「副業を認めたいけど、どこまで許可すればいいかわからない」「就業規則には禁止と書いてあるけど、実態は黙認している」——そんな状態で日々の業務をこなしている経営者・兼務人事担当者の方は少なくありません。副業解禁の流れが加速するなか、規定なしで放置しているとトラブル発生時に会社が法的リスクを負うケースも出てきています。この記事では、中小企業が実務で使える副業規定の作り方を、許可基準・申請フロー・リスク管理の三本柱でわかりやすく解説します。
「禁止」か「解禁」かの二択をやめる
副業を全面禁止にするリスク
多くの中小企業の就業規則には「許可なく他の会社に就職し、または自ら事業を営んではならない」という条文が残っています。しかし、労働者は就業時間外の行動を原則として自由に選択できるという「私生活の自由」が認められており、副業しているという事実だけで解雇や懲戒処分を行っても、裁判では無効とされるケースが増えています(マンナ運輸事件など)。全面禁止の規定を形だけ維持していても、トラブル発生時に会社を守る盾にはなりにくいのです。
「条件付き許可制」という現実的な選択肢
おすすめするのは「全面禁止」でも「全面解禁」でもなく、一定の条件を満たした副業を会社が審査したうえで許可する「許可制」です。副業許可の規定に基づいた許可制にすることで、問題のある副業(競合他社への就業や情報漏洩リスクのある業務)は断りつつ、問題のない副業は認めるという柔軟な運用が可能になります。採用競争力の観点でも、副業OKを打ち出せる会社は求職者からの評価が上がりやすく、人材確保に悩む中小企業にとってプラスに働きます。
許可制が法的リスクを下げる理由
許可制の最大のメリットは、「会社が意思決定のプロセスを持っていた」という記録が残ることです。もし副業を許可した従業員が情報漏洩を起こした場合でも、申請書・審査記録・誓約書が揃っていれば、会社が善管注意義務を果たしていたことを示せます。逆に、黙認状態のまま放置していると、トラブル発生時に「なぜ会社は把握していなかったのか」という批判を受けやすくなります。
副業規定に必ず盛り込む許可基準の考え方
不許可にすべき副業の典型パターン
許可基準を曖昧にしたまま申請フローだけ作っても、審査する側が途方に暮れます。まず「どんな副業はNGか」を明文化することが先決です。不許可の典型例としては、自社と競合する商品・サービスを扱う企業への就業、本業で得た顧客情報や技術情報を活用する業務、週あたりの副業労働時間が一定時間(例:週10時間)を超える場合、深夜・早朝の就業が恒常化して翌日の勤務に支障が出る場合、反社会的勢力や風俗営業に関わる業務などが挙げられます。これらを就業規則の別規程として「副業・兼業に関する規程」に具体的に列挙しておくことが重要です。
許可の判断に使う審査チェックリスト
申請を受けた際に経営者や担当者が一人で悩まなくて済むよう、審査チェックリストを事前に作成しておくと運用が格段に楽になります。チェック項目の例としては、「副業先が自社の競合にあたるか」「副業で使う情報・スキルに機密性はないか」「副業と本業を合算した週労働時間は何時間か」「副業の勤務時間帯は本業の翌日勤務に影響しないか」「副業先の業種・業態に問題はないか」などが考えられます。すべての項目で問題なしと判断されたら許可、一つでも懸念があれば条件付き許可または不許可という判断フローを作っておくと、属人的な判断を防げます。
許可の有効期間と更新の仕組み
副業の許可は「一度出したら永遠に有効」にしてはいけません。本業の状況変化(繁忙期・昇格・役職変更)や副業の内容変化によって、当初は問題なかった副業がリスクに変わることがあります。実務的には許可の有効期間を1年とし、毎年更新申請を義務付けるのが一般的です。さらに、四半期ごとの自己申告(「副業の状況に変化はありませんか?」という簡単な確認書)を導入すると、変化の早期把握が可能になります。
実務で動く申請フローの設計
申請書に記載させる情報の項目
副業申請書には、最低限以下の情報を記載させることを推奨します。副業先の会社名・業種・担当業務の内容、週あたりの予定労働時間・勤務曜日・勤務時間帯、副業の開始予定日と終了(または更新)予定日、副業収入の概算(社会保険・税務対応のため)、機密情報・競合関係がないことの誓約、以上の5点が基本セットです。申請書は提出で完結させず、必ず受理確認と審査結果の通知書を書面で返すことで「申請→審査→許可」のプロセスが記録として残ります。
承認フローの流れと承認者の設定
承認フローは「申請(本人)→ 所属長による一次確認 → 人事または経営者による最終審査・許可通知」の三段階が基本です。所属長が一次確認を行うことで、「直属上司が本人の勤怠・パフォーマンスを見ながら副業の影響を判断する」という実態に即した審査が可能になります。経営者1人に判断が集中する構造は、経営者不在時に対応できなくなるリスクがあるため、10名以上の企業では人事担当者または管理職が代理承認できるルールも明記しておきましょう。
変更・終了時の届出ルールも忘れずに
副業の内容が当初の申請から変わった場合(業務内容の変更・副業先の変更・労働時間の増加など)は、速やかに変更届を提出させるルールを設けます。副業を終了した場合も終了届の提出を義務付けると、会社が常に最新の状況を把握できます。「申請さえすれば後は自由」ではなく、継続的な報告義務があることを規程に明記しておくことが、モニタリング体制の骨格になります。
労働時間・社会保険・税務の落とし穴
労基法38条「労働時間の通算」を知っておく
副業を許可する際に見落としがちなのが、労働基準法38条が定める「労働時間の通算ルール」です。同一の労働者が複数の会社で働く場合、各社での労働時間は合算して管理する義務があります。通算で週40時間・1日8時間を超えた部分については、後から雇用契約を結んだ会社(多くの場合、副業先)が割増賃金を支払う義務を負います。ただし、厚生労働省が推奨する「管理モデル」を活用すれば、あらかじめ副業の上限時間を労使で合意しておくことで、煩雑な通算計算を簡略化できます。副業申請書に「週あたり○時間以内」と上限を明記させる運用は、この管理モデルに沿った実務対応です。
社会保険の二重加入と住民税への影響
2022年10月の社会保険適用拡大以降、副業先が法人で、月額賃金8.8万円以上かつ週20時間以上の勤務となる場合は、副業先でも社会保険への加入義務が生じます。本人はもちろん、主たる勤務先である自社にも届出・手続きへの関与が求められる場合があるため、申請書の段階で副業の勤務形態を把握しておくことが重要です。また、副業収入が年20万円を超える場合、本人が確定申告をする義務があります。確定申告の際に「普通徴収」を選択させることで、副業分の住民税が自社の給与天引きに混入しないよう配慮するよう、申請時にあらかじめ本人に説明しておきましょう。
個人情報・マイナンバー管理の注意点
副業申請書で副業先の会社名・業種・収入額などを収集する場合、これらは個人情報として適切に管理する義務があります。特に収入情報は要配慮情報に準じる取り扱いが求められます。申請書の保管場所・アクセス権限・保管期間を社内ルールで定め、担当者以外が閲覧できない状態にしておくことが必要です。マイナンバーの収集が必要になるケースは通常の副業申請では発生しませんが、社会保険手続きとの連動が生じる場合は別途確認が必要です。
メンタルヘルス・過重労働リスクとの連動管理
副業が引き起こす疲弊のサインを見逃さない
副業許可後に見落としやすいのが、従業員の心身への負荷です。特に中小企業では一人が副業で疲弊しても代替要員がいないため、本業のパフォーマンス低下が即座に業務全体に影響します。「遅刻・欠勤の増加」「ミスの増加」「表情や発言の変化」「有給休暇の突発的な取得」などは、副業による過重労働・睡眠不足・ストレス蓄積のサインである可能性があります。所属長が定期的な1on1(月1回程度)の機会に副業の状況を確認する仕組みを規程に盛り込んでおくと、早期発見につながります。
副業先のトラブルが本業に波及するリスク
副業先でのハラスメントや人間関係トラブルが原因で精神的に不安定になり、本業での休職に至るケースも実際に発生しています。この場合、本業の会社は直接の原因者ではありませんが、休職対応・復職支援のコストは自社で負担することになります。副業申請書の年次更新の際に「副業先での環境に問題はないか」という確認項目を設けると、こうしたリスクの早期把握に役立ちます。産業医や保健師がいない中小企業でも、外部の相談窓口(EAP:従業員支援プログラム)を設けることで、従業員が副業絡みの悩みを安心して相談できる環境を作れます。
🔗 社員のメンタル不調に、精神科・心療内科医によるスポット産業医サービス →
就業規則の改定手順と規程の整備
現行の禁止規定を「許可制」に書き換える
まず現行の就業規則に記載されている副業禁止条項を確認します。典型的な条文は「会社の許可なく他に就職し、または自ら事業を営んではならない」というものです。これを「会社の事前許可を得た場合に限り、副業・兼業を行うことができる」という許可制の表現に書き換えます。この改定だけでは詳細が不足するため、「副業・兼業に関する規程」を別規程として新設し、許可基準・申請フロー・モニタリング・違反時の取り扱いをまとめて記載する構成が実務的にわかりやすくなります。
労基法上の手続きを正しく踏む
就業規則を改定する際には、労働基準法90条に基づき、労働者代表からの意見聴取が義務付けられています。意見聴取は「同意を得る」ことではなく「意見を聞く」ことであるため、労働者代表が反対であっても改定は可能ですが、意見書を就業規則に添付して届け出ることが必要です。常時10人以上の従業員を雇用している会社は、改定した就業規則を所轄の労働基準監督署に届け出る義務があります。届け出後は、全従業員への周知(掲示・書面交付・社内ポータルへの掲載など)を行って改定が完了します。
規程の整備は一度で完璧を目指さない
「完璧な規程を作ってから運用を始めよう」と考えると、いつまでも動き出せません。まずは許可基準・申請書・審査フローの最低限の骨格を整えて運用を始め、実際に申請が来たときの経験を踏まえて規程を改善していくサイクルが現実的です。最初の申請書が来たとき、「この項目が足りなかった」「この基準が曖昧だった」という発見があれば、それを次のバージョンに反映すればよいのです。規程は「作ること」ではなく「使いながら育てること」が目的です。
まとめ
副業許可の規定づくりは、「禁止か解禁か」の二択から抜け出し、許可基準・申請フロー・リスク管理をセットで整備することが出発点です。不許可基準の明文化、審査チェックリストの作成、年次更新とモニタリングの仕組み、そして労働時間通算・社会保険・住民税への対応——これらを一つひとつ丁寧に設計することで、従業員にとっても会社にとっても安心して運用できる副業制度が作れます。また、副業による過重労働やメンタルヘルスの悪化を見逃さない体制づくりも、中小企業においては特に重要な視点です。
ウェルセンス株式会社では、副業規程の骨格作成から就業規則改定のサポート、従業員のメンタルヘルス・過重労働の管理体制構築まで、専任人事がいない中小企業の実情に合わせたご支援を行っています。「自社の状況に合った副業許可の規定をどう作ればいいか相談したい」という段階からお気軽にご相談ください。
よくある質問
🔗 人事だけで抱えない。メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談 →
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。
不調者対応を、人事だけで抱えない。
メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。


