社員に他社内定を告げられたら試す5つの引き止め対話術

社員に他社内定を告げられたら試す5つの引き止め対話術 採用・定着
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「他社から内定をもらいました」——その一言を聞いた瞬間、頭が真っ白になった経験はないでしょうか。特に20〜50名規模の会社では、一人の退職が業務全体に波及することも珍しくなく、「どうにか残ってほしい」という思いが先走りがちです。しかし、感情のまま引き止めようとすると、かえって関係を壊したり、ハラスメントのリスクを生んだりすることもあります。この記事では、法的な線引きを押さえながら、他社内定を告げられたときに実際に試せる対話の進め方を具体的にお伝えします。

引き止める前に確認すべき「3つの判断軸」

社員 他社内定の報告を受けた際、まず大切なのが冷静な状況判断です。引き止め交渉を始める前に、「そもそも引き止めるべき状況か」を判断することが、後悔しない対応の出発点になります。

退職理由が「改善できる問題」かどうか

退職理由には大きく分けて2種類があります。一つは給与水準・業務量・人間関係・評価制度の不満など、会社側が対応できる「環境起因」のもの。もう一つは、キャリアの方向性を変えたい・家族の事情で転居が必要といった「個人の意思・ライフプランの変化」によるものです。後者の場合、どれほど条件を改善しても退職意思は揺るがないことが多く、引き止めに注力するより円満な移行を支援する判断が現実的です。

会社として提示できる改善策があるか

20〜50名規模の企業では、「新しいポストを用意する」「部門を異動させる」といった大企業的な選択肢が限られます。そのため、面談前に「自社が現実的に提示できること」のリストを作っておくことが重要です。給与改定・リモートワーク拡充・役割の再定義・評価サイクルの見直しなど、実行可能な選択肢を先に整理しておかないと、面談中に「検討します」を繰り返すだけになり、相手の信頼を失います。

本人の意思がまだ「揺れている」かどうか

他社の内定を告知するタイミングは、意思決定の段階を表しています。「まだ迷っている」「相談のつもりで話した」という段階であれば、対話で状況が変わる余地があります。一方、「退職届を提出するタイミングを確認したい」という段階まで進んでいれば、引き止めより引継ぎ計画の整備に重心を移すべきです。最初の面談で本人の「決断度合い」を丁寧に確認することが、その後の対応方針を決める最大のカギです。

知っておくべき法的な線引き

社員 他社内定の引き止め交渉は適法ですが、やり方によってはハラスメントや強要と判断されるリスクがあります。事前に正しい境界線を知っておくことが、会社と自分自身を守ることにつながります。

退職の自由は法律で保障されている

民法627条1項では、期間の定めのない雇用契約において、労働者は2週間前に申し出ることで退職できると定められています。就業規則で「1か月前」と定めているケースも多いですが、法的な原則は2週間です。この前提を理解せず「就業規則に反する」「損害賠償を請求する」などと口にすることは、法的にも実務的にも逆効果であり、脅迫・強要と受け取られるリスクがあります。

引き止めがパワハラになるケース

厚生労働省が令和2年に告示した「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)では、業務上の優位性を使って精神的な苦痛を与える行為をパワーハラスメントとして問題視しています。退職意思を表明した社員に対して面談を繰り返す、感情的に詰め問う、「会社への裏切りだ」と責め立てるといった行為はこれに該当しうります。引き止め面談は原則1〜2回、時間も1時間以内を目安とするのが実務上の安全ラインです。

競合他社への転職と競業避止義務の注意点

転職先が競合他社の場合、雇用契約書や就業規則に競業避止条項があるか確認することは重要です。ただし、競業避止義務の有効性は判例上、「対象職種の範囲・地域・禁止期間・代償措置の有無」などを総合して厳しく審査されており、一方的に「競合には行けない」と主張することが認められないケースも多くあります。事実確認のために確認するのは適切ですが、これを「引き止めのカード」として使うことは避けてください。

実際に試す5つの引き止め対話術

引き止め面談で重要なのは「説得しようとしない」ことです。本人が話しやすい場を作り、本音を引き出すことが、残留の可能性を高める唯一の道です。

まず感情をいったん脇に置いて「聞く場」を作る

面談の冒頭で、「正直に話してくれてありがとう。今日はまず話を聞かせてほしい」と伝えることから始めます。驚きや動揺があっても、それを表情や言葉に出すと本人は防御的になります。「どんな理由であっても、あなたの意思を尊重したい」というスタンスを最初に示すことで、本音を話しやすくなります。

「なぜ今なのか」「何がきっかけか」を深掘りする

表面的な退職理由(給与・ポジション等)の裏に、本当の動機が隠れていることは少なくありません。「転職を考え始めたのはいつ頃からですか?」「その会社に魅力を感じたのはどんな点ですか?」という問いかけで、本人が何を求めているかを具体的に把握します。ここで得た情報が、提示できる改善策を考える材料になります。

「現実的な改善案」を具体的に提示する

「何とかします」「善処します」という曖昧な約束は禁物です。面談前に整理した「提示できること」のリストをもとに、「来月から給与をこの水準に改定できます」「この業務から外れることは可能です」のように、具体的かつ実行できることだけを伝えます。実行できない約束は、残留後に信頼を大きく損なうリスクがあります。

「残った場合の未来像」を一緒に描く

条件の提示だけでは「条件交渉の場」になってしまいます。「あなたにこの会社でどうなっていってほしいか」というビジョンを言語化して伝えることが、情緒的なつながりを取り戻す対話につながります。「半年後にはこのプロジェクトのリードを任せたいと考えていた」のように、具体的な期待と役割を伝えることが効果的です。

「答えを急がない」という余白を与える

面談の場で即答を求めることは逆効果です。「今日ここで決めてほしいわけではない。1週間以内にどう思うか聞かせてほしい」と期限だけを設けて余白を作ります。本人にとって、熟考できる時間があることが「この会社は自分を尊重してくれている」という印象にもなります。

引き止め面談の会話例

どのような言葉を使うかで、場の雰囲気と結果は大きく変わります。以下に、実際に使えるフレーズと避けるべき言葉を整理します。

使えるフレーズと使ってはいけない言葉

場面 使えるフレーズ 避けるべき言葉
冒頭 「話してくれてありがとう。まず話を聞かせてほしい」 「なんで今さら」「知らなかった、ショックだ」
理由確認 「いつ頃から考えていましたか?何がきっかけでしたか?」 「うちの何が不満だったの?」
改善提示 「具体的に〇〇を改善できます。来月から対応します」 「何とかします」「検討してみます」
ビジョン共有 「あなたには半年後にこの役割を担ってほしいと思っていた」 「いなくなったら困る」「ひどいと思わないか」
クロージング 「1週間後にもう一度話せますか。あなたの気持ちを聞かせてほしい」 「今日答えを出してほしい」「考え直してくれるよね?」

「感情的な引き止め」が逆効果になる理由

「裏切りだ」「こんなに頼りにしていたのに」といった発言は、本人に罪悪感と不快感を与えるだけで、残留の動機にはなりません。むしろ「早く辞めたい」という気持ちを強め、周囲への退職の話が広まるリスクもあります。引き止め面談は「説得の場」ではなく「対話の場」として設計することが、結果的に成功率を高めます。

引き止め成功後のモチベーション管理

残留を選んでもらった後こそ、最も慎重な対応が必要です。一度転職意思を表明した社員が「残ってよかった」と思える環境を整えなければ、数か月以内に再び退職を検討するリスクが高まります。

残留の動機と懸念を記録しておく

面談で本人が話した「残ることにした理由」と「まだ気になっていること」を、書面や社内記録として残しておきます。これが3か月後・6か月後のフォローアップ面談の基礎資料になります。「あの時話してくれた〇〇については、こう改善しました」という具体的な振り返りができると、本人の会社への信頼感は回復しやすくなります。

約束したことを必ず実行する

面談で約束した改善事項が実行されないと、残留した本人は「やっぱり変わらない」と感じ、すぐに転職活動を再開します。給与改定・役割の変更・評価のフィードバックなど、約束した内容は期限を明確にし、実行状況を本人に報告する機会を作ることが重要です。

「保留状態の転職意思」を理解して関わる

残留を選んでも、転職意思が完全に消えたわけではないと理解しておく必要があります。定期的な1on1面談・業務上の成長機会の提供・小さな成功体験の積み重ねが、残留後のエンゲージメントを高める主な手段です。特に中小企業では、経営者や上司との関係性が社員の定着に直結するため、「引き止め後も継続的に関わる」姿勢が離職防止の核心になります。

引き止めをしないと判断した場合の対応

引き止めが適切でないと判断した場合、速やかに「円満な退職」に向けた対応に切り替えることが、組織へのダメージを最小限に抑えます。

引き止めより引継ぎを優先すべき状況

本人の意思がすでに固まっている・転職先が個人のキャリア上の必然的な選択・引き止めのために提示できる改善策がないといった状況では、引き止め交渉に時間とエネルギーをかけることは双方にとって得策ではありません。この場合は、「応援します。これからの2か月、引継ぎを一緒に丁寧に進めましょう」と方向を切り替えることが、最終的な信頼関係の維持につながります。

属人化業務のリスクを即座に把握する

退職が決まった段階で最初にすべきことは、「その人だけが対応できる業務」の洗い出しです。特に20〜50名規模では、一人が複数の重要業務を担っているケースが多く、引継ぎ期間の設計が甘いと業務停止や顧客対応の混乱につながります。退職日から逆算して、引継ぎ先の担当者と期間・方法を具体化するスケジュールを早急に作成することが肝要です。

まとめ

他社内定を告げられたとき、感情的に引き止めようとすることは、法的リスクと関係悪化の両方を招く危険があります。大切なのは、まず「引き止めるべきか」を3つの判断軸で冷静に評価し、引き止める場合は「聞く・深掘りする・具体的に提示する・未来を描く・余白を与える」という対話の流れで進めることです。そして引き止め成功後も、約束の実行とフォローアップ面談を続けることが、本当の意味での離職防止につながります。

「どうすれば社員が辞めない職場を作れるか」「社員 他社内定での引き止め対応の判断が正しかったか不安」といったお悩みには、ウェルセンス株式会社がご相談をお受けしています。人事専任担当がいなくても、経営者や兼務担当者の方が安心して使えるサポートを提供しています。まずはお気軽にお問い合わせください。

よくある質問

Q. 引き止め面談を何度も行ってもよいですか?

A. 原則として1〜2回、1回あたり1時間以内を目安にしてください。それ以上繰り返すと、厚生労働省のパワーハラスメント防止指針に基づきパワハラと判断されるリスクがあります。本人が「もう話したくない」という意思を示した場合は、それ以上の面談は控えるべきです。

Q. 給与を上げれば引き止められますか?

A. 給与への不満が主な退職理由であれば有効な場合もありますが、実際には人間関係・将来の不安・キャリアの方向性が根本にあることが多く、給与改定だけでは解決しないケースが少なくありません。まず本音の退職理由を丁寧に聞くことが先決です。給与改定はあくまで手段の一つとして位置づけてください。

Q. 競合他社への転職を阻止することはできますか?

A. 雇用契約書・就業規則に競業避止条項がある場合でも、その有効性は判例上、対象職種・地域・期間・代償措置の有無などを総合的に審査されます。一方的に「競合他社には転職させない」と主張することが認められないケースも多く、法律専門家への確認なしに強行することは避けてください。

Q. 残留してもらったのにすぐ辞めてしまいました。なぜですか?

A. 一度表明された転職意思は「消えた」のではなく「保留された」状態であることがほとんどです。残留後に約束した改善が実行されなかった・フォローアップ面談がなかったといった場合、在職しながら転職活動を続けるケースが多くあります。残留決定後3か月以内に必ずフォローアップ面談を実施し、継続的な関係構築を行うことが二次離職の防止につながります。

Q. 引き止めをしないと決めた場合、会社はどう対応すればよいですか?

A. 退職日から逆算して引継ぎスケジュールを早急に作成することが最優先です。特に「その人だけが対応できる業務」を洗い出し、引継ぎ先の担当者と期間・方法を具体化してください。本人との関係は最後まで誠実に保つことで、退職後の顧客対応や社内への影響を最小限に抑えることができます。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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