求人票と実際の労働条件が違うと職業安定法違反になる?

求人票と実際の労働条件が違うと職業安定法違反になる? コンプライアンス
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「求人票に書いた給与幅で採用したら、入社後に『話が違う』と言われた」——中小企業の経営者や兼務人事担当者から、こうした声が増えています。求人票をあくまで「募集の案内」と捉えて運用してきたところ、実は職業安定法の明示義務に抵触していたというケースは少なくありません。どこから違法になるのか、違反した場合に何が起きるのか、実務上どう対処すればいいのかを、法令に沿って整理します。

求人票と労働条件のズレは職業安定法違反になる

結論から言えば、求人票に記載した労働条件と実際の条件が異なる場合、状況によっては職業安定法違反となり、行政指導や罰則の対象になります。「だいたいの目安で書いた」という感覚での運用は、法的には通用しません。

職業安定法が定める「明示義務」とは

職業安定法第5条の3は、求人者が労働者を募集する際に労働条件を明示する義務を定めています。2018年改正、2022年改正と段階的に強化され、さらに2024年4月施行の職業安定法施行規則改正により、義務の範囲はより広くなりました。

法定明示事項として定められている主な項目は以下のとおりです。

  • 業務内容
  • 契約期間
  • 試用期間の有無
  • 就業場所
  • 就業時間・残業の有無
  • 休日・休暇
  • 賃金(固定残業代がある場合はその内容も含む)
  • 加入保険
  • 募集者の名称

これらは求人票に必ず記載しなければならない事項であり、「スペースがなかった」「媒体の書式に合わなかった」といった事情は免責理由になりません。

2024年改正で何が変わったか

2024年4月施行の職業安定法施行規則改正で、特に重要な変更点が加わりました。求人票に記載した条件と実際の労働条件が異なる場合、面接・選考の各段階および内定時に、変更内容を書面等で明示する義務が新たに課されたのです。

従来は「求人時の条件は変更になる場合があります」と求人票に一文加えておけばよいとする運用が一部で見られました。しかし改正後は、この抽象的な留保だけでは不十分とされています。条件が変わったときには、その都度・具体的に・書面で伝えることが求められます。

違反した場合に起きること

職業安定法違反は、行政指導にとどまらず、企業名の公表や民事上の損害賠償請求に発展するリスクがあります。「初回は注意で済む」と楽観せず、リスクの全体像を把握しておくことが重要です。

行政上のリスク

都道府県労働局やハローワークによる調査・指導が最初の対応になることが一般的です。初回は是正勧告にとどまる場合がほとんどですが、繰り返し違反や悪質なケースでは企業名が公表される可能性があります。採用広報に取り組んでいる企業にとって、企業名公表は採用ブランドへの深刻なダメージとなります。

なお、職業安定法には懲役・罰金の規定も存在します。直接罰則が適用されるケースは限定的ですが、制度上は刑事責任を問われる可能性があることも認識しておく必要があります。

民事上のリスク

求人票の記載内容は内定者の合理的な期待を形成します。判例上、内定は「始期付き解約権留保付き労働契約」として労働契約の成立とみなされるため、内定後に一方的に不利な条件へ変更することは、実質的な内定取り消しに準じると解釈されるリスクがあります。

「求人票と話が違う」を理由に即時退職した従業員から損害賠償請求を受けたり、内定取り消しに準じた慰謝料を請求されたりするケースも存在します。口頭で「了解しました」と言ってもらったとしても、書面がなければ後から争いになる可能性が残ります。

レピュテーションリスク

法的手続きに至らなくても、OpenWorkやGoogleクチコミ、SNSへの投稿によって「条件が違った」「求人詐欺だった」という評判が広まる可能性があります。中小企業は大企業に比べて採用母集団が限られているため、口コミによる信頼毀損のダメージは相対的に大きくなります。

特に注意が必要な記載パターン

求人票の中でも、特に相違が問題になりやすい記載パターンがあります。自社の求人票に該当するものがないか、一つひとつ確認してみてください。

給与の幅の書き方と固定残業代

「月給25万〜40万円」のような幅のある給与表記は、採用決定後に下限付近の金額が適用された場合に「話が違う」と受け取られやすい記載です。採用基準と給与の対応関係を求人票や面接時に説明できる状態にしておく必要があります。

固定残業代(みなし残業)を設定している場合は、求人票に次の三点を明記することが義務付けられています。固定残業代の金額、固定残業代に対応する時間数、超過分は追加支給する旨の三点です。「月給30万円(残業代込み)」のような曖昧な書き方は、労働基準法上の割増賃金規定との関係でも問題になりやすく、求人票の段階から適切に記載する必要があります。

勤務地・業務内容の変更可能性

「勤務地・業務内容は変更になる場合があります」と求人票に書いておけば、後から自由に変更できると考えている担当者は少なくありません。しかし2024年改正後は、この留保があるだけでは不十分です。実際に変更が生じた場合は、変更内容を具体的に・書面で・選考の各段階または内定時に明示する義務があります。

試用期間中の賃金

試用期間中は本採用より低い給与を設定しているケースがあります。この場合、求人票に試用期間の有無と期間中の賃金を明記しなければなりません。「試用期間あり(賃金は別途相談)」のような記載では、明示義務を果たしたとは言えません。

複数媒体への掲載と管理の落とし穴

Indeed・求人ボックス・ハローワーク・自社HPなど複数の媒体に求人を出している場合、媒体ごとに記載内容が異なると、どれが「正式な条件」かが不明確になり、トラブルの原因になります。

ハローワーク求人と民間媒体の違い

ハローワーク経由の求人は、職業安定法の規制をより直接的に受けます。しかし「民間媒体はハローワークほど厳しくない」という認識は誤りです。職業安定法の明示義務は、ハローワークを通じた求人か民間媒体かを問わず適用されます。媒体ごとに書き方を変えることで、意図せず虚偽記載が生じるリスクがあります。

媒体間の記載統一と管理方法

実務上は、以下のような管理方法が有効です。まず求人票の「マスター版」を社内で一つ作成し、それをベースに各媒体向けに展開する形にします。次に、条件変更があった場合には全媒体を同時に更新するフローを決めておきます。掲載中の求人票をどの担当者が更新権限を持つかも明確にしておくと、更新漏れを防げます。

「うちの求人票、本当に大丈夫?」と不安な場合は、専門家に一度確認してもらうのが安心です。

内定後に労働条件を変更しなければならない場合の対応

事業状況の変化や組織再編などで、内定後に労働条件を変更せざるを得ない場面があります。その場合も、対応の順序と形式を正しく踏むことでリスクを大幅に下げられます。

変更内容の書面明示が最低限の義務

内定後に労働条件を変更する場合、口頭で伝えて了解を得るだけでは不十分です。2024年改正により、変更内容を書面等で明示することが義務化されています。変更内容・変更理由・変更後の条件を記した書面を用意し、内定者に交付した上で署名・押印(または電磁的記録による同意)を得ることが実務上の最低ラインです。

変更の程度と内定取り消しリスクの関係

変更の程度が大きい場合、内定者は内定を辞退するか、内定取り消しに準じる扱いとして損害賠償を請求できる可能性があります。勤務地が都内から地方へ変わる、給与が当初提示より大幅に下がるといった変更は、内定者の合理的な期待を大きく裏切るものとして、法的紛争に発展しやすいケースです。

変更が避けられない場合は、変更理由を誠実に説明し、内定者が意思決定できる十分な猶予期間を設けることが重要です。

会社規模・状況別の確認ポイント

状況 確認・対応のポイント
ハローワークのみで募集 求人票の記載内容をハローワーク担当者と確認する。条件変更時は届け出・訂正が必要
民間媒体のみで募集 職安法の明示義務は同様に適用。媒体のテンプレートが法定項目を網羅しているか確認する
複数媒体で並行募集 マスター版を作成し、媒体間の記載統一を徹底。担当者を一本化する
内定後に条件変更が必要 変更内容を書面で明示・同意取得。変更の合理的理由を説明し、猶予期間を設ける
入社後にクレームを受けた 求人票・労働条件通知書・面接記録を照合。相違点を整理し、誠実に対応。紛争化する前に専門家に相談する

まとめ

求人票と実際の労働条件の相違は、職業安定法違反として行政指導・企業名公表・民事上の損害賠償請求のリスクにつながります。2024年4月の施行規則改正により、条件変更が生じた場合には選考段階・内定時に書面で明示する義務が加わり、「変更の可能性あり」という一文だけでの対処はもはや通用しません。求人票のマスター版を整備すること、複数媒体の記載を統一すること、内定後の条件変更は必ず書面で行うことが、今すぐ実施できる実務上の対策です。

採用活動における法令遵守は、企業の信頼と採用ブランドを守る重要な経営課題です。人事だけでの判断が難しければ、社会保険労務士や専門家に相談することをお勧めします。ウェルセンス株式会社では、人事労務の専任担当者がいない中小企業の経営者・兼務人事担当者からの相談を受け付けており、求人票の法令遵守から入社後のトラブル対応まで、実務的なサポートを行っています。採用に関する不安や疑問があれば、お気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 求人票に「給与幅」を記載していれば、どの金額で採用しても問題ないですか?

A. 幅の記載自体は違法ではありませんが、実際の採用金額が幅の下限に近い場合、なぜその金額になったのかを応募者・内定者に具体的に説明できる必要があります。また、内定時には確定した給与額を労働条件通知書に明記することが労働基準法第15条で義務付けられています。幅の上限を誇示して応募を集め、実際には下限で採用するような運用は、虚偽・誇大な求人として職業安定法上問題になるリスクがあります。

Q. 民間の求人媒体(IndeedやWantedlyなど)にも職業安定法は適用されますか?

A. はい、適用されます。職業安定法の明示義務は、ハローワーク経由の求人に限らず、民間求人媒体・自社HP・SNSを通じた募集にも適用されます。「ハローワークの求人だけ気をつければいい」という認識は誤りです。媒体が異なっても、法定明示事項を記載する義務と、条件変更時の再明示義務は同様に課されます。

Q. 内定後に配属先を変更する場合、本人の口頭での了承があれば問題ありませんか?

A. 口頭だけでは不十分です。2024年4月施行の職業安定法施行規則改正により、求人票の内容から変更が生じた場合は、内定時に変更内容を書面等で明示する義務が新設されました。口頭での同意は後から「そんな話は聞いていない」と争いになりやすく、書面がなければ会社側が不利になります。変更内容・変更理由・変更後の条件を記した書面を用意し、内定者の署名または電磁的な同意を得ることを徹底してください。

Q. 入社後に「求人票と話が違う」とクレームを受けた場合、最初に何をすればいいですか?

A. まず、当時の求人票・労働条件通知書・面接記録などの書類を手元に集め、何がどのように異なるのかを客観的に整理することが先決です。感情的な応答や「そんなはずはない」という否定は紛争を深刻化させます。相違が事実であれば誠実に認め、再発防止策を提示することが信頼回復につながります。紛争化しそうな場合は、社会保険労務士や弁護士など専門家への相談を早めに行うことをお勧めします。

Q. 固定残業代(みなし残業)がある場合、求人票にはどう書けばいいですか?

A. 固定残業代がある場合、求人票には「固定残業代の金額」「固定残業代に対応する時間数(例:月30時間分)」「超過した場合は別途支給する旨」の三点を明記することが義務付けられています。「月給30万円(残業代込み)」のような曖昧な表現は、職業安定法上の明示義務を満たさず、労働基準法上の割増賃金規定との関係でも問題になりやすいです。求人票の段階から正確な内訳を記載することで、入社後のトラブルを未然に防げます。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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