従業員のSNS会社批判、特定できない時の4つの現実的対策

従業員のSNS会社批判、特定できない時の4つの現実的対策 コンプライアンス
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ある朝、社内チャットで「うちの会社、SNSで叩かれてるらしい」という話が耳に入った——そういう経験をされた経営者や人事担当者は、少なくないはずです。いざ確認してみると、鍵付きアカウントや匿名アカウントからの投稿で、書いた本人がまったくわかりません。「何かできるのか」「放置していいのか」と判断に迷う場面は、専任人事がいない職場ほど深刻です。この記事では、従業員がSNS上で会社を批判する場合で、投稿者が特定できないケースに絞って、現実的な4つの対策を順序立てて整理します。

「特定できない」ことへの正直な整理

結論から言えば、投稿者が鍵アカウントや匿名アカウントを使っている場合、会社が独力で特定することは法的にも技術的にもほぼ不可能です。ただし「何もできない」わけではなく、影響を最小化する手段は複数あります。

なぜ従業員のSNS批判の投稿者特定が難しいのか

SNSプラットフォームは、ユーザーの個人情報を第三者に開示しない利用規約を原則としています。会社が「誰が書いたか教えてほしい」と問い合わせても、応じてもらえるケースはほぼありません。プラットフォームに対して投稿者のIPアドレスや登録情報の開示を求める法的手段として「発信者情報開示請求」(根拠法:特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)がありますが、これは弁護士を通じた手続きが現実的であり、時間・費用ともに相応のコストがかかります。

鍵アカウントの場合に特有の問題

鍵付きアカウントの投稿は、承認されたフォロワーにしか見えない「限定公開」の状態です。名誉毀損罪(刑法230条)の成立要件のひとつに「公然性」(不特定または多数人が認識できる状態)がありますが、フォロワーが少数の鍵アカウントでは、この要件を満たすかどうかが争点になり得ます。つまり、法的対応の入口に立つ前に、「そもそも法的措置が取れる状況か」の見極めが必要です。

「特定」より先に確認すべきこと

特定の可否を検討する前に、まず「その投稿が会社にどの程度の実害をもたらしているか」を冷静に評価してください。フォロワーが数十人の鍵アカウントへの対応に弁護士費用数十万円を投じることが合理的かどうか、費用対効果の視点が欠かせません。影響範囲の評価こそが、次の行動を決める判断軸になります。

まず行う初動対応

投稿を発見した直後に行うべきことは、「証拠の保全」と「影響範囲の把握」です。この二つを最初に済ませておかないと、後の対応がすべて後手に回ります。

証拠保全の具体的な方法

投稿が削除される前に、スクリーンショットを撮影してください。このとき、URLとタイムスタンプ(投稿日時)が画面に表示された状態で保存することが重要です。スクリーンショットだけでは「加工された可能性がある」と主張されることがあるため、Webページ全体をPDF化するツールや、タイムスタンプ付きでURLを記録するサービスを活用すると証拠能力が高まります。証拠の保全は、後に弁護士へ相談する際にも、プラットフォームへ削除申請する際にも、出発点になります。

影響範囲の評価ポイント

次に、投稿がどの程度広がっているかを確認します。確認すべき項目を以下に整理します。

  • アカウントのフォロワー数(鍵アカの場合は確認できないことが多い)
  • リツイート・シェア・引用投稿の件数
  • Googleなどの検索結果に表示されているか
  • GlassdoorやOpenWorkなどの転職口コミサイトに転載・言及されていないか
  • 社内でその投稿の存在が話題になっているか

拡散が限定的であれば、過剰な対応がかえって投稿を拡散させるリスクがあります。一方、採用関連のキーワードで検索したときに表示される状態であれば、採用活動への影響は無視できません。

削除を求める現実的な手段

投稿内容が一定の要件を満たす場合、プラットフォームへの削除申請と法的手続きによる削除の二つのルートが存在します。ただし、どちらも「確実に削除できる」保証はなく、要件の見極めが重要です。

プラットフォームへの削除申請が通るケース

XやInstagramなど主要SNSには、利用規約違反の投稿を報告する仕組みがあります。ただし、削除が認められるのは「プライバシーの侵害」「明らかな嘘の事実による誹謗中傷」「個人情報の無断掲載」など、プラットフォームが規約で禁止している内容に限られます。「うちの会社の評判が下がる」「不快だ」というだけでは対応されません。申請には証拠(スクリーンショットのURL等)を添えて、具体的にどの規約に違反しているかを示す必要があります。

法的手続きによる削除要請の現実

投稿内容が名誉毀損や業務妨害に該当すると判断できる場合は、弁護士を通じた仮処分(削除の仮処分命令)という手段があります。ただし、ここで注意が必要なのが「事実に基づく投稿」の扱いです。刑法230条の2は、公共の利益に関する事実であり、かつ真実である場合には名誉毀損の違法性が阻却されると規定しています。「残業代が支払われていない」「有給が取れない」などの事実に基づく告発的投稿は、むしろ法的措置が逆効果になる可能性があります。法的対応を検討する前に、必ず弁護士に相談して投稿内容の性質を見極めてください。

事実の投稿か誹謗中傷かの判断基準

投稿の類型 法的措置の有効性 対応の方向性
虚偽の事実を断定的に述べている 比較的高い 削除申請・弁護士相談を検討
事実に基づく主観的な不満(「つらかった」等) 低い 職場環境の内省・改善が優先
事実に基づく告発的内容(未払い残業代等) 逆効果になるリスクあり 労務問題の対処が先決
個人情報・プライバシーの侵害を含む 中程度(規約違反として対応可能) プラットフォームへの報告を優先

社内への影響を最小化する対応

外部への対応と並行して、社内の雰囲気への影響を抑えることも欠かせません。特定の投稿が社内で話題になると、「うちの会社は大丈夫なのか」という不安が広がりやすくなります。

他の従業員への情報提供の考え方

経営者や人事担当者が何も言わないでいると、情報の空白を噂が埋めていきます。かといって、過度に詳細を説明すると投稿の存在をさらに広める結果にもなります。基本的な方針として、「会社として状況を把握・対応している」という事実だけを簡潔に伝え、臆測や詮索を促さない言い方を意識してください。投稿の内容をそのまま読み上げるような共有は避けるべきです。

採用活動への影響をどう抑えるか

採用候補者がGoogleで会社名を検索したときに批判的な投稿が上位表示される状況は、採用に直接響きます。対抗策として有効なのは、会社の公式情報(採用サイト・代表のnote・社員インタビュー記事など)を充実させ、検索結果の中で会社側の一次情報が目立つようにすることです。批判投稿を直接「打ち消す」ことは難しくても、信頼できる情報源を増やすことで相対的な影響を抑えることができます。

同じことを繰り返さないための予防策

会社批判のSNS投稿が出てしまった場合、「なぜ書かれたのか」を正直に見つめ直すことが、再発防止の出発点です。不満が社外に漏れ出る背景には、多くの場合「社内で言えない」という状況があります。

就業規則のSNS関連規定の整備

就業規則に「会社の名誉・信用を傷つける情報をSNSに投稿することを禁止する」旨の規定を設けておくことは、予防的な意味で重要です。ただし、規定があったとしても、書いた本人が特定できなければ懲戒処分を適用することはできません。就業規則の整備は「事後の武器」というより「入社時・在職中の周知・教育」の文脈で活用するものとして位置づけてください。規定の存在を入社時に説明し、SNSリテラシーに関する研修を実施することが実効性を高めます。

不満が「社内」で言える仕組みをつくる

従業員が職場の不満をSNSに書く背景のひとつは、「社内に言える場がない」という状況です。定期的な1on1面談、匿名で意見を出せる仕組み(意見箱・匿名アンケートツール)、外部の相談窓口(従業員支援プログラムやEAPなど)を整備することで、不満が外部に流れる前にキャッチできる構造をつくることができます。特に中小企業では、経営者との距離が近い分、直接言いにくいと感じる従業員も少なくありません。第三者的な相談窓口の存在が、安全弁として機能します。

メンタルヘルスの視点も忘れずに

SNSで会社批判を書く従業員の中には、精神的に追い詰められている状態の方もいます。投稿の背景に長時間労働・ハラスメント・孤立感がある場合、「投稿した人を探して処分する」方向だけに力を注いでも、職場環境の根本は変わりません。産業医や外部の相談窓口と連携し、従業員のメンタルヘルス状態を定期的に把握する仕組みを持つことが、問題の早期発見と再発防止の両方に寄与します。

まとめ

従業員による鍵アカウント・匿名アカウントでの会社批判は、書いた本人を会社が独力で特定することはほぼできません。だからこそ、まず証拠を保全し、影響範囲を冷静に評価した上で、削除申請・法的対応・社内対応・予防策という四つの軸で現実的な手を打つことが重要です。特に、事実に基づく投稿に対して法的措置を取ろうとすると逆効果になるリスクがあること、就業規則の整備は事後対応よりも予防教育として機能させることが大切です。そして、なぜ投稿が生まれたのかという根本を見つめ直し、不満が社内で言える仕組みをつくることが、再発防止の本質的な手段です。

ウェルセンス株式会社では、中小企業の人事・労務担当者が抱える「相談できる専門家がいない」という課題に対して、メンタルヘルス対応や職場環境の整備を含むサポートを提供しています。従業員のSNS批判投稿への対応方法についても、根本的な予防策をともに検討させていただきます。「こういう状況でどこから手をつければいいか」という段階からでも、お気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 鍵アカウントの投稿でも名誉毀損として訴えることはできますか?

A. 可能性はゼロではありませんが、名誉毀損罪(刑法230条)の成立には「公然性」の要件があります。鍵アカウントでフォロワーが少数の場合、この要件を満たさないと判断されるリスクがあります。また、投稿内容が事実に基づくものであれば、刑法230条の2により違法性が阻却される可能性もあります。弁護士に相談して投稿内容の性質を見極めることを強くお勧めします。

Q. 「あの人が書いたかもしれない」と思っている社員に、証拠なく話を聞いても問題ありませんか?

A. 証拠のない状態で特定の社員を名指しして事情聴取することは、ハラスメントや不当な扱いとして別のトラブルに発展するリスクがあります。全体向けに「SNSの利用ルールを再確認する」という形の周知・研修を行うことは問題ありませんが、個人への追及は証拠が揃ってからが原則です。

Q. 発信者情報開示請求にはどのくらいの費用と期間がかかりますか?

A. 弁護士費用は案件の複雑さや事務所によって異なりますが、着手金・実費を含めると数十万円規模になるケースが多いです。期間も数ヶ月単位になることが珍しくありません。2022年施行の改正法で手続きが一部改善されましたが、海外プラットフォームへの請求は応答が不安定なケースもあります。費用対効果を含めて弁護士と事前に確認することが重要です。

Q. 就業規則にSNS禁止規定がなくても対応できますか?

A. 就業規則の規定がなくても、投稿内容が刑法上の名誉毀損や業務妨害に該当する場合は法的対応の余地があります。ただし、懲戒処分(減給・解雇など)を行うには「就業規則に定めがあること」と「本人の特定」が原則として必要です。SNS関連の規定がまだない場合は、この機会に整備しておくことを強くお勧めします。

Q. 批判投稿が出ないようにするために、最も効果的な予防策は何ですか?

A. 最も根本的な予防策は、「不満が社内で言える仕組みをつくること」です。定期的な1on1面談、匿名で意見を出せるアンケートツール、外部の相談窓口の整備などが有効です。SNSへの発信は「社内では言えない・聞いてもらえない」という状況が引き金になることが多く、安心して声を出せる環境をつくることが、外部への漏出を防ぐ最も現実的な手段です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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