休職中社員のPC返却を円滑に進める方法

休職中社員のPC返却を円滑に進める方法 メンタルヘルス対応
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「本人はメンタル不調で療養中。でも、会社のPCがそのままになっている——いつ連絡すればいいのか、何から手をつければいいのかがわからない」。そんな状態で、数週間が過ぎてしまっている経営者・人事担当者の方は少なくありません。配慮したいという気持ちと、情報管理上のリスクへの不安が重なり、どちらも中途半端になりがちです。この記事では、休職中社員のPC返却を、本人への負担を最小限に抑えながら確実に進めるための手順と文書作成のポイントを、法的根拠も含めて解説します。

まず確認すべきこと——貸与PCか私物かを整理する

PC返却の対応を始める前に、そのPCが「会社の貸与品か、本人の私物か」を明確にしておく必要があります。この前提が曖昧なまま進めると、後のやり取りでトラブルが生じることがあります。

貸与台帳・就業規則を確認する

まず社内の備品台帳や貸与管理記録を確認し、該当のPCが会社資産として登録されているかを調べます。購入時の領収書・シリアル番号の記録があれば確認作業はスムーズです。就業規則や社内規程に「業務用機器の貸与に関する規定」があれば、その内容も確認しておきましょう。

私物PCで業務をしていたケースへの対応

中小企業では「実態として私物PCで業務資料を扱っていた」という状況も珍しくありません。この場合、PCそのものの返却は求められませんが、保存されている業務データや社内資料の削除・提出を依頼することは正当な要求です。どのデータをどの形式で提出・削除してもらうかを、依頼文書に明記します。

社内情報管理のルールが整備されていない場合

情報セキュリティポリシーや「私物デバイスの業務利用禁止(BYOD規程)」がない会社では、この機会に最低限のルールを整備することを検討してください。現状の対応を進めながら、今後の再発防止策として就業規則に一文加えるだけでも効果があります

会社側の法的権限——何ができて、何をしてはいけないか

会社には、休職中の社員に対してもPC返却を求める法的根拠があります。ただし、一部の手段は要件を満たさないまま実行するとリスクになるため、注意が必要です。

返還請求は休職中でも有効

会社から貸与したPCは会社の所有物であり、従業員は雇用契約上の付随義務として、会社から求められれば返還する義務を負います(民法第400条・雇用契約上の誠実義務)。休職中は雇用契約が継続しているため、この義務は消滅しません。「休職中だから返却を求められない」という誤解がありますが、法的には問題なく請求できます。

リモートワイプ・アカウント停止の可否

会社が発行したメールアカウントやクラウドサービスのアクセス権限は、会社の管理権限に基づき停止が可能です。一方、貸与PCへのリモートワイプ(遠隔データ消去)については、就業規則または情報セキュリティポリシーに「紛失・盗難・退職時等にはリモートワイプを実施できる」旨の規定があることが前提です。この規定がないままリモートワイプを実施すると、不法行為・プライバシー侵害のリスクが生じる可能性があります。アカウント権限の最小化・停止は、PC返却を待たずに早期に行うべき対応です。

社内データが「営業秘密」に該当する場合

社内資料が不正競争防止法(第2条第6項)上の「営業秘密」に該当する場合、その持ち出しや無断複製は同法で禁止されます。ただし、営業秘密として保護されるには「秘密として管理されている」という要件が必要です。アクセス制限や文書管理ルールが整備されていないと、この保護が弱くなります。情報管理体制の整備は、法的保護の観点からも重要です。

「誰が」「どの方法で」連絡するかを社内で決める

休職中社員へのPC返却依頼で多くの会社が最初につまずくのは、「誰が連絡するか」の決定を先送りにしてしまうことです。窓口を明確にしてから動き始めることが、対応を迅速に進める鍵です。

連絡窓口は人事担当者または経営者に一本化する

直属の上司からの連絡は、本人に「仕事のプレッシャーをかけられている」という印象を与えやすく、療養の妨げになることがあります。原則として、人事担当者(兼務の場合も含む)または経営者が窓口となり、一本化した連絡を取るようにしましょう。複数の人間から異なるタイミングで連絡が来ると、本人の混乱や不信感につながります。

連絡手段の選び方

メンタル不調で療養中の方への連絡は、書面(郵便)またはメールと電話の組み合わせが基本です。SNSのメッセージや、上司からの非公式な連絡は避けてください。最初の連絡は書面またはメールで「内容を整理して送付する」形を取ることで、本人が自分のペースで確認できるようになります。電話はその後のフォローとして使用するのが適切です。

主治医・産業医への確認が必要なケース

症状が重篤で、通常の連絡でも強いストレスになる可能性がある場合は、主治医や産業医(産業医が選任されている場合)に確認を取った上で対応方法を判断することが望ましいです。産業医が選任されていない規模の会社(従業員50名未満)では、主治医への問い合わせ自体は本人の同意なしには難しいため、まず本人へ書面で連絡を取り、「体調に問題がなければご連絡ください」というアプローチが現実的です。

本人への依頼文書——配慮と明確さを両立させる書き方

依頼文書は「業務上の手続きのご案内」として丁寧に記載することで、本人への心理的負担を抑えながら確実に依頼を伝えることができます。以下の要素を盛り込むことがポイントです。

依頼文書に含めるべき要素

項目 記載のポイント
冒頭の一言 「ご療養中のところ恐縮ですが」など、体調への配慮を一文で添える
連絡の目的 「PC回収のお願い」ではなく「情報管理上の手続きについてのご案内」と表現する
返却方法の選択肢 宅配便着払い・会社への郵送など、本人が訪問不要で対応できる方法を複数提示する
返却期限 「〇月〇日までにご都合のよい方法でお願いします」と期限を明示する
問い合わせ先 担当者名・連絡先(電話・メール)を明記し、不明点は気軽に相談できることを伝える

「強制回収」という表現は使わない

法的には返還請求の権限がある場合でも、文書の表現として「強制返却」「至急」「期日を過ぎた場合は法的措置を検討する」などの表現は、療養中の本人に過度なプレッシャーを与えます。初回の依頼文では、穏やかかつ明確な表現を心がけてください。返却期限を過ぎても対応がない場合は、改めて督促の連絡を取るという段階的なアプローチが現実的です。

連絡に応答がない場合の対応

書面・メールを送付してから2週間程度応答がない場合は、電話でのフォローを行います。それでも連絡が取れない場合は、緊急連絡先(届出があれば家族)への確認や、弁護士・社労士への相談を検討する段階です。「メンタル不調中だから仕方ない」として無期限に放置することは、情報漏洩リスクの観点からも適切ではありません。

対応の進め方が決まったら、本人への文書作成や段階的な対応方針について、外部の専門家に相談することで、より適切な対応が可能になります。

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休職が長期化・退職に向かった場合の備え

休職中にそのまま退職となるケースでも、PC返却と社内データの扱いに関する会社の権利は失われません。退職後の対応も視野に入れた準備をしておくことが重要です。

退職後でもPC返却は請求できる

退職後であっても、会社所有のPCを返還していない場合は、民法上の不当利得返還請求または所有権に基づく返還請求が可能です。ただし、退職後の対応は在職中に比べてコミュニケーションが取りにくくなるため、休職開始後できるだけ早期に返却対応を進めておくことが最善策です。

退職時の確認事項をチェックリスト化しておく

退職(または長期休職)を見越して、以下の点を確認・対処しておきましょう。

  • 貸与PC・携帯電話・社員証などの返却状況の確認
  • 社内システム・クラウドサービスのアクセス権限の停止
  • 業務引継ぎに必要なデータのバックアップ
  • 本人が単独で管理していたパスワード・アカウント情報の確認
  • 機密情報の持ち出しがないかのログ確認

就業規則・雇用契約書への規定整備

今後のトラブル防止として、就業規則や雇用契約書に「休職・退職時の貸与品返却義務」「業務データの取り扱いに関する禁止事項」を明記しておくことを強くお勧めします。中小企業では、この規定が曖昧なために対応が遅れるケースが多く見られます。社労士や弁護士に依頼すれば、数万円程度で整備できる内容です。

就業規則の整備には専門知識が必要です。規定を急ぎで作成する必要がある場合は、人事労務の専門家に相談することで、法的に適切な内容を効率よく構築できます。

まとめ

休職中社員のPC返却は、「療養中だから連絡できない」という過剰配慮を手放すことが最初の一歩です。会社には休職中であっても貸与物品の返還を求める法的根拠があり、適切な配慮をした上で連絡を取ることは問題ありません。まず社内でPCの種別と連絡窓口を整理し、次に配慮と明確さを両立した依頼文書を作成・送付する、そしてアカウント権限の停止をPC返却と並行して進める——この流れを押さえておけば、情報管理上のリスクを抑えながら対応できます。

ただし、「誰が何をすべきか整理できない」「本人へどう伝えればいいかわからない」「対応の段階で判断に迷っている」という段階で止まっている場合は、一人で抱え込まず外部の専門家に相談することをお勧めします。ウェルセンス株式会社では、メンタル不調による休職対応や復職支援、人事労務上の判断が必要な場面でのご相談をお受けしています。状況をお聞かせいただければ、貴社に最適なご対応をご提案させていただきます。

よくある質問

Q. メンタル不調で療養中の社員に、PC返却の連絡を取っても問題ありませんか?

A. 問題ありません。厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」でも、会社が休職中に必要な連絡を取ることは認められています。ただし、頻度・方法・内容に配慮が必要です。書面やメールで「情報管理上の手続きとして」丁寧に依頼することが基本です。症状が重篤な場合は、主治医や産業医への確認を経てから判断するとより安心です。

Q. 本人が私物PCで業務を行っていた場合、PCを返却させることはできますか?

A. 私物PCそのものの返却を法的に強制することは原則として難しいです。ただし、そのPC内に保存されている業務データや社内資料については、会社の所有物であるため、提出・削除を求めることは正当な要求です。依頼文書に「業務関連データの削除または提出」を明記した上で対応を進めてください。今後の再発防止のため、私物デバイスの業務利用に関するルール(BYOD規程)の整備も検討しましょう。

Q. 返却を求めても本人から応答がない場合、どのように対応すればよいですか?

A. 書面・メール送付後、約2週間を目安に応答がなければ電話でのフォローを行います。それでも連絡が取れない場合は、届出のある緊急連絡先への確認や、社労士・弁護士への相談を検討します。無期限に放置することは情報漏洩リスクを高めるため、段階的に対応を進めることが重要です。いずれの段階でも、連絡の記録(送付日・内容・方法)を必ず残しておいてください。

Q. PC返却の前に、社内システムのアカウントを停止しても問題ありませんか?

A. 会社が発行・管理しているアカウント(社内メール、クラウドストレージ、業務システムなど)のアクセス権限停止は、PC返却とは独立したセキュリティ管理として、休職開始後できるだけ早期に実施することが推奨されます。ただし、貸与PCへのリモートワイプ(遠隔データ消去)については、就業規則または情報セキュリティポリシーに実施できる旨の規定が必要です。規定のないままリモートワイプを実施するとプライバシー侵害のリスクが生じる場合があります。

Q. 休職中にそのまま退職になった場合、PC返却の請求はできますか?

A. できます。退職後であっても、会社所有のPCが返却されていない場合は、民法上の所有権に基づく返還請求が可能です。ただし、退職後は本人とのコミュニケーションが取りにくくなるため、休職開始直後から早めに返却手続きを進めておくことが最善策です。退職時には、貸与品返却・アカウント停止・データバックアップ・引継ぎ確認をまとめたチェックリストを用意しておくと、対応漏れを防ぎやすくなります。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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