eラーニングの業務時間外受講、残業代は必要?

eラーニングの業務時間外受講、残業代は必要? コンプライアンス
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「業務時間外にeラーニングを受けてもらっているけど、残業代って払う必要があるの?」——人事担当者から、この質問を受ける機会が増えています。コンプライアンス研修やハラスメント防止研修をeラーニングで導入した企業が、受講を促す際に時間外・自宅での受講を半ば前提にしているケースは少なくありません。「任意参加にしているから大丈夫」と思っていても、実態によっては未払い残業代のリスクが生じる可能性があります。この記事では、eラーニング受講時の残業代判断基準と実務上の落とし穴を整理します。

残業代が発生するかどうかの核心は「指揮命令下にあるか」

eラーニングの業務時間外受講に残業代が必要かどうかは、「その時間が使用者の指揮命令下にあったかどうか」で判断されます。名称や形式ではなく、実態が問われます。

労働時間の法的な定義

労働基準法における「労働時間」とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間を指します。これは1999年の最高裁判決(三菱重工業長崎造船所事件)で確立された考え方で、eラーニングによる研修にも同様に適用されます。つまり、「何時から何時まで会社にいたか」ではなく、「会社の指示のもとで行動していたか」が判断の軸になります。

「任意参加」という表現は免罪符にならない

労働基準法の適用は実態主義です。「任意参加」「自由受講」と案内していても、実際に断れる雰囲気かどうか、不受講でも評価に影響しないかどうかが問われます。たとえば「管理職への昇格要件としてeラーニングの修了が含まれている」「未受講者に上司から個別に声かけがある」といった状況では、名称が「任意」であっても実質的な業務命令と判断されるリスクがあります。

自宅・業務時間外の受講でも労働時間になり得る

場所が自宅であっても、時間が就業時間外であっても、会社が受講を義務付けているのであれば労働時間に該当する可能性があります。テレワークが広がった現在、この点はとくに注意が必要です。「家で自由にやってもらえばいい」という案内であっても、実態として義務的な受講が行われていれば、その時間は労働時間として扱われる可能性があります。

業務時間とみなされるかどうかの4つの判断軸

研修の「業務時間該当性」は、以下の4つの軸を組み合わせて総合的に判断されます。複数の軸が重なるほど、労働時間と認定されるリスクが高まります。

判断軸 業務時間とみなされやすい 業務時間とみなされにくい
指示・強制性 受講を命じている/不受講に不利益がある 自由意思で選択可能
業務との直結性 業務遂行に必要なスキル・知識の習得 純粋な自己啓発
受講場所・時間の指定 会社が時間・場所を指定している 自宅・自由な時間に受講可
不受講の結果 評価・昇給・業務継続に影響する 何ら不利益なし

コンプライアンス研修・ハラスメント研修は要注意

業務との直結性という観点では、コンプライアンス研修・ハラスメント防止研修・メンタルヘルスのセルフケア研修・ラインケア研修などは、会社の法的義務の履行として実施しているケースが多く、業務性が高いと判断されやすい類型です。「従業員の自己啓発のために提供している」という説明が通りにくい分野です。

費用負担しているから業務外、という解釈は誤り

会社がeラーニングの受講費用を負担していることは、業務性の否定にはなりません。費用負担と業務上の指揮命令は別の問題です。「うちが費用を出しているのだから、あとは社員が自己責任で受ければいい」という解釈は通用しないため、注意が必要です。

「管理の仕方」が法的判断を左右する落とし穴

研修の設計や言葉の使い方だけでなく、日常の運用・管理の仕方そのものが「実質的な業務命令」と見なされるかどうかに影響します。多くの企業では、この管理運用面での微妙なズレが後のトラブルに発展するため、事前の整理が重要です。

進捗確認・声かけが「命令」になる

「任意参加」と案内しながら、管理者が受講進捗を定期的に確認し、未受講者に対して「まだ終わってないの?」「今週中には受けておいてほしい」と声をかける運用は、事実上の業務命令と同視されるリスクがあります。受講管理の仕方そのものが、法的な判断に影響するという点を、管理職にも周知しておく必要があります。

「業務時間内にどうぞ」と言っても時間が確保できない問題

「業務時間内に受けてください」と案内しているにもかかわらず、現場が忙しくて業務時間内に受講できず、結果として残業時間や休日に受講している——このような状況は、中小企業では珍しくありません。この場合、会社が明示的に命じていなくても、受講が事実上時間外になっていることを会社が認識していれば、黙示の命令として労働時間に含まれると判断されるリスクがあります。

受講ログと労働時間管理の連携が取れていない

eラーニングシステム上には受講ログ(いつ・何分受講したか)が残っていても、勤怠管理システムと連携していないため、後から「あの時間は労働時間だったか否か」の確認ができないケースがあります。20〜50名規模の企業では、タイムカードや勤怠アプリで研修受講時間を別途記録できる設計になっていないことも多く、労働時間の立証を求められた際に対応できない状態になりがちです。

残業代が発生した場合の金額と法令上の義務

eラーニングの受講時間が労働時間と認定された場合、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える部分には割増賃金の支払い義務が生じます。

割増賃金の計算ルール

労働基準法第37条に基づき、法定時間外労働には通常賃金の25%以上の割増賃金が必要です。月60時間を超える時間外労働には50%以上の割増率が適用されます(中小企業も2023年4月から適用)。管理監督者であれば時間外割増の対象外となりますが、名目上の役職ではなく実態で判断されるため、「課長だから不要」と安易に判断することも危険です。

過去にさかのぼる未払い請求のリスク

未払い残業代の請求権の時効は、2020年の法改正により最大3年に延長されています。eラーニングを継続的に運用している企業では、過去にさかのぼって多くの従業員から未払い請求が来るリスクがあることを認識しておく必要があります。

36協定との整合性確認も必要

eラーニングの受講時間が労働時間に該当する場合、時間外労働が発生するのであれば36協定(時間外・休日労働に関する協定届)の範囲内かどうかも確認が必要です。研修時間が36協定の上限に影響する可能性がある点も、見落とされがちな論点です。

トラブルを防ぐ社内ルールの作り方

eラーニングを安全に運用するには、「業務時間内に完結させる」か「業務時間外受講を明確に任意とする実態を作る」か、いずれかの方向性を明確にしたうえで、就業規則や運用ルールに落とし込むことが重要です。

業務時間内受講として設計する場合

受講を業務として位置づける場合は、勤務時間中に受講時間を確保することを明示し、受講時間を労働時間として記録・管理する仕組みが必要です。具体的には、週次の業務スケジュールにeラーニング受講枠を設ける、勤怠システムに「研修受講」の打刻区分を設けるなどの対応が考えられます。上司が業務量を調整し、時間内に実際に受講できる環境を整えることも不可欠です。

任意受講として運用する場合に必要な実態の担保

「任意」とする場合は、名称だけでなく実態として以下を徹底する必要があります。まず、評価・昇給・昇進の要件にeラーニング修了を組み込まないこと。次に、管理者が受講を督促・確認する行為を禁止または制限すること。そして、未受講に対して不利益な取り扱いをしないことを就業規則や研修ポリシーに明記することです。この3点が揃わなければ、名称が「任意」でも実態は強制と判断されるリスクが残ります。

就業規則・研修ポリシーへの明記

「eラーニング受講は業務時間内に行う」「業務時間外の受講は任意とし、強制しない」といった方針を就業規則や研修規程に明記しておくことで、後のトラブル時に会社の意図・方針を示す証拠になります。就業規則がない、または更新が長期間されていない企業では、まずそこから整備を検討してください。

まとめ

eラーニングの業務時間外受講に残業代が必要かどうかは、「使用者の指揮命令下にあったかどうか」という実態で判断されます。「任意参加」という名称だけでは免責されず、進捗管理の仕方や評価への影響、業務時間内に受講できる環境が整っているかどうかまで含めて総合的に判断されます。コンプライアンス研修・ハラスメント研修・メンタルヘルス研修など、会社の法的義務と絡む研修ほど業務性が高く認定されやすい点にも注意が必要です。

就業規則や運用ルールが整っていない段階で慣例的にeラーニングを運用している場合、過去にさかのぼる未払い請求リスクが生じる可能性があります。特に研修の法的位置づけと実務運用のズレは、人事だけで判断するにはリスクが大きい論点です。自社の運用が適切かどうか判断に迷う場合は、専門家への相談が確実です。

ウェルセンス株式会社では、メンタルヘルス研修の導入支援と並行して、研修の法的位置づけや就業規則・運用ルールの整備についてもご相談をお受けしています。「うちの研修の扱いは大丈夫かな」「就業規則をどう整えたらいいか分からない」とお悩みの方は、お気軽にお問い合わせください。

よくある質問

Q. コンプライアンス研修を「任意」のeラーニングで実施しています。受講率を上げたくて管理職が未受講者に声をかけているのですが、問題ありますか?

A. 問題が生じる可能性があります。管理職が未受講者に個別に声をかける行為は、実質的な業務命令と同視されるリスクがあります。「任意」と案内しながら督促を行っている場合、受講時間が労働時間と判断される可能性が高まります。受講を促したいのであれば、業務時間内に受講枠を設けたうえで業務として位置づけるか、完全任意として督促を行わない運用のどちらかに整理することをおすすめします。

Q. eラーニングの受講を昇格要件の一つにしている場合、任意受講として扱えますか?

A. 扱うことは難しいと考えたほうが無難です。昇格要件に含まれている時点で、受講しないことに事実上の不利益が生じており、自由意思による選択とは言いにくい状況です。この場合、受講時間は労働時間として扱い、業務時間内に受講できる環境を整えるか、時間外受講分の賃金を適切に支払う対応が必要です。

Q. メンタルヘルスのセルフケア研修をeラーニングで提供していますが、これも業務時間扱いにすべきですか?

A. セルフケア研修やラインケア研修は、労働安全衛生法に基づくメンタルヘルス対策として会社が義務的に実施するものであり、業務との直結性が高いと判断される類型です。特にラインケア研修を管理職に受けさせている場合は、業務命令としての性格が強く、業務時間扱いとするのが適切です。任意の自己啓発として位置づけることは難しい分野です。

Q. 就業規則に「eラーニングは自己学習として業務時間外に行う」と明記すれば、残業代を払わなくて済みますか?

A. 就業規則への記載だけでは不十分です。労働基準法の適用は実態主義であり、規則の文言よりも実際の運用が優先されます。就業規則に記載があっても、実態として受講が義務的に行われていたり、管理者が督促していたりすれば、労働時間として認定される可能性があります。就業規則の記載と実態の運用を一致させることが重要です。

Q. 現在のeラーニング運用が適切かどうか、どうやって確認すればよいですか?

A. まず、受講が評価・昇格・業務継続に影響しているかどうか、管理者が受講を督促しているかどうか、業務時間内に実際に受講できる時間が確保されているかどうかの3点を確認してください。これらのいずれかに該当する場合は、運用の見直しが必要な可能性があります。自社の状況の整理や就業規則の確認が難しい場合は、ウェルセンス株式会社を含めた専門家への相談が確実な方法です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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