の専門機関に相談することも有効な選択肢です。ウェルセンス株式会社でも、中小企業の人事担当者からのご相談をお受けしており、初動対応から就業規則整備まで幅広くサポートしています。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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