「うちの社員が免許停止になったんだけど、どう対応すればいい?」——昨日まで営業車で得意先を回っていた従業員が、プライベートでの交通違反により免許停止処分を受けた。就業規則も整備できていないまま、現場の穴をどうふさぐか、処分はできるのか、何から手をつければいいのか分からない。そんな状況に突然放り込まれた経営者・人事担当者のために、法的リスクを避けながら即日動ける対応手順を整理しました。
「業務外だから会社は関係ない」は通用しない
プライベートでの交通違反であっても、会社が対応を放置することは法的リスクを高めます。「個人の問題」として何もしないのが最も危険な選択です。
免許停止中の運転を放置すると会社も違反になる
道路交通法第75条は、自動車の使用者(会社)が、運転者に交通違反のおそれがあると知りながら運転を命じることを禁じています。免許停止の事実を知った上で社用車を運転させ続けた場合、会社は同法に基づく使用者責任を問われます。さらに、万一その状態で事故が発生すれば、民法第715条(使用者責任)に基づき、会社が損害賠償を負う可能性も生じます。
「業務外の非行」であっても会社への影響があれば処分できる
裁判例の積み重ねから、業務外の行為に対する懲戒処分は「会社の名誉・信用を傷つけるか」「事業の正常な運営を阻害するか」という基準で判断されると整理されています。社用車の運転が職務の本質的な部分である場合——たとえば営業車や配送ドライバーがその典型——免許停止による業務不能は、労務提供義務の不履行(債務不履行)として評価できる余地があります。
報告してこなかった場合も放置してはいけない
本人が免許停止の事実を隠していたケースでは、その未報告自体を懲戒事由にしたいと考える経営者は多いです。ただし、就業規則に「免許の取消・停止の届出義務」が明記されていない場合、未報告のみを理由とした懲戒処分は法的に困難です。それでも、業務命令として「今後は速やかに報告すること」を文書で指示し、記録に残しておくことは今すぐできます。
発覚直後にやるべきこと
免許停止が発覚したら、まず社用車の運転を即座に止めさせることが最優先です。その上で、事実確認と今後の対応方針を整理していきます。
運転業務の即時停止と事実確認
最初にすべきことは、当該従業員に社用車の運転を停止させる業務指示を出すことです。口頭でも構いませんが、必ずメールや書面でも伝え、指示を記録に残してください。次に、免許停止の期間・理由・違反の内容を本人から書面で確認します。運転免許証のコピーまたは行政処分通知書の提出を求めると確実です。免許停止の期間は30日から最長180日まで幅があるため、期間によって対応方針も変わります。
業務への影響を具体的に把握する
次に、その従業員が担っていた業務のうち、車を使う部分がどれだけあるかを整理します。たとえば「週3日の顧客訪問のすべてが社用車利用」なのか、「月に数回、近隣への配送がある程度」なのかでは対応の緊急度がまったく異なります。業務の代替手段(公共交通機関・他の社員による代行・外部委託)が使えるかどうかも同時に確認しておきます。
法的対応の方針を決める前に現状を整理する
「懲戒処分をする」「配置転換する」「解雇する」といった判断は、事実確認が完了してから行います。発覚直後の感情的な判断は後の法的リスクを高めます。就業規則の有無・該当規定の有無・本人の勤続年数・違反の重大性などを一覧にして整理してから、次のステップに進んでください。
就業規則がない場合の処分の考え方
就業規則がない、または免許に関する規定がない場合、懲戒処分を行うことは原則として困難です。ただし、業務指示・配置転換・給与調整は別の根拠で対応できます。
懲戒処分には就業規則の規定が必要
労働契約法第15条は、懲戒処分が「就業規則の規定に基づく」ことを原則としています。懲戒解雇・減給・出勤停止といった不利益処分を行うには、就業規則に懲戒事由と処分の種類が明記されていることが実務上は不可欠です。就業規則がない状態でこれらの処分を行うと、後に「不当処分」として争われるリスクが高まります。
就業規則がなくてもできる対応がある
一方で、業務命令としての配置転換や一時的な業務内容の変更は、就業規則がなくても労働契約上の業務指示権の範囲で行うことができます。「車を使わない業務に当面従事してもらう」「内勤補助に移ってもらう」という対応は、合理的な理由がある限り命令できます。ただし、配置転換が賃金低下や雇用形態の変更を伴う場合は、本人の同意が必要になる場合があります。
今回の事案を就業規則整備のきっかけにする
就業規則がない状態は、今回のような事案が発生するたびに「対応の根拠がない」という問題を繰り返します。免許の取消・停止時の届出義務、運転業務に必要な資格の保持義務、懲戒事由としての記載——これらを今回の事案を契機として整備することが、中長期的なリスク管理につながります。常時10名以上の労働者を使用する事業場は、就業規則の作成・届出が労働基準法第89条により義務付けられている点も確認しておきましょう。
免許停止の事実を知った直後は、対応の優先順位や法的根拠に迷うものです。判断を誤ると後の紛争リスクが大きくなるため、早めに専門家に相談することで解決の道は開けます。
配置転換先がない場合の現実的な選択肢
20〜50名規模の企業では「車を使わないポスト」が存在しないケースも多いです。それでも「対応できることは必ずある」という前提で選択肢を整理することが重要です。
一時的な業務変更という考え方
正式な配置転換(部署異動)でなくても、「当面の間、内勤業務に従事させる」という業務内容の一時的な変更は業務命令として認められます。たとえば、日常的な事務補助・在庫管理・電話対応・データ入力など、車を使わない補助業務に一定期間従事させることは、免許停止期間中の現実的な対応です。
自宅待機を命じる場合の注意点
「やってもらえる業務がない」という理由で自宅待機を命じる場合、会社都合の休業として労働基準法第26条の休業手当(平均賃金の60%以上)の支払い義務が生じる可能性があります。免許停止という帰責事由は本人にありますが、「待機を命じたのは会社」という形になると、休業手当の支払いが必要になるケースがあるため、事前に社会保険労務士等に確認することを強く推奨します。
免許停止期間と業務への影響で対応を分ける
以下の表を参考に、状況に応じた対応方針を検討してください。
| 免許停止期間 | 車を使わない業務の有無 | 現実的な対応 |
|---|---|---|
| 30〜60日(短期) | 補助業務がある | 一時的な業務変更・内勤対応 |
| 30〜60日(短期) | 補助業務もない | 自宅待機命令+休業手当の検討 |
| 90日以上(長期) | 補助業務がある | 配置転換・業務再設計を検討 |
| 90日以上(長期) | 補助業務もない | 就業規則整備の上で処分・解雇を法的に検討 |
🔗 判断を誤ると後の紛争リスクが大きくなるため、早めに専門家に相談することで解決の道は開けます。 →
解雇を検討する際の法的リスク
免許停止を理由とした解雇は、「解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない場合は無効」とする労働契約法第16条の壁があります。安易な即時解雇は高リスクです。
解雇が認められやすいケースと認められにくいケース
解雇が合理的と判断されやすいのは、「運転業務が職務の中核であり、代替業務が客観的に存在しない」「免許停止が長期間かつ重大な違反(飲酒運転・ひき逃げ等)による」「本人が繰り返し虚偽の報告をしていた」など複数の事情が重なる場合です。一方、「初めての違反で停止期間が短い」「他の業務で対応できる余地がある」といった状況での解雇は、不当解雇と判断されるリスクが高まります。
整理解雇・普通解雇の手順を踏むことが重要
解雇を検討する場合でも、いきなり解雇通知を出すのではなく、「業務指示→配置転換の検討→改善を求める文書→解雇」という段階を踏むことが、後の法的紛争リスクを下げます。就業規則がない場合でも、この手順の記録を残すことで、会社側の「合理的な対応をした」という証拠になります。解雇通知は少なくとも30日前(または30日分の解雇予告手当の支払い)が労働基準法第20条で義務付けられています。
専門家への相談を先行させる
解雇・懲戒解雇を実行に移す前に、社会保険労務士または弁護士へ相談することを強く推奨します。特に、就業規則が未整備の状態での解雇は、後に労働審判・訴訟に発展するリスクが高く、解決までのコストと時間が大きくなります。「相談してから動く」ことで、多くのケースは未然に紛争を防げます。
人事対応に関する判断は、一人で決めず複数の観点から検討することが大切です。特に解雇や懲戒処分は後戻りできない決定のため、専門家と一緒に進めることで大きなトラブルを回避できます。
🔗 人事対応に関する判断は、一人で決めず複数の観点から検討することが大切です。特に解雇や懲戒処分は後戻りできない決定のため、専門家と一緒に進めることで大きなトラブルを回避できます。 →
まとめ
従業員の免許停止への対応は、「業務外だから放置する」でも「感情的に即解雇する」でもなく、事実確認→運転業務の即時停止→代替対応の検討→法的根拠に基づく処分の検討、という順序で進めることが重要です。就業規則がない場合でも、業務指示や一時的な業務変更は今すぐできます。一方で、懲戒処分・解雇を行うには就業規則の整備が実務上不可欠であり、今回の事案はその整備を急ぐきっかけとして捉えてください。
ウェルセンス株式会社では、専任人事がいない中小企業の人事労務課題に対して、実務に即した支援を行っています。「就業規則をこれから整備したい」「今回の事案への対応について相談したい」といった場合でも、まずはお気軽にご相談ください。法的リスクを最小限に抑えながら、貴社の状況に合わせた次の一手を一緒に考えます。
よくある質問
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。
不調者対応を、人事だけで抱えない。
メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。


