主治医が復職可と言っても拒否できる?会社判断の3つの基準

主治医が復職可と言っても拒否できる?会社判断の3つの基準 メンタルヘルス対応
Photo by Gustavo Fring on Pexels

「先生から復職できると言われました」——そう言って診断書を持参した社員に、あなたはどう答えるべきか。感覚的には「まだ早い」と思っていても、主治医がOKを出しているなら拒否したら違法になるのでは、と不安になる経営者・人事担当者は少なくありません。この記事では、会社が復職を判断する際の法的根拠と、実務で使える3つの判断基準を整理します。

主治医の「復職可」は、会社の復職許可と同じではない

結論から言えば、主治医が「復職可能」と判断しても、会社は正当な理由があれば復職を認めないことができます。ただし、その判断には明確な根拠が必要です。

主治医の役割と会社の権限は別物

主治医はあくまで「患者である社員の治療者」です。回復の程度を医学的に判断することが仕事であり、職場の業務内容や職場の人間関係、チームの状況を十分に把握したうえで診断書を書いているわけではありません。「日常生活が送れる程度に回復した」という医学的判断が、「従前の業務を通常の水準でこなせる状態に戻った」という業務判断と必ずしも一致しないのはそのためです。

最終判断権は使用者にある

厚生労働省が作成した「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」では、復職の判断プロセスが「主治医による復職可能の判断→産業医等による意見→使用者による最終判断」という流れで明示されています。つまり、主治医の意見は重要な参考情報であっても、最終的な復職可否の判断権限は使用者にあることが公式に整理されているのです。労働契約法の観点からも、労務提供義務が履行できる状態かどうかを判断するのは使用者の権限です。

「拒否」ではなく「判断の留保」として整理する

重要なのは、会社の対応を「拒否」ではなく「会社として必要な確認プロセスを経ている」と整理することです。感情的な対立に発展しやすい場面ですが、「主治医の診断書を確認しました。会社としても就業規則の復職基準に沿って判断を進めます」という姿勢を示すことで、社員・家族との関係を落ち着かせやすくなります。

会社が使える3つの復職判断基準

会社が「まだ早い」と判断する根拠として、実務上は次の3つの基準が重要です。これらが整備されていれば、主治医意見と異なる判断をしても法的リスクを大きく下げることができます。

就業規則に定めた復職要件

最も重要な基準が、就業規則に明記された復職要件です。典型的な記載例は「休職期間満了時に、従前の業務を通常の程度で遂行できる状態に回復していること」というものです。この要件が書かれていれば、「主治医はOKと言っているが、当社の就業規則が定める『従前の業務を通常程度で遂行できる状態』にはまだ達していないと判断しています」という説明が成立します。逆に就業規則に復職基準が明記されていない場合、会社の判断が恣意的と見なされるリスクが高まります。まず自社の就業規則を確認することが出発点です。

産業医または会社指定医による意見

主治医の意見に対して、会社側として医学的な判断を加える役割を担うのが産業医または会社が指定する医師(指定医)です。就業規則に「会社は、復職の判断にあたり産業医または会社が指定する医師の意見を聴取することができる」「会社指定医の診断を復職判断の条件とすることができる」と定めておけば、主治医とは別の医師の見解を求めることが正当化されます。従業員50名未満で産業医選任義務がない会社でも、各地域の「地域産業保健センター(地産保)」を活用すれば、産業医相談を無料で利用できます。この仕組みを事前に就業規則に盛り込んでおくことが重要です。

試し出勤(リハビリ出勤)の実施と評価

正式な復職判断の前に「試し出勤(リハビリ出勤)」を実施し、その結果を判断材料にする方法です。たとえば「週3日・1日4時間の軽作業から開始し、2週間後に状態を評価する」という形が考えられます。試し出勤の結果として、遅刻・早退の頻度、集中力の持続、対人コミュニケーションの状態などを具体的に記録しておくと、「まだ業務遂行が難しい」という判断に客観的な根拠が生まれます。ただし試し出勤の実施中の処遇(賃金・労災の扱い等)は事前にルール化しておく必要があります。

診断書の内容を整理したものの、判断に迷っている場合は、社員本人の同意を得たうえで産業医または外部医の意見を求めるのが標準的な手法です。判断を一人で抱えずに、必要な情報収集をすることが重要です。

復職拒否が違法になる条件と回避策

会社の復職判断が「不当」として争われるケースには、共通したパターンがあります。該当するものがないか確認してください。

違法リスクが高まる4つの状況

状況 リスクの内容
就業規則に復職基準が書かれていない 会社の判断根拠が存在せず、恣意的と見なされやすい
判断理由が「感覚的」で説明できない 社員・家族・弁護士からの反論に答えられない
試し出勤など支援の機会を与えていない 復職に向けた配慮義務(合理的配慮)を果たしていないと判断される
休職期間満了後にそのまま解雇した 解雇の有効性が争われた場合、復職拒否の正当性も問われる

「引き延ばし」が逆リスクになる場合

「まだ早い」と言い続けることにも注意が必要です。就業規則に定めた休職期間を超えて復職判断を先延ばしにし続けると、休職期間満了に伴う退職・解雇の問題が発生します。また、合理的な理由なく復職を拒み続ければ、社員から「不当な復職拒否」として損害賠償請求を受けるリスクもあります。「まだ早い」と感じる場合は、明確な理由と対応策(試し出勤・指定医受診・復職支援プログラムなど)をセットで提示することが重要です。

主治医・社員・会社の三者調整:実務の進め方

理屈はわかっても、実際に誰が何をするかが見えなければ動けません。専任人事がいない会社向けに、実務の流れを整理します。

社員から診断書を受け取った後にすること

社員が「復職可能」と書かれた診断書を持参したら、まずその内容を確認し、「会社として就業規則に沿った判断プロセスを進める」と社員に丁寧に伝えます。このとき「拒否します」という言い方は避け、「確認のためのステップがあります」というニュアンスで伝えることが対話を円滑にします。次に、診断書に書かれた復職可能の理由・条件・業務制限の有無などを確認し、主治医に追加情報を求める必要があるかを検討します。

主治医への情報提供依頼と意見照会

会社が主治医に直接連絡する場合は、必ず社員本人の同意を得たうえで書面(情報提供依頼書)を送ります。主治医は患者の同意なく会社と情報交換する義務はありませんが、本人が同意すれば応じてくれるケースが多いです。依頼書には「現在の業務内容・職場環境(残業の有無、対人関係の状況など)」を具体的に記載し、「これらの業務を担当するうえでの医学的見解をお聞かせください」という形で照会すると、主治医の回答が実務的に活用しやすくなります。

産業医・地域産業保健センターの活用

産業医がいる場合は、主治医の診断書・情報提供依頼への回答・社員との面談記録などを揃えて産業医に意見を求めます。産業医がいない従業員50名未満の事業場では、都道府県の産業保健総合支援センターや地域産業保健センター(地産保)に相談窓口があります。無料で産業医相談が利用できるため、「医学的に判断できる専門家がいない」という状況を解消する有効な手段です。こうして集めた情報をもとに、経営者または人事担当者が最終判断を行います。

不調者対応を、人事だけで抱えない。精神科・心療内科の産業医が初動からサポート | ウェルセンス

今すぐできる就業規則・社内体制の整備ポイント

復職トラブルを未然に防ぐには、事前の規定整備と周知が欠かせません。現時点で対応できていない項目があれば、優先的に見直してください。

就業規則に盛り込むべき4つの項目

  • 復職の要件(「従前の業務を通常の程度で遂行できる状態」など具体的な文言)
  • 産業医または会社指定医の意見聴取・受診命令に関する規定
  • 試し出勤(リハビリ出勤)の制度と、実施中の賃金・労災の取り扱い
  • 休職期間満了と退職・解雇に関する規定

これらが整備されていれば、復職判断をめぐるトラブルの大半は「就業規則に沿った対応です」という説明で収めることができます。規定がないまま個別対応を積み重ねると、ケースごとに判断がぶれてしまい、後から「あの人のときは認めたのに」という問題が生じやすくなります。

会社規模・状況別の対応チェック

自社の状況に応じて、対応の優先順位が変わります。従業員50名未満で産業医がいない場合は、地域産業保健センターへの相談窓口を事前に確認しておくことが最初の一手です。就業規則がまだシンプルなひな形のままという会社は、休職・復職に関する規定の充実を社会保険労務士に依頼することを検討してください。すでに休職中の社員がいる場合は、現行の就業規則に照らして「どの段階にいるのか」を整理し、今後の対応手順を明確にしておくことが急務です。

人事判断に確信が持てない場合、外部の専門家に判断プロセスを相談することで、後のトラブルを大きく減らせます。判断に必要な情報が揃っているかの確認だけでも、実務の質が変わります。

まとめ

主治医が「復職可能」と判断しても、会社は正当な根拠があれば復職を認めないことができます。そのために必要なのは、就業規則への復職基準の明記、産業医または指定医による意見聴取の仕組み、試し出勤制度の整備という3つの基盤です。感覚的な判断ではなく、こうした根拠に基づいて対応することで、社員・家族・場合によっては弁護士からの問い合わせにも冷静に対応できます。

「就業規則を見直したいが何から手をつければいいかわからない」「現在の復職判断の進め方が適切かどうか確認したい」という場合は、ウェルセンス株式会社にお気軽にご相談ください。20~50名規模の成長企業を対象に、メンタルヘルス対応・休職復職支援・人事労務の実務サポートを提供しています。専任人事がいない環境でも動ける、現場目線の支援をお約束します。

よくある質問

Q. 主治医の診断書に「復職可能」と書いてあれば、会社は必ず復職を認めなければなりませんか?

A. いいえ、そうではありません。主治医の意見はあくまで参考情報であり、最終的な復職可否の判断権限は使用者(会社)にあります。厚生労働省の「職場復帰支援の手引き」でも、主治医意見の後に産業医等の意見聴取を経て、使用者が最終判断するという流れが示されています。ただし、会社の判断には就業規則に基づく明確な根拠が必要です。

Q. 産業医がいない場合、会社はどうすれば医学的な判断根拠を得られますか?

A. 従業員50名未満で産業医選任義務がない事業場は、各都道府県にある「地域産業保健センター(地産保)」を活用できます。無料で産業医への相談が可能です。また、就業規則に「会社が指定する医師の意見を聴取できる」と定めておけば、会社が外部の医師に意見を求めることも正当化されます。

Q. 会社が主治医に直接連絡して意見を聞くことはできますか?

A. 可能ですが、必ず社員本人の同意を得たうえで書面(情報提供依頼書)を送る形で行います。主治医は患者の同意なく会社に情報を提供する義務はありませんが、本人同意があれば応じてもらえるケースがほとんどです。依頼書には業務内容・職場環境などの具体的な情報を記載し、その状況での就業についての医学的見解を求めると、有益な回答が得やすくなります。

Q. 「まだ早い」と感じているのに、具体的にどう説明すればいいかわかりません。

A. 就業規則に定めた復職基準(例:「従前の業務を通常の程度で遂行できる状態」)と照らし合わせて、具体的に何が満たされていないかを言語化することが出発点です。たとえば「現在の担当業務はプロジェクト管理と複数部署との調整が中心で、集中力の持続と対人対応が必要ですが、その点の回復状況がまだ確認できていません」という形で説明します。試し出勤を活用すれば、実際の状況を記録として残すことができます。

Q. 復職を認めずにいるうちに休職期間が満了しそうです。どうすればいいですか?

A. 休職期間満了が近づいている場合は、速やかに対応を整理する必要があります。まず就業規則の休職期間の定めを確認し、期間満了後の取り扱い(退職・解雇)の規定を把握します。次に、現時点での復職可否の判断根拠を明確にし、可能であれば試し出勤を実施して状態を確認します。この判断を曖昧なまま先延ばしにすることは、逆に法的リスクを高めます。手順が見えない場合は、社会保険労務士や専門家に早めに相談することをお勧めします。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

不調者対応を、人事だけで抱えない。

メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。

詳しく見る →

タイトルとURLをコピーしました